―令和元年・3年・6年・8年の過去問から読む出題傾向と令和9年度対策
~ベイカー街221B。ホームズの机には、4年度分の建設部門・必須科目Ⅰが並べられていた~
ワトソン博士
「ホームズ、総括では『技術士二次試験の形式そのものは、それほど変わっていない』という結論だったな」
シャーロック・ホームズ
「そうだ」
ワトソン
「では建設部門だけを見ても、同じ結論になるのか?」
ホームズは令和元年度と令和8年度の問題を左右に置いた。
ホームズ
「むしろ建設部門は、それを最も分かりやすく示している部門かもしれない」
「令和元年と令和8年を比べても、試験の骨格に劇的な変化はない。しかし、問題文が受験者に要求する“考え方の範囲”は、少しずつ狭く、そして明確になっている」
ワトソン
「難しくなったということか?」
ホームズ
「そう単純ではない。知識が難しくなったというより、好きなことを書けなくなっていると考えた方が近い」
今回は、令和元年・3年・6年・8年の4年度を追いながら、建設部門の必須問題Ⅰが何を変え、何を変えてこなかったのかを考えてみよう。
1.令和元年――現在の必須問題は、すでにほぼ完成していた
まず令和元年度である。
Ⅰ-1は、人口減少を背景とした建設分野の生産性向上。
Ⅰ-2は、防災・減災、国土強靱化がテーマである。
ワトソン
「ずいぶん今でも出そうなテーマだな」
ホームズ
「そこが重要だ」
令和元年度からすでに、必須問題は単純な専門知識問題ではない。
社会に大きな問題がある。
それを建設部門の技術者として捉える。
多面的な観点から課題を抽出する。
最重要課題を選び、複数の解決策を示す。
さらに、解決策によって生じる新たなリスクを考える。
最後に、技術者倫理と社会の持続可能性について述べる。
現在につながる基本構造は、令和元年度ですでにでき上がっていた。
つまり、
建設部門の必須問題は、この8年間で別の試験へ変わったわけではない。
この点を最初に押さえておきたい。
2.令和3年――「観点」と「課題」を分けて書かせる
次は令和3年度である。
Ⅰ-1は循環型社会。
Ⅰ-2は、激甚化・頻発化する自然災害と国土強靱化である。
テーマだけを見ると、令和元年度との連続性は強い。
人口減少。
防災。
環境。
国土。
いずれも建設部門が社会全体との関係で考える問題である。
しかし設問(1)の書き方には変化がある。
令和3年度では、
「3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで」
と、答案の作り方そのものが明示されるようになった。
ワトソン
「令和元年にも多面的な観点とは書いてあっただろう?」
ホームズ
「ある。しかし令和3年では、『観点を答案に書け』と要求している」
例えば、
「担い手不足が課題である」
と書くのと、
「人材の観点から、少人数でも持続的に維持管理できる体制を構築することが課題である」
では違う。
前者では、何をどの方向から分析したのかが分かりにくい。
後者では、
観点 → 現状・問題 → 課題
という思考過程が見える。
ここから、
問題を知っているだけでなく、
どの視点からその課題を導いたのかを説明する
ことが、より明確に求められるようになった。
3.令和6年――理想論ではなく「制約の中で考えよ」
令和6年度になると、もう一つ興味深い変化が見える。
Ⅰ-1では、持続可能な地域社会の形成。
Ⅰ-2では、災害対応におけるDXなどが扱われている。
そして問題文には、
「投入できる人員や予算に限りがあることを前提に」
という条件が加わっている。
ホームズはこの一文を指した。
ホームズ
「ワトソン君、この一文は短いが、答案の性格を変える」
ワトソン
「予算不足や人材不足を課題にすればいいということか?」
ホームズ
「逆だ。それだけでは足りない」
人員も予算も無限にあるなら、
全部点検する。
全部更新する。
設備を増やす。
人を増やす。
最新技術をすべて導入する。
と書ける。
しかし現実の技術業務ではそんなことはできない。
限られた人員。
限られた予算。
限られた時間。
その中で、
