技術士試験で合格できる論文を作成するために ~実践編~

二次試験の解答論文を書く際にはこれらの内容を頭にいれて書きましょう!

合格できる論文を書くためには、文法や用法について学ぶことが必要です。基礎編をご覧いただいて、論文を書くための基礎的なポイントについてお分かりいただけましたでしょうか。大まかにでも大丈夫です。基礎的なポイントの習得ができたら、次は実践的な「合格できる論文の書き方」について学んでいきましょう。

基本は「相手に正しく伝わる文章」

基礎編では、文章には「文学的文章」と「論理的文章」があると述べました。しかし、いかなるジャンルであっても、文章を書く目的は「他者に何かを伝えること」です。「相手に正しく伝わる文章」が、全ての文章の基本になります。

合否を判定する論文の場合、読み手(採点者)に誤解を与えない文章を作成するためには、文書を書く際のルールを知っておく必要があります。

また、「自分の言いたいこと」が先行している文章が、相手にとってわかりやすくなっているとは限りません。どのような種類の文章でも、「相手の立場に立つ」ことを心に留めながら、文章を書いて行きましょう。

ロジカルシンキングとクリティカルシンキング

論文を書くためには考えをまとめる必要がありますが、そのためには思考法も重要になります。

一般的な思考法には「ロジカルシンキング」と「クリティカルシンキング」があります。この2つの思考法は異なる概念で、それぞれがカバーしている領域が異なります

ロジカルシンキングとは

ロジカルシンキングとは、ロジカル(論理的な)とシンキング(思考・考える)が合体した造語です。その名の通り、論理的に考えていく思考法のことを指します。

体系的に整理していきながら順序立て、矛盾・破綻がないように論理的に考えていき、最適解を導き出します。

ロジカルシンキングには、「演繹法」「帰納法」「弁証法」などがあります。そのなかの「演繹法」は、論文を書く際に使いやすい方法です。

前提:軟弱な地盤は地震の揺れを増大させる。

観察事項:建設候補地Aの地盤は軟弱である。

結論:だからAには建設してはいけない。

この場合、前提が誤っていると正しい結論には導けないので、前提には一般論やルールを用いることが必要です。

クリティカルシンキングについて

クリティカルシンキングは、クリティカル(批判的)とシンキング(思考・考える)が合体した造語です。「批判的思考」と訳されることが多く、その事象の本質を見極めて最適な解を導き出す思考法です。

自分の主観や感情に流されず、「自分の主張は本当に正しいのか」と多角的な視点から自身に問い続けることで、精度の高い最適な解を得ることができます。

ビジネスにおいて、クリティカルシンキングの手法はたくさん活用されています。論文を書く際にも、「自分が書いている文で本当に相手を納得させられるのか?」と疑問を持ちながら書くことで、相手に正しく伝わる論文を書くことができます。

これらの思考法は、論文を書く際のあらゆる場面で必要とされます。これらを常に意識しながら、論文を書き進めていきましょう。

論文を書く目的をはっきりさせる

論文を含めた文章の目的は、「他者に何かを伝えること」です。さらに、読んだ人に何かをしてもらうことも目的になります。

例えば、卒業論文の場合、「教授に卒業できると認めてもらうこと」になります。

ですから、合否を判定される論文を書く場合には、「採点者に合格だと判定してもらうこと」が目的になります。

エンジニアの書く文章が分かりにくい理由

理系の人でも、文章を書くことが得意な人はいるでしょう。しかし、文章を書くことが得意ではないというエンジニアも多いようです。

書いた文を「分かりにくい」と指摘されたとしても、何が問題なのか分からなければ、「どのように直したらよいか分からない…」と途方に暮れてしまうでしょう。

エンジニアの書く分かりにくい文章には、次のような特徴があります。

一文が長くて情報量が多い

エンジニアの書く文章には、専門用語や専門知識を書く必要があります。すると、より多くの情報をより詳しく伝えたほうがよいと思ってしまい、結果として一文が長くなってしまいます。

情報をたくさん提示したほうが自分の知識の証明につながると考えて意図的に行っている人もいるかもしれません、しかし、一文が長くて情報量が多いと、読み手は内容を理解しにくくなってしまうのです。

「一文が長くて情報量が多い」という問題点を解決するには、「一文一意」の原則を意識して文章を書く必要があります。

基本ルールを会得していない

学校の国語の授業では、文章の読み取り方法の学習には多くの時間をかけます。しかし、書く技術については実際に授業が行われることは少なく、文法や技法を学習するに留まる場合が多くなります。

さらに、文系に比べて長文の論文を書く機会も少なく、担当教官からのフィードバック(添削)が少ない状況であった理系のエンジニアは、文章を書く基本的なルールが身についていないことが多くなります。

論文を書く体験が少なかったエンジニアの場合は、文章を書くための基本ルールを理解し、添削を重ねることが必要になります。

読み手を意識していない

文章を書く際には、読み手に伝えたい内容があります。しかし、伝えたい内容が事実であることが多いエンジニアの文章の場合、読み手を意識していない文章になりがちです。

伝えたい事実だけをそのまま書けば、相手が正しく理解してくれるとは限りません。読み手がどのような人で、読み手に何をしてほしいのかを明確にした文章でなければ、伝わる文章にならないのです。

読み手を意識した文章を書くためには、漫然と書き始めるのではなく、伝えたい内容を整理してから書き始める必要があります。

合格できる論文を書くステップ

合否を判定する論文の場合、次のようなステップを踏むことで、合格を勝ち取れる論文を書けるようになります。

STEP1 合格できる論文の傾向を知る

大学受験の際にも、受験する大学の入試問題や難易度について、ほとんどの受験生が事前にリサーチを行ったことでしょう。

それと同じように、論文を書く際には、書きたい論文に関する情報を収集しておきましょう。提出しなければならない論文の字数や形式、記述する用紙のサイズやレイアウト、それらを知っているだけでも、誤った論文の作成を防ぐことができます。

