技術士二次試験:そもそも経済成長とは何か? 

国民経済の発展に資する

技術士法にある、「国民経済の発展に資する」と言うことを考えてみる

技術士二次試験の必須問題や選択Ⅲの問題では、設問3で「波及効果」を問われる場合がある。
例えば、令和4年機械部門:必須Ⅰ-1

波及効果とは何か?

 経済波及効果とは、新たに需要が発生したときに、その需要を満たすために次々と新たな生産が誘発されていくことを言う。まるで波(波紋)が移動するように次々と波及していくことから、生産波及効果と呼ばれることもある。

 例えば、建設部門で需要増加(新たな建物の建築など)があった場合を考えてみよう。
建物などを建設するには鉄骨やコンクリート、ボルトなどの建設資材や設備、それを動かすための燃料や電気などの原材料が必要となる。
さらに、それらの建設資材等を得るために、その原材料(砂利や鋼材など)の生産が必要になる。そしてさらに、それらの原材料の原材料の生産が必要になる…というように、生産が生産を呼んで(生産誘発)、いろいろな産業へと次々と生産が波及していく。これが波及効果だ。

むろん、これで建設土木の分野で働く人たちのや企業の収入が増えて、飲食店で接待があったり、社内旅行で「豪遊」したりすることも波及効果である。現在、退職間近の方なら、バブルの頃が懐かしいと思う。
私は、バブル前期の1982~1987年までの学生時代を東京で過ごした。その頃、建設業界でアルバイトをしていたから当時の建設業界を多少なりとも知っている。

「風が吹けば桶屋が儲かる」

「風が吹けば桶屋が儲かる」というお話をご存じだろうか?
風が吹けば桶屋が儲かるとは日本語のことわざで、ある事象の発生により、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶことの喩えだ。

強い風によって砂ぼこりがたつと、砂ぼこりが目に入ったために盲人がふえ、その人たちが三味線で生計を立てようとするため、三味線が多く必要になり、三味線の胴に張る猫の皮の需要も増え、そのために猫がへり、その結果、増えた鼠が桶をかじるので桶屋がもうかって喜ぶというもの。

江戸時代の説明では分かり難いので、今風に書き換えよう。

1)強い風によって砂ぼこりがたつと、砂ぼこりが目に入ったために盲人が増える。
(江戸時代の話なので、医療が発達していない)
2)その人たちが三味線で生計を立てようとするため、三味線が多く必要になる。
3)三味線の胴に張る猫の皮の需要も増え、そのために猫が減る。
(残酷な話だが、江戸時代の話なのでご勘弁を)
4)猫が減った結果、鼠が増えて桶をかじるので桶屋がもうかって喜ぶというもの。

これは、波及効果の古典版と言える喩えだ。

技術士の業務は、国民経済の発展に波及する

社会における技術士「人種」の存在意義、それは言うまでもなく、経済成長に貢献することだ。法律にもそのことが明記されている。すなわち技術士法第1条・2条には、エンジニアが、科学技術の高度な専門知識を身に着けることによって「科学技術の向上と国民経済の発展」に資するための業務を行う者であることが記されている。以下が条文だ。

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、技術士等の資格を定め、その業務の適正を図り、もつて科学技術の向上と国民経済の発展に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「技術士」とは、第三十二条第一項の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行う者をいう。

そもそも経済成長とは何か? 技術士の観点からGDPをみると…

さて「科学技術の向上と国民経済の発展」とは一言で言えば経済成長であり、それを表す一般的な指標としてはGDPがよく使われる。すなわち、GDP(正確には実質GDP)が前年度と比べてどの程度上昇したのかを%で表したものが経済成長率である。

今回はこのGDPについて考えてみよう。

まずは、悲しい現実となるが、世界各国の名目GDPの推移を見て欲しい。

まずは、日本、韓国、ドイツの名目GDP、1990年頃から2022年までのIMFが集計したデータだ。

次は、英国、イタリア、ロシアの名目GDP。

なぜか、日本だけが増加していない。つまり経済発展していないということだ。米国と中華人民共和国は入れていないが、どうなっているのかはご存知かと思う。

日本が他国に比べ、GDPが増加していないのは、理解できたとおもう。
つまり、私も含め、技術士は国民経済の発展の何も貢献していないと言うことになる。
もちろん、日本の生産年齢人口は2023年時点で7,200万人程度、技術士は6~7万人だから、1/1,000 の割合、仮に3倍のパワーがあっても、1/300の影響力しかない。

それでも、我々技術士は国民経済の発展に貢献する必要がある。
そのため、総合技術監理部門の技術士は当然ながら、、一般部門の技術士もGDPを理解して欲しい。
以下、経済が苦手なエンジニアも理解できるように説明するので、付いてきて欲しい。

なぜGDPを理解する必要があるのか?

