GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは? 重視される背景やメリットを解説

カーボンニュートラルとはなにが違うのか、必須問題での出題に備え、理解を深めよう!

GXは、エネルギーの主体を、温室効果ガスを発生させる化石燃料から、太陽光エネルギーなどのクリーンエネルギーに転換する過程を経済成長のチャンスと捉え、経済社会システム全体を変革しようとする取り組みです。

日本政府が提唱した考えであり、最近は、「GXを推進し、カーボンニュートラルを達成する」と表明する企業も増えてきました。

一方で、GXは、東証プライム企業など大企業が中心となって取り組んでいることから、中小企業を中心に世間に浸透し切っていないのが実情です。

そこで、この記事では、GXの定義やGXが注目を集める背景について、詳しくご説明させていただきたいと思います。技術士二次試験での出題情報についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

GXとは?

GXは、Green Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)の略称で、温室効果ガスの排出量削減や脱炭素社会の実現に向けた取り組みを経済成長の機会と捉え、環境改善とともに産業競争力の向上を図る経済社会システムの変革です。

GXはデジタルトランスフォーメーション(DX)が連想され、一見すると海外発のトレンドのような印象があります。しかし、概念自体は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国際環境計画(UNEP)など、国際機関が考案したわけではありません。日本政府が岸田文雄内閣の肝入りの事業として発案しました。

政府の公式用語として初めて世に出始めたのは、2022年2月です。経済産業省による「GXリーグ基本構想」とGXを目指す産学官の関係者による「GXリーグ」の設立の発表とともに公にされ、以後、環境対策のキャッチフレーズとしても広まりました。


カーボンニュートラルとの違い

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡により、排出量を全体としてゼロにすることです。

日本の温室効果ガス排出・吸収量は2021年度、11億2,200万トンに上り、排出量が吸収量を大幅に上回っている状況です。しかし、カーボンニュートラルを実現すると、温室効果ガス排出・吸収量が統計上ゼロになるとされます。

このように、カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量をゼロにした状態を指します。一方、GXはカーボンニュートラルの実現を目指す過程をきっかけに、経済社会システムの変革を目指す試みです。

この点、GXがカーボンニュートラルよりも上位の概念に当たることから、カーボンニュートラルは、GXの構成要素と捉えられるでしょう。

脱炭素との違い

脱炭素は、二酸化炭素の排出量をゼロにすることです。温室効果ガスの排出量から森林管理や植林などによる吸収量を差し引き、排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラルよりも、より狭義の温暖化対策と位置付けられています。

削減対象が二酸化炭素単体か、二酸化炭素を含めた温室効果ガスかといった違いはありますが、脱炭素は、カーボンニュートラルと同様に温暖化対策である点で、GXに包摂された取り組みの一つと言えるでしょう。

GXが注目を集める背景

GXが注目を集める背景は、次の3つです。

● 地球温暖化による環境の変動
● 世界的に進む脱炭素化の取り組み
● ESG投資市場の拡大

ここからは、GXが官民の環境対策で注目される3つの背景について解説します。

地球温暖化による環境の変動

GXが注目される背景には、地球温暖化による環境の変動が挙げられます。

地球温暖化をめぐっては、「温暖化しているかどうかは怪しい」と懐疑論を唱える人々がいるなど、すべての専門家の間で合意が取れているわけではありません。

しかし、IPCCの第6次評価報告書(AR6、2021年)によれば、陸域と海上を合わせた世界平均気温(2011年?20年)は、工業化前と比べて約1.09度上昇したとされます。

さらに、AR6では、北極の海氷(2010?19年)が、1979?88年に比べて、海氷が一番少ない9月で4割、海氷が一番多い3月で1割それぞれ減少したとされるなど、環境への実害が報告されています。

世界的に進む脱炭素化に向けた取り組み

GXが注目される背景には、世界各国が脱炭素化に向けて取り組んでいる状況も大きいとされます。

実際、エネルギー白書2022によれば、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締結国会議)が終了した2021年11月時点で、154カ国・1地域が、50年などの年限に区切ったカーボニュートラルの実現を表明しました。

