【技術士試験】ホームズの推理:建設部門はなぜ「社会」を問うのか?(前編)

―技術士 建設部門で専門知識だけでは合格できない理由

プロローグ:14,094人が挑んだ最大の部門

~坂戸市、ベイカー街221B。ワトソンは大きな表を机に広げていた~

ワトソン博士

「ホームズ、技術士試験について調べていて、少し驚いたことがある」

シャーロック・ホームズ

「君が数字を見て驚くとは珍しいね。何を見つけた?」

ワトソン

「令和7年度の技術士第二次試験だよ。建設部門の受験者は14,094人。合格者は1,304人で、合格率は9.3%だ」

ホームズは表を手に取り、しばらく眺めた。

令和7年度の技術士第二次試験全体では、受験者24,135人、合格者2,752人、対受験者合格率は11.4%だった。建設部門だけで受験者14,094人を占めており、規模の大きな部門である。

ワトソン

「しかも全体の合格率11.4%に対して、建設部門は9.3%だ。やはり技術士の建設部門は特別に難しいのだろうか?」

ホームズ

「待ちたまえ、ワトソン君。

数字は証拠だが、証拠だけで原因を決めてはいけない。

9.3%という結果から、『なぜ低いのか』まで断定することはできない。

受験者層、選択科目、答案の出来など、合格率だけでは分からない要因があるからね」

ワトソン

「では、何を調べればいい?」

ホームズ

「試験問題そのものだよ。

出題者が、建設部門の技術者に何を考えさせようとしているか。

そこに、この部門の正体がある」

第1章 技術士 建設部門は「建設知識の試験」なのか

技術士 建設部門と聞くと、多くの人はまず専門分野を思い浮かべる。

土質及び基礎。

鋼構造及びコンクリート。

都市及び地方計画。

河川、砂防及び海岸・海洋。

港湾及び空港。

道路。

鉄道。

トンネル。

施工計画。

建設環境。

令和7年度の統計でも、建設部門には11の選択科目があり、道路だけでも2,444人、鋼構造及びコンクリートでは2,947人が受験している。

ワトソン

「これだけ分野が広いなら、やはり知識量が重要なんじゃないか?」

ホームズ

「もちろん専門知識は必要だ。

しかし、必須問題を見てみたまえ。

そこには『道路の舗装構造を説明せよ』とも、『コンクリートの劣化機構を述べよ』とも書かれていない」

令和8年度の建設部門必須問題Ⅰ-1は、新技術・DXの活用によるインフラの価値向上をテーマとしている。

AI、ドローン、ロボット、ビッグデータ、IoT、リモートセンシングなどを背景に、技術者として3つの技術課題を抽出する問題である。

しかも設問には、

「観点はインフラの価値に関するものとする」

という条件まで付けられている。

ホームズ

「ここが重要だ。

建設部門だからといって、自分の専門技術だけを語ればよいわけではない。

まず『インフラの価値とは何か』を考え、その価値を高めるために何が課題になるのかを整理しなければならない」

第2章 建設部門が問うのは「社会資本の意味」である

ワトソン

「インフラの価値、か。少し抽象的だな」

ホームズ

「その抽象的な問いを、技術的な課題まで具体化する。それが技術士の仕事なのだよ」

例えば、道路を考えてみよう。

道路の価値は、単に舗装が健全であることではない。

人や物を運ぶ。

救急活動を支える。

災害時の避難や物資輸送を支える。

地域経済をつなぐ。

生活圏を維持する。

つまり、構造物そのものだけでなく、社会にどのような機能を提供しているかまで考える必要がある。

そこでDXを導入するなら、

「AIを使う」

「ドローンを使う」

だけでは不十分である。

何を改善するのか。

維持管理の効率なのか。

利用者の安全なのか。

災害対応力なのか。

サービス水準なのか。

まず目的を定め、その目的に対して技術を使う。

ホームズ

「技術は目的ではない。

社会資本の価値を高めるための手段だ。

ここを逆転させると、答案は最新技術の展示会になる」

第3章 グリーンインフラ問題にも同じ仕掛けがある

令和8年度の建設部門Ⅰ-2では、気候変動による自然災害の激甚化・頻発化や、生物多様性の損失を背景として、グリーンインフラが取り上げられている。

そして設問(1)では、

「観点は人と自然が共生する社会づくりに関するものとする」

と明示されている。

ワトソン

「つまり、こちらも単に『雨庭を整備する』『湿地を再生する』と書けばよいわけではないんだな」

