【技術士試験】ホームズの推理:上下水道部門の必須問題は8年間でどう変わったのか?

―「上下水道共通」「技術面」「分散型を前提」から読む令和9年度対策

~坂戸市、ベイカー街221B。5部門の捜査も、いよいよ最後の一件を迎えていた~

ワトソン博士

「ホームズ、最後は上下水道部門だな」

シャーロック・ホームズ

「ああ。建設部門と似ているようで、実はかなり面白い違いがある」

ワトソン

「人口減少、防災、脱炭素……。テーマだけ見ると建設部門とほとんど同じじゃないか」

ホームズ

「テーマを見るだけならね。だが設問を見たまえ」

ホームズは令和元年度の問題を開いた。

そこには、

「上下水道事業に共通する課題」

と書かれていた。

次に令和6年度。

「上下水道事業に共通する技術面の課題」

そして令和8年度。

「分散型システムの導入を前提」

さらに、

「人や費用の確保は除く」

という条件まで加わる。

ワトソン

「なるほど。社会問題を自由に論じる問題ではないわけだ」

ホームズ

「そうだ。上下水道では、“どこまで共通化して考えられるか”が重要になる」

では令和元年から順に追ってみよう。

1.令和元年――最初から「上下水道共通」が求められていた

災害・事故発生時における上下水道事業の継続

がテーマである。

Ⅰ-2は、

上下水道事業における地球温暖化防止

である。

一見すれば、

防災。

地球温暖化。

という社会的テーマである。

しかし設問では、

「上下水道事業に共通する課題」

という条件が繰り返されている。

ワトソン

「水道だけでも、下水道だけでも駄目ということか?」

ホームズ

「少なくとも必須問題では、その可能性が高い」

例えば、

浄水場だけの特殊な処理技術。

下水処理場だけの高度処理。

これらを深く書けば専門的ではある。

しかし、

上下水道共通の課題

という題意から外れる可能性がある。

逆に、

施設老朽化。

耐震性。

エネルギー消費。

管路維持管理。

事業継続。

などは、上下水道双方に共通させやすい。

つまり令和元年から、

専門的であればよいのではなく、上下水道全体を見渡せること

が求められていた。

2.上下水道部門特有の難しさ①――「水道」と「下水道」の間に橋を架ける

ワトソン

「上下水道部門なのだから、どちらか一方に詳しければいいのでは?」

ホームズ

「選択科目ならそれでよい場合もある。しかし必須科目は違う」

上下水道部門には、

上水道及び工業用水道。

下水道。

という異なる専門領域がある。

水道では、

水源。

浄水。

配水。

給水。

水質。

などが中心になる。

下水道では、

収集。

処理。

放流。

汚泥。

雨水排除。

などが中心となる。

扱う技術はかなり違う。

しかし必須問題では、

両者に共通する問題を見つける

必要がある。

例えば老朽化。

水道なら管路更新。

下水道なら管渠更新。

処理施設なら機械・電気設備更新。

つまり、

個別技術では違っても、

「更新需要の増大」

という上位概念では共通する。

この抽象化と具体化の往復が、上下水道部門特有の難しさである。

3.令和3年――人口減少と事業基盤強化

令和3年度Ⅰ-1は、

人口減少下における上下水道事業の基盤強化

である。

背景には、

将来水需要の減少。

料金収入の減少。

職員数の減少。

施設老朽化。

がある。

ワトソン

「これは経営問題にも見えるな」

ホームズ

「その通り。しかし必須問題では、技術者として解かなければならない」

例えば、

収入が減るから料金を上げる。

人が減るから職員を増やす。

