【技術士試験】ホームズの推理:機械部門の必須問題は8年間でどう変わったのか?

―社会課題からスケール効果、機械安全まで。過去問から読む令和9年度対策

~坂戸市、ベイカー街221B。ワトソンは建設部門の過去問を片付け、その隣に機械部門の問題を並べた~

ワトソン博士

「さてホームズ。次は機械部門だな」

シャーロック・ホームズ

「ああ。建設部門とは少し違った事件になりそうだ」

ワトソン

「同じ技術士二次試験の必須問題だろう?
課題を3つ挙げて、最重要課題を選び、解決策を書く。基本は同じじゃないか」

ホームズは令和6年度の問題を取り上げた。

ホームズ

「では、この問題を見たまえ」

そこには、

「機械の小型化に伴うスケール効果」

について、長さ、面積、体積、質量、慣性力、粘性力などの関係が示されていた。

ワトソン

「……これは急に機械工学の教科書みたいだな」

ホームズは次に令和8年度を開いた。

今度は、

ヒューマンエラーと機械安全。

さらにもう一題は、

転職などによる人材流動化。

である。

ワトソン

「待て。今度は社会問題じゃないか」

ホームズ

「そこだよ、ワトソン君。
機械部門の難しさは、出題テーマの振れ幅が大きいことにある」

機械部門の必須問題では、

社会問題を機械技術へ変換する力。

機械工学そのものを理解する力。

具体的な製品・設計・製造へ落とし込む力。

そのすべてが要求される。

今回は令和元年・3年・6年・8年の問題を比較しながら、機械部門特有の難しさを追ってみよう。

1.令和元年――「機械技術全体を見る」試験から始まった

令和元年度Ⅰ-1は、

「擦り合わせ」から「組み合わせ」へのものづくり手法の転換

がテーマだった。

労働人口減少。

国際競争力。

製品の高性能化。

仕様の多様化。

こうした背景を踏まえて、ものづくりのあり方を考えさせている。

Ⅰ-2は、

持続可能な社会の実現に向けた機械機器・装置のものづくり

である。

しかも設問では、

「あなたの専門分野だけでなく機械技術全体を総括する立場」

から考えることを求めている。

ワトソン

「これは建設部門と似ているな。社会の大きな問題から考える」

ホームズ

「そうだ。しかし一つ違う」

建設部門なら、社会資本全体を考えることが比較的自然である。

道路。

河川。

橋梁。

都市。

防災。

それらは「社会基盤」という共通の枠でつながっている。

しかし機械部門は、

機械設計。

材料強度。

機構・制御。

熱・動力。

流体。

加工・生産。

と専門領域がかなり異なる。

現在の選択科目を見ても、この6領域に分かれている。

つまり令和元年度から、

「自分の選択科目だけで考えるな」

という要求があった。

ここに機械部門の第一の難しさがある。

2.機械部門特有の難しさ①――専門領域が広すぎる

ワトソン

「機械技術者なのだから、機械のことなら分かるんじゃないのか?」

ホームズ

「君は医者だから、すべての医学分野を同じ深さで扱えるのかい?」

ワトソン

「……それは無理だ」

機械設計を専門にする技術者が、流体機械の専門家とは限らない。

材料強度の専門家が、生産システムに詳しいとも限らない。

制御技術者が、燃焼や伝熱を日常的に扱うわけでもない。

ところが必須科目Ⅰでは、

機械部門全般にわたる専門知識を理解・応用すること

が評価対象となる。コンピテンシー上の「専門的学識」も、技術部門全般の専門知識を対象としている。

したがって機械部門では、

自分の専門分野では非常に詳しい
しかし必須問題では視野が狭い

ということが起こり得る。

これは選択科目だけを勉強している受験者にとって大きな落とし穴である。

3.令和3年――DXという社会テーマを「機械技術」へ変換する

令和3年度Ⅰ-1はDX。

米中貿易摩擦、EU離脱、新型コロナなどによる不確実性を背景として、

我が国製造業のDXをどう加速するか

が問われた。

ここだけ見ると、

