目次
~ブドウ糖を本番でどう使うか~
坂戸市、ベイカー街221B。
前編で、ワトソン博士はブドウ糖が脳のエネルギー補給に役立つ可能性を説明した。
しかし、ホームズはまだ満足していなかった。
「ワトソン君、理屈は分かった。だが、受験生に必要なのは理屈だけではない。本番でどう使うかだ。いつ、どのくらい、何を、どのように取るのか。それを示さなければ、単なる健康雑学で終わってしまう」
ワトソンは笑った。
「相変わらず厳しいね。だが、その指摘は正しい。技術士試験では、実行できない対策は評価されない。ブドウ糖の活用も同じだ。知っているだけでは意味がない。本番で無理なく使える形に落とし込む必要がある」
ホームズは言った。
「では、午後3時間半を乗り切るための補給計画を、実務的に整理しよう」
1 本番で初めて試してはいけない
まず、最も重要な原則がある。
本番で初めて試してはいけない。
これはブドウ糖に限らない。昼食、飲み物、サプリメント、栄養ドリンク、カフェイン、眠気覚まし、すべて同じである。
ワトソンは医師として言った。
「人によって体の反応は違う。ブドウ糖を取ると調子がよい人もいれば、甘さで気分が悪くなる人もいる。空腹時に取ると楽になる人もいれば、逆に胃が重くなる人もいる。したがって、自分の体で事前に試す必要がある」
ホームズはうなずいた。
「技術士試験でいえば、これは事前検証だね。机上の計画だけでは不十分だ。模試や自宅演習で、午後3時間半の条件を再現し、補給のタイミングを試すべきだ」
具体的には、試験の1〜2週間前までに、午後の論文演習を行う。その際、本番と同じように昼食を取り、同じ飲み物を用意し、同じブドウ糖やラムネ菓子を使う。
そして、次の点を確認する。
集中力は維持できたか。眠気は出なかったか。口が渇き過ぎなかったか。トイレに行きたくならなかったか。胃が重くならなかったか。包装の開け閉めに手間取らなかったか。
ワトソンは言った。
「本番では、答案作成以外の不確定要素を減らすことが大切だ。食べ物や飲み物で失敗するのは避けたい」
ホームズは鋭く言った。
「つまり、ブドウ糖の活用も、リスクマネジメントである」
2 摂取のタイミング
次に、摂取のタイミングだ。
ワトソンが説明を始めた。
「基本は、午後試験の開始前なんだ。」
「午前の試験が終わったら、まず気持ちを切り替える。昼食を取り、水分を取り、トイレを済ませる。そして、午後試験の30分前から開始直前までの間に、少量のブドウ糖を補給する」
ワトソンは説明を続けた。
「ブドウ糖は比較的吸収が早い。だから、午後試験のかなり前にまとめて取るより、開始前に少量取る方が使いやすい。ただし、大量に取る必要はない」
ホームズは確認した。
「資料では20〜30g程度という目安が示されていたね」
「そうだ。ただし、それは絶対値ではない。体格、昼食量、普段の食習慣、胃腸の状態で変わる。小柄な人や甘いものに弱い人が無理に取る必要はない。まずは少量で試すべきだ」
試験中に補給できる場合は、集中が切れてから慌てて取るのではなく、早めに少量を取る方がよい。たとえば、午後試験開始から90分前後、または答案構成が終わり、本文記述に入る前後など、自分に合ったタイミングを決めておく。
ただし、試験会場のルールが優先である。
飲食の可否、机上に置けるもの、包装の扱い、飲み物の条件などは、必ず試験案内と当日の監督員の指示に従う必要がある。
ホームズは言った。
「どれほど合理的な補給でも、試験ルールに反してはならない。合法的なドーピングという言葉を使うなら、なおさら合法性を守る必要がある」
3 何を持っていくか
実務的には、ブドウ糖タブレットやラムネ菓子が使いやすい。
理由は、軽い、安い、手に入りやすい、少量ずつ取れる、口に入れてすぐ済むからである。
