「技術士になるための仕組み」
プロローグ 技術士への道は一本ではない~坂戸市ベイカー街221B
ワトソン博士は、大きな紙をテーブルいっぱいに広げていた。紙の中央には、「技術士資格取得までの仕組み」と書かれている。

ワトソン
「ホームズ、技術士になるには、第一次試験に合格して、実務経験を積み、第二次試験に合格すればよいのだろう。仕組みは単純に見えるが、この図には矢印が何本もある。技術士補、修習技術者、指導技術士、監督者……。読み進めるほど分からなくなってきたよ」
ホームズ
「図が複雑なのではない。君が、試験、資格、登録、実務経験を一つのものとして見ているからだよ」
ワトソン
「同じものではないのか?」
ホームズ
「違う。技術士になるまでには、少なくとも四つの段階がある。
第一に、技術士補となる資格を得る。
第二に、第二次試験に必要な実務経験を満たす。
第三に、第二次試験の筆記試験と口頭試験に合格する。
第四に、技術士として登録する。
試験に合格しただけでは、まだ技術士を名乗ることはできない。この区別が、制度を理解する最初の鍵だ」
第一章 最初の関門は「技術士補となる資格」
ホームズ
「まず、出発点を確認しよう。技術士を目指す者は、原則として『技術士補となる資格』を得なければならない。その方法は二つある」
一つは、技術士第一次試験に合格する方法である。
もう一つは、文部科学大臣が指定した教育課程を修了する方法である。具体的には、所定のJABEE認定プログラムなどが該当する。
第一次試験の合格者と、指定された教育課程の修了者は、いずれも「修習技術者」と呼ばれる。両者は、第二次試験へ向かう出発点に立った者という意味で、制度上は同じ位置にいる。
ワトソン
「JABEE認定プログラムを修了していれば、第一次試験を受けなくてよいのだね」
ホームズ
「正確には、どのJABEE認定プログラムでもよいわけではない。文部科学大臣が、第一次試験の合格と同等であると指定した教育課程でなければならない。しかも、指定される教育課程と対応する技術部門は、年度ごとに確認する必要がある」
ワトソン
「では、自分の大学や学科がJABEE認定だった記憶だけで判断してはいけないわけか」
ホームズ
「そのとおりだ。修了年度、プログラム名、指定部門を公式資料で照合する必要がある」
第二章 第一次試験は誰でも受験できる
ワトソン
「大学で工学を学んでいない者は、第一次試験を受けられないのか?」
ホームズ
「それも誤解だ。第一次試験には、年齢、学歴、国籍、業務経歴による受験制限がない。学生でも、若手技術者でも、異なる分野から技術者を目指す者でも受験できる」
第一次試験は、一般部門の二十技術部門について実施される。試験は五肢択一式のマークシート方式であり、次の三科目から構成される。
基礎科目では、科学技術全般にわたる基礎知識が問われる。
適性科目では、信用失墜行為の禁止、秘密保持、公益確保、資質向上など、技術士法第四章に定められた技術士等の義務に関する理解が問われる。
専門科目では、受験者が選択した一つの技術部門について、基礎知識と専門知識が問われる。
ワトソン
「第一次試験は、専門知識だけの試験ではないのだね」
ホームズ
「むしろ、そこが重要だ。技術士制度は、単に計算ができる者や技術用語を知っている者を選ぶ制度ではない。科学技術の基礎、専門分野の知識、技術者としての倫理を備えていることを確認している」
ワトソン
「第一次試験に合格すると、直ちに技術士補になるのか?」
ホームズ
「ならない。第一次試験に合格すると、『技術士補となる資格』を得る。技術士補という名称を使用するには、別途、日本技術士会への登録が必要だ。資格を得ることと、登録して名称を使用できることは別である」
第三章 「修習技術者」と「技術士補」は同じではない
ワトソン
「ここが最も紛らわしい。修習技術者と技術士補は何が違うのだ?」
ホームズ
「修習技術者は、第一次試験に合格した者、または指定された教育課程を修了した者の総称だ。一方、技術士補は、その資格を持つ者が登録を受けた場合に使用できる名称独占資格である」
したがって、次の関係になる。
第一次試験に合格する、または指定教育課程を修了する。
その結果、修習技術者となり、技術士補となる資格を得る。
さらに登録を行った者だけが、技術士補を名乗ることができる。
ワトソン
「第二次試験を受けるには、必ず技術士補に登録しなければならないのか?」
ホームズ
「必須ではない。技術士補に登録しなくても、後で説明する経路二または経路三によって、第二次試験の受験資格を満たすことができる」
ワトソン
「では、技術士補登録は何のためにある?」
ホームズ
「技術士補として指導技術士を補助しながら、体系的に能力を身につける経路を選ぶためだ。また、登録後は『技術士補』という名称を正式に使用できる。ただし、登録には指導技術士などの要件がある。単に第一次試験に合格したという理由だけで、自動的に登録されるわけではない」
