―過去問暗記では通用しない択一試験の勉強法
プロローグ:1000語を全部覚えるつもりかね?
~ロンドン、ベイカー街221B。机の上には「総合技術監理キーワード集2026」と、令和6~8年度の択一問題が積み上げられていた~
ワトソン博士
「ホームズ、前回で技術士の総合技術監理が何なのかは分かった。
経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理。
この5つの管理を使って、業務全体を俯瞰するんだったね」
シャーロック・ホームズ
「その通りだ」
ワトソン
「だから勉強方法も決めたよ。
この総合技術監理キーワード集2026を、最初から最後まで全部覚える」
ホームズはキーワード集を手に取り、ページをめくった。
ホームズ
「君は、この約1000のキーワードを同じ深さで暗記するつもりかね?」
ワトソン
「総監の試験範囲なんだろう?」
ホームズ
「前回の話をもう忘れたのか。
キーワード集は試験範囲そのものではない。
しかも、この中の言葉は毎年一部が更新される。
1000語を1000語とも同じ方法で覚えようとするのは、ロンドン中の住民の顔を暗記してから犯人を探すようなものだよ」
ワトソン
「では、技術士 総監の択一試験は、どう勉強すればいいんだ?」
ホームズ
「まず、問題そのものを観察しよう。
勉強方法を考えるのは、それからだ」
第1章 総監の択一試験は「過去問暗記型」ではない
令和6年度、令和7年度、令和8年度の技術士 総監の択一問題を見ると、一つの特徴がすぐに分かる。
毎年40問。
そして、その出題範囲が非常に広い。
令和8年度だけを見ても、
設備管理。
投資回収。
原価計算。
サービス品質。
キャッシュフロー。
需要予測。
工程管理。
派遣労働。
労働法。
人材管理。
心理的安全性。
住民参加。
個人情報保護。
クラウド。
データガバナンス。
AI事業者ガイドライン。
電子署名。
デジタルツイン。
システム安全。
労働安全衛生。
熱中症。
設備保全。
深層防護。
SDGs。
脱炭素。
生物多様性。
化学物質。
環境アセスメント。
CSR。
と、次々に分野が変わる。
ワトソン
「これだけ見ると、本当に雑学試験のようだな」
ホームズ
「そこが最初の誤解だ。
バラバラに見えるが、すべて5管理のどこかに属している」
例えば、
原価計算や投資回収は経済性管理。
労働法や心理的安全性は人的資源管理。
個人情報保護やデータガバナンスは情報管理。
深層防護や労働安全衛生は安全管理。
脱炭素や生物多様性は社会環境管理。
つまり、雑多なのではない。
総合技術監理が扱う世界そのものが広いのである。
第2章 過去問を覚えても、同じ問題は待っていない
ワトソン
「なら、過去問を10年分くらい暗記すればいいんじゃないか?
資格試験では定番の方法だろう」
ホームズ
「そこが総監では危険なのだよ」
少なくとも令和6~8年度を見る限り、前年の問題文と同じものを繰り返し出すタイプではない。
同じ管理分野から出ても、問う角度が変わる。
例えば設備管理という領域一つを取っても、
設備総合効率。
信頼性。
保全性。
予防保全。
予知保全。
設備投資。
寿命。
保全方式。
など、多数の関連概念がある。
一つの過去問の正解だけを覚えても、その周辺から問われれば対応できない。
ホームズ
「つまり、過去問の答えを覚えるのではない。
『この問題は、キーワード集のどの領域から、どういう角度で作られたのか』
を見るのだ」
ワトソン
「過去問は答えを覚えるためではなく、出題者の癖を見るために使うのか」
ホームズ
「その表現なら悪くない」
過去問は、
何を聞いているのか。
どこまで理解していれば解けるのか。
似た概念との違いをどう問うのか。
計算させるのか。
制度の趣旨を聞くのか。
こうした出題方法を分析する教材である。
第3章 キーワードは「意味を知る」だけでは足りない
令和6~8年度の問題を見ると、択一問題にも複数の型がある。
一つは、用語の意味を問う問題。
しかし、それだけではない。
似た概念を区別させる問題。
計算を伴う問題。
法律や制度の趣旨を問う問題。
最新の政策やガイドラインに関する問題。
複数の記述から誤りを選ばせる問題。
などがある。