このうち、米国やEU(欧州連合)などは50年、ロシアや中国などは60年までにカーボンニュートラルを実現するとしています。

このように、世界的に脱炭素に向けた動きが加速していることから、政府のGX施策に関連する官公庁や企業のみならず、社会全体としてGXに向けた機運が高まっています。

ESG投資市場の拡大

GXとの関連が深いESG投資市場の拡大も、GXが注目を集める要因の一つです。

ESG投資は、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの非財務情報から企業を評価し、投資先を決める評価手法です。

世界持続可能連合(GSIA)によると、世界のESG投資の投資残高は、2016年の22兆8,390億ドルから、20年には35兆3,010億ドルに増加しました。日本でも、16年の4,740億ドルから20年には、2兆8,740億ドルと大幅に増加しています。

このように、近年は、環境や社会への関心の高まりを背景にESG投資の拡大が続いており、今後も市場拡大が必至です。こうした市場動向を鑑みると、環境や社会、内部統制への意識が低い企業は、株価の維持や資金調達が困難になる可能性が高いことから、多くの企業はGXを看過できない状況となっています。

企業が経営にGXを取り入れるメリット

企業が経営にGXを取り入れるメリットは次の3つです。

● 再生可能エネルギーの活用によるコストの削減
● 高い環境意識がもたらす自社ブランディングの向上
● 優秀な人材の獲得

ここからは、財務やPR、人事などの側面におよぼす3つのメリットについて解説します。

再生可能エネルギーの活用によるコストの削減

企業はGXを自社に取り入れると、再生可能エネルギーの活用や省エネルギー活動に取り組む機会が増えることから、企業のエネルギー使用量が節約され、事業のコスト削減が可能です。

例えば、自社工場で使用するエネルギーを軽油やガソリン、重油といった化石燃料から、太陽光発電や風力発電へ置き換えると、エネルギー使用量を大幅に節約できます。結果として、コストの削減による利益率の向上が期待できるでしょう。

再エネ活用によるエネルギー使用量の節約がもたらすメリットは、事業コストの削減による利益率の向上だけではありません。エネルギー使用量の削減分をコア事業や新規事業の拡販・開発に充てられれば、企業はさらなる成長を遂げる可能性があります。

高い環境意識がもたらす自社ブランディングの向上

企業はGXに取り組むと、「環境意識が高い企業」だと取引先や消費者などに示せるようになり、自社ブランディングの向上につながります。

自社ブランディングが向上すると、自社の製品・サービスのブランド力や、社会的価値も向上します。ブランド力や社会的価値の向上の結果として、企業は、商品・サービスの利用者や取引先、資金調達能力の増加・向上が期待できるでしょう。

優秀な人材の獲得

企業はGXに取り組むことで、専門知識やスキルを有する優秀な人材の確保が期待できます。近年は若者を中心に環境問題に関心を持つ人が多いことから、GXに取り組む企業は、就活生や転職活動中の求職者から好意的な印象を持たれやすいためです。

実際、リサーチPRサービスを運営する株式会社IDEATECHによれば、調査した2024年春卒の就活生509人のうち、全体の19.1%が「就職先企業を選ぶうえで企業のSDGs(持続可能な開発目標)に対する姿勢や取り組みを重視する」と回答しています。

このように、カーボンニュートラルの実現に向け、GXに取り組む企業が、就活生を中心に求職者からの人気を得やすいのは明白です。同時に、こうした企業は優秀な人材を確保できる可能性も高いといえるでしょう。

GX実現に向けた政府主導の対策

政府はGX実現に向けて、GX実行会議の開催と産学官によるGXリーグの稼働という2つの対策に取り組んでいます。

ここからは、政府のGX推進の根幹をなす2つの事業について解説します。

GX実行会議の開催

政府は、2022年7月にGXの実行に向けて必要な施策の検討を目的とした有識者会議「GX実行会議」を首相官邸に設置しました。

GX実行会議は内閣総理大臣や関係省庁の大臣、13人の有識者で構成され、22年12月までに5回会議を開催しました。会議での議論の結果、23年2月に今後10年のロードマップにあたる「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されたほか、同年5月に脱炭素化を進めるためのGX推進法が成立するなど、政策立案・立法が加速しています。