だけでは技術課題とは言いにくい。

施設統廃合。

ダウンサイジング。

広域化に伴う施設再編。

維持管理の効率化。

監視制御の高度化。

アセットマネジメント。

などへ落とし込む必要がある。

つまり、

経営的な問題を、施設・設備・運用の技術問題へ変換する

必要がある。

4.令和3年Ⅰ-2――国土強靱化でも「上下水道として考える」

Ⅰ-2は、

防災・減災、国土強靱化

がテーマである。

平成30年7月豪雨。

北海道胆振東部地震。

そして国土強靱化のための加速化対策。

こうした背景が示される。

ワトソン

「これはまさに建設部門と同じテーマじゃないか」

ホームズ

「背景は同じだ。しかし答えは同じではない」

建設部門なら、

道路。

河川。

橋梁。

斜面。

都市。

など広い社会資本から考える。

上下水道では、

断水。

管路被害。

処理機能停止。

停電。

浸水。

水質事故。

など、

水供給・排水処理という機能をどう維持するか

へ変換する必要がある。

つまり、

同じ社会問題でも、部門によって技術問題は変わる。

これはこの連載全体で確認してきた重要な事実である。

5.上下水道部門特有の難しさ②――「政策を知っている」だけでは答案にならない

上下水道部門では、政策文書が問題の背景としてよく使われる。

令和3年は国土強靱化。

令和6年は水循環基本計画。

令和8年はカーボンニュートラル。

である。

ワトソン

「それなら政策を暗記すれば有利なのでは?」

ホームズ

「政策名を覚えることと、技術的に答えることは別だ」

例えば水循環基本計画を知っていても、

健全な水循環とは何か。

地下水や表流水をどう扱うのか。

流域全体で上下水道がどう関係するのか。

雨水利用や再生水利用をどう位置付けるのか。

まで技術へ落とし込めなければ答案にはならない。

上下水道では、

政策 → 事業 → 施設・運用

という変換が必要になる。

6.令和6年――ついに「技術面」と明記された

令和6年度Ⅰ-1は、

健全な水循環

がテーマである。

ここで設問は、

「上下水道事業に共通する技術面の課題を3つ抽出」

と明示している。

ワトソン

「“技術面”という言葉が入ったのか」

ホームズ

「これは重要だ」

人口減少。

財政。

制度。

人員。

こうした問題は実際の上下水道事業では重要である。

しかし試験委員は、

必須問題では技術的に考えなさい

と、より明確に示している。

さらに設問(2)では、

「上下水道の専門技術用語を交えて」

解決策を示すよう要求されている。

したがって、

「連携を強化する」

「体制を構築する」

「情報共有する」

だけでは弱い。

管路更新。

漏水管理。

雨水貯留。

再生水利用。

処理プロセス改善。

監視制御。

耐震化。

など、

上下水道技術として何をするのか

まで書く必要がある。

7.令和6年Ⅰ-2――対象が具体化する

令和6年度Ⅰ-2は、

上下水道施設の耐震化

である。

しかも問題文では、

「特に、浄水場、下水処理施設」

と対象が具体化されている。

ワトソン

「管路だけではなく、処理施設側を考えさせたいわけか」

ホームズ

「そう読める」

浄水場。

下水処理場。

両者は目的も処理プロセスも違う。

しかし、

構造物。

機械設備。

電気設備。

非常用電源。

薬品設備。

監視制御。

など、共通する耐震課題は多い。

ここでも、

違う施設の中から共通する技術課題を抽出する力

が必要になる。

8.令和8年Ⅰ-1――解決策の方向まで指定された

令和8年度Ⅰ-1は非常に特徴的である。

