技術士二次試験の合格率をあげるため、建設・土木分野の現状を知る

建設部門の受験者必見:建設土木の現状分析と課題

建設・土木業の現状

国土交通省の内部部局の1つ、不動産・建設経済局が作成し令和3年(2021年)10月に発表した資料によれば、最近の建設業をめぐる状況は次の通りである。

業界全体の動向:規模縮小・高齢化

まずは、国土交通省が発表したデータを見て欲しい。

規模縮小

 建設業全体の動向として、規模縮小が挙げられる。3つの指標(投資額・業者数・従事者数)から見ていきたい。

まず建設投資について見ると、建設投資額はピーク時の平成4年度(1992年)の約84兆円から平成23年度(2011年)の約42兆円まで落ち込んだが、その後、増加に転じ、令和2年度(2020年)は約55兆円となる見通しである。この金額はピーク時と比較して約34%減となっている。

 次に関連する項目として、(許可を受けた)建設業者数と建設業就業者数を見ていく必要がある。建設業者数については、令和2年度(2020年)末時点で約47万業者となっている。これはピーク時の平成11年度末(1999年)の約60万業者から見て約21%の減少である。建設業就業者数については、令和2年度の平均値で見ると492万人となっている。これは、ピーク時の平成9年(1997年)の平均値と比較して約28%の減少である。

 まとめると、建設投資・建設業者数・建設業就業者数の3項目のいずれも一昔前(平成の頃)のピーク時より減少しており、日本の建設業の規模が縮小している現状が明らかとなった。

但し2008年から、全体的に見て建設企業の倒産件数、休廃業・解散件数はいずれも減少傾向にある。特に倒産件数についてはその傾向が強く、2008年から一貫して減り続けている(2020年度の倒産件数は1266件で、2008年の3446件と比較して36.7%減少した)。

また営業利益率を見ると、大企業(資本金10億円以上)、中堅企業、(資本金1億円以上10億円未満)、中小企業(資本金1億円未満)の順に高い傾向にある。

次は、常に言われている高齢化に関するデータ

高齢化(これまで何度も出題されている)

建設業全体の動向として、高齢化も見逃せない。すなわち建設業就業者の内訳を見ると、技術者・技能者の絶対数および割合には顕著な変化が平成9年度(1997年)以降見られない一方、高齢者の占める割合が年々拡大するという傾向が見られる。具体的には、令和2年度(2020年)末時点で、建設業就業者は55歳以上が約36%、29歳以下が約12%となっている。これは全産業の同一データ(各31.1%、16.6%)と比較してみても、顕著な高齢化率だ。

これに関連して、建設業における働き方の現状も見ていきたい。実は、建設業の総実労働時間は全産業と比較して年間360時間以上(約2割)も長い。また10年程前と比較した場合、全産業では約266時間減少している一方、 建設業は約40時間減少と減少幅が非常に小さいのが特徴である。

 さらに賃金(男性)については、2012年度の年間賃金総支給額と2019年度のそれを比較した場合、上昇率は18.1%となるなど、ここ数年、顕著な上昇傾向が見られる。これは製造業および全産業の同一データ(各6.9%、5.9%)を大きく上回る上昇率だ。

高齢化に関しては、必須、Ⅲの問題で出題されています。これからも出題されるでしょう。データを含め理解を深めて下さい。

高齢化対策の案

若手の育成・定着策の充実
高齢化が進む建設・土木分野においては、若手の育成・定着が重要となる。そのため、新卒者や転職者を積極的に採用すること、若手に対して適切な教育・訓練プログラムを用意することが必要。

仕事内容の見直し・効率化
高齢労働者の負担軽減や、生産性の向上のため、労働環境の改善や業務プロセスの見直し、IT技術の活用による業務の効率化が求められる。

働き方改革
建設・土木分野においても、働き方改革が求められている。労働時間の短縮や柔軟な働き方の導入によって、高齢労働者の負担軽減や働きやすい職場づくりが必要。

外国人技能実習制度の活用
建設・土木分野においても、外国人技能実習制度の活用が求められている。海外からの技能実習生を受け入れることにより、人材不足の解消や技術・文化交流の促進が期待できます。(匠個人としては、反対。試験の解答には使える。)

ロボットや自動化の導入
建設・土木分野においても、ロボットや自動化の導入が進んでいる。高齢労働者の負担軽減や業務の効率化、作業環境の改善につながるため、積極的な導入が求められる。

これらの対策を実施することで、高齢化が進む建設・土木分野においても、人材不足の解消や生産性の向上が期待できる。また、働きやすい環境の整備や新しい技術・システムの導入により、若手の育成・定着も促進されると考えられる。
課題抽出の参考までに。

政策の動向(施工計画では出題、必ず理解すること)

