【技術士二次試験】インフレの基本事項を確認しよう

インフレとCPI

2種類のインフレとCPI:~~総合技術監理を受けるなら理解すること~~

総合技術監理部門には、社会科学の要素が少なからず含まれている。

今回は、インフレの2つの種類について確認したい。インフレやデフレは、需要と供給のアンバランスにより生じる。それに合わせて、インフレにも需要サイドがバランスを崩すタイプ(ディマンドプル・インフレ)と供給サイドがバランスを崩すタイプ(コストプッシュ・インフレ)とがある。

さらに後半では、インフレ率を表す代表的な指標CPIについて確認する。
ここ数年の択一問題は、経済学の知識を要求している。基本的なキーワードは理解しておこう。

経済発展

1 改めて、インフレとは?

ところで、そもそもインフレとは何だろうか。インフレは、経済活動における財とサービスの価格の上昇を意味する。物価上昇により、貨幣の価値が財とサービスの価値と比較して低下するため、インフレーションは貨幣価値の低下と考えることもできる。

また、その逆の現象であるデフレは、経済活動における財とサービスの価格の下落を意味する。物価下落により、貨幣の価値が財とサービスの価値と比較して上昇するため、デフレーションは貨幣価値の上昇と考えることもできる。

以上がインフレとデフレの定義だ。

 なお、財・サービスの値段が上がるインフレは、いつも決まって「問題」なのではない。実はインフレが発生しないことよりも、インフレ率が適正なレベルで推移していくことが経済成長にとって重要である。インフレ率とは、去年と比較してどれくらい物価が上昇したか(つまりインフレになったか)を表す指標である。インフレターゲットを設定し、インフレレベルを一定にして抑制することは、各国の中央銀行の主な業務でもある。

2 ディマンドプル・インフレ

一口にインフレと言っても、それを引き起こす要因には様々なものがある。しかし、インフレ率を変動させる要因として最も多いとされるのはディマンドプル(demand-pull:需要牽引)とコストプッシュ(cost-push:原価上昇)である。前者によって引き起こされたインフレを「ディマンドプル・インフレーション」、後者によって引き起こされたインフレを「コストプッシュ・インフレーション」と呼ぶ。

 まずディマンドプル・インフレについてみていこう。この場合物価上昇を引き起こす要因は、需要の増加だ。一般的に、景気拡大によって人々の購買意欲が高まると、需要の増加により物価が上昇する。なお、景気拡大の原因には、バブルの発生、積極財政、戦争など非常事態に伴う需要増などがある。ディマンドプル・インフレのプロセスを整理すれば、次のようになる。

(1)特定の商品やサービスへの需要が、その需要を満たすための供給能力を上回る
(2)需要が供給を超えると物価に上向き圧力がかかり、インフレを引き起こす

ディマンドプル・インフレは、需要サイドに起因する物価上昇であるということがポイントだ。

ここで、供給サイド側からディマンドプル・インフレをみてみよう。企業など生産者は「高くても欲しい」という需要が増えれば「値上げしても売り抜けられる」という自信をもって価格を上げることができる。すると当然、売上と利潤の拡大が期待できることから、生産の増加や新たな設備投資、求人の増加など企業活動が活発化する。そして企業の利潤拡大にともない労働者の賃金が上昇し、消費がさらに拡大するという好循環が生まれる。このような企業活動の活発化は供給能力の上昇と同じことであるので、ディマンドプル・インフレ下にある国の経済は拡大していく。

 一般的に、短期間に急激に起こらない、適度に安定したディマンドプル・インフレが経済成長に適していると言われる。というのも経済成長には物価の上昇に見合った賃金の上昇が不可欠であるが、上でみたようにディマンドプル・インフレはそれを実現しているからである。