背景は、

人口減少地域における上下水道システムの持続可能性

である。

設問(1)では、

集約型の上下水道システムを維持するうえでの課題

を考える。

そして設問(2)では、

「分散型システムの導入を前提とした複数の解決策」

を求めている。

ワトソンは眉を上げた。

ワトソン

「これはかなり答案を縛っていないか?」

ホームズ

「そうだ。ここが令和8年の大きな変化だ」

従来なら、

統廃合。

広域化。

施設更新。

DX。

など、解決策を比較的自由に考えられた。

しかし令和8年は、

分散型システムを使うことを前提条件

として与えている。

つまり、

課題を解決する方法まで、一定の方向へ導かれている。

これは「何を書いてもよい問題」からさらに一歩進んだ形である。

9.令和8年Ⅰ-2――「人と費用は禁止」

Ⅰ-2は、

上下水道施設における地球温暖化対策・脱炭素化

である。

ここでも条件が付く。

「ただし、人や費用の確保は除く」

である。

ワトソン

「また逃げ道を塞いでいるな」

ホームズ

「電気電子部門ほど多くはないが、方向性は似ている」

脱炭素化なら、

予算を確保する。

人材を育成する。

補助制度を活用する。

といった解決策は考えやすい。

しかしそれでは、

上下水道技術者として何をするのか

が弱い。

だから、

高効率設備。

省エネルギー運転。

創エネルギー。

下水熱利用。

汚泥消化。

再生可能エネルギー。

水処理プロセス最適化。

など、

技術そのものへ答案を戻す。

令和8年では、この意図がより明確になっている。

10.上下水道部門特有の難しさ③――「共通化しすぎても、具体性を失う」

上下水道では、

水道にも下水道にも共通させなければならない。

しかし、ここで別の問題が起こる。

共通化しすぎると抽象論になる。

ワトソン

「例えば?」

ホームズ

「“施設を効率的に維持管理する”だ」

確かに水道にも下水道にも共通する。

しかし抽象的すぎる。

そこで、

水道では管路・浄水施設。

下水道では管渠・処理施設。

という違いを理解したうえで、

共通上位概念として、

アセットマネジメントを用いてリスクと劣化度に基づき更新優先順位を設定する

とすれば、技術的になる。

つまり上下水道では、

具体的すぎると片方に偏る。

抽象的すぎると技術性が消える。

この中間を取らなければならない。

これが非常に難しい。

11.設問(3)も少しずつ変化している

令和元年では、

解決策に共通して新たに生じうるリスク

が中心だった。

令和3年も基本的には同じである。

令和6年では、

Ⅰ-1が、

波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項

Ⅰ-2が、

実施しても残るリスク

というように分かれた。

令和8年では、

新たに浮かび上がってくる将来的な懸念事項

という表現になっている。

ワトソン

「やはり“リスクを書けばよい”では危ないな」

ホームズ

「そうだ。問題文に使われた言葉をそのまま読まなければならない」

波及効果。

残留リスク。

新たなリスク。

将来懸念。

似ているようで、考える時間軸や因果関係が違う。

ここも近年の問題で重要になっている。

12.8年間で何が変わったのか

4年度を整理すると、次のように見える。

年度 上下水道部門の特徴
令和元年 「上下水道事業に共通する課題」を要求
令和3年 人口減少・国土強靱化を上下水道へ変換
令和6年 「技術面」「専門技術用語」を明示
令和8年 解決策の前提・除外条件まで指定