そもそも経済成長とは何だろうか。それは目に見える「モノ」なのだろうか。もしそうなら「見ればわかる」経済成長を、わざわざGDPという概念・データを通して認識し直す必要性は低いだろう。

例えばインドなど新興国に行くと、街が何もないところから「成長」してくるプロセスを非常に短期間で観察することができる。それまで掘っ立て小屋の、電気も通っていないような薄暗い日用品店や飲食店が並んでいただけの、舗装されてもいない雑然とした一区画がある。それが、たった数か月の間にやや「まとも」になり、また数カ月経つと「見違え」て、さらにまた半年後に行ってみると規模も大きくなっておいる。隣にはホテルやショッピングモールが立ち並んでいたりする。そこでは日常の景色が目まぐるしく変化するため、居合わせた人は誰でも経済成長を実感せずにはいられない。
日本も高度経済成長期は、そうだったのだ。

このような場所、あるいは19世紀の産業革命の時代などにおいては、経済成長は目に見え、それゆえ感覚に直に訴えてくるものである。しかし現代の日本、特に地方都市ではそうではない。そこでは経済成長という言葉を裏書きする現実が乏しいため、私たちはその言葉に説得力を感じることができないのである。少なくとも、上記の例と同じ「程度と速さ」の経済成長を肌で感じることは難しい。

そこで必要になってくるのが、視覚ではなく心の眼で、つまりGDPという概念・データを通して経済成長を把握するという習慣であるように思う。技術士、特に総監技術士にはこれが必要だ。

経済発展

GDPの算出方法

その名(国内総生産)が示す通り、GDPとは「一定期間内に国内で生産された財・サービスの付加価値の合計額」である。

ここでいう付加価値とは「企業の売上となった財・サービスの販売価格から原材料・人件費などの経費を差し引いた価値」、つまり「儲け」を指す。

 付加価値の考え方について具体的にみてみよう。例えば、ネジ工場AのあるX年度の売上高は1000万円であるとする。その工場で、この売り上げを達成するために、原材料費は200万円、人件費は300万円、水道光熱費は100万円かかったとする。これらはいずれも経費であるから、ネジ工場AがX年度に創出した付加価値は、売上高1000万円-経費の合計額600万円=400万円となる。GDPにプラスされるのは、この金額(400万円の付加価値)である。

 このようにGDPは、一国内で企業や個人によって生産された財・サービスの付加価値を合計することによって、すなわちそれぞれの「儲け」を合計することによって求められる。

「GDPの三面等価の原則」

 GDPの話はこれだけではない。実は、実体経済において、生産、支出(需要)、所得の3つの値は必ずイコールになる。
それは実体経済が、生産者と消費者の間を貨幣がグルグルと回り続けるサイクルであることに由来する。つまり、我々は、生産者として財やサービスを生産し、それらを顧客(家計・企業・政府・外国など)に買ってもらう(貨幣を支出してもらう)ことで所得を得ている。これが実体経済だ。

したがって、国民経済のつながりを示す実体経済からみたGDP統計は、上でみたような「国内の生産の合計」であるのみならず「国内の支出の合計」「国内の所得の合計」でもある。このことを忘れないでほしい。この3つの中で、国内の生産の合計こそが、狭義のGDPと呼ばれる統計である。

「生産面のGDP」「支出(需要)面のGDP」「(所得の)分配面のGDP」-GDP統計には以上3つの面がある。3つの面のGDPは、総額が必ず一致する。
これを「GDP三面等価の原則」、もしくは「国民所得の三面等価の原則」と呼ぶ。経済の循環は、財・サービスの生産、生産された財・サービスの価値の分配、分配された価値の消費という一連の流れで成立しているため、生産・分配・支出が同一になるのは必然である。

「GDPの三面等価の原則」からみえてくること

 GDPの三面等価のモデルを用いれば、どのような政策を行えば好景気になるか/不景気になるかを説明することができる。
ポイントは「GDPの三面等価の原則」は「実体経済における国民経済のつながり」を示すという点だ。
すなわち「生産面のGDP」が拡大・縮小すれば、必然的に「支出(需要)面のGDP」「(所得の)分配面のGDP」もそれに合わせて拡大・縮小する。

 例えば、「消費税の増税」により景気が悪くなるシナリオ(デフレーション)を、GDPの三面等価のモデルから描いてみよう。「消費税の増税」により真っ先に影響を受けるのは、民間の消費、すなわち「支出(需要)面のGDP」だ。
さて、民間の財・サービスに対する支出(需要)は消費税増額により減ってしまうが、話はそれだけでは終わらない。国民経済はつながっているため、需要の減少は、誰かの所得の縮小を引き起こす。すなわち顧客の買い渋りにより所得が減った生産者が顧客側に回ると、彼もまた「10個買いたいけど7個にしようかな…」というように買い渋りの兆候を示すのである。すると当然、別の生産者の所得が減る。さらに、その生産者が顧客側に回ると、彼もまた買い渋る…というように、「次の段階」の所得・投資が循環的に縮小していく。こうして総需要は減少し経済は縮小する。

