「ヒト、人、人材」という語句を事例に用い、技術士二次試験に挑む際の留意点を解説致します
1.はじめに
今までさまざまな記事にて、技術士に関する各種情報をご提供してきました。そもそも技術士とは何か、当該士業を目指すべき時代背景や変遷はどのようなものか、試験概要についてはどうか、といった具合に、多様な視点でご説明してきています。
特に分量を割いている技術士の二次試験は、非常に難易度が高く、合格率はおよそ一割の難関です。難しい理由の一つに、一部を除いて記述式となっていることがあります。
Ⅲや必須の設問1に対する自分なりの解答を、論理的に思考、表現できる力を持ちあわせていないと、問題自体に取り組めません。
自身で文章を書く問題が故に、言葉の正しい使い方も採点に影響します。
そこで今回は、「ヒト、人、人材」という語句を事例に用い、技術士二次試験に挑む際の留意点を解説致します。たかが単語、されど単語です。ぜひ参考にしてみてください。
2.「ヒト」とは
それでは最初に、「ヒト」という語句から詳細を見てまいりましょう。そもそも日本語は、漢字、平仮名、片仮名を併用する、世にも珍しく難解な言語です。あえて片仮名表記をするということは、一般的な意味合いではないことの証左です。
「ヒト」は、原則として、生物種としての我々の種(ホモ・サピエンス)を指します。動物としての人間を示す表記であり、生物学上の分類に用いる言葉であると認識するとわかりやすいかと思われます。
現生人類が属する種の学名であるホモ・サピエンス(Homo sapiens)は、世界共通言語として認識されていますが、標準的な和名として「ヒト」という言葉が使われます。人や人材とは明らかに一線を画すものとして理解しておきましょう。
以上のことから、例えば「ヒトの観点で人材教育が課題である」といった文章は誤りとなります。生物としての人類について、人材教育が課題にはなり得ません。正確な単語を選択することが重要です。
3.「人」とは
今回の具体例である三つの言葉の中で、一番汎用性があるといえるのが「人」です。昔々のドラマで、人という字は人と人とが支えあって云々、という名台詞がありましたが、あらゆる場面で使い勝手のよい単語といえるでしょう。
また、どちらかというと、個々の人を表す際に使われることが多くなっています。別途「人間」という言葉もありますが、人と人の間で人間、ですので、人間は複数のイメージを持ちます。漢字一つ付け加わることで意味するところ異なってくるので、理解するのも一苦労です。
他の例では、「人間関係で悩む」とはいいますが、「人関係で悩む」とはいいません。関係は複数の個体が存在して初めて成り立ちますので、個を示す人という字は当てはまらない、というわけです。
なお、小説や脚本などで、読む人にあえてニュアンスを伝えたいときに、片仮名を用いることもあります。「あのヒトってちょっと感じワルイよね」といった表現は、読み手に書き手の意図を伝える手段に成り得ますが、これは特殊事例であって、もちろん技術士試験の解答に使用してはいけません。
4.「人材」とは
前出の二点と比較し、「人材」は意味が限定されているので、理解しやすい言葉です。辞書的な意味合いとしては「才能があり、役に立つ人。有能な人物。人才。」となり、人の中でも限られた人物像に対して使うことがわかります。
前述の「人材育成が課題」という文章を詳しく解釈すると、「自組織や団体における、才能があって役に立ってくれる人を、どのように育てていくか、有能な人物として育成していくことが課題である」となります。
人材が不足している、となれば、人頭としては事足りるものの、社会に貢献できる人、活躍してくれる人が足りないのであり、絶対数の過不足を述べているわけではありません。数だけいても人材がそろっているかどうかは別問題です。
その他の用語としては、グローバル人材、人材派遣、人材開発あたりがあげられます。いずれもよくよく目を凝らして言葉の意味を解読すると、数としての人ではなく、グローバルに活躍できる、有能な人を派遣する、といった意味合いが見て取れるところです。
5.「人財」とは
前段の「人材」に似ているところとして、「人財」という用語があります。読み方は同じく「じんざい」であり、材料の「材」の代わりに財産の「財」を使っています。イメージ的には何となく、人財のほうが格上のようですが、実際はどうでしょうか。
「人財」は実は、昔からある言葉ではありません。辞典に掲載されるようになったのは10年ほど前といわれており、古来の日本語ではなく、つい最近までは造語として使用されてきました。最初に使ったのは、経営コンサルタントの新将命さんだと思います。
傾向としては、企業の経営者などが恣意的に使うところがあり、自社の社員は、材料ではなく財産であることをアピールしたい、といった意図が伺えます。言葉自体の意味としては、二者の間に大差はなく、見た目の問題ともいえます。
ただし、あくまで造語なので、アカデミックな要素を持つ技術士試験では、「人財」を使うことは避けましょう。
技術士試験の必須やⅢ対策として考えるときには、やはり「人材」を使用するのが無難です。解答はあくまで自身の考えを論理的かつ明確に作成するべきであり、偏った個人の感情移入は不要です。流行り言葉に踊らされないようにしましょう。
6.英語に見る「ひと」
ご参考までに、英語での「ひと」に纏わる単語はどのような種類があるのかご紹介します。日本語では意外と伝わらない趣旨を他言語で表現することによって、ニュアンスがつかめることがあります。
人 person / 人々 people / 人間 human / 人類 human being
人材 human resources / 個人 individual / 人口 population
人工 artificial / 人員 personnel / 大人 adult
もちろん上記はあくまで各語の主たる日本語訳であり、現実的には曖昧な使われ方をすることが多々あります。一情報として眺めていただければと思いますが、日本語以外でもさまざまな単語、表現があることがわかります。
7.二次試験過去事例に見る「ひと」
令和2年(2020年)機械部門必須Ⅰ-1試験において、解答の解説で「人材」という言葉を使っています。「今後の社会において、人材の流動化が進む」、「人材に適した伝承方法の確立が課題である」といった具合です。
我が国では、少子高齢化が進んでおり、労働人口の急激な減少が予測されています。技術士は人間がなるものであり、人数そのものが少なくなっていく中、将来像をどう描くか、試験問題として設定される可能性も高いのではないでしょうか。
解答において「ヒトの観点で人材教育が課題である」などと書いてしまっては、残念ながら正確な文章を書く能力がないと見なされます。ここではシンプルに「人材教育が課題である」と記載するのがよいでしょう。
実際の技術士試験における過去事例にも、上記のような形で「ヒト、人、人材」を明確に使い分ける必要性が見て取れます。不安な方は過去問題を解く中で、用語選びに注意を払ってみてください。記述の精度が上がる効果を得られると思われます。
教育や確保を課題にするときは、原則「人材」の観点と書くことをお勧めします。
8.おわりに
いかがでしたでしょうか。本記事では、ヒト、人、人材という言葉を中心に、事例を交えて使い分けを解説してまいりました。技術士二次試験に合格、突破を目指す中で、適切な使用の大切さ、正確な理解の重要性について、少しでも認識を深めていただければ幸いです。
当該試験は、構成される設問への正確な理解を要するため、かなりの難関ではありますが、記述式への的確な対応は、合格する確率を上昇させます。言葉の問題で失点するのは非常に勿体ないところですので、各語句の使い方には十分留意し、正しい選択を行いましょう。