目次
~具体性がコンピテンシーを証明する。最強の「型」をインストールせよ~
プロローグ:「解像度」の低い答案は落とされる
~坂戸市、ベイカー街221B。前編からの続き~
ワトソン博士
「さてホームズ、前編で『一文一意』の原則と、『課題抽出』における抽象論の排除について学んだ。
いよいよ論文の心臓部である『解決策』、そして『リスク』と『効果』の書き方だね」
シャーロック・ホームズ
「ああ。ここから先は、君の『専門的学識』や『マネジメント能力』が直接問われる主戦場だ。
多くの受験生は、ここで『解像度の低さ』という病に倒れる。
言葉を知っているだけで、現場でそれがどう動くのか(メカニズム)を記述できないのだ。さっそく悪文を見ていこう」
第5章:【解決策】逃げの言葉を捨て、プロセスを描け
「解決策における最悪のパターンは、前編でも触れた『適切に・連携して・推進する』という念仏だ(悪文6)。
そしてもう一つが、『手段(ツール)』を『解決策』だと勘違いしているケースだ」
【悪文5:手段の目的化】
BIM/CIMやAI等を活用して高度化を図る。
【悪文6:間違いではないが、内容が薄すぎる】
老朽化対策として、点検、補修、更新を実施する。
【悪文7:抽象論の極み】
防災力向上のためハード対策とソフト対策を進める。
ワトソン
「うーん、言われてみれば、これでは『包丁を使って美味しい料理を作ります』と言っているのと同じだな。どう美味しいのか、どう切るのかが分からない」
ホームズ
「その通り。技術士に求められるのは、そのツールを使って『どういうプロセスで、何のボトルネックを解消するのか』という具体論だ。
改善例を見てみたまえ」
【解決策の改善例(抜粋)】
・BIM/CIMに設計・施工・維持管理情報を集約し、補修履歴を一元管理する。これにより、点検結果の共有と更新時期の判断を迅速化する。(改善例5)
・まず、重要度と健全度に基づき施設をランク分けする。次に、緊急度の高い施設から点検頻度を引き上げ、補修と更新を段階的に実施する。(改善例6)
・ハード対策として排水ポンプ場を増強する。ソフト対策として、浸水想定区域図の周知と避難訓練を実施する。両者を組み合わせ、浸水被害の軽減を図る。(改善例7)
ホームズ
「改善例には、明確な『手順(まず~次に~)』と『具体的なアクション(一元管理する、ランク分けする、増強する)』が描かれている。
これこそが、限られた資源を最適に配分する『マネジメント』であり、実行への道筋を示す『リーダーシップ』の証明となるのだ」
第6章:【リスク】「様々なおそれ」という思考停止
ワトソン
「次は『リスク』だね。新しいコンピテンシーでも、リスクへの対応(評価・マネジメント)は非常に重視されている。
悪文8の『悪影響を及ぼすおそれがあるため注意が必要である』や、悪文9の『新技術の導入には様々な課題とリスクがある』というのは……私でも分かるぞ。具体性がゼロだ!」
ホームズ
「ご名答。リスクを語る際、『可能性がある』『様々なリスクがある』『反対されるかもしれない』といった言葉は、一切の思考を停止している証拠だ。
リスク・マネジメントの基本は、『原因』と『発生する事象』を特定し、それに対する『予防策(または対応策)』をセットで提示することだ」
【リスクの改善例(抜粋)】
・山留め掘削では、周辺地盤の変位により近接建物に不同沈下が生じるリスクがある。そのため、壁体変位、地表面沈下、建物傾斜を継続計測する必要がある。(改善例8)
・AIによる画像診断を導入する場合、学習データが偏ると誤判定リスクが生じる。そのため、現場確認と組み合わせて診断精度を検証する必要がある。(改善例9)
ホームズ
「『悪影響』という言葉を『近接建物の不同沈下』へ、『様々なリスク』を『学習データの偏りによる誤判定』へと、極限まで解像度を上げている。
試験委員は、君が『現場のリアルな恐ろしさ(負の側面)』をどれだけ鮮明に想像できているか(評価のコンピテンシー)を見ているのだよ」
第7章:【効果】「期待できる」という無責任を排除せよ
ワトソン
「最後は『効果』だな。
悪文10の『事業の効率化と高度化が期待できる』や、悪文11の『住民理解の促進が期待される』。
これも、結果に至るプロセスがすっぽり抜けているわけだね」
ホームズ
「そうだ。さらにタチが悪いのは『期待できる』という無責任な末尾だ。
自分が提案した解決策なのだから、『~という結果をもたらす(~できる)』と論理的に断言すべきだ。
効果を記述する際は、『原因(施策)』→『直接的な変化(一次効果)』→『最終的なメリット(波及効果)』という三段論法を使うのが最も美しい」
【効果の改善例(抜粋)】
・点検記録をデジタル化すれば、現場写真と劣化位置を即時共有できる(一次効果)。その結果、報告書作成時間を短縮し、補修判断を迅速化できる(波及効果)。(改善例10)
・ハザードマップと説明会を実施すれば、住民は自宅周辺のリスクを具体的に把握できる(一次効果)。その結果、避難開始の遅れを減らし、人的被害の低減につながる(波及効果)。(改善例11)
ホームズ
「『デジタル化したから効率化する』と一足飛びに書くのではなく、『即時共有できるから、作成時間が短縮する』とメカニズムを説明する。
これが、公用文の掟が求める『論理の飛躍をなくす』ということなのだ」
エピローグ:勝利を約束する「黄金の4大テンプレート」
ワトソン
「素晴らしい……! すべての悪文が、公用文のルール(短く、一文一意、具体的に)を適用するだけで、コンピテンシーの塊のような名文に生まれ変わったよ!」
ホームズ
「そうだろう? 最後に、君が提示してくれた資料の最後にある、究極の結論をまとめよう。
技術士試験において、凝った文学的な表現など百害あって一利なしだ。
読んですぐに意味が取れる『論理の型』こそが、最強の武器となる。試験本番では、この『黄金の4大テンプレート』に、自分の専門知識を流し込むだけでいい」
【ホームズ認定:技術士論文・黄金のテンプレート】
課題抽出の型
「〇〇の確立(または〇〇の解消)が課題である。理由は△△という制約(背景)があるためである。」
解決策の型
「まず〇〇を実施する。次に△△を行う。その上で、□□の体制を構築する。」
(※時間軸や優先順位を明確にする)
リスクと対策の型
「本解決策の実行には、〇〇により△△(具体的な負の事象)が生じるリスクがある。そのため、□□(予防・対応策)を実施する必要がある。」
効果の型
「本施策により〇〇(直接的な変化)が可能となる。その結果、△△(最終的な目的・波及効果)の実現につながる。」
ホームズ
「ワトソン君。文章の乱れは、思考の乱れだ。
公用文の掟に則り、一文一文を短く、鋭く研ぎ澄ませたまえ。
そうすれば、君の解答用紙は単なる文字の羅列から、試験委員を唸らせる『緻密な設計図(コンピテンシーの証明書)』へと昇華するはずだ。健闘を祈るよ!」








