【技術士試験】ホームズの推理:技術士二次試験の勉強は何から始めればよいのか?

―参考書を開く前に、まず「試験そのもの」を調べる

第一章 坂戸市ベイカー街221Bに積まれた参考書

十月の朝だった。

坂戸市ベイカー街221Bの居間で、私は紙袋を二つ抱えていた。

もちろん、坂戸市にベイカー街221Bなどという住所はない。それでもホームズは、いまさら訂正する気などないらしい。

袋の中身を机へ広げる。

技術士試験の参考書。

キーワード集。

白書。

論文対策本。

ノート。

さらに新しい筆記具まで買ってある。

ホームズは、それらを一瞥した。

ワトソン博士

「どうだい。いよいよ私も技術士二次試験の勉強を始めることにした」

シャーロック・ホームズ

「それは結構だ」

「そこで一つ相談がある。最初はどの参考書から読めばいい?」

「読まない」

私は耳を疑った。

ワトソン

「何だって?」

ホームズ

「少なくとも、それが最初ではない」

「ではキーワードを覚えるのか?」

「まだ早い」

「論文を書く?」

「もっと早い」

私は椅子へ腰を下ろした。

ワトソン

「では、技術士二次試験の勉強は何から始めればいいんだ?」

ホームズは机に積まれた参考書には触れず、一枚の紙を取り上げた。

過去問題だった。

ホームズ

「まず、君がこれから何を要求されるのかを調べるんだよ」

第二章 勉強を始める前に「試験の地図」を見る

技術士二次試験の勉強を始めよう。

そう思ったとき、多くの受験者が最初にすることがある。

参考書を買う。

専門書を読む。

キーワードを集める。

最近の政策を調べる。

もちろん、どれも必要になる。

だが、その前にやることがある。

試験の仕組みを知ることだ。

日本技術士会によれば、総合技術監理部門を除く20技術部門の第二次試験では、筆記試験として必須科目Ⅰと選択科目Ⅱ・Ⅲが課される。

必須科目Ⅰでは技術部門全般の専門知識、応用能力、問題解決能力、課題遂行能力が問われる。選択科目Ⅱでは専門知識と応用能力、Ⅲでは問題解決能力と課題遂行能力が対象となる。筆記試験合格者には、その後、口頭試験がある。

