建設部門必須過去問題のテーマ:【令和元年防災問題】の課題と解決策

巨大災害の爪痕

建設部門・令和元年の防災に関する問題から課題を抽出

今回は、令和元年のⅠ-2

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令和元年-建設部門:必須・Ⅰ-2


我が国は、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象に起因する自然災害に繰り返しさいなまれてきた。
自然災害への対策については、南海トラフ地震、首都直下地震等が遠くない将来に発生する可能性が高まっていることや、気候変動の影響等により水災害、土砂災害が多発していることから、その重要性がますます高まっている。
こうした状況下で、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土強靭化」(ナショナノレ・レジリエンス)を推進していく必要があることを踏まえて、以下の問いに答えよ。

( 1 )ハード整備の想定を超える大規模な自然災害に対して安全・安心な国土・地域・経済社会を構築するために、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。

まずは、10個ほど課題を抽出する。
解答を考える際は、どの課題なら自分の専門分野に近いところで、解決策を書けるのか? これをよく考えて欲しい。
また、10個もあるので、課題の組み合わせによっては、多面的に見えなくなる。概ね3つの課題を選択する人がほとんどだと思われるが選択するときは、多面的に見えるように注意して選ぶ必要がある。

ハード整備の想定を超える大規模な自然災害に対して安全・安心な国土・地域・経済社会を構築するために解決すべき課題は以下。

情報の観点⇒防災情報の伝達が課題
災害時には、迅速で正確な情報伝達が必要である。しかし、通信設備の被災により、情報伝達が困難になる場合がある。ハードの想定を超える大規模な災害では、避難情報が重要な要素になる。より強固な通信システムの整備や、情報の共有化などが求められるため、解決すべき課題である。

人の観点⇒避難場所の整備・強化が課題
大規模な災害時には、多数の被災者が避難することになる。昨今は、新型コロナウイルスのこともあって、狭い場所にすし詰めという訳にはいかない。また、二次災害や三次災害を考えると、適切な避難場所を確保するために、避難を想定する建物の構造強化や、避難場所の整備などが解決すべき課題となる。

物資輸送の観点⇒輸送インフラの復旧が課題
自然災害により、道路や鉄道、港湾などの輸送インフラが被災する。熊本地震では、4月16日の被災から、一般道が開放したのは5月6日である。道路が開通しないとヘリコプターで救援物資を運ぶことになり、効率が悪い。強靱な輸送インフラの整備と迅速な復旧を行える体制構築が解決すべき課題である。

長期化の観点⇒食料・物資の確保が課題
自然災害により、食料や物資の調達が困難になる場合がある。適切な備蓄の整備や、物資の補充体制の整備が必要となる。
備蓄食料は、個人で3日〜5日。自治体は人口×1週間分。これで10日以上を持ちこたえることが出来る。しかし、保管場所や消費期限間近の食料をどうするかなど、解決すべき課題となる。

しなやかさの観点⇒災害復旧の効率化が課題
「国土強靭化計画」は、災害に対し「強さ」と「しなやかさ」を持った安全な国土構築を目指す計画である。自然災害により、多数の建物や施設が被災する。復旧作業の効率化のために、建物や施設の被災状況の早期把握や、復旧作業の効率化技術の開発が必要である。センサー技術やドローン+AIによる画像診断などから被災状況の早期把握が可能となるよう災害復旧の効率化が課題である。

技術の観点⇒災害予測・予防技術の開発が課題
地震の予測は今のところできない。しかし、台風や豪雨、火山噴火などはある程度の信頼性で予測が可能になってきた。今後さらに、研究開発を進め、より信頼性の高い自然災害の予測や予防技術の確立・普及が求められる。地震の予測は今後もできるのか分からないが、確率的な予測モデルでもある程度の対応は可能である。現時点では、豪雨・台風などの自然災害に備え、信頼性の高い予測技術や予防技術の開発が課題である。

