―令和元年・3年・6年・8年の過去問から読む出題傾向と令和9年度対策
~坂戸市、ベイカー街221B。机の上には、4年度分の技術士第二次試験問題が並んでいた~
ワトソン博士
「ホームズ、こうして令和元年、3年、6年、8年の問題を並べてみても、私にはそれほど大きく変わったようには見えないんだ」
シャーロック・ホームズ
「それは正しい観察だよ、ワトソン君」
ワトソン
「珍しいな。君が私の観察を素直に認めるなんて」
ホームズ
「ただし、観察が正しいことと、推理が終わったことは別だ」
ホームズは4年度分の問題を指でなぞった。
「表面だけ見れば、たしかに大きな変化はない。しかし、問題文の細部には変化の痕跡がある」
技術士第二次試験の必須科目Ⅰは、令和元年度から現在まで、基本的な構造を大きく変えていない。
多面的な観点から課題を抽出する。
その中から最も重要な課題を選ぶ。
複数の解決策を示す。
解決策による新たなリスクや懸念事項を考える。
そして技術者倫理や社会の持続可能性について述べる。
この骨格は、令和元年から令和8年まで驚くほど安定している。
では、本当に何も変わっていないのだろうか。
今回は、ロックオン講座で受験者の多い、
建設、機械、電気電子、上下水道、経営工学
の5部門を比較しながら考えてみたい。
1.まず合格率を見ても「突然難しくなった」とは言えない
ホームズ
「いい視点だ。では数字を見よう」
技術士第二次試験全体の対受験者合格率は、
令和元年度 11.6%
令和3年度 11.6%
令和6年度 10.4%
である。
令和8年度はまだ最終結果が出ていないため比較できないが、少なくとも令和元年から令和6年までを見る限り、
試験制度の変化によって合格率が半減した、といった劇的な変化はない。
5部門を見ると多少の上下はある。
例えば建設部門は、
令和元年9.4%、令和3年10.4%、令和6年8.7%。
機械部門は、
19.4%、13.9%、17.4%。
電気電子部門は、
12.2%、10.0%、9.1%。
上下水道部門は、
12.0%、13.2%、10.7%。
経営工学部門は、
14.0%、7.6%、10.3%。
である。
年度による変動はあるが、
「令和6年以降、突然どの部門も半分しか受からなくなった」
というような共通傾向ではない。
ワトソン
「つまり、試験が突然別物になったわけではない」
ホームズ
「その通り。だからこそ、問題文の変化を見る必要がある」
2.令和元年から変わっていない「試験の骨格」
令和元年の建設部門を見ると、すでに、
課題抽出
→最重要課題
→複数の解決策
→新たなリスク
→倫理・持続可能性
という現在の構成がある。
機械も同様である。
経営工学、電気電子、上下水道も基本構造は大きく変わらない。
つまり、
令和元年度は現在の必須問題の原型ではなく、すでにほぼ完成形だった
と考えた方がよい。
ワトソン
「それなら、令和元年の過去問を勉強しても今でも意味があるということか?」
ホームズ
「もちろんある。ただし、令和元年の答案をそのまま令和8年に持ってくることはできない」
ここが重要になる。
3.令和3年で見える最初の変化――「観点を明記せよ」
令和元年では、
「多面的な観点から課題を抽出し分析せよ」
という表現が中心だった。
ところが令和3年になると、多くの部門で、
「3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで」
という形に変わる。
建設部門でも、この形が明確になる。
電気電子でも同様である。
ワトソン
「そんなに大きな違いだろうか?」
ホームズ
「答案を書く側には大きい」
例えば、
「人材不足が課題である」
とだけ書く。
これは何の観点から見た課題なのか分からない。
一方、
「人的資源の観点から、少人数でも安定して維持管理できる体制を構築することが課題である」
なら、観点と課題が分かれる。
つまり令和3年以降、
受験者の思考過程を答案上で見える形にする要求
が強くなったと考えられる。
4.しかし5部門を見ると、変化の仕方は同じではない
ここからが興味深い。
ワトソン
「全部門で同じ試験なのだから、同じ方向に変化したのではないのか?」
ホームズ
「そこが今回の最大の発見だよ」
建設部門
建設部門は、令和元年から令和8年まで、比較的変化が穏やかである。
人口減少、国土強靱化、循環型社会、地域社会、DX、グリーンインフラ。
社会や国土政策を背景に、建設部門全体として課題を考える構造は一貫している。
ただし令和8年では、
「観点はインフラの価値に関するものとする」
など、観点の範囲を問題文が指定するようになっている。
機械部門
機械は少し違う。
令和元年、3年は社会問題から機械技術全体を考える問題が多い。
しかし令和6年には、
機械の小型化とスケール効果
という、かなり機械工学そのものの問題が出題された。
令和8年では、
ヒューマンエラーと機械安全。
設計・製造分野における人材流動化。
など、対象や技術者の立場を指定し、
「機械部門の専門用語を交えて」
と専門性を明示的に要求している。
経営工学部門
経営工学はさらに特徴的だ。
令和元年からすでに、
JITとMRP。
事業計画。
プロジェクトリーダー。
品質不正。
CSR。
生産と物流の同期化。
など、具体的な企業・業務・事業を設定する問題が中心である。
令和8年では、
「測定の妥当性」
「業務プロセスへの影響」
「組織行動への影響」
というように、観点そのものまで問題文が指定している。
電気電子部門
そして、最も条件文が特徴的なのが電気電子である。
令和6年では、
「技術面で解答せよ」
さらに、
「人事、政策などは含まない」
と明示される。
令和8年ではさらに、
「白書や政策などを引用した解答は除く」
「AIやロボットなどの支援ツールそのものの解答は求めない」
「社会インフラを特定又は特化した解答は除く」
など、何を書いてはいけないかまで指定している。
ワトソン
「まるで推理小説で、犯人候補を一人ずつ消していくみたいだな」
ホームズ
「実に電気電子らしい問題文だ」
上下水道部門
上下水道は建設に近い。
人口減少。
国土強靱化。
水循環。
耐震化。
脱炭素。
といった社会・政策テーマを扱う。
しかし答案では、
「上下水道に共通する課題」
という条件が繰り返し課される。
令和6年では、
「技術面の課題」
と明示され、令和8年では、
「分散型システムの導入を前提」
「人や費用の確保は除く」
と、解決策や課題の方向まで限定されている。
5.では、8年間で何が変わったのか?