3 コストプッシュ・インフレーション

次に、コストプッシュ・インフレについてみていこう。この場合、物価上昇の引き金となる要因は、生産コストの上昇である。原材料価格高騰や人件費(賃金)上昇、増税などで供給サイドである企業の生産コストが高まると、彼らは製品やサービスの価格にコストを転嫁することで危機を切り抜けようとする。この動きが物価上昇を招く。このようにコストプッシュ・インフレは、供給サイドに起因する物価上昇であるのがポイントだ。

 またコストプッシュ・インフレは、企業(生産者)にとっても消費者にとっても不利なインフレである。企業側の状況をみると、単に値上げしたからといってハッピーエンドになるわけではない。というのも、値上げが需要減退を招いた結果、売上が値上げ前より減少してしまうことが懸念されるからである。そうなれば、減産や新たな設備投資を差し控えるなど企業活動を縮小せざるを得なくなる。このような企業活動の停滞は供給能力の低下と同じことであるので、コストプッシュ・インフレ下にある国の経済は縮小していく。

消費者側の状況をみても、事態は深刻だ。このような生産コストの上昇は、該当商品やサービスの値上げという形で消費者に直接振りかかるからである。人々の間には生活必需品に絞って買物をしようとする傾向が多かれ少なかれ生じるため支出(需要)は減退し、企業活動はますます停滞するという悪循環が生じる。

 コストプッシュ・インフレは悪化すればスタグフレーションになるため、好ましくないインフレとして知られる。スタグフレーションとはスタグネーション(stagnation:停滞)とインフレーションの合成語で、経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇が併存する状態を指す概念である。上でみたように、すでにコストプッシュ・インフレの段階でも「不況(需要減退)なのに、(コスト上昇を受けて)物価は上昇する」というスタグフレーションと同様の悪循環をみることができる。

補足:ディマンドプル・インフレの落とし穴
ディマンドプル・インフレは、ある条件の下では輸入インフレを引き起こし、国内の物価高騰をさらに加速してしまう。そもそも、ディマンドプル・インフレが有効に作用するかどうかの決定要因は、インフレが起こった時点のその国の供給能力の程度にある。人的な面でも物的な面でも投資が不十分で国内の供給能力が乏しい国で需要が上昇すると、外国からの輸入が増える。逆に、輸出できる財・サービスが不足するため、貿易赤字は拡大の一途を辿る。そこから財政破綻までのプロセスは次のようになる。

(1)A国が変動為替相場制を採用していた場合、その通貨の価値が下落し、為替レートが落ち込む
(2)輸入物価が高騰し、インフレ率がますます上昇する
(3)A国は固定為替相場制に移行せざるを得なくなる。この段階で貿易赤字が続くと、A国は手持ちの外貨で為替介入(ドル売り円買い)をして固定相場を維持する
(4)外貨準備が底をつき始めると、A国政府は外貨建て国債の発行を迫られる
(5)外国の債権者(国家も含む)が、A国による外貨建て国債のデフォルト(債務不履行、つまり財政破綻)を懸念するようになる
(6)外国の債権者(国家も含む)のA国の経済運営に対する発言力・影響力が強まる

最終段階(6)では、自国通貨建て国債を発行していたときには確立していた政府の財政支出の自由裁量権は失われ、国の経済運営は外国の債権者が左右するようになる(経済主権の喪失)。

 要するに、財やサービスの生産能力が需要に対して不足する「供給能力不足」の段階にある国でディマンドプル・インフレが起こる場合には、財政破綻の可能性がセロではなくなるということである。

5 物価変動をみるための指標:CPI

インフレ率を測るための一般的な指標としてCPI(Consumer Price Index:消費者物価指数)がある。CPIは「消費者が購入する商品やサービスの価格を調査し、過去と比較してその変動を指数値で表す経済指標」である。つまりCPIは、基準年を設定し、基準年において購入したのと同等の財やサービスを購入した場合に、どのくらい変動があるのかを数値化して表したものである。より具体的に言えば、CPIとは、消費者が一定期間に商品とサービスで構成される「市場バスケット」に支払った価格の平均変動率を測定したものである。この市場バスケットには、米、牛乳、コーヒーのような食料品、住宅コスト、ガソリン、衣料品、医療、通信サービス、輸送費など約600品目が含まれる。