第四章 第二次試験までの三つの経路
ホームズ
「それでは、ふたたび制度全体を図で確認しよう」

ホームズ
「図の中央に三本の矢印があるだろう。これが、第二次試験の受験資格を得るための三つの経路だ。一般部門では、いずれか一つを満たせばよい」
経路一 技術士補として、指導技術士の下で経験を積む
技術士補として登録した後、指導技術士を補助し、通算四年を超える実務経験を積む経路である。
指導技術士は、原則として技術士補と同じ技術部門の技術士である。受験申込みの際には、指導技術士による実務経験の証明が必要となる。
ワトソン
「典型的な師弟制度のようなものだね」
ホームズ
「その理解は半分だけ正しい。単に年数を過ごすのではない。技術士の指導の下で、計画、研究、設計、分析、評価などの業務に携わり、技術士として必要な能力を段階的に身につけることが目的だ」
経路二 職務上の監督者の下で経験を積む
技術士補となる資格を得た日以後、職務上の監督者の下で、科学技術に関する専門的応用能力を必要とする業務に通算四年を超えて従事する経路である。
監督者は、必ずしも技術士である必要はない。ただし、受験者の業務を実質的に監督し、能力形成の過程を確認できる者でなければならない。
受験申込みでは、監督者要件証明書と監督内容証明書が必要になる。
ワトソン
「技術士が社内にいない企業でも、この経路なら進める可能性があるのだね」
ホームズ
「そうだ。ただし、『上司がいたから四年』では足りない。どのような修習計画を立て、どの業務を経験し、監督者がどのように指導・確認したかを説明できなければならない」
経路三 七年を超える実務経験を積む
科学技術に関する専門的応用能力を必要とする業務に、通算七年を超えて従事する経路である。
この経路では、技術士補となる資格を得る前の実務経験も算入できる。指導技術士や監督者の下で経験したことは必須条件ではない。
ワトソン
「つまり、長年実務を経験した中堅技術者には、この経路が使いやすいのか」
ホームズ
「可能性は高い。ただし、勤続年数と実務経験年数は同じではない」
ワトソン
「どういうことだ?」
ホームズ
「第二次試験の対象となるのは、科学技術に関する専門的応用能力を必要とする業務だ。公式には、計画、研究、設計、分析、試験、評価、またはこれらに関する指導などが示されている。単なる定型作業や補助作業の年数を、そのまま七年間として扱えるとは限らない」
三つの経路の要件は、受験申込みを行う時点で満たしている必要がある。一般部門では、経路一と経路二は通算四年を超える期間、経路三は通算七年を超える期間が基準となる。
なお、大学院における所定の研究経歴は、二年を限度として実務経験期間から短縮できる場合がある。また、経路一と経路二の期間を合算し、通算四年を超える実務経験として扱うこともできる。
第五章 第一次試験と第二次試験の部門は一致しなくてもよい
ワトソン
「私は第一次試験で建設部門に合格した。第二次試験も建設部門を受けなければならないのか?」
ホームズ
「その必要はない。技術士補となる資格を持つ者は、第一次試験で合格した技術部門に限らず、一般部門の他の技術部門を受験できる」
例えば、第一次試験を建設部門で合格した者が、その後の実務経験に基づいて、第二次試験では応用理学部門や環境部門などを選択することも制度上は可能である。
ワトソン
「では、第一次試験の部門選択は、それほど重要ではないのか?」
ホームズ
「制度上の拘束はない。しかし、試験対策上は無関係ではない。第一次試験で学んだ専門知識と、現在の実務分野が一致している方が、第二次試験までの学習はつながりやすい。制度上できることと、戦略上適切なことは分けて考える必要がある」


第六章 第二次試験は「実務能力」を判定する
ホームズ
「受験資格を満たすと、ようやく第二次試験を受験できる。ここからは、知識を覚えただけでは通用しない」
一般部門の第二次試験は、筆記試験と口頭試験からなる。
筆記試験では、必須科目と選択科目が課される。
必須科目では、受験する技術部門全般に関する専門知識、応用能力、問題解決能力、課題遂行能力が問われる。
選択科目では、選択した専門分野について、専門知識と応用能力に加え、具体的な業務遂行、問題解決、課題遂行の能力が問われる。
筆記試験の合格者だけが、口頭試験へ進む。口頭試験では、提出した業務経歴や実務経験を踏まえ、技術士としての実務能力、コミュニケーション、リーダーシップ、技術者倫理、継続研さんへの取組などが確認される。
ワトソン
「第二次試験は、専門知識の確認だけではないのだね」
ホームズ
「むしろ本質は、知識を使って現実の問題を処理できるかどうかだ。複合的な問題を把握し、背景要因と制約要因を分析する。多角的な視点から複数の選択肢を考える。ステークホルダーの意見を踏まえ、相反する要求事項を調整する。そして、合理的な解決策を提案する。これが技術士に求められる能力だ」
