―「技術士 勉強時間」を総時間ではなく中身から考える
プロローグ:600時間あれば合格できるのか?
~坂戸市、ベイカー街221B。ワトソンはノートに大きく「600」と書き込んでいた~
2026年8月24日改定更新
ワトソン博士
「ホームズ、技術士二次試験には600時間くらい勉強すればいいらしいぞ」
ホームズは新聞から目を上げた。
シャーロック・ホームズ
「興味深い数字だね。ところでワトソン君、その600時間で何をするんだい?」
ワトソン
「何をって……勉強だよ」
ホームズ
「だから、その勉強とは何だね?」
過去問を読むのか。
専門知識を調べるのか。
答案の骨子を作るのか。
実際に600字、1200字、1800字を書くのか。
添削された答案を修正するのか。
本番と同じ時間で9枚を書くのか。
同じ「1時間」でも、その中身はまったく違う。
ホームズ
「『何時間勉強すれば合格できますか』という質問には、一つ重大な欠陥がある。
時間だけを数えて、そこで何をしたかを数えていないことだ」
技術士二次試験を受験する社会人にとって、勉強時間の確保は大きな問題である。
しかし本当に考えるべきなのは、
何時間勉強するかではない。
限られた時間を、何に使うかである。
今回は、技術士二次試験に必要な勉強時間を、ホームズと一緒に考えてみよう。
1.そもそも技術士二次試験は「勉強時間」が成果に比例しにくい
技術士第一次試験と第二次試験では、勉強の性質が大きく異なる。
令和8年度の第一次試験は、基礎科目、適性科目、専門科目からなり、五肢択一式のマークシート方式で実施される。
一方、第二次試験は筆記試験と口頭試験で構成される。
総合技術監理部門以外では、筆記試験で専門知識だけでなく、応用能力、問題解決能力、課題遂行能力などが問われる。総合技術監理部門は試験構成が異なる。
つまり第二次試験は、
「覚えたことを正しく選ぶ試験」だけではない。
与えられた問題を読み、
何が問われているかを判断し、
課題を設定し、
解決策を組み立て、
その効果やリスクを評価し、
限られた時間と字数で文章にする。
そうした能力が必要になる。
ワトソン
「だから600時間本を読んでも、それだけでは十分ではないわけか」
ホームズ
「そのとおり。
ピアノを600時間聴いたからといって、600時間弾いた人と同じにはならない」
技術士二次試験でも同じである。
インプットだけでは、答案を書く能力は身につかない。
2.「500時間」「600時間」に公式な根拠はない
技術士試験について調べると、
「300時間必要」
「500時間必要」
「600時間必要」
といった数字を見かける。
しかし、技術士試験の実施機関が、
「合格には○時間必要である」
という標準学習時間を示しているわけではない。
必要な時間は、
専門知識。
実務経験。
文章を書く経験。
過去の受験経験。
選択科目。
勉強開始時点の答案作成能力。
などによって大きく変わる。
したがって、
「600時間勉強すれば合格できる」
とは言えない。
逆に、
「600時間勉強しなければ合格できない」
とも言えない。
ここは元の記事から大きく修正したいところである。
ホームズ
「学習時間は証拠にはなる。しかし判決にはならない」
勉強時間は大切だ。
だが、それだけで合否を説明することはできない。
3.では、勉強時間をどう考えればよいのか
そこで私は、総時間ではなく、
「学習期間」と「週当たり時間」
で考えることを勧めたい。
例えば、前年11月から7月の筆記試験まで、およそ8か月間対策するとしよう。
仮に34週間と考える。
平日に1時間ずつ5日。
休日に3時間ずつ2日。
これなら、
1週間で11時間。
34週間なら、
約374時間
になる。
もう少し時間を取って、
平日2時間×5日。
休日4時間×2日。
なら1週間18時間。
34週間なら、
約612時間
である。