避難訓練の観点⇒自然災害への対応力の強化が課題
自然災害に備えるため、日頃から防災訓練が必要である。ギリギリの局面では自助が命を救う手段である。日頃から行っていないことはいざと言う時もできない。地域の災害リスクマップの作成されているか、あるいは作成されていても古くなっている場合もある。また多くの自治体で防災訓練もマンネリ化している。さらに、何時でも使えるように防災施設の整備が求められる。これらの自然災害への対応力強化が課題となる。

燃料の観点⇒災害時のエネルギー確保が課題
災害時は、停電やガソリン不足など、エネルギーの供給が困難になることが多い。東日本大震災ではまさにそうだった。エネルギーの備蓄や、再生可能エネルギーの活用などが必要となる。しかし、災害時の再生可能エネルギーには、問題も多い。例えば、太陽光発電パネルは、台風で吹き飛ばされて、システムから外れても、光が当たり始めると発電を開始する。そのため、感電や火災のリスクもある。災害時にも安全に使えるエネルギー確保が課題である。

人手不足の観点⇒専門家不足への対策が課題
自然災害が発生すると、被災地の復旧や支援に多くの人手が必要になる。しかし、人手不足とくに技術分野の専門家が不足の場合には、復旧作業の遅延する。工事車両1台でも、安全に稼働させ作業を行うには専門の技術や技能を持った人が必要になる。現在は、平時でも専門家不足が言われている、緊急時にはさらに不足することが考えられる。専門家不足への対策が課題である。

生活インフラの観点⇒ライフラインの確保が課題
災害時には、水道や電気・ガスなどのライフラインが被災する可能性が高い。適切なライフラインの確保や、復旧作業の迅速化が求められる。そのために、生活インフラの耐震性を向上させる必要がある。また、被災したさいの復旧対策も準備することが求められる。ライフラインの確保が課題となる。

(2) (1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

上で挙げた課題のそれぞれについて、解決策を考えてみる。本来は最も重要な課題を選択するのだが、それは各自が自分の受験科目や専門とする事項、日頃の業務から考えればよい。自分が、もっとも詳細に解決策を書けると思った課題を選択すればよい。
また、解決策は解決策と言うよりも、現状の弱点、強化すべき点などを挙げた。解決策は本来、解答者の専門的な業務経験と結びつけるのが良いのだから、人の解決策は参考程度にしかならない。そのつもりで読んで欲しい。

情報の観点⇒防災情報の伝達が課題
解決策のヒント=通信設備の耐震性強化や冗長性強化、クラウドステージによる災害時の情報共有化を進める。
また、通信キャリア各社は耐震基準を満たした通信設備を構築しているが、自治体は準備されていないところが多い。費用不足で耐震化できないのであれば、冗長性だけでも早期に持たせるように進める。
一方、受け手である地域住民への情報の拡散にはラジオ放送が役立つ。ラジオそのものが携帯性に優れ、電池で稼働する。防水型のものもある。停電で使えなくなるテレビと全く異なる。

人の観点⇒避難場所の整備・強化が課題
解決策のヒント通称「スフィア基準」、正式名称を『人道憲章と人道支援における最低基準』と言われる、避難所に関する国際基準がある。日本ではほとんど知られていない。災害、紛争の影響を受けた人の権利、その人たちを支援する活動の最低基準について定められている。この基準を元に、避難所の整備を進める。日本では「避難所だから我慢しなくちゃいけない」といった考えや、被災者が生活の質を求めると、「それは贅沢」と思われる風潮がある。しかし、避難所において被災者が生活の質を求めることは、けっして贅沢ではない。ある意味、命を守ることに繋がる。