令和6年度ではNPVの計算が出題されている。
PERTや線形計画法なども、単に名前を知っているだけでは足りない。
令和7年度では、算術平均・幾何平均・調和平均、MTBF・MTTR、ISO/IEC 27001、デザイン思考、独占禁止法、ゼロトラストなど、性質の異なる知識が続いている。
ワトソン
「つまり、NPVなら『正味現在価値のことです』と説明できても、計算できなければ駄目なのか」
ホームズ
「そういうことだ」
択一対策では、キーワードごとに必要な理解の深さが違う。
計算が必要なもの。
法律の目的を押さえるもの。
類似語との違いを押さえるもの。
概念だけ理解すればよいもの。
同じ勉強方法では効率が悪い。
第4章 1000語を1000語とも100%理解しようとしない
ワトソン
「でも、どれが出るか分からないなら、結局全部やるしかないんじゃないか?」
ホームズ
「全部を見ることと、全部を同じ深さで学ぶことは違う」
ここが技術士 総監の択一対策では重要である。
例えば、キーワードを三つの段階に分ける。
Aランク 深く理解する
頻出する基本概念や、計算・制度理解が必要なもの。
例えば、
NPV。
工程管理。
品質管理。
労働法。
情報セキュリティ。
リスクマネジメント。
安全管理。
などである。
定義だけではなく、計算方法、周辺概念、使い方まで確認する。
Bランク 違いまで説明できるようにする
例えば、
心理的安全性。
BCP。
ゼロトラスト。
各種保全方式。
各種情報管理手法。
などである。
一問一答で覚えるのではなく、
「何と何が違うのか」
を整理する。
Cランク まず存在と意味を押さえる
新しく追加された政策用語や、周辺的なキーワードである。
最初から専門書一冊分まで理解する必要はない。
何を意味する言葉か。
5管理のどこに属するのか。
関連する社会動向は何か。
まずそこを押さえる。
ホームズ
「すべての証拠を同じ倍率の顕微鏡で見る必要はない。
重要な証拠ほど深く見る。
それが合理的な調査だ」
第5章 「前年差分」は総監受験者が見るべき重要な痕跡
総合技術監理キーワード集は固定されたものではない。
社会や技術の変化に応じて毎年改訂される。
2026年度版も、前年度版の一部を改訂したものであり、今後も必要に応じて改訂されることが公式に示されている。
ワトソン
「では、新しく追加されたキーワードは全部出題候補だな!」
ホームズ
「また極端だ。
追加されたから必ず出るとは言えない」
ここは注意が必要である。
新規追加キーワード=その年に必ず出題される。
という関係は確認できない。
しかし、
なぜこのキーワードが今年追加されたのか
を考える価値は高い。
技術や社会の変化。
新しい法制度。
新しい政策。
新たに重要となったリスク。
そうした変化がキーワード集に反映される。
令和8年度の問題でも、
AI事業者ガイドライン。
データガバナンス。
心理的安全性。
脱炭素。
生物多様性。
など、現代的なテーマが扱われている。
ホームズ
「だから私は、新しいキーワードを単に暗記するのではなく、
『なぜ今、この言葉なのか』
と考えることを勧める」
第6章 5管理ごとに「島」を作って覚える
ワトソン
「1000語を眺めていると、途中で何を勉強しているのか分からなくなるんだ」
ホームズ
「それは単語を孤立させているからだ」
総監のキーワードは、単独で覚えるより、関連する言葉をまとめて理解した方がよい。
例えば安全管理なら、
ハザード。
リスク。
リスクアセスメント。
FMEA。
FTA。
フェイルセーフ。
フールプルーフ。
深層防護。
BCP。
危機管理。
といった関連語を一つのまとまりとして整理する。
情報管理なら、
情報セキュリティ。
機密性。
完全性。
可用性。
アクセス制御。
ゼロトラスト。
個人情報保護。
クラウド。
データガバナンス。
をつなげる。
経済性管理なら、
投資。
NPV。
IRR。
原価。
工程。
品質。
設備。
と、関連する管理技術をまとめる。
ホームズ
「1000個の点を暗記するのではない。
点を線でつなぎ、地図を作るのだ」
そうすれば、知らない選択肢が出ても、周辺知識から判断できる可能性が高まる。
第7章 計算問題は別枠で訓練する
ワトソン
「計算問題はどうする?
