―「業務を改善する」だけでは足りない。役割・分析軸・全体最適から読む令和9年度対策
~坂戸市、ベイカー街221B。机の上には、令和元年・3年・6年・8年の経営工学部門の問題が並べられていた~
ワトソン博士
「ホームズ、前回の機械部門はなかなか厄介だったな」
シャーロック・ホームズ
「DXが出たと思えばスケール効果、次はヒューマンエラーと人材流動化だったからね」
ワトソン
「では、経営工学も同じようにテーマが大きく変わるのか?」
ホームズは令和元年度の問題を手に取った。
ホームズ
「こちらは少し違う」
そこには、
JIT方式とMRP方式。
そしてもう一問には、
再生可能エネルギー事業の事業計画。
と書かれていた。
次に令和3年度。
エンジニアリングチェーン革新プロジェクト。
令和6年度。
品質不正。CSR。
令和8年度。
生産と輸配送の同期化。業務改善における評価指標。
である。
ワトソン
「確かに社会問題そのものというより、企業の中で起きる問題ばかりだ」
ホームズ
「そこが経営工学部門の入口だよ」
建設部門では社会・国土政策。
機械部門では社会問題と機械工学。
一方、経営工学では、
企業、業務、プロジェクト、事業。
そこに問題が置かれる。
そして、
そのシステムをどう分析し、どう改善するのか
を問う。
今回は、令和元年から令和8年までの4年度を追いながら、経営工学部門の必須問題が何を変えてきたのかを考えてみよう。
1.令和元年――最初から「経営工学そのもの」だった
令和元年度Ⅰ-1は、
JIT方式とMRP方式の融合
がテーマである。
製品の多様化により、使用頻度の低い部品が増える。
JIT方式だけでは管理上の問題が生じる。
スマート工場でも同様の問題が予想される。
そこでJITとMRPをどう融合するか。
これはかなり専門的である。
ワトソン
「令和元年から、すでに専門用語が前面に出ているな」
ホームズ
「そうだ。だから経営工学を『社会問題について経営的に考える部門』とだけ理解すると間違える」
Ⅰ-2も特徴的である。
再生可能エネルギーという社会的テーマを扱うが、
「あなたがエネルギー供給事業者として新規に再生可能エネルギーによる発電設備の事業計画を立案する」
という立場が設定されている。
つまり、
「再生可能エネルギーの課題を書け」
ではない。
事業者として事業計画を成立させる
必要がある。
令和元年の時点ですでに、
対象業務を設定する。
役割を与える。
経営工学的に考える。
という現在まで続く特徴がある。
2.経営工学特有の難しさ①――「一般論」で逃げにくい
ワトソン
「再生可能エネルギーなら、環境に良い、導入コストが高い、地域理解が必要だ、と書けばいいのでは?」
ホームズ
「それでは事業計画にならない」
経営工学の必須問題では、
理念や一般論ではなく、
業務として成立させること
が重要になる。
例えば、
需要。
生産能力。
在庫。
納期。
品質。
コスト。
人的資源。
設備。
情報。
リスク。
これらを同時に考えなければならない。
つまり、
「良いことを提案する」
ではなく、
企業や事業のシステムとして動く提案をする
必要がある。
ここが経営工学部門特有の難しさである。
3.令和3年――受験者に「役割」が明確に与えられる
令和3年度Ⅰ-1は、
デジタル技術を活用したエンジニアリングチェーンの強化
である。
問題文では、
「ものづくり企業においてデジタル技術を活用したエンジニアリングチェーン革新プロジェクトのリーダー」
という役割が与えられる。
ワトソン
「単なる技術者ではなく、プロジェクトリーダーなのか」
ホームズ
「そうだ。ここは非常に重要だ」
プロジェクトリーダーなら、
個別技術だけを見てはいけない。
設計。
生産準備。
製造。
調達。
品質。
情報連携。
それらの流れを考える必要がある。
つまり、
部分ではなく、業務のつながりを見る。
これが経営工学の特徴である。
4.令和3年Ⅰ-2――複数目標を同時に扱う
もう一問は、
賞味期限・消費期限の短い食品を製造・販売する企業
が舞台になる。
そこでは、
納期。
生産効率。
顧客満足。
働き方改革。
フードロス。
など、複数の目的を同時に考えなければならない。
ワトソン
「全部達成すればいいじゃないか」
ホームズ
「それが簡単なら経営工学はいらない」
例えば、
在庫を減らす。
しかし欠品リスクは高まる。
多品種化する。
しかし生産効率は下がる。
短納期化する。
しかし余裕時間は減る。
廃棄を減らす。
しかし需要変動への対応力は落ちるかもしれない。
経営工学では、
一つの数値を改善すると、別の数値が悪化する
ことが多い。
だから必要なのは、
一つのKPIを最大化することではない。
システム全体として合理的な状態を作ること
である。
5.経営工学特有の難しさ②――「部分最適」に陥りやすい
経営工学の答案で危険なのが、
一つの課題だけを改善して満足すること
である。
製造部門だけを効率化する。
物流部門だけを効率化する。
在庫だけを減らす。
残業だけを減らす。
それぞれ単体では正しい。
しかし会社全体としては悪化することがある。
ワトソン
「製造効率を最大化したのに、なぜ悪くなる?」