ワトソンはしばらく黙って問題文を見比べた。
ワトソン
「ホームズ、分かった気がする」
ホームズ
「聞こう」
ワトソン
「問題の形式は変わっていない。しかし、答案を書く自由度が狭くなっているんじゃないか?」
ホームズは笑った。
ホームズ
「その推理には私も同意する」
今回の5部門比較から見ると、
試験そのものが専門知識試験へ変化した
と表現するのは正確ではない。
経営工学のように、令和元年からすでに専門的だった部門もある。
より正確なのは、
問題文が、受験者に「その部門の技術者らしい答案」を書かせるための条件を、以前より具体的に与えるようになった
ということである。
観点を指定する。
対象を指定する。
技術者の立場を指定する。
専門用語を要求する。
人事や政策を除外する。
AIなどの万能ツールを除外する。
解決策の方向を指定する。
これらはすべて、
一般論へ逃げることを防ぐ仕組み
と見ることができる。
6.「キーワードを覚えれば書ける」が危険になっている
ワトソン
「それなら、人口減少、DX、脱炭素、人材不足あたりの答案を何本か覚えておけば……」
ホームズ
「それこそ、問題文が仕掛けた罠にかかる方法だ」
例えば人口減少という同じテーマでも、
建設なら社会資本の価値。
機械なら設計・製造。
電気電子なら労働時間、地理的制約、工程継続性。
上下水道なら集約型・分散型システム。
経営工学なら生産・物流や業務システム。
へ変換しなければならない。
つまり、
「人口減少の答案」というものは存在しない。
存在するのは、
「問題文の条件に合わせて、人口減少を各技術部門の問題へ変換した答案」
である。
7.令和9年度対策で最も重要なこと
では、令和9年度に向けて何をすべきか。
過去問の模範解答を暗記することではない。
もちろん知識は必要だ。
国の政策も知る。
専門技術も学ぶ。
頻出テーマも整理する。
しかし、その知識を、
問題文が指定した条件の中へ配置する訓練
が必要になる。
問題文を読んだら、
何を求めているのか。
何を除外しているのか。
誰の立場なのか。
どの範囲で考えるのか。
観点は自由なのか、指定されているのか。
専門用語は求められているのか。
解決策の前提条件はあるのか。
そこを先に読む。
ホームズ
「問題文には、答えそのものは書かれていない。しかし、答えの範囲はかなり書かれている」
8.過去問研究の目的も変えた方がよい
ワトソン
「つまり、過去問から『来年は何が出るか』だけを予想するのではない?」
ホームズ
「むしろ、そちらの方が危険だろうね」
令和9年度に、
DXが出る。
人口減少が出る。
脱炭素が出る。
防災が出る。
それを当てることは難しい。
しかし、
どのような形で問題文が受験者を縛るのか
は研究できる。
そして令和元年から令和8年までを見る限り、
「テーマを知っているか」
より、
「条件に従って技術課題へ変換できるか」
がますます重要になっている。
これは令和9年度対策としてかなり重要な視点だと思う。
エピローグ:変わったのは問題ではなく「問い方」だった
ワトソンは4年度分の問題を重ねた。
ワトソン
「最初は、令和元年と令和8年を比べても、あまり変わっていないと思った」
ホームズ
「その観察は最後まで正しかった」
ワトソン
「でも、変化がないわけではなかった」
ホームズ
「そうだ」
技術士二次試験の必須問題は、
令和元年から令和8年まで、
基本構造そのものは大きく変わっていない。
合格率にも、制度変更による劇的な変化は見られない。
しかし、
観点。
対象。
立場。
専門性。
除外条件。
解決策の方向。
といった条件は、以前より細かく設定されるようになっている。
ホームズは最後にこう言った。
ホームズ
「ワトソン君、試験委員は受験者に難しい知識を要求するだけではない。
『私はこの問題を正しく読んだ』という証拠を、答案の中に残すことを求めているんだ」
令和9年度対策で必要なのは、
過去問の答えを覚えることではない。
過去問の問い方を研究すること。
そこに、これからの技術士二次試験対策の重要な手掛かりがある。
そして次回からは、
建設。
機械。
経営工学。
電気電子。
上下水道。
それぞれの部門について、令和元年から令和8年までの変化を詳しく追っていこう。
ホームズの捜査は、まだ始まったばかりである。

【情報源】
令和元年度技術士第二次試験統計
令和3年度技術士第二次試験統計
令和6年度技術士第二次試験統計
令和元年~令和8年 技術士第二次試験問題〔建設・機械・経営工学・電気電子・上下水道部門〕
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