昔から計算は苦手なんだ」
ホームズ
「それなら、なおさら知識問題と分けて訓練した方がいい」
総監では、すべてが計算問題ではない。
しかしNPV、統計、工程管理、信頼性など、計算を伴う分野がある。
計算問題で最も危険なのは、
「公式を見れば分かる」
状態で終わることである。
本番では公式集を見ながら解くわけではない。
そこで、
何を求めているか。
どの式を使うか。
単位は何か。
計算結果が現実的か。
まで確認する。
ホームズ
「計算は知識ではなく手続きだ。
手続きは、読むだけでは身につかない」
少数でもよい。
自分の手で繰り返し解く必要がある。
第8章 法律は条文暗記ではなく「目的」をつかむ
総監では、労働関係法令、情報関係法令、環境関係法令なども出題範囲に入る。
ワトソン
「法律なら条文を全部覚えるのか?」
ホームズ
「それでは効率が悪すぎる」
もちろん、数値や要件そのものが問われる可能性はある。
しかし最初に押さえるべきなのは、
何を守る法律なのか。
誰に義務があるのか。
何を禁止・要求しているのか。
である。
例えば労働安全衛生なら、
なぜその制度が必要なのか。
事業者に何を求めているのか。
労働者の安全と健康をどう確保するのか。
制度全体の目的を理解したうえで、必要な細部を覚える。
ホームズ
「文章を暗記するより、法律が何を防ごうとしているかを理解した方が、選択肢の誤りを見抜きやすい」
第9章 過去問は「一問から五問分」勉強する
ワトソン
「結局、過去問はどう使えばいい?」
ホームズ
「一問解いて、正解を確認して終わりにしないことだ」
例えばある問題で「予知保全」が出たとする。
そこで、
予知保全とは何か。
予防保全との違い。
事後保全との違い。
状態基準保全との関係。
設備診断とは何か。
まで広げる。
NPVが出たなら、
現在価値。
割引率。
キャッシュフロー。
IRR。
投資判断。
まで確認する。
ホームズ
「一つの問題から、その周辺にあるキーワードを探す。
そうすれば過去問40問が、40問の勉強ではなくなる」
これこそ、過去問暗記型ではない総監択一対策である。
第10章 総監の択一対策は「満点」を目指す勉強ではない
ワトソン
「それでも1000語あるなら、知らない問題は必ず出そうだ」
ホームズ
「それでいい」
総監の択一試験で必要なのは、すべての専門領域を大学教授のように説明できることではない。
重要なのは、
基本を落とさない。
計算できる問題を取る。
類似概念を区別する。
法令の趣旨を理解する。
新規キーワードを確認する。
知らない問題でも、関連知識から選択肢を絞る。
ことである。
ホームズ
「完璧な知識体系を作ってから受験しようとすれば、永遠に試験会場へ行けないよ」
エピローグ:1000個の石ではなく、一つの道具箱
ワトソンは、最初に作った暗記カードの束を見た。
ワトソン
「最初は、この1000語を一枚ずつカードにして覚えようと思っていた」
ホームズ
「止めはしないよ。
ただし、それだけでは足りない」
ワトソン
「意味を知る。
関連語につなげる。
計算が必要なら解く。
制度なら目的を理解する。
新しいキーワードなら、なぜ追加されたかを見る。
そして過去問から周辺へ広げる」
ホームズ
「結構だ」
ホームズはキーワード集を閉じた。
ホームズ
「総監の約1000キーワードは、受験者を苦しめるために並べられているのではない。
経済、人、情報、安全、環境。
技術業務を監理するときに必要となる道具を集めたものだ」
ワトソン
「択一試験は、その道具を知っているかを確かめる」
ホームズ
「もう少し正確に言えば、
その道具を識別し、意味と使い方を理解しているかを見る」
ワトソン
「では筆記試験は?」
ホームズは少し笑った。
ホームズ
「そこからが総監の本番だ。
択一で覚えた道具を、今度は一つの複雑な問題に対して組み合わせる。
しかも、道具同士が衝突することもある」
ワトソン
「トレードオフか」
ホームズ
「そうだ。
次回は、技術士 総合技術監理の筆記試験が、なぜ機械部門や建設部門の論文と全く違うのかを見よう。
カーボンニュートラル。
少子高齢化。
地方創生2.0。
なぜ技術士試験で、こんなテーマが出るのか。
そこを理解すれば、君が1000ものキーワードを学んできた理由も見えてくるはずだ」
(次回へ続く)

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。
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・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。