重要なのは、
374時間だから不足。
612時間だから十分。
という話ではない。
同じ8か月でも、生活環境によって確保できる時間は違う。
その中で、
自分が継続できる学習量を設定する
ことが第一歩になる。
4.本当に大切なのは「時間の配分」である
ワトソンは再びノートを開いた。
ワトソン
「では、仮に400時間あるとしよう。何に使えばいい?」
ホームズは少し考えて答えた。
ホームズ
「それなら、時間ではなく工程を決めた方がいい」
技術士二次試験の学習は、大きく分けると、
過去問分析。
必要知識の整理。
骨子作成。
答案作成。
添削・振り返り。
時間内答案。
のように進む。
ここで失敗しやすいのが、
インプットに時間を使いすぎること
である。
白書を読む。
専門書を読む。
キーワードを調べる。
もちろん必要である。
しかし、知識を増やすだけでは本番の答案にならない。
例えば、
「人口減少」
について詳しく知っていることと、
人口減少を題材とした問題に対して、
複数の観点から課題を抽出し、
最も重要な課題を選び、
解決策を論理的に示すことは、
別の能力である。
ホームズ
「知識は材料だ。
答案は料理だよ。
材料を冷蔵庫いっぱいに詰めても、料理を作ったことにはならない」
5.11月から7月まで、同じ勉強をしてはいけない
勉強時間を考えるとき、もう一つ大切なことがある。
時期によって、勉強内容を変えること
である。
11月から12月頃は、試験制度や過去問を理解し、自分の弱点を確認する時期。
1月から3月頃は、頻出テーマの知識を整理しながら、課題や解決策の骨子を作る。
4月から5月頃は、実際の答案を書く比重を増やす。
6月頃からは、試験時間を意識した答案作成を行う。
7月は、新しいことを大量に覚えるより、
本番で自分の実力を再現すること
を重視する。
つまり、
11月の1時間と、
7月の1時間は、
意味が違う。
ワトソン
「同じ時間でも、役割が変わるのか」
ホームズ
「当然だ。捜査初日に証拠を集める仕事と、裁判前日に推理を組み直す仕事が同じであるはずがない」
6.隙間時間ですべきこと、してはいけないこと
社会人にとって、まとまった時間だけで勉強するのは難しい。
そこで隙間時間を使う。
これは他の記事でも紹介した方法であり、今でも有効である。
しかし、すべての勉強を隙間時間へ押し込めるのは適切ではない。
5分、10分でできるのは、
キーワード確認。
法令確認。
自分の骨子を読み返す。
答案の改善点を見る。
音声教材を聞く。
といった短時間の作業である。
一方、
問題文を分析する。
1800字答案を書く。
時間配分を練習する。
といった作業は、ある程度まとまった時間が必要になる。
したがって、
隙間時間=インプット・確認
まとまった時間=アウトプット
と分けると使いやすい。
7.朝型でなければ合格できないわけではない
講座では「朝活」を勧めていた。
確かに朝は、残業や急な予定に邪魔されにくい。
家族が起きる前なら、集中できる人もいる。
しかし、
朝が最も優れているわけではない。
夜に集中できる人もいる。
通勤時間を使う人もいる。
休日にまとめて答案を書く人もいる。
大切なのは、
毎週再現できる時間帯を決めること
である。
勉強計画で一番怖いのは、
理想的だが続かない計画である。
平日毎朝5時から2時間勉強する。
最初の1週間はできる。
しかし仕事が忙しくなり崩れる。
そして、
「計画どおり勉強できなかった」
という罪悪感だけが残る。
それより、
平日は45分。
土曜日は3時間。
日曜日は2時間。
というように、
無理なく続けられる最低ライン
を作った方がよい。
8.娯楽を全部捨てる必要もない
他の記事には、
「娯楽を極力我慢する」
という記述がある。
ここも私は修正したい。
確かに、技術士試験を受けるなら、ある程度の時間は何かから捻出しなければならない。
