~午後3時間半を乗り切るブドウ糖の科学~
坂戸市、ベイカー街221B。
ワトソン博士は、机の上に広げた技術士試験の時間割を見つめていた。
「ホームズ、技術士試験の筆記試験は、受験生の体力まで試しているように見えるね。午前に2時間の試験があり、1時間の休憩を挟んで、午後は3時間半の論文試験だ。特に午後は、答案構成、課題抽出、解決策、リスク、評価まで一気に書く。これは相当な負荷だよ」
ホームズは椅子に深く腰掛け、いつものように指先を合わせた。
「その通りだ、ワトソン君。技術士試験は、知識の試験であると同時に、脳の持久戦でもある。多くの受験生は、論文の書き方ばかりに注意を向ける。しかし、午後の終盤で脳が失速すれば、訓練した構成も崩れる。観点と課題がずれ、解決策が一般論になり、リスクが取って付けたような記述になる」
ワトソンはうなずいた。
「医師として見ると、それは不思議ではない。脳は小さな臓器だが、エネルギー消費は大きい。特に論文試験では、記憶、判断、注意、言語化を同時に使う。午後の3時間半は、脳にとってかなり過酷だ」
ホームズは机の上に置かれた小さなラムネ菓子を見た。
「そこで登場するのが、ブドウ糖というわけだね」
「そうだ。ただし、最初に強く言っておく。ブドウ糖は魔法の薬ではない。摂取すれば答案が急に上手くなるわけではない。糖尿病などで血糖管理が必要な人は、医師の指示に従うべきだ。だが、健康上の制限がない受験生にとって、適切な糖分補給は、午後の集中力を維持する一つの手段になり得る」
ホームズは微笑した。
「つまり、技術士試験における合法的なドーピングとは、怪しい秘策ではなく、合理的なエネルギーマネジメントということだ」
1 午後の論文試験で何が起きるのか
午後の3時間半は長い。
しかし、単に「長時間座っている」だけではない。技術士試験の論文では、問題文を読み、条件を整理し、課題を抽出し、最重要課題を選び、複数の解決策を示し、リスクと対策まで述べる必要がある。
これは、脳の中で複数の処理を同時に進める作業である。
ワトソンは説明した。
「論文試験では、ワーキングメモリーが強く使われる。ワーキングメモリーとは、必要な情報を一時的に保持しながら処理する能力だ。問題文の条件を覚えつつ、設問の要求を外さず、答案の構成を組み立てる。これは、まさにワーキングメモリーの仕事だ」
ホームズが続けた。
「例えば、設問で『多面的な観点から3つ課題を抽出せよ』と問われたとする。この場合、受験生は、観点を3つに分け、課題を具体化し、それぞれの理由まで書く必要がある。その後、最重要課題を一つ選び、解決策を複数示す。ここで前半の条件を忘れれば、答案全体が崩れる」
「そうだ。だから午後の終盤になると、単なる知識不足では説明できないミスが出る。たとえば、問題文の条件を読み落とす。課題と解決策の対応が崩れる。同じ表現を何度も使う。リスクが解決策とずれる。文字が乱れる。これは脳の処理能力が落ちている状態だ」
ホームズは鋭く言った。
「つまり、午後の失点には、知識面の失点と、疲労による失点がある。後者を軽視してはいけない」
2 ブドウ糖は脳の主要なエネルギー源である

ブドウ糖は、脳や筋肉が活動するための重要なエネルギー源である。
ご飯、パン、麺類などに含まれる炭水化物も、消化吸収を経てブドウ糖として利用される。一方、ブドウ糖そのものは単糖であり、比較的速やかに吸収される。
ワトソンは医師らしく、慎重に説明した。
「脳はエネルギーを必要とする。集中して文章を構成するとき、前頭前野を含む脳の働きが活発になる。そこで燃料が不足すれば、注意力や処理速度が落ちやすい。ブドウ糖の補給は、その燃料を速やかに補う方法の一つだ」
「なるほど。ガス欠の馬車に燃料を足すようなものだな」
「ただし、馬車と違って人間の体は単純ではない。足せば足すほど速く走るわけではない。ブドウ糖は不足してもよくないが、取り過ぎてもよくない」
ホームズはその言葉に反応した。
「つまり、ここにも技術士試験らしいトレードオフがある。ブドウ糖を取れば、集中力維持に役立つ可能性がある。一方で、取り過ぎれば眠気、だるさ、口渇、胃の不快感を招く可能性がある。最適量を見極める必要があるわけだ」
ワトソンは笑った。