何を優先するのか。
どこへ資源を投入するのか。
どの技術を選択するのか。
を判断する必要がある。
令和6年度では、この制約条件の中での問題解決が問題文の表面へ出てきた。
これは令和8年度から適用された新しいコンピテンシーとも整合する。
改訂後の「問題解決」では、複合的な問題について、多角的な視点、ステークホルダー、相反する要求事項、複数の選択肢などを考慮し、合理的な解決策を提案することが求められている。
ただし、ここで注意したい。
令和6年の問題が令和8年のコンピテンシー改訂を直接先取りしていた、と断定することはできない。
確認できるのは、
問題文が以前より現実の業務条件を具体的に与えるようになった
ということである。
4.令和8年――最大の変化は「何でもよい観点」の終わり
そして令和8年度である。
Ⅰ-1では、第6次社会資本整備重点計画を背景に、新技術・DX等を用いたインフラの価値向上が問われた。
Ⅰ-2では、国土交通省環境行動計画やグリーンインフラ推進戦略2030などを背景に、人と自然が共生する社会づくりが問われた。
ここまでなら、
「近年の政策を題材にしただけ」
とも見える。
しかしホームズが注目したのは、設問(1)の最後である。
Ⅰ-1では、
「なお、観点はインフラの価値に関するものとする」
Ⅰ-2では、
「なお、観点は人と自然が共生する社会づくりに関するものとする」
と、観点そのものの範囲が指定されている。
ワトソン
「つまり、いつもの『人材・DX・予算』では駄目なのか?」
ホームズ
「それらを書いてはいけないわけではない。しかし、それだけで観点になるとは限らない」
ここが令和8年度の重要な点である。
以前なら、
人材の観点。
予算の観点。
維持管理の観点。
環境の観点。
と、自分が使いやすい観点を選ぶ余地が比較的大きかった。
しかし令和8年度では、
まず問題文が示した世界の中に入ること
を要求されている。
Ⅰ-1なら「インフラの価値」。
Ⅰ-2なら「人と自然が共生する社会」。
その範囲の中で、さらに多面的に考える。
つまり、
「多面的に考えよ」から、「指定された領域の中で多面的に考えよ」へ
一段階進んだのである。
5.政策文書の使われ方も変わってきた
ワトソン
「令和8年は政策名がずいぶん多いな。これからは白書や計画を丸暗記した方がいいんじゃないか?」
ホームズ
「それは短絡的だね」
建設部門では、以前から国土強靱化などの政策テーマが出題されている。
したがって、
「令和8年から突然政策問題になった」
わけではない。
しかし令和6年、令和8年と進むにつれて、具体的な政策文書が問題設定の背景として使われる傾向は確かに目立つ。
重要なのは、政策名を覚えることではない。
政策文書が、
なぜ今その方向を目指しているのか
を理解することである。
例えばグリーンインフラなら、
「グリーンインフラ推進戦略2030」という名称を知っているだけでは答案にならない。
自然環境が持つ多様な機能を社会資本整備や土地利用へどう取り込むのか。
防災。
地域振興。
生物多様性。
維持管理。
こうした価値を建設技術へ変換する必要がある。
ホームズ
「政策は答えではない。問題が置かれている背景だ」
6.設問(3)も固定観念を持たない方がよい
令和元年度では、
「新たに生じうるリスク」
が中心だった。
令和3年や6年では、
「波及効果と懸念事項」
という形式も使われている。
令和8年度では、
「新たに生じうる懸念事項」
「将来的な懸念事項」
という表現になっている。
ワトソン
「全部、新しいリスクを書いておけばよいのでは?」
ホームズ
「問題文が違う以上、同じ答え方をする理由はない」
波及効果なら、解決策によるプラスの効果も見る。
懸念事項なら、その効果に伴って生じる問題を見る。
リスクなら、将来生じる不確実な悪影響を考える。
似ているが、同じではない。
ここでも近年の必須問題は、
設問を正確に読む力
を求めている。
7.8年間で変わったもの、変わっていないもの
ここまで見て、ワトソンが言った。
ワトソン
「整理すると、試験の型は変わらない。しかし問題文が細かくなったということか?」