令和八年度の第二次試験からは、改訂された「技術士に求められる資質能力」に基づいて評価される。ただし、公式案内では、筆記試験と口頭試験の試験内容そのものに変更はないとされている。
第七章 第二次試験合格は「技術士となる資格」の取得
ワトソン
「口頭試験に合格すれば、その日から技術士を名乗れるのだろう?」
ホームズ
「まだだ。第二次試験に合格すると得られるのは、『技術士となる資格』である。その後、日本技術士会に登録申請を行い、技術士登録簿への登録を受けて、初めて技術士を名乗ることができる」
つまり、次の二つは異なる。
第二次試験合格者は、技術士となる資格を持つ者である。
技術士は、その資格に基づいて正式な登録を受けた者である。
登録前に「技術士」という名称を使用してはならない。技術士は名称独占資格であり、登録を受けた者だけが、その名称を使用できる。
ワトソン
「合格がゴールではなく、登録によって制度上の技術士になるわけだ」
ホームズ
「そのとおりだ。そして、登録した瞬間に完成するわけでもない」
第八章 CPDは資格取得後に始まる
図の右側には、技術士から「CPD(継続研鑚)」へ向かう矢印が描かれている。
CPDとは、技術者として必要な知識や能力を維持し、向上させるための継続的な学習活動である。
技術は変化する。法令も、社会的要求も、リスクの捉え方も変わる。したがって、試験合格時の知識だけで、生涯にわたって技術士としての責任を果たすことはできない。
ワトソン
「では、一定時間のCPDを行えば、自動的に国際資格が与えられるのか?」
ホームズ
「そこは図だけでは誤解しやすい。CPDを続ければ、自動的にAPECエンジニアやIPEA国際エンジニアになるわけではない。これらは、技術士資格、実務経験、CPD実績など、各制度の要件を満たした上で、別途申請し、登録を受ける制度だ」
したがって、図の「技術士―CPD―国際的な技術者資格」という流れは、能力形成の方向を示したものと理解すべきである。国際資格への自動的な昇格を表すものではない。
エピローグ 試験ではなく、能力形成の道筋を見る
ワトソン
「整理できたよ、ホームズ。
第一次試験に合格するか、指定教育課程を修了して、技術士補となる資格を得る。
次に、三つの経路のいずれかで必要な実務経験を満たす。
その後、第二次試験の筆記試験と口頭試験に合格する。
最後に登録して、初めて技術士を名乗ることができる。
こういうことだね」
ホームズ
「そのとおりだ。しかし、この制度を単なる受験手続として眺めてはいけない」
ワトソン
「どういう意味だ?」
ホームズ
「第一次試験は、技術者としての基礎を確認する段階だ。実務経験は、その基礎を現実の業務で応用する段階である。第二次試験は、その経験を通じて、技術士として必要な判断力を身につけたかを確認する。そして登録後は、CPDによって能力を維持・向上させる。
つまり、この仕組みは試験の順番ではない。技術者が専門家として成長し、社会に対する責任を担うまでの能力形成の道筋なのだよ」
ワトソン
「仕組みは分かった。しかし、実際にはいつ第一次試験を受け、いつから第二次試験の準備を始めればよいのだろう。必要な学習期間も気になるな」
ホームズ
「それが次の事件だ。制度上の最短経路と、合格するための最適経路は一致しない。後編では、受験時期から逆算し、第一次試験、実務経験、第二次試験対策をどのように配置するか。『試験対策のロードマップ』を組み立てることにしよう」
――後編「技術士試験に合格するためのロードマップ」へ続く。
【以下は注意事項】
第一次試験は、年齢、学歴、業務経歴等による受験制限がありません。
第一次試験合格者と、文部科学大臣が指定した教育課程の修了者は、技術士補となる資格を有します。
一般部門の第二次試験には、四年を超える実務経験を必要とする二つの経路と、七年を超える実務経験を必要とする経路があります。
第二次試験は、筆記試験と、筆記試験合格者を対象とする口頭試験で構成されます。
第二次試験に合格しただけでは技術士を名乗れず、登録を受ける必要があります。
直令和8年の合格率データは、現時点(R08・7・20)時点で確認できていないため、本文には記載していません。

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。
【主な活動と特徴】
・イベントの開催: 毎年春と秋の「全国大会」のほか、東京や軽井沢でのセミナー、月例会などを開催しています。
・出版物の発行: 機関誌『ホームズの世界』や研究書の出版、関連事典の制作協力などを行っています。
・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。





