【技術士二次試験】必須試験の重要キーワード「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について再確認

略語の多いIT用語を整理して、必須問題での出題に備えよう!

情報通信産業以外の企業でも、 中期経営計画に「DX」の文字が載ることも増えてきた。経済産業省の発表によると、既存システムのままDXを進めないでいると最大で年間12兆円の経済損失となってしまうそうだ。

旧システムのままでいることの問題点やDXの課題、国内の取り組み状況を紹介する。日本よりもDX化が進むアメリカやドイツとの比較も行い、今後の可能性を探る。

語句の説明と使い分け

IT化とDX化では何が違うのか、改めて説明しようとすると難しい。 IoT、ICTなど頻出の語句も含め、改めて定義を確認しておこう。

DXとは

DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称だ。経済産業省のレポートでは、IDC Japan 株式会社による定義が紹介されている。これが最も一般的なDXの定義だと考えて良いだろう。

“企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”

IDC Japan株式会社の定義をもとに、DXについて考える上で重要となるのは、以下の2点だ。
・ビジネスモデルの変革も含めていること
・DXの目的は「新たな価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」

極端なことを言えば、単に対面会議をオンライン会議に切り替えたり、社内報を紙配布からPDF配布にするだけではDXとは言えないということだ。もちろんDXを進める上では必要な変化ではあるが、これらの例はDXというよりIT化と表現した方が正しいだろう。

IT化とは

ITはinformation technologyの略だ。 NTT東日本によると、IT化とは「既存の業務を、IT技術やデジタル技術を駆使して業務効率化する業務手段の改善のこと」である。

DXが目指しているのはビジネスモデルの変革だが、IT化のゴールはあくまでも業務効率化だ。1990年代に起きたIT革命から30年以上経ち、家庭生活から産業まで広くIT化が進んでいる。

IoTとは

IoTとは、Internet of Things(モノのインターネット)のこと。2016年頃から盛んに使われるようになった。

IT用語辞典によると、“IoTとは、コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。” とある。

モノの状態をリアルタイムで遠隔管理したり、離れたところにあるモノを操作したりするためには、モノをインターネットに繋ぐ必要がある。つまりDXを進める上で、IoTは避けては通れない。

身近なIoTの例には、会議室利用をリアルタイムで検知するシステムや、スマートフォンで操作可能な家電などが挙げられる。

ICTとは

ICTは技術そのものを指す言葉だ。正式名称をInformation and Communication Technology、日本語では情報伝達技術という。日本ではIT(Information Technology)と区別して使われることもあるが、国際的にはITと同じ意味でICTという単語が定着しており、日本でも以前ならITと呼んでいたものをICTと呼ぶことが増えてきている。情報や通信に関する技術=ICTだと考えれば良い。DXを発展させていくなかでICTは必要不可欠な技術だ。

ICTの活用事例としては、医用画像ネットワークシステムや、RFIDを使った工程管理、手のひらの静脈を使った生体認証などがある。

国内のDX取り組み状況

IMDが発表した2022 年のデジタル競争力ランキング(IMD World Digital Competitiveness Ranking)によると、日本のデジタル競争力は29位と先進国の中でも低い結果に留まった。

海外に比べてデジタル競争力が低く、遅れていることが引き起こしうる問題を紹介しつつ、政府が取り組んでいる内容を紹介しよう。

レガシーシステムと2025年の崖とは

日本国内の企業において、DXの大きな足かせとなっているのは「レガシーシステムを抱えていること」だと言われている。レガシーシステムとは「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略状の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステムのこと」だ。自社のデジタル化の足かせになっている原因がレガシーシステムだと感じている企業は約8割にものぼるという。

経済産業省の予測では、このままレガシーシステムが残ってしまうと、2025年以降、トラブルリスクは3倍、経済損失は年間最大12兆円になるという(これは課題)。この問題を「2025年の壁」と呼んでいる。

なぜ、レガシーシステムがDXを引っ張ってしまうのか。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が行ったデジタル化の進展に関するアンケートに寄せられた、レガシーシステムがデジタル化の足かせだと感じる理由をいくつか紹介しよう。

・ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する
・影響が多岐にわたるため試験に時間を要する
・技術的な制約や性能の限界がある
・有識者がいない、ブラックボックス化しているため触れたくない
・維持・運用費が高く、回収コストを捻出しにくい
・特定メーカーの製品・技術の制約があり、多大な改修コストがかかる

システムの導入過程で事業ごとに最適化することを優先してしまい、企業全体の最適化が遅れることも多い。それぞれの事業部でデータを保有していても全社的な活用が難しくなってしまうのだ。

購入した汎用パッケージを導入した企業でも、細かな改善活動のためにカスタマイズを行なってしまい、保守・運用が属人的になってしまっていることも多い。汎用パッケージ品のメリットは外部からのノウハウ提供やシステム改修であるにも関わらず、社内の限られた人しか扱えなくなってしまうのだ。

自社システムのブラックボックス化以外にもDXが進まない理由はある。他企業との連携を図るのが難しいケースや、人材・予算不足で旧システムのまま運用せざるを得ないケースが多そうだ。

DX実現に向けた政府の取り組み

政府は科学技術基本法(現在は、科学技術・イノベーション基本法に改正)に基づいて、長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行している。2016年に策定された「第5期科学技術基本計画」では、ICTを最大限に活用した超スマート社会の実現を目指すと宣言した。

超スマート社会とは「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要なときに、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」を意味する。目指すべき超スマート社会を、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く社会という意味で「Society5.0」と呼ぶ。