ワトソン

「つまり最初に試験科目を暗記するのか?」

ホームズ

「暗記する必要はない。何を試される試験なのか理解するんだ」

ここは大きな違いだ。

技術士二次試験は、専門知識をどれだけ蓄えたかだけを見る試験ではない。

知識を使って、

問題を把握する。

課題を設定する。

解決策を示す。

実行後の影響まで考える。

そうした能力を答案として示す試験である。

それを知らずに勉強を始めれば、知識を増やすこと自体が目的になってしまう。

第三章 最初に参考書を読むと「全部重要」に見える

私は机の一番上にあった参考書を持ち上げた。

ワトソン

「しかし、何も知らないんだから、まず勉強するしかないだろう?」

ホームズ

「君は事件の依頼を受ける前に、ロンドン中の犯罪記録を暗記するのかね?」

「そんなことはしない」

「なぜ?」

「どんな事件か分からないからだ」

ホームズは満足そうに頷いた。

参考書を最初のページから読む。

すると、困ったことが起こる。

全部重要に見えるのだ。

DX。

カーボンニュートラル。

国土強靱化。

人口減少。

維持管理。

生成AI。

防災。

人材育成。

どれも技術士試験に関係しそうに見える。

だからノートへ書く。

覚える。

さらに別の参考書を読む。

知識は増える。

だが、

「この知識を、どんな問題で、どのように使うのか」

が分からない。

これは勉強量が増えるほど厄介になる。

第四章 技術士二次試験の勉強は「過去問を解く」ことから始めなくてよい

では最初に過去問を解くのか。

これも少し違う。

初学者にいきなり答案を書かせても、手が止まる可能性が高い。

まず過去問を読む。

できれば直近数年分を並べる。

そして、解こうとせずに調べる。

何を聞いているのか。

設問はいくつあるのか。

課題はいくつ求められるのか。

観点を明記する必要があるのか。

解決策は一つか、複数か。

リスクまで要求されているか。

どんな条件が付いているか。

ワトソン

「問題を解かないなら、過去問をやったことにならないじゃないか」

ホームズ

「君は事件現場へ到着した瞬間に逮捕状を書くのか?」

「まず調べる」

「試験でも同じだよ」

過去問は、最初から実力試験として使わなくてよい。

まずは、

出題者が何を求めているかを知る資料

として使う。

この段階なら、答えが書けなくても何の問題もない。

第五章 令和元年度以降を並べると、試験の輪郭が見える

技術士二次試験の現在の制度を研究するなら、令和元年度以降の問題は重要な資料になる。

そして最新年度だけでなく、数年分を比較する。

なぜか。

同じ技術部門でも、年度によってテーマは変わる。

だが、設問の骨格には継続性がある。

一方で、条件の与え方は次第に細かくなることがある。

観点を指定する。

人的資源や予算を条件とする。

解答範囲を限定する。

専門技術を踏まえるよう求める。

そうした変化を見れば、

「何を覚えればよいか」

より先に、

「どんな思考を練習すればよいか」

が見えてくる。

ホームズ

「過去問の題材を数えるだけなら、表計算ソフトにもできる。君が見るべきなのは、問題の癖だ」

過去問は未来のテーマを当てるためだけの道具ではない。

試験委員から受験者への要求を読むための記録なのである。

第六章 次にやるのは「知らない言葉を全部覚えること」ではない

過去問を何年分か読めば、知らない言葉が大量に出てくる。

ここで第二の罠が待っている。

全部調べ始めることだ。

ワトソン

「知らないんだから、調べるのは当然だろう?」

ホームズ

「優先順位を付けずにね?」

例えば過去問を見て、

複数年度に関連する概念。

自分の選択科目で基本となる技術。

最近の制度改正。

問題文の背景となる政策。

解決策として頻繁に使う技術。

こうしたものから整理する。

その方が効率はよい。

一度しか見たことのない周辺用語を、最初から細部まで覚える必要はない。

勉強を始めたばかりの時期に必要なのは、

知識の倉庫を満杯にすることではなく、棚を作ること

なのである。

どこに何を置くか。

それが分かれば、その後の知識が整理しやすくなる。

第七章 キーワードは「覚える」のではなく「答案で使える形」にする

では、専門キーワードはどう勉強するのか。

単語と意味だけを覚える方法には限界がある。

例えば、

「デジタルツイン」

という言葉を知っている。

定義も説明できる。

それだけでは技術士答案で十分とは限らない。

何を対象にするのか。

どんなデータを取得するのか。

何を再現するのか。

その結果、どんな判断が可能になるのか。

どの課題を解決するために使うのか。

そこまで整理して初めて、答案で使える知識になる。

ワトソン

「単語カードでは駄目なのか?」

ホームズ

「薬の名前と効能だけを覚えても、どの患者に処方するか分からなければ困るだろう」

また私の職業を利用された。

しかし今回はもっともだった。

技術士二次試験の勉強法では、

キーワード→定義

で終わらず、

キーワード→用途→効果→留意点→使える課題

までつなげておく。

こうすると知識が答案へ変わる。

第八章 知識が少ないうちから「骨子」を作る

ここでようやく、答案作成へ近づく。

だが、いきなり三枚の論文を書く必要はない。

まず骨子を作る。

問題文を読む。

観点を考える。

課題を三つ出す。

最重要課題を決める。

解決策を並べる。

新たなリスクを考える。

文章として完成していなくてよい。

箇条書きで構わない。

ワトソン

「知識が十分に増えてから骨子を作った方がよくないか?」

ホームズは即座に首を振った。

ホームズ

「十分とはいつだ?」

私は答えられない。

そうなのだ。

知識が揃うのを待っていたら、いつまでも答案を書き始められない。

むしろ骨子を作って、

「ここが書けない」

「この解決策の技術知識がない」

と気付く。

そこで初めて必要な知識を調べる。

これなら勉強対象が明確になる。

過去問→骨子→不足知識→調査

という循環を作るのである。

第九章 答案は「勉強が終わってから書くもの」ではない

受験者の中には、

「まず知識を身につけて、試験直前になったら論文を書く」

という人がいる。

気持ちは分かる。

答案を書くのは苦しい。

知識不足が露呈する。

思ったほど書けない。

だから後回しにしたくなる。

しかし、ここに大きな問題がある。

答案を書くことでしか発見できない弱点があるのだ。

頭では分かっている。

ところが文章にするとつながらない。

課題は書けたが解決策が出ない。

解決策は三つあるが、全部同じような内容になる。

リスクが思いつかない。

これは参考書を読んでいるだけでは見つかりにくい。

ホームズ

「推理が正しいかどうかは、頭の中に置いて眺めているだけでは分からない。外へ出して検証する必要がある」

『シャーロック・ホームズの思考術』でも、観察した事実から仮説を立て、それを検証していく過程が重視されている。技術士試験の学習でも、自分の考えを骨子や答案へ外在化することで、初めて欠落が見える。