DX。

AI。

IoT。

デジタルツイン。

ビッグデータ。

といったキーワードを並べたくなる。

しかし問題文は、

「機械技術全般に関する多面的な観点」

から課題を考えさせている。

さらに設問(2)では、

「機械技術者としての複数の解決策」

を求めている。

ワトソン

「DXならITの話を書けばいいわけではない?」

ホームズ

「当然だ。機械部門の答案なのだからね」

例えば、

センサによる状態監視。

CAEと実機データの連携。

デジタルツイン。

予知保全。

生産設備のネットワーク化。

設計情報のPLM管理。

など、

機械システムをどう変えるのか

まで落とし込む必要がある。

ここに機械部門特有の第二の難しさがある。

4.機械部門特有の難しさ②――社会課題を機械工学へ「翻訳」する

機械部門では、

人口減少。

DX。

人材流動化。

脱炭素。

安全。

といった社会課題そのものを説明しても答案にはならない。

そこから、

設計。

材料。

制御。

熱。

流体。

生産。

といった機械工学へ変換する必要がある。

ホームズ

「つまり二段階の推理が必要なのだ」

ワトソン

「二段階?」

ホームズ

「まず社会で何が起きているかを理解する。
次に、それが機械システムの何を変えるのかを考える」

例えば人材不足なら、

「人が足りないから人材育成を行う」

では弱い。

少人数でも設備を安定運転できるよう、

状態監視。

故障診断。

自律制御。

遠隔監視。

保全性設計。

などへ変換する。

つまり、

社会課題 → 機械システム上の問題 → 技術課題

という翻訳が必要になる。

5.令和6年――突然現れた「スケール効果」

そして令和6年度Ⅰ-1で、機械部門のもう一つの顔が現れる。

テーマは、

機械の小型化とスケール効果

だった。

問題文には、

長さ。

面積。

体積。

質量。

圧力。

重力。

慣性力。

粘性力。

弾性力。

など、寸法変化に伴う関係まで表で示されている。

ワトソン

「これは人口減少やDXのような問題とはまるで違う」

ホームズ

「その通り。ここでは一般論がほとんど通用しない」

機械を小型化すると、

表面積と体積の比率が変わる。

慣性力と粘性力の支配関係が変わる。

放熱特性が変わる。

摩擦や表面力の影響が相対的に大きくなる。

加工精度や公差の意味も変わる。

材料や製造方法も変える必要がある。

つまり、

力学・材料・流体・熱・加工など複数の機械工学知識を横断して考える

必要がある。

6.機械部門特有の難しさ③――「何が出るか」の振れ幅が大きい

ここが機械部門の受験者には厄介である。

令和3年はDX。

令和6年はスケール効果。

令和8年はヒューマンエラーと人材流動化。

同じ必須科目Ⅰとは思えないほどテーマの性質が違う。

ワトソン

「つまり、頻出社会テーマだけを覚える勉強では危険ということか」

ホームズ

「非常に危険だ」

建設部門なら、国土強靱化、人口減少、インフラ老朽化、DX、環境などの社会課題が比較的中心になる。

機械部門ではそこへ、

機械工学そのもの

が突然入ってくる。

そのため、

「今年は社会問題が出るだろう」

「DXか脱炭素を勉強しておけばいい」

という予想型学習は危険である。

必須問題だからこそ、

機械部門全体の基礎的な工学知識を広く維持しておく必要がある。

7.令和6年Ⅰ-2――自分で製品を設定させる問題

令和6年度Ⅰ-2も特徴的だった。

テーマは、

日本の製造業の国際競争力と高付加価値化

である。

しかし単に、

「高付加価値化の課題を述べよ」

ではない。

まず、

機械製品を一つ想定する。

次に、

その製品に有効な付加価値を一つ提案する。

そのうえで、

その付加価値を実現するための課題を3つ抽出する。

という構造になっていた。

ワトソン

「問題を解く前に、自分で問題の舞台を作るわけだ」

ホームズ