これも下の図を確認して欲しい。国の施策は影響力が大きく、業界全体ではメリットもデメリットもある。

 政府の政策は建設業のあり方に大きな影響を与えている。以下、最近の政策を確認していきたい。

第1に、平成26年(2014年)に制定された「担い手3法」の改正法案である「新・担い手3法」の公布(令和元年(2019年))を挙げることができる。改正法のポイントは「災害時の緊急対応強化」「働き方改革の推進」「生産性向上への取組」「調査・設計の品質確保」の4点だ。またその他の改正事項として「発注体制の整備」「工事に必要な情報(地盤状況)等の適切な把握・活用」「公共工事の目的物の適切な維持管理」が定められた。

第2に、技能労働者の賃金適正化に向けた取組を挙げることができる。技能労働者の適正な賃金水準を確保していくという方向性は、令和3年(2021年)に開かれた「大臣と建設業4団体の意見交換会」の中で示された。本会議では「本年は概ね2%以上の賃金上昇の実現を目指す旗印」が赤羽大臣・建設業団体トップの間で合意され、全ての関係者が可能な取組を進めることが確認された。また、令和3年以降も経済状況等を踏まえつつ、継続して賃金上昇に向けた取組を進めることが確認された。これを受けて、賃金の適正化に向けた様々な環境整備が業界団体や地方公共団体を通して行われてきている。

第3に、「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の取組を挙げることができる。CCUSとは「技能者の資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する仕組み」であり、その狙いは「若い世代にキャリアパスと処遇の見通しを示し、技能と経験に応じ給与を引き上げ、将来にわたって建設業の担い手を確保し、ひいては、建設産業全体の価格交渉力を向上させる」というものだ。CCUSの現状としては、技能者の登録数(2021年9月末時点で約70万人が登録済み)・事業者の登録数・現場での利用数(就業履歴数)は、2019年4月の本格運用開始以来、いずれも順調に増加している。

第4に、建設現場の生産性向上に向けた各種取組を挙げることができる。それらは具体的に「技術者に関する規制の合理化」「ICT施工を普及させるための新たな取組」「新型コロナウイルス対策としての非接触・リモート(遠隔臨場)の働き方の推進」「建設業許可・経営事項審査申請手続の電子化に向けた取組」の4つである。

第5に、令和3年(2021年)に国土交通省から地方公共団体に対して出された「公共工事の円滑かつ適切な施工確保に向けての要請」を挙げることができる。この要請は、気候変動の影響による気象災害・大規模地震・インフラ老朽化等への対策として、防災・減災、国土強靭化の加速化等を図る観点から出されたものである。特にインフラの老朽化に関しては、高度成長期以降に集中的に整備されたインフラが今後一斉に老朽化していく中、適切な対応をしなければ負担の増大のみならず、社会経済システム全体が機能不全に陥ることが懸念されている。本要請の内容として具体的に、適正な価格による契約・適正な工期設定、施工時期の平準化、(意見交換会などを通した)地域の建設業団体等との緊密な連携・調査及び設計の円滑な実施等、7項目が要請された。

最後に、5つ目の取組に関連して公共工事の動向を見ていきたい。まず公共事業関係費(政府全体)については、平成26年(2014年)から令和3年(2021年)に至るまで、当初予算ベースで見ると6.0兆円から6.1兆円であり、ほぼ横ばいで推移している。但し補正予算ベースで見ると、2018年は7.6兆円、2019年は8.5兆円、2020年は9.3兆円と毎年増加している。いずれも、同時期に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」および「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を受けての増額である。さらに公共事業の執行状況(国土交通省関係)に関しては、国土交通省の公共事業予算は例年よりもスムーズに執行されており、令和3年度(2021年)の当初予算ベースの8月末時点での契約率は69.0%(過去5年平均;66.6%)となっている。

まとめ

 建設業全体の動向としては、業界全体の規模縮小、および高齢化が挙げられるだろう。前者に関して、建設投資・建設業者数・建設業就業者数の3項目のいずれも平成期(20世紀末)のピーク時と比べて減少しており、日本の建設業の規模が約20年の間に縮小したことがわかる。またその他にも、長時間労働や賃金の上昇等も全体的な傾向としてみられた。なお高齢化や長時間労働については、建設業だけでなく他産業でも見られる傾向であるが、建設業ではその傾向が他産業と比較してより強いのが特徴である。

 また建設業に関連する最近の政策動向としては、5つの取組がある。但し全体像としては、労働者、つまり人材にフォーカスする諸政策(賃金適正化・キャリアアップ)と、地方公共団体を対象とする諸政策(防災・減災、国土強靭化の観点からの公共工事の施工確保)という2つの方向性が浮き彫りになっていると言えよう。なおいずれの方向性の政策についても、「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の登録数増大や公共事業予算の拡大・契約率の上昇など、その成果は順調に蓄積されているようだ。

上記のように建設・土木分野の現状が分析できる。これを理解することで技術士二次試験、必須問題の課題抽出や、解決策の提案に役立つと思う。

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