第十章 令和8年度からコンピテンシーは改訂されたが、勉強の軸は変わらない

現在の受験対策では、令和8年度から適用された改訂コンピテンシーも確認しておきたい。

日本技術士会によれば、コンピテンシーは令和5年に改訂され、令和8年度の第二次試験から改訂後の内容が適用されている。

ただし、試験問題や口頭試験の内容については、現行方式ですでに改訂内容へ対応できているとして、試験内容そのものは変更されていない。

ここは重要だ。

ワトソン

「では新しいコンピテンシーを丸暗記すればいい?」

ホームズ

「また暗記へ戻るのかい?」

名称を覚えるだけでは意味がない。

例えば問題解決なら、

複合的な問題を把握する。

背景や制約を分析する。

複数の解決案を考える。

合理的な案を選ぶ。

実施後を評価する。

それを答案の中でどう見せるかを考える。

コンピテンシーは別科目ではない。

答案を見るための物差しとして使う方がよい。

第十一章 生成AIは「最初の答え」を作らせるより、途中で使う

最近なら、ChatGPTなど生成AIを技術士二次試験の勉強に使う人も増えているだろう。

ここでも順番が重要になる。

問題文を入力する。

「模範解答を作ってください」

これを最初にやると、勉強すべき部分をAIが先に済ませてしまう。

観点。

課題。

優先順位。

解決策。

全部である。

それより、

自分で骨子を作った後、

「この三課題は本当に多面的か」

「この解決策では何が不足しているか」

「反対の立場から批判してほしい」

と使う。

ワトソン

「答えを聞くより、反論を聞くわけだ」

ホームズ

「優秀な助手とは、主人の意見に何でも賛成する者ではないからね」

生成AIは知識整理には強い。

比較にも強い。

不足論点を出させるのにも使える。

だが最初の推理だけは、なるべく自分で行う。

そうしておかないと、本番で最初の一行が書けなくなる。

第十二章 勉強開始から最初の一か月をどう使うか

ここまでを実際の勉強へ落としてみよう。

最初の一週間。

試験制度を見る。

自分の技術部門・選択科目を確認する。

過去問を数年分読む。

まだ全文答案は書かなくてよい。

二週目。

頻出する論点を整理する。

知らない基礎技術を調べる。

政策やガイドラインも、過去問との関係が深いところから読む。

三週目。

骨子を作り始める。

一問三十分でもよい。

そして四週目。

一部の問題について、実際に答案を書く。

ワトソン

「一か月で完成するのか?」

ホームズ

「まさか。完成するための勉強ではない。正しい方向へ走り始めるための一か月だ」

この考え方は重要である。

最初から完成答案を書こうとすると苦しい。

むしろ一か月目の目的は、

自分が何を知らないのかを知ること

と考えればよい。

そこから勉強は具体的になる。

第十三章 参考書を開くのは、それからでも遅くない

夕方になっていた。

朝から机の上に積んであった参考書は、まだ一冊も開かれていない。

私は最初、それが妙に気になっていた。

だが今は違う。

令和8年度の問題。

前年の問題。

さらにその前。

そこには付箋が貼られている。

「この技術を調べる」

「課題の違いを見る」

「解決策が弱い」

「リスク再検討」

そう書いてある。

ワトソン

「ホームズ。ようやく参考書を読んでもいいか?」

「もちろん」

「朝とはずいぶん話が違うじゃないか」

ホームズ

「朝の君は、何を探すのか知らずに本を開こうとしていた。今は探し物が分かっている」

私は一冊を開いた。

さっきまでなら第一章から読み始めていただろう。

今度は索引を見る。

必要な項目を探す。

数ページ読む。

過去問へ戻る。

なるほど。

勉強の景色が違って見えた。

『シャーロック・ホームズの冒険』のホームズは、目の前にある事実を漫然と眺めるのではなく、何を調べるべきかを絞り込み、そこから推理を進める。

技術士試験の勉強も、同じなのかもしれない。

参考書。

白書。

専門書。

過去問。

生成AI。

道具はいくらでもある。

だが、道具を集めることが捜査ではない。

私は過去問の余白へ、一つ書き込んだ。

「なぜ、この課題なのか」

ホームズはそれを横から見ていた。

ホームズ

「今度はいい質問から始めたね、ワトソン君」

机の上の参考書の山は、朝より少し低く見えた。

私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。

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この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

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