「そうだ。だから自由に見えて、実は難しい」

製品設定が悪ければ、その後の課題が作りにくい。

付加価値が抽象的なら、解決策も抽象的になる。

つまり、

対象設定そのものが答案の品質を左右する。

これは機械部門で非常に重要な特徴である。

8.令和8年Ⅰ-1――機械安全を「人のミス」で終わらせない

令和8年度Ⅰ-1は、

機械類の使用におけるヒューマンエラー

である。

問題文ではJIS B 9700:2013に触れ、

本質的安全設計方策。

安全防護及び付加保護方策。

使用上の情報。

という安全設計の考え方が示されている。

しかも設問(1)は、

具体的なヒューマンエラーの例を挙げてから

課題を抽出する。

設問(2)は、

最重要課題を選び、

その理由を述べたうえで、機械部門の専門用語を交えて解決策を示す

ことを要求している。

ここでも重要なのは、

「人が注意すればよい」

ではない。

誤操作しても危険状態になりにくい。

故障時には安全側へ移行する。

危険区域へのアクセスを防ぐ。

異常を検知する。

こうした、

人間の失敗を前提に機械側で安全を設計する

視点が必要になる。

9.令和8年Ⅰ-2――人材問題なのに「機械技術」で答える

Ⅰ-2はさらに面白い。

テーマは、

転職等による人材流動化

である。

ワトソン

「これは人的資源管理の問題にしか見えないぞ」

ホームズ

「ところが問題文には逃げ道がない」

受験者は、

「機械の設計・製造分野におけるエンジニアの立場」

で答える。

さらに解決策では、

専門技術・手法を交えて

示すよう要求されている。

したがって、

採用を強化する。

賃金を上げる。

福利厚生を改善する。

だけでは機械部門の答案になりにくい。

設計標準化。

設計知識の形式知化。

PLM。

CAE。

モデルベース開発。

デジタルエンジニアリング。

技能のデジタル化。

など、

人が入れ替わっても設計・製造品質を維持できる技術体系

へ落とす必要がある。

10.令和8年で強まった「専門技術を見せなさい」

令和8年度では、

Ⅰ-1で、

「機械部門の専門用語を交えて」

Ⅰ-2で、

「専門技術・手法を交えて」

と明記されている。

これは重要である。

技術士に求められる「専門的学識」自体は新しいものではなく、令和8年のコンピテンシー改訂でも変更されていない。技術部門全般にわたる専門知識を理解し応用することが、引き続き求められている。

したがって、

令和8年から突然、専門知識重視になった

とは言えない。

むしろ、

以前から求められていた専門性を、問題文でもより明示するようになった

と見る方が妥当である。

11.機械部門特有の難しさ④――「広さ」と「深さ」を同時に要求される

ワトソンが腕を組んだ。

ワトソン

「ここまで聞くと、機械部門は少し理不尽に感じるな」

ホームズ

「なぜだい?」

ワトソン

「機械全般を広く知れと言われる。
しかし専門用語も使えと言われる。
社会課題も理解しろと言われる。
しかもスケール効果のような深い工学問題まで出る」

ホームズ

「それこそ機械部門の特徴だろう」

これを一言で表すなら、

広さと深さの両立

である。

必須問題なのだから、選択科目の専門論文ほど狭く深く書く必要はない。

しかし、

「DXを推進する」

「AIを活用する」

「人材を教育する」

といった一般論だけでは機械技術者としての専門性が見えない。

逆に、

自分の専門分野だけを深く書けば、機械部門全体を問う必須問題から外れる。

このバランスが難しい。

12.8年間で機械部門はどう変わったのか

4年度を整理すると、次のように見える。

年度 主な特徴
令和元年 社会課題を機械技術全体から考える
令和3年 DXなど社会変化を機械技術へ変換する
令和6年 スケール効果・製品設定など、機械工学と具体対象を強く要求
令和8年 状況・立場を限定し、専門技術・専門用語を明示要求