 次に「法人税の引き下げ」により景気が良くなるシナリオをみてみよう。「法人税の引き下げ」は民間企業に、生産ライン増設や最新設備導入、新店舗設置など、売上を増やすための設備投資拡大のインセンティブをもたらす。新たに起業する人も増えると考えられる。すると、設備投資の需要が高まるという形で民間の消費、すなわち「支出(需要)面のGDP」が増大する。
さて「GDPの三面等価の原則」によれば「支出(需要)面のGDP」の拡大は、誰かの所得の増大を引き起こす。すなわち顧客(企業)の旺盛な設備投資により所得が増えた生産者が顧客側に回ると、彼もまた積極的な消費へと向かう。すると当然、別の生産者の所得が増える。そしてその生産者が顧客側に回るとまた積極的な消費を…というように、「次の段階」の所得・投資が循環的に増加していく。こうして総需要は増大し、経済は拡大する。

 このように、GDPの三面等価のモデルを用いれば、どのような政策をすれば好景気になるか/不景気になるかを説明することができる。児童手当やコロナ関連給付金、公共事業に対する投資、各種補助金など、政府の積極財政は「バラマキ」としばしば批判されるが、「GDPの三面等価の原則」からみれば経済効果がないとは言い難いのである。
むしろ、国の財政出動こそが、貨幣の創出であり、総需要を生み出す元になるのだ。

なぜ実質GDPを用いるのか?

技術士は、経済発展に資する義務がある

我々が普段ニュースなどで目にするのは、実質GDPである。

GDPには名目値と実質値がある。名目GDPは、実際に取引されている価格に基づいて推計されるため、物価変動の影響を受ける。一方、実質GDPは、基準年を設定して、名目GDPから物価の変動による影響を差し引いたものである。

一般的に、景気判断や経済成長率をみる場合には、名目GDPではなく実質GDPが重視される。というのも、名目GDPは国内で生産された付加価値を単純に合計したものであり、物価が変動すると、正確に生産量を表さなくなるからである。例えば、生産された財の価格が一気に2倍になった時、名目GDPは単純に2倍となる。しかし、経済の規模も2倍になったわけではない。というのも、価格が変化する前後で、生産量は同じだからである。

このように、財やサービスの値段が変化することでGDPの数値が変化し経済の実情が分かりにくくなってしまうことを避けるため、物価変動の要素を除いた実質GDPが用いられている。

GDPとGNPの違い

最後に、GDPと混同されやすいGNPについてみていこう。

現在、GDPは一国の経済活動の規模を示す指標として支配的な地位を確立しているが、2001年より前にはGDP(Gross Domestic Product)ではなくGNP(Gross National Product、国内総生産)という指標が主として用いられていた。

GDPとGNPの違いを確認すると、GDPは「国内」という言葉が示すように、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は計測対象に含まない。その一方、GNPは「国民」という言葉が示す通り、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も計測対象に含んでいる。このような違いがある。

では、なぜGNPは使用されなくなったのだろうか。1980年代後半以降、円高とグローバル化が進み、日本人や日本企業が海外に進出したり、逆に外国人や外国企業が日本で経済活動を行ったりという現象がみられるようになった。当然、そうしたヒト・モノ・資金のトランスナショナルな往来がある状況では、ある「国民」の生産活動を基準としたGNPを用いて一国の経済活動の規模を正確に捉えることは不可能である。そこで2001年以降、GNPに代わって、内閣府の主要統計の一つである国民経済計算においても、日本国内での生産活動を基準としたGDPが用いられるようになった。以上が、経済成長・景気を測る指標としてGNPに代わりGDPが支配的となった経緯である。

まとめ

まとめ

 我々はGDPを用いて経済成長を把握することができる。GDPとは「一定期間内に国内で生産された財・サービスの付加価値の合計額」である。経済成長率は、このGDPが前年度と比べてどの程度上昇したのかを%で表すことによって算出される。
エンジニア的な言い方なら、経済成長の見える化だ!

 また、GDPに関しては「GDPの三面等価の原則」がある。実体経済に即せば、生産・支出・所得の3つの総額は同一になるため、実はGDPとは国内と生産の合計であり、支出の合計であり、所得の合計でもある。これが「GDPの三面等価の原則」である。平たく言えば「支出が減れば、生産量も減って、所得・消費も減る」「支出が増えれば、生産量も増えて、所得・消費も増える」ということである。「GDPの三面等価の原則」が便利なのは、本モデルを用いて、増税/減税、緊縮財政/積極財政が景気に及ぼす影響を垣間見ることができるからだろう。
技術士は、このことを十分に理解して、国民経済の発展に資することが求められる。
技術士二次試験の解答、特に必須問題はこのことを念頭に解答する必要がある。

日本のエンジニア

以下は、参考文献

(三橋貴明『財政破綻論の嘘』・三橋貴明『知識ゼロからわかるMMT入門』)

本以外で参照した主なサイト

https://wakarueconomics.com/%E7%B5%8C%E6%B8%88/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A8%E8%AA%9E/post-621

https://manabow.com/hayawakari/hayawakari12_2.html

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