テレビ。
SNS。
ゲーム。
飲酒。
何となくスマートフォンを見る時間。
見直す余地はある。
しかし、
休息まで削って勉強時間に変えるのは逆効果になり得る。
睡眠不足。
疲労。
集中力低下。
仕事への影響。
これでは長期間の学習を続けられない。
技術士二次試験は、短距離走ではない。
数か月間にわたって学習を続ける必要がある。
だからこそ、
勉強時間を増やすことと、継続できる生活を守ること
のバランスが必要になる。
9.試験本番には「勉強とは別の体力」がいる
本番の持久力である。
技術士二次試験の筆記試験では、長時間にわたり問題を読み、考え、手書きで答案を書く。
私が以前、会場を借りて模擬試験を行っていたときも、試験後半になると明らかに疲労する受講者がいた。
そして、その答案を見ると、
論理が飛ぶ。
説明が短くなる。
字が乱れる。
設問への対応が雑になる。
といった傾向が見られることがあった。
ここには重要な教訓がある。
知識があっても、最後まで再現できなければ点数にならない。
したがって試験が近づいたら、
本番と同程度の時間で答案を書く練習も必要になる。
ワトソン
「勉強時間を増やすだけではなく、本番の時間に耐える練習もするわけだな」
ホームズ
「試合に出る選手が、筋力トレーニングだけして試合形式の練習をしないとは考えにくいだろう?」
10.勉強時間より「一週間で何を終えたか」を見る
ここまで来ると、勉強時間の管理方法も変わってくる。
例えば、
「今週は12時間勉強した」
だけでは十分ではない。
それより、
過去問を3問分析した。
骨子を5本作った。
答案を2本書いた。
添削答案を2本修正した。
というように、
成果物で管理する
方がよい。
2時間机に座っていた。
しかし何も完成しなかった。
これと、
45分で一本の骨子を完成させた。
どちらが合格へ近づいたかは明らかである。
ホームズ
「時間は投入量だ。
見るべきなのは成果だよ」
11.「何時間必要か?」への答え
では最後に、最初の問いへ戻ろう。
技術士二次試験に合格するには何時間必要なのか。
答えは、
一律には決められない。
である。
しかし、それだけでは役に立たない。
だからもう一歩進めて考える。
前年11月から7月まで対策するなら、
まず自分が毎週継続できる時間を決める。
その時間を、
知識整理だけではなく、
過去問分析。
骨子。
答案。
添削。
時間内練習。
へ配分する。
そして、
「何時間勉強したか」ではなく、
「何ができるようになったか」
を確認する。
これが技術士二次試験における勉強時間の考え方である。
エピローグ:時間を集めるのではない
ワトソンはノートに書いた「600」という数字を消した。
ワトソン
「つまり、600時間という数字を目標にする必要はないんだな」
ホームズ
「そういうことだ。
500時間でも600時間でも、それだけでは意味を持たない」
ワトソン
「では、何を目標にすればいい?」
ホームズは答えた。
ホームズ
「試験日に、必要な能力を再現できる状態だよ」
技術士二次試験は、勉強時間を競う試験ではない。
仕事や家庭を抱えた社会人が、自分の限られた時間の中で、
必要な知識を身につけ、
考える力を鍛え、
答案を書く力を磨き、
本番でそれを再現する試験である。
だから、
「今日は何時間勉強したか」
だけを見なくてよい。
代わりに、
「今日は何ができるようになったか」
を考えてほしい。
その積み重ねが、合格へ向かう本当の勉強時間になる。

【情報源】
公益社団法人日本技術士会「令和8年度 技術士第一次試験の実施について」
公益社団法人日本技術士会「令和8年度技術士第一次試験 実施案内」
公益社団法人日本技術士会「令和8年度技術士第二次試験 実施案内」
公益社団法人日本技術士会「令和8年度 技術士第二次試験の実施について」