ワトソン

「建設部門より変化が大きく見えるな」

ホームズ

「そうだ。ただし一本の直線で専門化しているわけではない」

令和6年は機械工学そのものへ深く入った。

令和8年は再び社会・人間系のテーマへ戻った。

しかし、その社会テーマを、

機械技術へ変換することを強く要求している。

したがって変化の本質は、

社会問題か専門問題かではなく、どちらが出ても機械技術者として答えられること

にあると考えた方がよい。

13.令和9年度はどうなるのか

ここからは【予測】である。

具体的なテーマを当てることはできない。

しかし、4年度から考えると、

社会テーマ型と機械工学型のどちらもあり得る

と考えるべきだろう。

ワトソン

「それでは予測にならないじゃないか」

ホームズ

「テーマを当てるのが予測ではない。出題者が何を確認したいかを考えるんだ」

令和9年度でも、

社会課題を機械システムへ変換させる。

具体的な機械・製品を設定させる。

設計・製造条件を与える。

複数の機械工学分野を横断させる。

専門用語・専門手法を要求する。

といった方向は十分考えられる。

さらに令和8年度から適用されたコンピテンシーでは、問題解決について、

多角的な視点。

ステークホルダー。

相反する要求事項。

複数の選択肢。

合理的な解決策。

を考慮することが明確になっている。

したがって今後は、

例えば、

性能を上げると重量が増える。

安全性を高めるとコストが増える。

自動化すると保全性が変わる。

小型化すると熱や摩擦の影響が変わる。

といった、

機械設計特有の相反条件を調整させる問題

がより明確に現れても不思議ではない。

これはあくまで問題の問い方に関する予測であり、特定テーマの出題予想ではない。

14.令和9年度対策――「キーワード集」だけでは足りない

では、機械部門の受験者は何をするべきか。

社会テーマについて、

人口減少。

DX。

脱炭素。

人材不足。

安全。

といった知識を持つことは必要である。

しかし、それだけでは足りない。

同時に、

材料力学。

機械力学。

熱力学。

流体力学。

制御。

加工。

設計。

信頼性。

安全工学。

など、

自分の選択科目以外の機械工学も、必須問題で使えるレベルで整理する

必要がある。

ワトソン

「全部の専門家になる必要があるのか?」

ホームズ

「もちろんない。だが、何も知らない分野を作らないことだ」

例えば流体を専門にしていなくても、

レイノルズ数。

圧力損失。

キャビテーション。

程度は機械技術として使える。

材料専門でなくても、

疲労。

応力集中。

破壊靱性。

安全率。

は知っておきたい。

熱専門でなくても、

熱伝導。

対流。

放熱。

熱効率。

は使える。

必要なのは、

機械部門全体の共通言語を増やすこと

である。

エピローグ:機械部門は「何が出るか」を予想してはいけない

ワトソンは4年度分の問題を並べ直した。

ワトソン

「令和3年のDXを見ていたら、次も社会問題だと思う」

ホームズ

「すると令和6年のスケール効果で困る」

ワトソン

「令和6年を見て機械工学を重点的にやる」

ホームズ

「すると令和8年の人材流動化が来る」

ワトソンは苦笑した。

ワトソン

「なるほど。犯人の行動を一つのパターンに決めつけてはいけないわけだ」

ホームズ

「ようやく探偵らしくなってきたね」

機械部門の必須問題は、

社会課題型にもなる。

機械工学そのものの問題にもなる。

製品設定型にもなる。

人間と機械の関係を問うこともある。

だから難しい。

しかし、共通しているものがある。

どの問題でも最終的には、

「機械技術者として何を考えるのか」

を問われている。

令和9年度対策で重要なのは、

テーマを当てることではない。

社会問題が出ても機械工学へ変換できる。

専門問題が出ても複数分野から考えられる。

対象を与えられても具体化できる。

相反条件があっても合理的に調整できる。

その力を身につけることだ。

ホームズは令和8年度の問題を閉じた。

ホームズ

「機械部門の受験者が恐れるべきなのは、知らないテーマではない」

ワトソン

「では何だ?」

ホームズ

「知っているテーマを、機械技術へ変換できないことだよ」

次回は経営工学部門。

そこではまた、機械とは全く違う「問題の縛り方」が現れる。

【情報源】

令和元年度・令和3年度・令和6年度・令和8年度 技術士第二次試験問題〔機械部門〕
「令和8年からのコンピテンシー改訂一覧」

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。

【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
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・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

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