とくに、合否を判定する論文を書く際には、試験の難易度や合格できる論文の傾向を知っておくことは当然のことです。

STEP2 論文ごとのルールを知る

論文を書く際には、文章を書く際のルールを知っておくことが必要です。しかし、それ以外にもその論文が設定しているルールを知っておく必要があります。

とくに、マス目の使い方には注意が必要です。1マスに書ける数字やアルファベットの数も確認しておきましょう。マスを無視して解答した場合は、採点対象から除外される場合もあります。

さらに、ルールは変更になることもあります。最新の受験要項を確認して、常に最新情報を入手しておくようにしましょう。

STEP3 設問の意図を読み取る

合否を判定する論文の場合には、必ず設問があります。その設問の意図に従った記述をできないと、合格は勝ち取れません。

そのためには、設問を熟読して熟考する必要があります。記述する内容を把握するために重要な作業になるので、時間をかけて設問者の意図と採点者の反応を考えるようにしましょう。

そのためには、「無言音読」が有効です。目で追うだけでは理解しにくい内容も、言葉を出さずに口だけを動かす「無音音読」ならば理解が深まります。

STEP4 書くべき内容を把握する

設問で問われている内容は、一つであるとは限りません。いくつかの項目について問われている場合は、すべての項目に関して漏れなく記述する必要があります。

どれかひとつでも抜けがあれば、評価が低くなってしまいます。大幅な減点となるので、すべての項目に記載できるよう意識しましょう。

試験になると緊張して、うっかり忘れてしまうこともあります。普段の練習のときから、必要な部分には線を引くなどの習慣をつけていると、本番の際にも安心です。

STEP5 プロットを考える

設問の分析が終了したら、プロットを作成します。プロットの作成は、論文を書く上でもっとも力を入れなければならない作業です。

「プロット」とは、「あらすじ」「梗概」のことで「文章の設計図」ともいえます。きちんとしたプロットを作成できれば、論文の7割は完成したとも言えます。

ここでは、ロジカルシンキングの手法を活用します。

大まかな段落構成と字数配分を決め、トピックセンテンスを問題用紙や下書き用紙に書き出します。頭で考えていても書いている途中に忘れがちなので、必ずメモするようにしましょう。

STEP6 段落分けをする

書くべき内容が決まったら、段落分けをします。その際にも、設問で問われている内容を把握した構成にします。

メインの項目があってそれに付随する内容が問われている場合は、メインの項目の字数を多めにします。また、同じようなウエイトを占める内容が複数問われている場合は、字数も同じようなボリュームにします。

段落の字数のバランスが悪いと見た目が悪くなり、少ない部分に関しては、専門的学識が不十分であると判断されかねません。バランスよく解答できる練習をしておくと良いでしょう。

STEP7 見出しをつける

段落を分けたら、その段落に関する見出しをつくっていきます。論文は字数が多いので、この見出しをつけるというテクニックは非常におすすめです。

見出しを付けることによって、複数ある回答項目の記載漏れを防げます。さらに、見出しを付けることで採点者に対して、書き洩らしがないことをアピールできます。

凝った見出しを書く必要はなく、一目でわかるようなシンプルな見出しにします。設問の項目をそのままや、体言止めにして書くことがおすすめになります。

STEP8 時間を計って書く

合否を判定する論文の場合は試験時間が決まっているので、書いていられる時間が制限されます。時間配分を誤ると時間不足になり、論文を書き上げられなくなってしまいます。

今までに挙げてきたステップにかかる時間と、次に挙げる推敲を行う時間を把握しておきましょう。そうすることで、本番でもあせることなく論文を書き上げることができます。

資料文付きの問題の場合は、資料文を読み通す時間を知っておくことも必要です。必要な時間を把握できるよう、練習で書いている時点から時間を計っておくようにしましょう。

STEP9 第三者の目で読み返す

書き終えた論文はそのままにしないで、必ず読み返すようにしましょう。論文を書き終えると安心してしまいがちです。しかし、最後の見直しが重要になります。

書いた論文の見直しをする際には、第三者の目になって読み返してみましょう。文章に対して批判を入れるつもりで、自分の論文の欠点や抜けをみつけるようにします。

クリティカルシンキングにも通じる思考法になりますが、この考え方は一朝一夕に身につくものではありません。日々の生活のなかでも、クリティカルシンキングを意識しながら物事に当たるようにしましょう。

添削を繰り返すことで合格に近づける

完成した論文は推敲することで、ブラッシュアップできます。上司や先輩に書いた論文を読んでもらい、忌憚のない意見をもらってもよいかもしれません。

しかし、添削を頼めるような人物が身近にいない場合は、論文を添削してくれるサービスの利用がおすすめです。論文のプロによる的確なアドバイスと指導は、あなたの論文を合格点にまで引き上げてくれるでしょう。

まとめ

論文を書くことは簡単ではありません。ここで解説してきた内容を頭で理解することと、実際に実践できるかは別問題です。さらに、論文試験は評価ポイントが公に数値化されているものではありません。自分では判断できない項目が生じることも、論文試験の特殊さといえます。まずは、どんどん論文を書いてみましょう。そして、信頼できる協力者を探します。自分の論文の間違いを指摘してもらい、足りない部分を補ってもらいましょう。そうすることで、合格できる論文を書けるようになっていくのです。