ホームズ
「私はそう見る」
変わっていないのは、
社会的背景から建設部門全体の課題を考えること。
3つの課題。
最重要課題。
複数の解決策。
解決後の影響。
倫理・持続可能性。
という基本構造である。
一方、変わってきたのは、
受験者が自由に決められる範囲である。
令和3年では観点を明記。
令和6年では人員・予算という制約。
令和8年では観点の領域まで指定。
つまり、
問題文から離れた一般論を書きにくくする方向
へ進んでいる。
ここが建設部門の8年間で最も大きな変化だと思う。
8.では令和9年度はどうなるのか
ここからは【予測】である。
令和9年度のテーマを当てることはできない。
防災かもしれない。
人口減少かもしれない。
インフラ老朽化かもしれない。
脱炭素かもしれない。
まったく別のテーマかもしれない。
しかし4年度の問題文を見る限り、問い方については一つの方向を想定できる。
ワトソン
「どんな方向だ?」
ホームズ
「自由度を再び広げるより、条件を与えて考えさせる方だろう」
例えば令和9年度でも、
「○○に関する観点に限る」
「○○を前提として」
「○○の制約条件下で」
「○○の立場から」
といった条件が付く可能性は十分考えられる。
さらに、新コンピテンシーでは、
多角的な視点。
ステークホルダー。
相反する要求事項。
複数の選択肢。
合理的な解決策。
が問題解決能力として明記されている。
だから将来的には、
単に、
「課題を3つ挙げよ」
だけではなく、
異なる利害、制約、相反条件の中で技術的に判断させる問題
が増えても不思議ではない。
ただし、これはあくまで4年度の問題とコンピテンシー改訂から考えた予測である。
令和9年度に必ずそうなるとは言えない。
9.令和9年度対策――「万能骨子」を作らない
ワトソン
「では受験者は何を準備すればいい?」
ホームズ
「テーマ別の完成答案より、条件に合わせて組み替える訓練だ」
人口減少ならこの3課題。
DXならこの3課題。
防災ならこの3課題。
という「万能骨子」を作ってしまうと、令和8年度型の問題では危険である。
同じ人口減少でも、
インフラ価値の観点なのか。
地域社会の持続性なのか。
維持管理なのか。
災害対応なのか。
条件によって課題は変わる。
したがって令和9年度対策では、
過去問を見たら、まず答案を書かない。
最初に、
背景は何か。
対象は何か。
観点は自由か。
除外条件はあるか。
制約は何か。
設問(3)はリスクなのか、波及効果なのか、懸念事項なのか。
を分解する。
その後で課題を作る。
エピローグ:問題文こそ、最初の答案である
ワトソンは令和8年度の問題を閉じた。
ワトソン
「令和元年から令和8年まで、大きな変化はないと思っていた」
ホームズ
「それでいい」
ワトソン
「だが、同じ問題でも受験者に与えられる自由は少しずつ減っている」
ホームズ
「そこが痕跡だ」
建設部門の必須問題は、8年間で別物になったわけではない。
むしろ、
同じ試験を、より精密に問うようになっている。
社会問題を知っているだけでは足りない。
政策を知っているだけでも足りない。
専門用語を並べても足りない。
問題文が指定した条件を理解し、
その範囲の中で、
建設部門全体に関わる技術課題を設定し、
専門技術によって合理的に解決する。
それが求められている。
ホームズ
「ワトソン君、答案を書く前に、すでに試験は始まっている」
ワトソン
「問題文を読むところから?」
ホームズ
「違う。問題文を“解剖する”ところからだよ」
令和9年度対策で最も重要になるのは、
答えを覚えることではない。
問題文から、答えるべき範囲を正確に読み取る力を磨くこと。
建設部門の8年間を追うと、その方向が最もはっきり見えてくる。
次回は機械部門。
同じ必須科目Ⅰでも、建設部門とはかなり違う変化が待っている。

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。
【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。