ホームズ
「倉庫に製品が山積みになれば分かるだろう」
製造工程だけ見れば高稼働率は良い。
しかし販売できない製品を作れば在庫になる。
在庫を減らしすぎれば欠品が増える。
物流効率だけを考えて配送頻度を落とせば、顧客サービスが低下する。
経営工学では、
部分最適と全体最適の違い
を理解していなければならない。
これは令和8年度で、さらに明確なテーマとして表面化する。
6.令和6年――問題文が「分析の方法」まで指定する
令和6年度Ⅰ-1は、
品質データの偽造・改ざんなどの品質不正
である。
ここで問題文は非常に特徴的な構造を取る。
受験者は、
生産工程全体の現場管理と運用システムの運用管理の責任者
として考える。
さらに設問(1)では、品質不正の原因を、
不正を行う機会。
不正を行う動機。
不正を正当化する考え。
の3つに分けて具体例を挙げさせる。
ワトソン
「いつものように、自分で観点を3つ選ぶのではないのか?」
ホームズ
「そうだ。分析フレームそのものが与えられている」
これは大きな特徴である。
受験者は、
「人材の観点」
「DXの観点」
「コストの観点」
と、いつもの観点へ逃げられない。
問題文が指定した分析軸に沿って考える。
つまり、
何を書くかだけでなく、どう分析するかまで指定され始めている。
7.令和6年Ⅰ-2――「経営資源」から考えなさい
Ⅰ-2はCSRである。
そして設問では、
「経営資源の観点から3つ抽出」
と指定されている。
人的資源。
設備。
資金。
情報。
技術。
時間。
こうした経営資源の配分を考える必要がある。
ここでも、
自由な多面的観点
から、
経営工学らしい指定された観点
へ少しずつ変化している。
これは、建設部門で令和8年に強く現れた「観点の範囲指定」が、経営工学では比較的早く表面化していたと見ることもできる。
8.令和8年Ⅰ-1――「部分最適ではもう足りない」と明記された
令和8年度Ⅰ-1は、経営工学の本質を非常によく表している。
テーマは、
生産と輸配送の同期化
である。
背景として、
各業務で個別最適が進み、個別業務の最適化は概ね完了している
としたうえで、
労働者減少。
需要の多様化。
に対応するためには、
さらなる最適化が必要であるとする。
そして、
在庫低減と輸配送効率向上を目的として、生産と輸配送を同期化するプロジェクト
の責任者として考える。
ワトソン
「令和3年で話していた部分最適の問題が、そのまま問題文になったわけだ」
ホームズ
「その通り」
製造側だけ最適化する。
物流側だけ最適化する。
ではなく、
異なる機能をつないで全体最適を作る。
これは経営工学の中心的な考え方そのものである。
9.経営工学特有の難しさ③――「目的」を見失うと答案が崩れる
経営工学では、解決策を考える前に、
何を最適化したいのか
を理解する必要がある。
例えば令和8年Ⅰ-1なら、
単に物流を効率化するのではない。
在庫低減と輸配送効率向上を両立する
ことが目的である。
したがって、
配送回数を減らす。
だけでは足りない。
それによって在庫がどうなるか。
製造リードタイムはどうなるか。
需要変動への追随性はどうなるか。
欠品リスクはどうなるか。
まで見る必要がある。
経営工学では、
手段が目的化しやすい。
DX。
AI。
自動化。
KPI。
SCM。
これらは便利な言葉である。
しかし、
「何のために使うのか」
がなければ答案にならない。
10.令和8年Ⅰ-2――今度は「指標そのもの」を疑わせる
Ⅰ-2はさらに経営工学らしい。
テーマは、
業務改善における評価指標
である。
成果物の品質や価値を直接測定しにくい。
そこで、
業務プロセスの指標。
代替指標。
評価尺度。
などを用いる。
しかし指標設定が適切でなければ、
本来の目的と指標がずれる。
例えば、
処理件数を増やす。
というKPIを設定した。
すると処理件数は増えた。
しかし品質は下がった。
顧客満足も落ちた。
それでもKPIだけなら「改善成功」である。
ワトソン
「数字が良くなったのに、仕事は悪くなることがあるのか」
ホームズ
「だから指標は恐ろしい」
令和8年度では、
測定の妥当性
業務プロセスへの影響
組織行動への影響
という3つの観点が指定されている。
つまり受験者には、
指標を作る技術だけでなく、その指標が人や組織をどう動かすか
まで見ることが求められている。
11.経営工学特有の難しさ④――技術と人間行動が切り離せない
ここは機械部門との大きな違いである。
機械なら、
強度。
摩擦。
熱。
流体。
制御。
という物理現象が中心になることがある。
しかし経営工学では、
同じ制度や指標を導入しても、
人がどう反応するか
によって結果が変わる。
KPIを設定する。
すると数字を良く見せようとする。
生産性指標を強く求める。
すると品質確認が省略されるかもしれない。
短納期を追求する。
すると余裕時間がなくなる。
評価制度を変える。
すると部門間協力より自部門の成果を優先するかもしれない。
つまり、
システム設計と組織行動がつながっている。
これが経営工学の難しさであり、面白さでもある。
12.8年間で何が変わったのか
