【国土構築】世界初の完全人工島からなる24時間運用の海上空港として ~西日本の国際的な玄関口・関西国際空港~

技術士は歴史に学ぶ ~エンジニアが取り組んだ空の鎖国の打破~

大阪国際空港(伊丹空港)の騒音問題に端を発して、海上に建設されることとなった「関西国際空港」。「関空」の愛称で親しまれている関西国際空港の歴史は、まさに時代の荒波を切り開きながら進んできた。しかし、その成果は高く、アメリカ土木学会から20世紀における空港部門の代表作として表彰を受けている。

関西における国際拠点空港としての役割を果たしているだけでなく、「日本一稼ぐ空港」としても名を知られるようになった。その成功の裏にも、多くのエンジニアたちの存在がある。

関西国際空港整備の時代的背景

1994(平成6)年9月4日に開港した関西国際空港における整備の歴史は、まさに時代の荒波を切り開きながら進んできたと言える。

大阪国際空港が一手に担ってきた、関西地方の国際航空輸送。1950年代半ば以降の高度経済成長の進展や、1964(昭和39)年の海外渡航自由化により関西の航空需要が拡大する。さらに、海外渡航自由化と時期を同じくして、大阪国際空港にジェット機の乗り入れが開始される。

騒音問題と相次ぐ訴訟

ジェット機の乗り入れは思いもよらない波紋を広げ、大阪国際空港の騒音問題による訴訟が周辺自治体で相次いだ。さらに、1967(昭和42)年には騒音防止法が制定される。

防音工事の助成や空港近接地域からの移転補償も始まった。このような背景から、関西地方にも本格的な第二空港必要論が大きく浮上することとなる。

関西国際空港・構想から計画

1968年度から、運輸省は関西圏での新空港調査に取り掛かる。1971(昭和46)年の航空審議会での運輸大臣からの諮問が、政府としての正式な取り扱いの始まりとなった。

空港建設位置に関しては当初8つの候補地が検討されたが、審議過程で泉州沖、神戸沖、播磨灘の3つに絞られる。

さらに、重要な7項目についての定量的な評価の結果、泉州沖が総合的に最もすぐれているということになった。1974(昭和49)年8月には答申がまとめられ、候補地が決定した。

答申を受けた運輸省は、自然条件をはじめとした調査を開始。特に環境影響評価調査についての予算規模は、1976年度から3年間で60億円と大規模なものであった。

さらに、空港島の建設は沖積粘土層のみならず深部の洪積粘土層まで圧縮するものと予想され、さらにこれを短期間に施工するというこれまでにない技術的課題への挑戦となった。

事業主体である関西国際空港株式会社の設立

関西空港プロジェクトでは、地元の反対によって開港にこぎ着けられない成田空港建設の轍を踏まぬよう、着工を前提としない調査を実施し、地元との合意形成が最優先とされた。

1981(昭和56)年に提示された「計画案」「環境影響評価案」「立地に伴う地域整備の考え方」により、1984(昭和59)年には地元との合意がなされ、「関西国際空港株式会社」が設立された。

一期空港整備計画と二期空港整備計画

設立された関西国際空港株式会社は、運輸省の基本計画に基づいて、空港整備計画を策定する。一期工事では、滑走路1本と旅客ターミナルビル等の関連諸施設が整備された。

さらに、運用実績が蓄積された二期事業では平行滑走路が整備される。しかし、一期の整備とは違い、将来必要な用地造成は行うものの、上物施設は段階的に整備することとなった。

世界で初めての空港島の建設

大阪湾内泉州沖5kmの埋立地にある関西国際空港は、世界で初めての完全人工島からなる海上空港「空港島」となる。

空港島建設だからこその施工

海底の沖積粘土層に対しては、一期、二期ともサンドドレーン工法による地盤改良工事が実施された。また、長期沈下への対応としては、地盤高を設定することとした。

さらに、供用後の不同沈下を極力抑えるために、二期では2次揚土に転圧締固め工法を採用。また、ほとんどの上物施設の基礎等に、ジャッキアップシステムを備えた。

空港島建設では海底地盤に排水層として、沖積粘土層にサンドドレーンを打設した。作業船の位置決めには、一期工事では光波距離計システム、二期工事ではGPSが利用された。

また、護岸構造は総延長の約90%に緩傾斜石積護岸を採用した。この形式は、海底地盤の不同沈下に追随でき経済的で、海生生物の生息にも適している。

直投工事では、底開式土運船からの土砂投入により水深約6mまで立ち上げた。不同沈下を抑えるため、二期ではGPSを搭載したナローマルチ深浅測量船による施工管理を行った。

この際には、直投前の海底土砂堆積形状を測量してデータベース化。土運船毎の想定堆積形状を重ね合わせ、凹凸が少なくなるように投入位置を決定した。

1次(直接)揚土と2次(間接)揚土

水深3mまで小型土運船による直投を行った後に、揚土船を使った1次(直接)揚土工事を実施。さらに、2次(間接)揚土でも土砂を施工エリアに敷き均し、転圧して地盤を造成した。

一期ではSCPやDC(動圧密)工法等で埋立地盤の改良を行ったが、二期では作業効率やコスト面を考慮して大型振動ローラーを用いた転圧締固め工法を採用した。

ターミナルビルと関西国際空港連絡橋の建設

1988(昭和53)年の日米建設協議の合意により、日本の大型公共事業への外国企業参入が可能となる。これにより、関空国際空港は一層注目されることとなった。

第1ターミナルのコンセプト決定

国内6社の企業連合に委託していたターミナルビルの基本構想に、アメリカのコンサルタント会社も参画。検討していた案について、海外の空港運営会社へのアドバイスと提案も求めた。