ホームズ

「そうだ。

『何を造るか』より先に、『どんな社会を実現するためか』を考えさせている」

例えばグリーンインフラには、

洪水調節。

雨水流出抑制。

生物の生息・生育環境の確保。

景観形成。

地域交流。

暑熱環境の緩和。

など、複数の機能が考えられる。

しかし技術士答案では、それらを並べるだけでは足りない。

地域の条件を踏まえ、

どの機能を重視するのか。

既存インフラとどう組み合わせるのか。

維持管理をどう継続するのか。

土地利用や住民利用とどう両立するのか。

こうした判断まで必要になる。

ホームズ

「建設部門では、構造物を見るだけでは視野が狭い。

構造物が置かれている社会まで見なければならないのだ」

第4章 建設部門で起こりやすい「政策キーワードの罠」

ワトソン

「でも、最近の国の計画や白書をたくさん覚えておけば有利じゃないか?」

ホームズ

「有利にはなる。

しかし、それも使い方次第だ」

技術士 建設部門では、国の政策や社会資本整備に関する用語が頻繁に登場する。

DX。

国土強靱化。

カーボンニュートラル。

グリーンインフラ。

インフラメンテナンス。

防災・減災。

しかし、

「DXを推進する」

「グリーンインフラを活用する」

「官民連携を進める」

と並べても、技術的課題にはならない。

政策用語は背景であり、答案の結論ではない。

例えば、

「維持管理をDX化する」

ではなく、

「点検情報を一元化し、劣化度と重要度に基づく補修優先順位を設定する」

まで具体化する。

グリーンインフラなら、

「自然環境を保全する」

ではなく、

「治水機能と生態系保全を両立できる施設配置を計画する」

とする。

ホームズ

「政策は地図だ。

地図を持っているだけでは目的地には着かない。

技術者は、その地図を使って具体的なルートを設計する必要がある」

第5章 技術士試験では「観点」と「課題」を分けなければならない

令和8年度問題は、この点をさらに明確にした。

Ⅰ-1では「インフラの価値」。

Ⅰ-2では「人と自然が共生する社会づくり」。

その範囲の中で多面的な観点を設定し、そこから技術課題を抽出する。

ワトソン

「では、『安全の観点から安全性の向上が課題である』では駄目なのか?」

ホームズ

「弱いね。

観点を言い換えただけだからだ」

観点は、物事を見る切り口である。

課題は、その観点から見つけた問題に対して、技術者が取り組むべき対象である。

例えば、

防災機能の観点

豪雨時に道路冠水が頻発し、通行機能が失われる。

したがって、

雨水流出を抑制し、道路ネットワークの機能を維持することが課題である。

こうすれば、解決策につながる。

貯留施設。

浸透施設。

リアルタイム水位監視。

交通規制情報。

代替路誘導。

課題と解決策の因果関係が見える。

ホームズ

「『何が問題か』と『何をするべきか』を分ける。

これは推理でも技術でも同じだよ」

第6章 解決策の後まで考えるのが技術士である

令和8年度建設部門では、設問(3)の表現にも特徴がある。

Ⅰ-1では、解決策を実行しても新たに生じうる懸念事項

Ⅰ-2では、解決策に関連して新たに浮かび上がる将来的な懸念事項を問う。

ワトソン

「機械部門のように、単に『リスク』とは書いていないんだな」

ホームズ

「そうだ。

ここには注意が必要だ。

事故リスクだけに限定して読む必要はない」

例えばDXを進めれば、

データ形式の不統一。

システム依存。

サイバー攻撃。

デジタル人材不足。

維持更新費の増加。

などが考えられる。

グリーンインフラでも、

植生管理の負担。

地域による効果差。

土地利用との競合。

外来種の侵入。

治水機能とのトレードオフ。

など、実施後に別の問題が現れる可能性がある。

重要なのは、

解決策を出して終わらないこと。

その解決策が生む負の側面まで評価する。

ここに技術士らしい判断がある。

第7章 建設部門の本当の難しさ

ワトソン

「ようやく分かってきた。

建設部門の難しさは、専門分野が広いことだけではないんだな」

ホームズ

「その通りだ」

技術士 建設部門では、

社会情勢を理解する。

政策の方向性を理解する。

社会資本の役割を考える。

自分の専門技術へ落とし込む。

課題を設定する。

複数の解決策を考える。

新たな懸念事項まで評価する。