4年度を整理すると、次のように見える。
年度 経営工学必須問題の特徴
令和元年 JIT・MRPなど専門技術、事業計画
令和3年 プロジェクト・企業活動を具体的に設定
令和6年 役割+分析フレーム・経営資源を指定
令和8年 全体最適+指定観点+専門技術を要求
ワトソン
「機械のように出題テーマが大きく振れるというより、問い方が細かくなっているように見えるな」
ホームズ
「その見方が近い」
経営工学は令和元年から専門的だった。
だから、
年々専門性が高くなった
とは言いにくい。
変わったのは、
受験者が自由に問題設定する範囲
である。
令和元年では、比較的自由に問題を分析できた。
令和3年では役割が設定される。
令和6年では分析軸まで指定される。
令和8年では目的・役割・観点・専門知識まで、さらに明確に与えられる。
つまり、
「経営工学らしく答えなさい」から、「この経営工学のフレームで考えなさい」へ
少しずつ進んでいる。
13.新コンピテンシーとの相性が非常に高い
令和8年度から適用された問題解決のコンピテンシーでは、
複合的な問題。
多角的な視点。
ステークホルダー。
相反する要求事項。
複数の選択肢。
合理的な解決策。
が重視されている。
経営工学の問題は、この考え方との相性が非常に良い。
なぜなら、経営工学自体が、
品質。
コスト。
納期。
生産性。
在庫。
人的資源。
顧客価値。
安全。
環境。
など、複数の要求を同時に扱う分野だからである。
ホームズ
「経営工学では、最初から一つの正解がない場合が多い」
ワトソン
「だから調整が必要になる?」
ホームズ
「その通り」
14.令和9年度はどうなっていくのか
ここからは【予測】である。
具体的なテーマを当てることはできない。
しかし4年度の流れを見ると、
ある企業・事業・業務を具体的に設定する
という基本形は今後も続く可能性が高い。
さらに、
役割。
目的。
制約。
分析軸。
評価指標。
ステークホルダー。
などを問題文が指定し、
その条件の中で全体最適を考えさせる
問題が増えても不思議ではない。
例えば、
あるKPIを改善すると別のKPIが悪化する。
DXすると効率は上がるが組織能力が低下する。
在庫を減らすとサービスレベルが下がる。
標準化すると効率は上がるが柔軟性が落ちる。
といった、
相反する要求事項を調整する問題
は、新コンピテンシーとの整合性も高い。
ただし、これは具体的な出題予想ではない。
令和元年から令和8年の問い方の変化を延長した推測である。
15.令和9年度対策――「便利な用語」を先に置かない
経営工学の受験者が特に気をつけたいのは、
DX。
AI。
SCM。
IoT。
KPI。
デジタルツイン。
自動化。
といった便利な言葉を、課題を考える前に置くことである。
ワトソン
「最新技術を書いた方が評価されるのでは?」
ホームズ
「目的に合っていればね」
経営工学では、
まず、
何を改善したいのか。
何が制約なのか。
どこにボトルネックがあるのか。
誰が関係するのか。
何と何がトレードオフなのか。
を考える。
その後に、
どの手法を使うか。
を決める。
つまり、
目的 → 問題構造 → 課題 → 解決手法
の順番である。
これを逆にしてはいけない。
エピローグ:数字の向こう側を見る
ワトソンは令和8年度の評価指標の問題をもう一度眺めた。
ワトソン
「経営工学というから、数字を使って効率を上げる試験だと思っていた」
ホームズ
「それだけなら計算機に任せればよい」
ワトソン
「では何を見る?」
ホームズは答えた。
ホームズ
「数字を変えたとき、システム全体に何が起こるかを見るんだ」
在庫を減らした。
その結果、欠品はどうなったのか。
生産性を上げた。
品質はどうなったのか。
KPIを設定した。
人はどう行動したのか。
DXした。
業務全体は本当に良くなったのか。
部分を改善した。
全体はどうなったのか。
経営工学部門の8年間を追うと、一貫しているものが見える。
経営工学は、技術や制度そのものを問う試験ではない。
それを使って、業務システム全体をより良くできるかを問う試験である。
そして近年は、
役割。
目的。
分析軸。
制約。
を問題文側が具体的に設定することで、
受験者が一般論へ逃げる余地を少しずつ狭めている。
ホームズは最後に言った。
ホームズ
「ワトソン君、経営工学の問題で最も危険なのは、正しい改善策を書くことだ」
ワトソン
「正しいのに危険なのか?」
ホームズ
「その改善策が、別の場所を悪化させていることに気づかなければね」
令和9年度に向けて必要なのは、
知っている経営工学用語を増やすことだけではない。
業務全体を一つのシステムとして捉え、部分最適と全体最適を区別する力。
そこに、経営工学部門の必須問題を解く鍵がある。
次回は電気電子部門。
そこでは経営工学以上に、問題文が受験者の答案を厳しく縛り始める。

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。
【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。