ワトソン

「建設部門と似ているようで、少し違うな」

ホームズ

「建設よりも答案の範囲が狭い」

建設部門では、

国土。

都市。

地域。

社会資本。

と比較的大きな世界から考える。

上下水道では、

その社会問題を、

水供給と排水処理という機能へ必ず戻す。

しかも、

水道だけでもない。

下水道だけでもない。

上下水道共通である。

したがって、

社会問題を広く理解しながら、答案は狭く正確に書く

必要がある。

13.上下水道部門は「建設と電気電子の中間」に近い

5部門を比較すると、上下水道の位置が面白い。

建設部門と同じく、

政策。

人口減少。

防災。

脱炭素。

など大きな社会テーマから出題される。

一方で近年は、

技術面に限定する。

対象を具体化する。

解決策の方向を指定する。

人や費用を除外する。

など、電気電子部門に近い「条件による絞り込み」も見られる。

ワトソン

「つまり、社会問題を扱うが自由作文ではない」

ホームズ

「その表現がいい」

14.令和9年度はどうなっていくのか

ここからは【予測】である。

令和9年度の具体的テーマを当てることはできない。

しかし4年度を見る限り、

社会課題を背景にする

という基本方向は継続する可能性が高い。

人口減少。

災害。

水循環。

脱炭素。

これらと同じように、

上下水道事業全体へ影響する社会的テーマを与え、

そこから技術課題へ落とし込ませる形である。

一方、問い方は、

令和8年のように、

「○○を前提とする」

「○○は除く」

「○○に共通する」

といった条件がさらに付く可能性がある。

さらに今後は、

例えば、

水質確保と省エネルギー。

耐震性と更新費用。

集約化と災害時リスク。

分散化と維持管理負荷。

高度処理とエネルギー消費。

といった、

相反する要求を調整させる問題

が明確に出ても不自然ではない。

これは新コンピテンシーで、

多角的視点。

相反する要求事項。

複数案。

合理的な解決策。

が重視されていることとも整合する。

ただし、これは出題テーマの予想ではなく、問い方の方向に関する推測である。

15.令和9年度対策――水道だけ、下水道だけで考えない

ワトソン

「では、受験者は何を準備するべきだ?」

ホームズ

「自分の選択科目から一度離れることだね」

上水道を専門とする受験者なら、

下水道の基本。

下水道を専門とする受験者なら、

水道の基本。

を押さえておく必要がある。

すべてを深く学ぶ必要はない。

重要なのは、

両者に共通するテーマを理解することだ。

例えば、

施設老朽化。

耐震化。

省エネルギー。

脱炭素。

広域化。

DX。

アセットマネジメント。

維持管理。

事業継続。

水循環。

これらについて、

水道ではどうなるか。

下水道ではどうなるか。

共通項は何か。

と考える。

この訓練をしておけば、必須問題で片側へ偏りにくい。

16.令和9年度対策――「制約条件」を先に抜き出す

令和8年度問題から、もう一つ重要な対策がある。

問題文を読んだら、すぐ課題を書かない。

まず、

対象。

前提。

除外条件。

指定された方向。

を抜き出す。

例えば、

「分散型を前提」

と書いてあるなら、集約化だけで解決してはいけない。

「人や費用は除く」

と書いてあるなら、人員確保や財源確保を主要課題にしない。

「上下水道共通」

なら、片方だけに成立する課題を避ける。

ワトソン

「答案を書く前に、使えないカードを捨てるわけだ」

ホームズ

「そうだ。電気電子部門と同じ推理だよ」

エピローグ:共通するものを見つける試験

4年度分の問題を見終え、ワトソンは言った。

ワトソン

「最初は、上下水道部門は建設部門の小型版のようなものだと思っていた」

ホームズ

「かなり失礼な見方だね」

ワトソン

「今は違う。
水道と下水道という異なるシステムから、共通する技術課題を見つけなければならない」

ホームズはうなずいた。

令和元年では、

上下水道共通。

令和3年では、

人口減少と国土強靱化。

令和6年では、

技術面と専門技術用語。

令和8年では、

分散型システムという前提条件。

そして人・費用という除外条件。

この8年間で、

基本形式は大きく変わっていない。

しかし、

「何を答えるべきか」の範囲は確実に細かくなっている。

上下水道部門で必要なのは、

水道だけに詳しいことでもない。

下水道だけに詳しいことでもない。

政策を暗記することでもない。

社会問題を、

上下水道双方に成立する技術問題へ変換する力。

そして、

与えられた条件の中で、

具体性を失わず、

専門技術によって解決する力である。

ホームズは最後の問題用紙を閉じた。

ホームズ

「ワトソン君、上下水道部門の難しさは、二つの世界を知ることではない」

ワトソン

「では?」

ホームズ

「異なる二つの世界に、同じ問題がどこに潜んでいるかを見つけることだ」

これで、

建設。

機械。

経営工学。

電気電子。

上下水道。

5部門の捜査は終わった。

しかし5部門を並べたことで、もっと大きな事実が見えてきた。

技術士二次試験の必須問題は、

同じ形式であっても、部門ごとに求められる思考方法が違う。

令和9年度に向けて大切なのは、

万能な答案を覚えることではない。

その部門の技術者として、問題文が指定した条件の中で考えること。

それこそ、この8年間の過去問が残した最も重要な手掛かりなのである。

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。

【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

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