相手に伝わる文章を書くためのテクニック③
1.はじめに
新型のウィルスに世界の人々が混乱させられた中、わたしたちの価値観はさまざまな観点で変化しました。例えば働き方、勤務形態では、リモートワークという手法が盛んに採られるようになり、必ずしも会社という場所に集合しなくてもよくなりました。
他方、対面ではなくオンラインでのコミュニケーションにおいて、いろいろな工夫が必要とされる場面も多くなりました。効率的、合理的かつ効果的な技術力をもって、相手に対して物事を伝えていく能力は、これからますます重要となってくるでしょう。
別稿にて、技術士二次試験の記述式課題に取り組むテクニックの一つとして、PREP法やSDS法をご紹介しました。今回は「DESC法」を解説します。他の二つと少し色合いの異なる部分もありますが、習得していく上で、本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
2.(描写)「DESC法とは」
まず始めに、DESC法について概略を描写してみましょう。名称にある通り、四つのステップを順番に踏みながら、述べたり記載していったりする方法です。既述の二法と同様、海外で生み出されています。各々の頭文字が表すところは以下の通りです。
D=Describe(描写する)
E=Explain(説明する)
S=Specify(提案する)
C=Choose(選択する)
最初に状況や相手の持つ課題、論ずるテーマを俯瞰的に描写します。次に自身の意見や思うところを説明し、その後具体的な提案を行います。相手方の出次第では、複数の選択肢を提供し、結論を選び導いていく形を取る、という流れです。
冒頭で客観的に事象を捉えるため、第三者的な視点を持つことができ、自身の主張を和らげる効果があります。提案や選択という形を取っていることからも、会話ややり取りの対等性を感じることが可能であり、双方にとって納得感を得やすい手法ともいえます。
コミュニケーションスタイルとして、自分の考えや気持ちを正直に伝えつつ、相手の反応も素直に受け止めようとする「アサーション型」があります。DESC法は同型に分類されており、話者、受け手側両方の立場に立つ、中間的特徴がよく表れています。
3.(説明①)「DESC法のメリット」
次に、DESC法のより詳細な説明を行ってまいります。同法は、技術士試験の記述式課題への有用な手法と考えられますが、理由の第一に挙げるべきは、受け手側との円滑なコミュニケーションの実現に重きが置かれている点にあります。
いきなり結論や要点を述べるのではなく、不要な感情を入れない第三者視点的描写を優先的に行いますので、受ける側としては、余計な圧を感じずに済みます。単純な事実確認から入りますので、相手側も肩の力を抜いて、話を聞いたり解答を読んだりすることができます。
次のステップは説明ですが、前段で描写を済ませているので、それを踏まえた自身の考え方を述べる形になります。自分の言いたいことを丁寧に説いていく流れは、押しつけがましいイメージを防ぐ効果も得られるところです。
ある意味で他の手法との最大の違いとなるのが、三番目の提案と、最後の選択です。聞き手や読み手に対し、自身の主張をどうにかわかってもらう、という強引なスタンスではなく、提案を行い、相手方に選択権を与えることにより、自由度が高い印象を与えられます。
選択を委ねてしまうため、極端にいえば、自身の思うところと反対になっても構わず、建設的な対話ができればそれでよし、とするのがDESC法です。よりマイルドな話の展開により、結果として相手に納得してもらいやすい、という逆引き的側面もあります。
4.(説明②)「DESC法の具体例」
DESC法のメリットをご紹介したところで、更なる詳細説明を行っていく上で、次に具体的な事例をあげてみます。別稿のPREP法、SDS法の解説記事と同様、「技術士について自身の考えるところを述べよ」という問題が出た際の使い方を採用して、解答例を記載します。
(1)描写
技術士は、文部科学省が管轄する国家資格である。個々人で技術的な士業を生業とする者の能力を示す上で、官公庁によるれっきとしたとした証明書であるが、合格率は低く、取得難易度はかなり高い。
(2)説明
合格率から難関であることで有名な同試験突破者は、需要がある分仕事の選択幅も広がり、磨いた手腕を発揮できる場面も多くなる。実際の職業事例からも、将来的なキャリアアップに非常に有意義な資格が技術士である。
(3)提案
これからは就社ではなく就職の時代になるといわれている。会社という集合体に依存せず、自分の腕で食べていくためには、信頼性の高い技術士という資格は必須であり、取得検討に値するものである。
(4)選択
もちろん、資格は技術士だけではなく、さまざまな領域で取得可能である。難関である同資格に拘り過ぎるのも問題ではあるが、しかしながら、その有益性から、他の選択肢にも鑑みながら、合格を目指す価値はあると考える。