一方で、チョコレートは夏場に溶けやすい。飴は口の中に長く残る。ゼリー飲料は量が多く、飲み過ぎるとトイレが近くなる。栄養ドリンクはカフェインや糖分が多いものもあり、普段飲まない人には合わない可能性がある。
ワトソンは言った。
「会場に持っていくものは、静かに扱えることも大切だ。袋を開ける音が大きいもの、においが強いもの、こぼれやすいものは避けた方がよい。周囲への配慮も、技術者倫理の一部だ」
ホームズは笑った。
「ワトソン君、ラムネの包装から技術者倫理に結びつけるとは、なかなかだ」
「冗談ではないよ。試験会場では、周囲の受験生も必死だ。自分の補給が他人の集中を妨げるようではいけない」
持参するなら、あらかじめ小分けにしておく。取り出しやすい容器に入れる。音が出にくい形にする。手が汚れないものを選ぶ。水分と一緒に取れるようにする。
こうした細部が、試験中の余計なストレスを減らす。
4 昼食をどうするか
午後のブドウ糖補給を考える前に、昼食の設計が重要である。
昼食を抜くのは危険である。午後の途中で空腹になり、集中力が落ちる可能性がある。
一方で、食べ過ぎも危険である。満腹になると眠気が出やすい。特に、脂っこいもの、大量の炭水化物、普段食べ慣れないものは避けた方がよい。
ワトソンは言った。
「昼食は、軽めで、消化しやすく、普段から食べ慣れたものがよい。おにぎり、サンドイッチ、バナナ、卵、鶏肉、魚などを、自分の体に合う範囲で組み合わせるのが現実的だ」
ホームズは確認した。
「つまり、昼食は持続的なエネルギー源。ブドウ糖は即効性のある補助。両者を分けて考えるべきだね」
「その通りだ。昼食をブドウ糖だけで済ませるのは勧めない。午後3時間半を安定して乗り切るには、持続性も必要だ」
また、水分補給も大切である。
ただし、飲み過ぎればトイレのリスクが高まる。少な過ぎれば脱水気味になり、頭痛や集中力低下につながる。ここにもトレードオフがある。
ホームズは言った。
「水分補給も、過不足のない設計が必要だ。まさに総合技術監理の世界だね」
5 午前の失敗を午後に持ち込まない
技術士試験では、午前の試験が午後に影響する。
午前の択一で迷った。時間配分を失敗した。計算に自信がない。そうした不安を抱えたまま午後に入ると、論文の集中力が落ちる。
ここで重要なのは、休憩時間の使い方である。
午前の答え合わせをしない。周囲の会話に巻き込まれない。SNSを見ない。参考書を開き過ぎない。これらは、午後の集中を乱す原因になる。
ワトソンは言った。
「休憩時間は、反省会ではない。午後の準備時間だ。午前のミスを悔やんでも、答案は直せない。午後の論文に集中する方が合理的だ」
このとき、ブドウ糖の摂取は、気持ちを切り替える小さな儀式になる。
水を飲む。軽く肩を回す。深呼吸する。少量のブドウ糖を取る。そして、「ここから午後の論文に入る」と意識を切り替える。
ホームズは言った。
「人間は、意外に儀式で動く。名探偵も事件の前には思考を整える。受験生も同じだ。午後に入るための自分なりの手順を持つべきだ」
6 過剰摂取のリスク
ここで、ブドウ糖の落とし穴にも触れておく必要がある。
取り過ぎはよくない。
大量に取れば、集中力が上がり続けるわけではない。むしろ、血糖値の急上昇と急降下により、眠気、だるさ、集中力低下を招く可能性がある。
また、甘いものを取り過ぎると喉が渇く。水を飲み過ぎれば、トイレに行きたくなる。午後3時間半の試験では、これは無視できないリスクである。
ワトソンは厳しく言った。
「ブドウ糖を『頭がよくなる薬』のように考えてはいけない。足りない燃料を補うだけだ。燃料を入れ過ぎれば、車でも調子を崩す」
ホームズはうなずいた。
「答案でも同じだね。解決策は多ければよいわけではない。過剰な対策は副作用を生む。ブドウ糖もまた、適量が重要なのだ」
血糖管理が必要な人、糖尿病の治療中の人、医師から食事指導を受けている人は、自己判断でブドウ糖を取るべきではない。また、胃腸が弱い人、甘いものが苦手な人、普段から低血糖症状がある人も、必要に応じて専門家に相談した方がよい。