その結果、パリ空港公団の提案が、現在の第一ターミナルのコンセプトを決定づけた。そして、コンペが行われ、レンゾ・ピアノの案が採用された。

ターミナルビルの中央本館部分は周囲よりも軽く、両サイドのウィングとの間にわずかな傾きが出る。これを修正するためにジャッキアップを行い、建物を許容勾配内に維持している。

第1ターミナルビルにある900本の柱も、沈下が自動的に計測されている。沈下の漸減により不同沈下量も減ってきているが、現在でも定期的なジャッキアップが行われている。

関西国際空港連絡橋の建設

空港島と対岸を結ぶ延長3,750mの道路・鉄道併用橋である関西国際空港連絡橋は、上路を道路に下路を鉄道に供用するダブルデッキ構造で、トラス橋を採用している。

その無駄のない構造美が織りなす風貌と、トラス橋としては世界最長のスケールの存在感で、1991年度には土木学会田中賞を受賞している。

空港島の機能維持対策 

海上空港の関西国際空港は、1994(平成6)年の開港直後から地盤沈下が続いている。開港から28年経った2022(令和4)年時点、1期島の地盤沈下は平均3.6mにもなっている。

大型排水ポンプによる強制的な排水

最初に造成した1期島は開港から10年余りが経過した時点で、長期的な沈下と不同沈下により雨水排水機能が低下。空港機能への悪影響が懸念されるようになった。

そのため、雨水排水管の海への出口付近に大型排水ポンプを設置し,強制的に排水することとした。

さらに、止水壁による地下水低下対策も行われている。関西空港は緩傾斜石積護岸で囲んだ内側を岩砕の土砂で埋立ているため、地下水の浸みだしや地下室などでの漏水が発生してきた。

こうした問題を抜本的に解消する対策として、空港島周囲を止水壁で囲む対策が行われた。止水壁による対策は効果を上げていて地下水が確実に低下、現在でも維持管理ができている。

関西国際空港における経営の変遷

時代の変化に伴い、公的セクターへの民間活力の導入が推進される中、関西国際空港の経営にも大きな変化が求められた。

株式会社方式へ

国際航空路線に必要と定められた第1種空港は、国が設置・管理していた。しかし、1984年10月に関西国際空港(株)が設立され、新しい空港の設置・管理を行うこととなった。

事業スキームは、30%が出資金、70%を関西国際空港が資金調達するものとなった。ここで注目すべきは、公共事業に民間が5%の出資を行ったことなのである。

1994(平成6)年の開港後、早期に二本目の滑走路を整備する必要が生じ、用地造成を行うにあたって整備と運営を分離することとした。

こうして、用地造成を行う「関西国際空港用地造成(株)」が設立された。この事業スキームとして、用地造成に対しての無利子貸付金が加えられた。

関西国際空港と大阪国際空港の運営権譲渡

経営の改善や関西三空港のあり方が議論され、関西国際空港と大阪国際空港の運営権について、コンセッション方式により譲渡が決定した。

2016(平成28)年には、関西エアポート(株)が運営会社として設立。その後、2018(平成30)年には、神戸市から神戸空港の運営を引き継ぎ、関西三空港の一体運用が実現された。

関西国際空港プロジェクトが与えたもの

空港の24時間365日運用が世界の常識の中、わが国の「空の鎖国の打破」のためのインフラ整備である関西国際空港プロジェクトは、多くのものを与えてくれた。

プロジェクトを支えた技術と受賞

大水深で軟弱な地盤層の領域に、大きな人工島を造成する必要に迫られた関西国際空港プロジェクト。大規模急速の埋立施工技術を確立し、地盤沈下の対策を施したうえで、計画的な管理を行っている。

そのような技術的チャレンジは、日本国内ならず世界的にも評価が高い。1995(平成7)年に土木学会技術賞を受賞。そして、2001(平成13)年には米国土木学会の「Monuments of the Millennium」にも選ばれた。

大阪湾の3空港の航空旅客数は、2,674万人(1994年度)から、4,782万人(2019年度)へと約1.8倍に増加した。

また、関西空港周辺の交通網の整備が進み、高速道路や鉄道の整備が著しく進んだ。さらに、国際線旅客数が急激に増大し、関西経済の礎としての存在が確立された。

自然環境への影響 

空港島では、自然環境に対しての継続的な取り組みが行われた。自然協調型の緩傾斜石積護岸の採用とともに、海藻の種付けや海藻が着生しやすい消波ブロックの開発を行った。

その結果、空港島周辺にはたくさんの海藻が育ち、これまでに約200種類もの魚介類が確認されている。これが、大阪湾の水質改善にも大きく寄与している。

まとめ

日本国内にある空港の大半は24時間運用ではなく、国内線の運航において24時間運用の必要性は高くない。しかしながら、国際線の運航では夜・早朝時間帯のニーズが高く24時間運用への議論は避けて通れない。ハブ空港としての存在感を高めるためにも24時間運用は避けて通れないものなのである。関西国際空港での海上空港建設の経験は、中部国際空港や羽田空港の建設に活かされているが、エンジニアたちの尽力がなければ、それらの成功は実現できなかったのである。