相手に伝わる文章を書くためのテクニック②
1.はじめに
新型のウィルスに翻弄された数年間を踏まえ、世の中ではさまざまな変化が生じました。特に働き方に関しては、どうしても人が密集してしまう通勤や出社を避ける方法である在宅勤務やリモートワークが浸透し、働き手の価値観も様変わりしました。
また、同時に終身雇用という形態も見直されてきており、就社ではなく、本当の意味での就職という意識も高まってきています。自分の腕、能力で食べていく志向が強まり、士業などはその最たる例として注目を集めています。技術士の資格もますますその価値を挙げているといえるでしょう。
別稿では、技術士二次試験において、記述式の課題に取り組むテクニックの一つとして、PREP法をご紹介しました。今回は同趣旨にて、「SDS法」を解説します。多くのツールを身に付けておくことは、合格率を上げる効果的な対策です。ぜひご参考にしてください。
2.(要点)「SDS法とは」
それでは最初に、SDS法について要点となるところを見ていきましょう。化学に詳しい方にしてみれば、SDSといえば「安全データシート(Safety Data Sheet)」を思い浮かべてしまうかもしれませんが、もちろん本稿でいうそれとは異なります。
S=Summery(要点)
D=Details(詳細)
S=Summery(要点)
「SDS」の頭文字は、それぞれ上記を表しています。最初に要点を述べ、その後詳細について触れ、最後にもう一度要点を記載する、という手法ですが、PREP法同様に、文章を書く際に有用であり、記述式試験問題にも十分活用可能です。
3.(詳細①)「SDS法のメリット」
次に、SDS法の詳細を見ていきましょう。以前から提唱され、かつ多くの人に採用されてきている同法ですが、最大のメリットはその迅速性にあります。無駄な時間を省いた簡潔な文章構成により、情報をスピーディに相手に伝えることを可能とします。
最初に要点を記載することにより、こちらが何をいいたいのか、すぐに理解してもらえる効果があります。読む人の集中力を持続させ、意識散漫への防止作用も働きます。結果として正確な理解を得られる、というわけです。
技術士二次試験において、低い合格率は周知の事実ですが、問題が難しいという側面と共に、受験者数が多い面も見て取れます。多量の解答をチェックしなければならない採点者にとって、短時間で要旨がわかる記述はありがたいのではないでしょうか。
その点SDS法は、冒頭からいきなり細かい点や具体例を述べることなく、要点を明らかにして意図を伝える方法ですので、比較的情報の整理や理解が容易です。設問の内容にもよりますが、相手方の時間を割かずに読んでもらえるテクニックは、身に付けておくに越したことはありません。
4.(詳細②)「SDS法の具体例」
SDSのメリットを押さえたところで、更なる詳細を知っていただくために、具体的な事例をご紹介します。せっかくですので、別稿のPREP法時と同様、「技術士について自身の考えるところを述べよ」という例題が出た際の使い方を考えてみます。
(1)要点
士業は自らの能力にて仕事を得ていく色が強い職業であるが、社会的信頼を得るための技術士資格は、後ろ盾となる効果が大変高いものである。将来的なキャリア形成にも役立ち、モチベーションにも繋がり、取得に値する資格である。
(2)詳細①
文部科学省という官公庁が管轄する国家資格の技術士は、公的に認められた、自身の能力を示す証明書となる。合格率から難関であることで有名な同試験突破者は、需要がある分仕事の選択幅も広がり、磨いた手腕を発揮できる場面も多くなる。
(3)詳細②
従事先として、発展途上国での技術指導、裁判所や損保会社の調査業務、学校の総合学習講師や地域防災活動などの仕事がある。高度な専門知識を要する一般企業の、研究職などに就いている建設部門の技術士資格保持者、といった事例もある。
(4)要点
以上のような事由、具体的事例から、技術士は多面的に役立つ資格であり、難関な試験を突破して取得する価値のあるものである。自分の生業としての士業を、生涯に渡る仕事として位置付けるためにも、有意義な資格であると考える。
以上、(1)から(4)について、短めの分を並列させて記載してみましたが、どのような印象を受けられましたでしょうか。最初と最後に要点を書いていますので、情報が伝わりやすく、かつリマインドも図られ、結果的にわかりやすい記述となったかと思われます。
SDS法を用いる際の留意点としては、要点と詳細を可能な限り区別し、意識的に段落を分けて記載していくことです。人間、気弱になると、要点を述べているはずなのに、言い訳がましくその理由まで、同時に説明しようとしてしまうことがあります。
日常的なメッセージや、仕事やかしこまった場面以外の家族間、友人間のやり取りであれば、もちろん堅苦しくなる必要はありません。しかしながら、試験問題への解答を作成する際は、慣れるまでは過度なまでに意識して、同法に従って書いてみることをお勧めします。