物資輸送の観点⇒輸送インフラの復旧が課題
解決策のヒント道路や鉄道、港湾などの輸送インフラは耐震化工事が徐々に進められている。しかし、高速道路のミッシングリンクは、未だに接続できず、暫定2車線の高速道路は全高速道の30%に及ぶ。先進国と呼ばれる国に暫定2車線など存在せず、片側1車線しかないから、いざと言う時通行止めになる可能性が極めて高い。また、災害時の交通規制や、車両や船舶などの災害対応能力の向上も必要であり、早急に進める必要がある。

長期化の観点⇒食料・物資の確保が課題
解決策のヒント備蓄の整備や、災害時に必要な物資の種類、量の確認・確保が必要となる。また、物流システムの改善や、生産システムの多様化なども求められる。物があっても、運ぶ手段が無ければ同じ事である。特に物流(ロジスティクス)に関する考え方が日本の弱点であり、平時に冗長性を持たせたロジスティクスを「無駄」と言って、カットする考え方まである。冗長性は無駄ではない。

しなやかさの観点⇒災害復旧の効率化が課題
解決策のヒント建物や施設の被災状況の早期把握や、復旧作業の効率化技術の開発が必要となっている。この分野では、センサーによる遠隔からの現状把握や、AIの画像処理を使った、被害分析などがある。
防犯カメラがを使って、河川の水位状況の把握は行われているが、せっかくネットに繋がっているのに、危険水位に達したらサイレンを鳴らすという簡単なことがえきない。これも早急に整備を進める必要がある。被害状況が早急に掴めると、災害の復旧効率を高めることが可能となる。

技術の観点⇒災害予測・予防技術の開発が課題
解決策のヒント地震や津波、豪雨などの自然災害に備え、予測技術や予防技術の開発が求められている。地震以外は、実用レベルの確度で予測できている。しかし、大雨被害をもたらす線状降水帯の予測は始まったばかりであり、予測精度もまだ十分とは言えない。これには、衛星情報、センサー技術やAI技術などを活用した、早期警戒システムの整備や、防災施設の整備を進める必要がある。

避難訓練の観点⇒自然災害への対応力の強化が課題
解決策のヒント災害リスクマップの作成や、防災訓練の実施、防災施設の整備などがを進める必要がある。特に、企業や自治体の災害マニュアルは、10年間に作った物がそのまま使用されているなど、明らかな欠陥も見られる。また、防災訓練マンネリ化も言われおり、本当に役立つか疑問である。訓練の後には、災害マニュアルやリスクマップを見直し、PDCAサイクルを回す必要がある。

燃料の観点⇒災害時のエネルギー確保が課題
解決策のヒントエネルギーの備蓄や、再生可能エネルギーの活用などが必要となる。また、災害時のエネルギー需要に応じた設備の整備や、エネルギー供給の確保も重要となる。東日本大震災では、自家発電設備を持つ病院が、石油燃料の備蓄不足で発電が出来なかった事例もある。再生可能エネルギーは、条件が揃わないと、利用できないことを考え、エネルギー確保を進める。

人手不足の観点⇒専門家不足への対策が課題
解決策のヒント災害時に必要な専門人材の確保や、専門家の育成の充実が必要である。また、地域住民の協力体制の整備なども必要である。
特に専門家の育成には時間もかかるため、急務となっている。

生活インフラの観点⇒ライフラインの確保が課題
解決策のヒント水道やガスなどのライフラインの被災時の復旧を早急に行うためには、災害時のライフライン整備計画の策定や、設備の耐震性や防災性の向上が求められている。
水道の基幹管路は耐震化合格率41.2%(令和3年)、浄化施設は39.2%と心許ない。

まとめ

まとめ

以上、防災テーマの問題で、10個の課題を抽出し、その課題に対し、解決策のヒントを挙げてみた。
何度も言うが、解決策はその人の専門、解答者の詳しい分野に展開すべきだから、分野が異なれば、上記の解決策に違和感があるかもしれない。それは、全く構わない。読者である皆さんが、自分でしっくりくる解決策を見つけて頂ければそれでよい。

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