令和3年に閣議決定された「科学技術・イノベーション基本計画」でもSociety5.0を「我が国が目指す社会」だと定めた。Society5.0を実現できれば、企業のビジネスモデルの変化や産業構造の改⾰をもたらすことができ、国際競争⼒を高められる。2023年度のデジタル関連予算は総額1兆2200億円。Society5.0に向け、国全体のDXが加速している。企業も、攻めのIT投資をしながらDXを経営課題として前向きに取り組んでいかなくてはならないだろう。

業種別、企業規模別のDX取り組み状況

国内のDX取り組み状況を見ると、2021年の調査では情報通信業や金融業・保険業がそれぞれ45%、44.7%と高い割合を示していた。

企業の規模別に見ると、大企業の4割強がDXに取り組んでいるのに対し、中小企業は1割強の企業しかDXへの取り組みを進めていない(これは課題)。この理由として、予算の確保が難しいことや人材や企業文化・風土といった課題が挙げられる。他にも創業時期、競合企業の数、ビジネス領域の違いでもDX取り組み状況に差が出ている。

海外と比べた国内のDX

海外の取り組みと比較しよう。比べる相手は2022 年のデジタル競争力ランキング(IMD World Digital Competitiveness Ranking)で2位のアメリカと19位のドイツだ。使用するデータは2020年ICRの発表のものを使用した。

DXの進みが比較的遅い製造業にフォーカスし、国内のデータと比較していこう。製造業の中で、DXに関する取り組みを全く実施していない企業の割合は、日本・アメリカ・ドイツのいずれも2%未満だ。日本と海外の違いはほぼない。アメリカとドイツも、日本と同じくDXを進める上での課題にレガシーシステムによる弊害を挙げている。

とはいえ、日本の企業の53.1%が「DXの取り組みを進めるにあたっての課題」として挙げた「人材不足」は、アメリカでは27.2%、ドイツでは31.7%しか課題として感じていなかった。日本ではDXを自社内の部署で主導していることが多いが、アメリカやドイツのDX取り組みの主導者は「外部コンサルタント・パートナー企業」「社長・CIO・CDO等の役員」の割合が多いことも関係しているであろう。海外では、トップ主導で商工会議所や応用研究機関による一気通貫でのサポートを受けながらDXを進めているようだ。

2019年に比べ2020年のICTの関連支出を増加させたと回答した製造業の数は、日本は37.9%だが、アメリカは55.8%、ドイツは42.7%だった。同時期に売り上げが増加した製造業は日本35.8% アメリカ63.9%、ドイツ45.2%。日本でも米国並みにDXに取り組む企業が増えれば、5.7%の押し上げ効果が期待できる。売上高では22兆5318億円の成果だ。

ICTのための支出が少ない日本だが、利益の増加も少なく、競争力が低下していると考えられそうだ。

産業全体で見ると、DXの取り組みに対する障壁として、「規制・制度」だと回答した企業はアメリカやドイツよりも 10%ほど少ない。課題さえ克服してしまえば、海外の競合に対して有利に立てる可能性は高いと言えるだろう。DXが遅れる商品サービスの物流、在庫管理で、まずは海外の取り組みを模倣してみるのも良いかもしれない。

DX事例

DXを推進している企業の具体的な取り組みを知りたければ、経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄」を調べてみると良いだろう。2015年に中長期的な企業価値の向上や競争力強化を目的にスタートした「攻めのIT経営銘柄」プログラムの後継がDX銘柄だ。

DXプラチナ企業2023-2025に選ばれた株式会社小松製作所の事例を簡単に紹介しよう。株式会社小松製作所は、モノ(機械の自動化・自律化)とコト(顧客プロセスの最適化)の両面でイノベーションを起こし続けている企業だ。

日本の建築現場で稼働する建設機械の98%はICT機能を持っていない従来機種だそうだ。そこで株式会社小松製作所は、機械に取り付けるだけでICT 建設機械として利用できるようになるキットの導入推進も始めた。

リアルな世界をネット空間に再現させるシステムをデジタルツインと呼ぶ。デジタルツインの実現により、施工プロセスや生産性向上などの価値創出が期待されている。

例えば、まずICT建設機械とアプリを組み合わせ、建設現場のあらゆるモノのデータを繋ぐ。次に、測量や設計、計画、施工、検査などの各プロセスをデジタル化する。そしてこれらをデジタル上で繋ぐ。このようにして株式会社小松製作所はデジタルツインを実現させている。

デジタルツインは建設業界だけでなく、製造業界でも注目された技術だ。生産ラインの設計や保全計画の最適化にも用いられる。デジタルツインで得られたデータをもとにシミュレーションを実施すれば、効率的な改善活動も可能になっていくだろう。

まとめ

DXはIoTやICTなどのIT化によって新たな価値を創出し、競争上の優位性を確立することを目的としている。単なる業務効率化のためのデジタル化ではなく、ビジネスモデルの変革を起こすことまで視野に入れている。

DXはニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性もわからないなか進めなくてはならず、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応していかなくてはならない。予算と人材の不足解消に向け、政府は補助金や助成金を準備している。書類作成などの手間は増えるが、利用してみるのも手だ。

日本のデジタル競争力は2022年時点で29位と、先進国の中でも低い結果に留まった。日本企業は規制や制度による制約が海外より少ない。Society5.0に向け、ITに攻めの投資を行いながら競争力を維持することが重要だ。