CPIには、世帯の生活様式や消費者の嗜好の変化によって変動する生活費などを測定するものではなく、純粋に物価がどのくらい変動しているかを測定する目的がある。したがってCPI(特に総合指数)は家計が消費するうえで直面している物価という点では最も実情を反映した指標と言える。各国の中央銀行や投資家、企業が意思決定の際にCPIに注目する理由もここにある。

CPIには、総合指数、コア CPI、コアコア CPIの 3 つがある。

総合指数:対象品目全てを計算に組み入れた指数。単に CPI という場合はこの指数を指す
コアCPI:総合指数から、天候によって価格が左右されやすい生鮮食品を除いた指数
コアコアCPI:コア CPI から、さらに海外要因で価格が変動しやすい原油などエネルギー価格を除いた指数

つまり通常CPIというときは総合指数、それから変動の激しい品目を除いたものがコアCPIやコアコアCPIだ。総合指数だけでなく、商品の特性上もともと変動の激しい項目を除外したコアCPIやコアコアCPIを確認することで、全体的な物価変動の基調を把握しやすくなる。

最後に、CPIをみる際注意すべき点を確認しよう。それは第1に、CPIは世界各国で発表されているが、それぞれで若干の違いがあるということだ。例えば日米で比較した時、日本のコアCPIは総合指数から生鮮食品のみを除いているが、アメリカのコアCPIでは生鮮食品に加えエネルギーが除外されている。すなわち「日本のコアコアCPI=アメリカのコアCPI」となっている。なお、アメリカでは日本のコアコアCPIに相当する指数は公表されていない。

図 CPIの推移(データ出所:http://www.glauks.com/blog/tag/cpi%E3%82%B3%E3%82%A2%E3%82%B3%E3%82%A2/

第2に、物価推移の統計データをみる際、その統計が3つのCPIのうちどれを用いているかという点に注意する必要がある。「物価の指標は多種多様、本当のところは誰にも分からず…」とまでは言えないにしても、使う指数が違えば、同じ期間のインフレ率も異なってみえてくる(上図)。物価の動向を探る際、総合指数でみれば激しく変動しているのに、コアCPIでみればそうでもないということがある。最近日銀がよく言う「物価目標2%」「3%」という台詞も、一体何の指標を意味しているのかということに注意しておく必要があるだろう。

まとめ

まとめ

以上、インフレに関する重要事項を2点確認した。インフレには2種類あり、需要サイドに起因し結果的に供給能力の上昇をもたらすのがディマンドプル・インフレ、供給サイドに起因し結果的に供給能力の低下をもたらすのがコストプッシュ・インフレだ。実際はより複雑で多くの要因が絡み合っていることが考えられるが、現在日本で進行中のインフレはコストプッシュ・インフレとみてよいだろう。

また、後半ではインフレ率をみるための重要指標であるCPIについて整理した。CPIには3つあり、通常CPIというときは総合指数、それから変動の激しい品目を除いたものがコアCPIやコアコアCPIだ。但し、日本でいうコアコアCPIはアメリカではコアCPIを指す点など、CPIを調べたり論じたりする際には若干の注意が必要である。

以下は参考文献と参照リンク

インフレ・デフレの定義の箇所で参照

https://www.ig.com/jp/glossary-trading-terms/inflation-definition

2種類のインフレの説明で使用

https://fintos.jp/page/70057

https://www.ab-c.jpn.com/7940

https://www.businessinsider.jp/post-257641

ディマンドプル・インフレの落とし穴で使用

三橋貴明『財政破綻論の嘘』、供給能力についての箇所。特に101-2頁。

CPIの説明で使用(クロスチェックのため複数参照)

https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/f1110ks1.pdf

https://www.businessinsider.jp/post-264158