さらに倫理と社会の持続可能性を考える。

これらを一つの答案の中でつなげる必要がある。

つまり、

社会の問題を、建設技術者が解決できる大きさまで具体化する能力

が求められている。

エピローグ:建設部門の答案には「社会」が映る

ワトソンは令和8年度の問題をもう一度眺めた。

ワトソン

「最初は、技術士の建設部門なら、道路なら道路、河川なら河川の専門知識をたくさん書けばいいと思っていたよ」

ホームズ

「専門知識は必要だ。

だが、それは答えを作る材料にすぎない」

ワトソン

「まず、社会が何を必要としているかを見る。

そこから技術的課題を見つける。

そして専門技術で解決する」

ホームズ

「結構。

君にもようやく建設部門の景色が見えてきたようだね」

ホームズは問題用紙を折り畳んだ。

ホームズ

「建設技術は、構造物だけを相手にする仕事ではない。

その向こうにいる人々、その地域、その社会を相手にする仕事だ。

だから建設部門の必須問題は『社会』を問う。

それは余計な条件ではない。

建設技術そのものの目的を問うているのだよ」

(後編へ続く)

【確認できた事実】

令和7年度技術士第二次試験の建設部門は、受験申込者18,299人、受験者14,094人、合格者1,304人、対受験者合格率9.3%である。第二次試験全体の対受験者合格率は11.4%である。

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。

【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

皆さん、こんにちは!「ロックオン講座」主宰の匠習作です。
HPをご覧いただきありがとうございます。
技術士二次試験は“論理的な思考能力”を鍛えて挑む必要がありますので
無事一次試験を突破された方でも、難しいなと感じる方が多くいらっしゃると思います。

とはいえ、働きながら十分な勉強時間を確保することは非常に大変なことです。
私自身、新卒から23年間医療機器メーカー勤務の会社員をしながら、懸命に勉強をしていた一人です。
この実体験を活かして、技術士試験の合格を目指す方々をサポートし、合格へと導きたい。少しでも役立つヒントや情報を提供したい。そう考えたことが本講座の始まりです。

■当講座のポイント
・質問回数無制限
zoomまたはchatwork(メールも可)にて、いつでも何度でも受け付けます。
・スピード添削
提出後概ね1日以内、ご本人が書いたことを忘れないうちにお返しすることができます。
論述の上達には添削が不可欠です。ここをしっかりこなせるかが合格への肝になります。
・開校当初からのweb授業とオリジナルテキスト
70を超える動画や200を超えるPDF資料、過去問12年分の解説集等々を提供します。
検索しやすいように整理され、自由にダウンロードして参照することができます。
・イチから教える“論作文”
私は自分が受験したとき大手講座で「技術士の解答ではない」と一言いわれ、どう改善すればよいか分からず困った経験があります。最初に書いた解答でした。
当講座では、主語と述語の関係から論理の展開まで、丁寧に細かく解説しますのでご安心ください。また、良いところは良いと褒めるようにしています。

■こんな方におすすめ
・仕事があるので対面授業には通えない、web授業でマイペースに勉強がしたい方
・とはいえ、続けられるかが不安、定期的にオンライン授業も受けたい方
・モチベーションを保つため、資格後のキャリアについても考えていきたい方
・論作文に苦手意識のある方
・他社の講座が合わずドロップアウトした方

Web授業×zoomライブ講座×24h質問対応にて、あなたをサポートします。

2013年に技術士講座を開講し、今年で10年目になりました。
総受講者数は600名を超え、多くの方が技術士試験に合格し、各分野で活躍されています。
各分野のテクノロジー産業のスペシャリストであり、産業分野において最高峰の資格といえる「技術士資格」は皆さんのキャリアにおいて大きな力となり、令和を生きるための強い武器となるでしょう。
長い歴史と実績のある、当社「ロックオン講座」を受講してみませんか?
初回zoom相談はいつでも無料です。是非お声掛けください。

匠習作のYouTubeチャンネルは、以下です。
https://www.youtube.com/channel/UCrbmFXXZvrb1a-nbQm-MOig

カテゴリー