なお、SDS法は、伝達したいことを短時間でコンパクトにまとめることに長けているテクニックですが、通例的な会話にも使うことができます。このツールが有用である裏付けとして、就職活動の面接時を例に、以下具体例をもってご説明します。
*SDS法「非適用」面接時想定問答
面接官 「それでは最初に、自己紹介や志望動機をお願いします」
面接者 「○○と申します。部活動はラグビーをやっており、体力に自信があります」
面接官 「ラグビーですか」
面接官 「チームワーク重視の環境で、いろいろ活かせないかな、と考えました」
面接者 「組織として動くことに得意、ということですか」
面接官 「あ、そうです。あといくらでも働けます」
面接者 「弊社を志望する動機がいまいちわからないのですが」
面接官からすれば、面接対象者がいきなり部活動の話を始めてしまい、何がいいたいのかよくわからない印象を受けます。その後も主張が不明確なため、面接する側で、面接者の伝えたいことを解釈、引き出してあげるような結果となっています。
*SDS法「適用」面接時想定問答
面接官 「それでは最初に、自己紹介や志望動機をお願いします」
面接者 「○○と申します。わたしの強みは、互いを尊重しチームワークを重視することです」
面接官 「なぜそう考えるのですか」
面接官 「競技の中でも最もチームワークを必要とするラグビーの経験があるからです」
面接者 「ラグビーですか」
面接官 「はい、わたしの強みを活かし、貴社の組織的なビジネス展開に寄与できると考え、志望しました」
面接者 「ありがとうございます」
面接官の質問にダイレクトに答えるべく、自己紹介として、一番伝えたい自身の強みに言及しています。また、詳細として部活動をあげ、再度の要点にて志望動機を述べています。若干強引かもしれませんが、非適用時と比較すると、スムーズな展開になっています。
5.補足「SDS法のデメリット」
技術士二次試験の記述問題に使えそうなテクニックとして、SDS法をご紹介してまいりましたが、残念ながら万能ではありません。前述のようなメリットもあれば、反対にデメリットもあります。
第一として、自分自身の考えの主張が最たる目的の場合、使い辛い方法であることがあげられます。短時間で簡潔に物事を述べることが得意なSDS法ですが、事実を淡々と伝える色が強く、自らの意図を相手にわかってもらう時、少し苦労するかもしれません。
また、今まで何度もやり取りを重ね、詳細な説明が必要となった段階では、SDS法は適さない傾向にあります。詳しい内容を欲しているにも関わらず、相変わらず要点から説明するスタイルを取られては、理解の深掘りに繋がりません。
前述の事例では、技術士試験が有用であることを「自身の主張」とするのか、「客観的な事実」と捉えるかによって、PREP法かSDS法に分かれる、ともいえます。「自身の考えるところを述べよ」ですので、どちらも正しい考え方ですが、違いを認識しておくと、SDS法の把握も深まるでしょう。
6.参考「SDS法の練習方法」
これまで、SDS法の不向きなところも含め、要点や概要を解説しました。それでは同法を習得するためには、どのような手段があるのでしょうか。ご推奨としては、日々見慣れたニュースでの報道を、このテクニックにあてはめて分析してみることです。
S=Summery(要点)
「速報です。本日の決定戦にて、A高がB高を下し、優勝を果たしました」
D=Details(詳細)
「序盤は優位に試合を進めていたA高ですが、中盤のB高の猛攻に合い、1点差まで詰め寄られたものの、○○くんの最後の踏ん張りにより逃げ切りました」
S=Summery(要点)
「A校は5年ぶりの出場、同高史上初めての優勝を飾ることになりました」
まさにSDS法をそのまま体現している事例となりますが、短い時間で的確に情報を伝えるという報道の目的に適った手法であることがわかります。身近な例を参考に、ニュース原稿を書くかの如く文章作成の練習を繰り返すことにより、スキル向上が図れるでしょう。
7.(要点)「SDS法は技術士試験に有用」
今までご説明してきたように、SDS法は、読み手に伝えたいことを伝えるための、有益な手法です。文字数に上限設定があるような、短い文章を書く記述式試験問題への非常に有効な対応策といえます。
使いこなすまでに少し時間を要するかもしれませんが、SDS法を用いた具体事例は、周りに多々存在しています。いざ試験に挑む際、テクニックを持っていると安心して取り組めるという副次的効果もありますので、ぜひ試してみてください。
8.おわりに
いかがでしたでしょうか。本記事では、SDS法について解説してまいりました。PREP法解説記事既読の方はお気付きかと思いますが、本稿についても、同法を採用して記載しています。
少々長い文章ですので、SDS法は適さないところもあるでしょう。いずれにしましても、このツールのメリット、デメリットを、記事全体を通じて感じていただければ幸いです。