以上、(1)から(4)について、短文を列記してみましたがいかがでしょうか。他の二法とは印象が異なるかと思います。若干回りくどく、書き手の主張が伝わり辛い、いいたいことがよくわからない、という感想を持たれた方も多いのではないでしょうか。
一方で、DESC法のメリットである、読み手にプレッシャーを与えない、という観点では成功しているといえます。技術士の資格を取るも取らないも、最終的には個人の判断によりますが、それでも取得する価値はありますよ、という温度感です。
なお、DESC法は、各段階の内容から、試験問題のような格式ばった形態にのみ向いていると思われがちですが、実際には通常の会話でも多々使用されます。以下に上司と部下のやり取りを具体例として記載します。
*DESC法「非適用」業務準備場面
上司 「○○くん、まだ準備ができていないとは、どういうことだね!」
部下 「も、申し訳ありません、機器が故障してしまいまして」
上司 「そんなことは聞いてないし、言い訳にしか聞こえない!どうするつもりだ!」
部下 「ど、どうするといわれても」
上司 「顧客の来社時間まで時間がない。全面的に君の責任だ」
部下 「・・・申し訳ありません・・・」
上司 「私の面目も丸潰れだ。顧客対応は君だけでやりなさい」
部下の不手際があったシーンで、上司の気持ちもわからなくはありません。しかし、ご覧の通りこれでは何も生まれず、非生産的で時間の浪費です。叱るのは後にして、目の前の問題にどう対処すべきか、どう部下を納得させ動いてもらうか、という方向にもっていきたいところです。
*DESC法「適用」業務準備場面
上司 「○○くん、まだ準備ができていないというのは本当か」
部下 「申し訳ありません。まだできておりません。機器が不調でして」
上司 「顧客が来社するまで間もない。今回が重要な打ち合わせであるのは知っての通りだ」
部下 「はい、承知しています」
上司 「他の手段はないのか。別の会議室は空いていないか」
部下 「至急確認します」
上司 「難しい場合は先方と日程の再調整も検討する。その際は私から連絡する」
こんな理想の上司はこの世にはいない、という叫びが聞こえてきそうですが、まずは状況を描写し、事の重大性を説明、他の手段を提案し、不可の場合の選択肢も用意する、という流れです。少なくとも非適用時より、建設的な会話となっていることがおわかりいただけるかと思います。
5.補足①「DESC法のデメリット」
技術士二次試験における記述式課題解答作成に使えそうなテクニックとして、DESC法をご紹介してまいりましたが、やはり同法にもデメリットもあります。最たる項目としては、自身の主張を明確に伝え辛いことがあげられます。
相手の立場を尊重し、リスペクトする気持ちを忘れないようにしながら、時間をかけて丁寧に述べていくのがDESC法の特徴です。短時間でコンパクトに伝える趣旨とは逆の手法になりますので、結論を急ぎたい場合は不適となることも多々あるでしょう。
6.補足②「DESC法の練習方法」
同法の習得には、段階別反復練習が適していると考えられます。例えば描写であれば、感情を排除し、物事を俯瞰して捉え、ひたすら事実を描写することを徹底します。書いては添削、書いては見直しを繰り返せば、体で覚えていく効果が得られると思われます。
7.提案「DESC法は技術士試験に有用」
バランス感覚を用いながら、自分の主張を柔らかく伝えつつ、相手の意見も尊重するDESC法について説明してまいりました。言いたいことだけに言及しても、結果として相手方に伝わらず、納得感も得られなければ何も生みだされない、となっては本末転倒です。
まずは冷静に事態を掌握し、自身の意見を表現し、相手方に提案してみて、さらに相手の出方に対応できるよう複数の選択肢を用意しておく。ある意味、出題者と解答者間のコミュニケーションである試験問題にて、有用なテクニックであるのがDESC法です。
8.選択「DESC法のススメ」
DESC法には、いいたいことが伝わりにくい、というデメリットがあります。したがい時として、PREP法やSDS法の法が適することもあるでしょう。しかしながら、自分のテクニックを複数用意し、応用力を身に付けておくに越したことはありません。
DESC法はどうもわかりにくい、使えない、と感じられた方には無理強いできません。他の手法磨きに時間を取ったほうがよいかもしれません。ただ本稿にて、DESC法に少しでも可能性を感じていただけるようでしたら、まずは勉強から始めてみてはいかがでしょうか。
9.おわりに
いかがでしたでしょうか。本記事では、DESC法について解説してまいりました。PREP法、SDS法解説記事既読の方は、またかと思われるかもしれませんが、本稿そのものについても、DESC法を採用して記載しています。
最終段階での「選択」において、少々無理があったように、どちらかというと、相手方とのやり取りを何とか前に進める目的が強い手法です。各法の特徴、メリット、デメリットを把握、比較しつつ、自分の技を増やすためにも、ぜひ同法にチャレンジしてみてください。