本番で体調を崩しては、本末転倒である。
7 受験生向けの実行計画
ここで、技術士試験用の現実的な実行計画を整理する。
第一に、事前演習で試す。
本番の1〜2週間前までに、午後3時間半の論文演習を行う。その際、昼食、飲み物、ブドウ糖の種類、摂取量、タイミングを本番想定で試す。
第二に、昼食は軽めにする。
食べ慣れたものを選ぶ。満腹を避ける。糖質とたんぱく質を少し組み合わせる。脂っこいものや大量の食事は避ける。
第三に、午後開始前に少量補給する。
ブドウ糖タブレットやラムネ菓子を少量取る。目安は20〜30g程度という考え方もあるが、自分に合う量を優先する。初めての量を本番で試さない。
第四に、試験中の補給タイミングを決めておく。
可能であれば、集中が切れる前に少量を取る。答案構成後、本文記述の中盤、残り90分前後など、自分に合うタイミングを決めておく。
第五に、会場ルールを守る。
机上に置けるもの、飲食の可否、包装、飲み物の条件を確認する。監督員の指示に従う。周囲の受験生に迷惑をかけない。
第六に、新しいものを持ち込まない。
普段飲まない栄養ドリンク、初めてのサプリメント、強いカフェイン、食べ慣れない菓子は避ける。本番は実験の場ではない。
ホームズは言った。
「実に合理的だ。これなら、ブドウ糖の効果を期待しつつ、副作用や失敗のリスクを抑えられる」
8 それでも最後は答案力で決まる
最後に、忘れてはならないことがある。
ブドウ糖は、合格答案を作ってくれるわけではない。
課題を正しく抽出する力。観点と課題を対応させる力。最重要課題を選ぶ力。解決策を具体化する力。リスクを現実的に示す力。これらは、日々の訓練によって身に付けるものである。
ワトソンは言った。
「ブドウ糖は、訓練した力を最後まで出すための補助だ。訓練していない力は出せない」
ホームズは満足そうにうなずいた。
「その通りだ。技術士試験で本当に怖いのは、実力不足だけではない。実力があるのに、疲労で出し切れないことだ」
午後の終盤、残り30分。
ここで集中が切れると、リスクの記述が雑になる。結論が弱くなる。誤字が増える。設問番号を取り違える。これらは非常にもったいない失点である。
ブドウ糖の活用は、その失点を防ぐための一つの準備である。
9 後編の結論
技術士試験における「合法的なドーピング」とは、不正な手段ではない。
それは、午後3時間半に向けた合理的な自己管理である。
昼食を設計する。水分を調整する。ブドウ糖を少量補給する。午前の失敗を引きずらない。会場ルールを守る。事前に試した方法だけを本番で使う。
ワトソンは机の上のラムネ菓子を見ながら言った。
「小さな一粒だが、使い方を誤らなければ、午後の集中を支える助けになる。だが、過信してはいけない。主役はあくまで受験生自身の訓練と答案力だ」
ホームズは静かに結論を述べた。
「合格答案は、知識だけでは完成しない。体調、集中力、時間配分、そして脳の燃料管理がそろって初めて、最後まで書き切ることができる。午後の3時間半を制する者は、答案構成だけでなく、自分自身の管理にも目を向けている」
ワトソンはうなずいた。
「つまり、ブドウ糖は名探偵ではない。だが、優秀な助手にはなり得る」
ホームズは笑った。
「その通りだ、ワトソン君。技術士試験の会場で必要なのは奇跡ではない。準備された人間が、準備された手順を、淡々と実行することだ。ブドウ糖はその手順の一部にすぎない。しかし、その一部を軽視しない者が、午後の最後の一行まで論理を保つのだよ」

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。
【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。