「栄養補給までトレードオフで考えるとは、君らしいね」
3 ブドウ糖に期待できること
第一に、集中力の維持である。
午後の論文試験では、問題文を読み続け、答案を書き続ける必要がある。集中が切れると、答案は急速に粗くなる。接続語が乱れ、主語と述語が離れ、結論がぼやける。
第二に、記憶や作業記憶の支援である。
論文では、問題文の条件、部門の知識、答案の構成、設問番号を同時に保持する。ブドウ糖の補給は、このような認知作業を支える可能性がある。
第三に、疲労感の軽減である。
午前の試験を終えた後、受験生はすでに疲れている。さらに昼食後の眠気、緊張、会場の空気、長時間の着席が重なる。適切な糖分補給は、午後の入りを安定させる助けになる。
第四に、気分の切替えである。
午前の試験で迷った問題があった場合、受験生は休憩時間にそれを引きずりやすい。「あの問題を間違えたかもしれない」と考え続けると、午後の答案に集中できない。
ワトソンは言った。
「ここで大切なのは、午前の失敗を午後に持ち込まないことだ。ブドウ糖を取り、水を飲み、軽く体を動かす。こうした行動を、午後に切り替える儀式にするとよい」
第五に、精神的な安定である。
空腹やエネルギー不足は、焦りやイライラにつながることがある。午後の論文試験では、少しの焦りが大きなミスを生む。腹が減り、喉が渇き、手が震えるような状態では、冷静な答案構成は難しい。
ホームズは言った。
「ただし、誤解してはいけない。ブドウ糖は答案構成力を作るものではない。答案構成力は日々の訓練で作る。ブドウ糖は、その力を最後まで発揮するための補助にすぎない」
4 おにぎりやパンではだめなのか
ワトソンは、机の上に昼食のメモを置いた。
「ブドウ糖の話をすると、『では昼食はいらないのか』と誤解する人がいる。これは危険だ」
「なぜだね」
「ブドウ糖だけでは、午後3時間半を安定して乗り切るには足りない場合がある。昼食を抜くと、途中で空腹になり、集中力が落ちる。一方で、食べ過ぎれば眠くなる」
ホームズは言った。
「つまり、昼食も設計が必要だ」
「その通り。ご飯やパンなどの炭水化物は、消化吸収を経てブドウ糖になる。これは持続的なエネルギー源になる。一方、ブドウ糖タブレットやラムネ菓子は、比較的早く使える補給源である。両者は対立するものではなく、役割が違う」
昼食は軽めにする。消化しやすいものを選ぶ。糖質に偏り過ぎず、たんぱく質も少し取る。たとえば、おにぎりと卵、サンドイッチと鶏肉、バナナとヨーグルトなど、自分に合う組合せを事前に決めておく。
ワトソンは続けた。
「さらに、糖質代謝にはビタミンB1も関わる。日頃から不足しない食事を心掛けることは意味がある。ただし、本番当日に初めてサプリメントを試すのは避けた方がよい。体に合わない可能性があるからだ」
ホームズは静かに結論を述べた。
「本番は実験の場ではない。すでに検証した作戦を実行する場である」
5 前編の結論
ブドウ糖は、技術士試験の午後3時間半を支える一つの道具である。
ただし、それは答案を上手くする魔法ではない。知識、構成力、文章力、設問対応力がなければ、ブドウ糖を取っても合格答案にはならない。
しかし、実力がある受験生でも、午後の終盤に脳が失速すれば、その力を出し切れない。これは非常にもったいない。
ホームズは言った。
「ワトソン君、技術士試験で問われるのは、知識だけではない。限られた時間と条件の中で、最善の成果物を出す力だ。そのためには、脳のエネルギー管理も戦略の一部になる」
ワトソンはうなずいた。
「午後の3時間半を甘く見てはいけない。特に、模試や演習で終盤に集中が切れる受験生は、ブドウ糖の活用を試してみる価値がある。ただし、適量、タイミング、事前確認。この三つが条件だ」
ホームズは机の上のラムネを一粒つまみ、最後にこう言った。
「合法的なドーピングとは、決して不正な裏技ではない。自分の脳を最後まで働かせるための、合理的な準備である。午後の答案は、知識だけで書くものではない。体調、集中力、時間配分、そして燃料管理によって完成するのだよ」
後編では、このブドウ糖を本番でどう使うか。摂取量、タイミング、昼食、飲み物、会場での注意点まで、具体的な作戦として整理していく。