なお、政府は、GX推進法に基づき、10年間で20兆円規模となる新しい国債「GX経済移行債」の発行や、企業による二酸化炭素排出に金銭的負担を求めるカーボンプライシングの導入に取り組む予定です。

産学官によるGXリーグの稼働

経済産業省は2022年2月、50年カーボンニュートラル実現と社会変革を見据え、GXへの挑戦と持続的な成長実現を図る企業が、同様の取り組みを進める産学官の関係者とともに協働する場「GXリーグ」を設立しました。

GXリーグの参加対象者は、企業や政府、金融機関、大学といった研究機関です。2023年1月末現在で、トヨタ自動車やパナソニックなど、679社が賛同企業として参画しています。

GXに挑戦する企業が、排出量削減に貢献しつつ、外部から正しく評価され成長できる社会の実現を目標に掲げるGXリーグは、主に次の3つの場を提供しています。

  1. 未来社会像対話の場:50年カーボンニュートラルのサステイナブルな未来像を議論・創造する
  2. 市場ルール形成の場:カーボンニュートラル時代の市場創造やルールメイキングを議論する
  3. 自主的な排出量取引の場:カーボンニュートラルに向けて掲げた目標に向けて自主的な排出量取引を行う

また、GXリーグは、優れた取り組みを行う企業に対して金融市場や労働市場での新たな商品・サービスの創出を支援するインセンティブを設けつつ、参画企業に3つの要件を求めています。

  1. 自らの排出削減の取り組み:30年の排出量削減目標の掲出や目標達成に向けたトランジション戦略の策定など
  2. サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの推進:サプライチェーン上流の事業者への排出量削減の取り組み支援など
  3. 製品・サービスを通じた市場での取り組み:グリーン製品の調達・購入による需要の創出と、消費市場のグリーン化

GXに取り組む企業の先行事例

GXの先行事例として、トヨタ自動車とパナソニック、Amazon、Appleの国内外4社の取り組みについて紹介します。

◯トヨタ自動車

トヨタ自動車は2015年、50年に向け、成し遂げるべき6つの環境チャレンジを掲げた「6つのチャレンジ」を発表しました。車の持つマイナス要因を限りなくゼロに近づけるとともに、社会にプラス要因をもたらすことを目的としています。

トヨタ自動車は現在、次の6つのチャレンジに向けた取り組みを進めています。

  1. ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ:50年時点でライフサイクル全体でのCO2排出ゼロ
  2. 新車CO2ゼロチャレンジ:50年時点で日本やアメリカなど世界12カ国での新車平均CO2排出量の9割削減
  3. 工場CO2ゼロチャレンジ:50年時点でグローバル工場CO2排出ゼロ
  4. 水環境インパクト最小化チャレンジ:各国地域事情に応じた水使用量の最小化と排水の管理
  5. 循環型社会・システム構築チャレンジ:日本で培った適正処理やリサイクルの技術・システムのグローバル展開
  6. 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ:自然保全活動の輪を地域・世界、未来へのつなぐ

◯パナソニック
パナソニックグループは2022年1月、自社で発生する二酸化炭素の排出量削減に向けた長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」を発表しました。

PGIは、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立に向け、30年までに自社の事業に伴う二酸化炭素排出量を実質ゼロにする計画です。さらに、発展目標として、製品の省エネ化や省エネソリューションなどを通じ、50年時点で、22年現在の全世界の排出総量約330億トンの約1%に当たる3億トンの削減も掲げています。

なお、パナソニックは、市場ルール形成について議論するGXリーグの「GX経営促進ワーキング・グループ」のリーダー企業となっています。

◯Amazon
Amazonは2019年、20年以降の気候変動問題に関する国際的枠組み「パリ協定」の目標を10年前倒しで達成することを目指す「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」に署名しました。

同社は誓約に基づく目標である40年までの脱炭素実現に向け、次のような取り組みを講じる計画です。

● 30年までに全配送車両を電気配送車に置き換え、二酸化炭素排出量を年間400万トン削減する
● 30年までに同社が使用する再生可能エネルギーの電力比率を100%にする
● 世界的な自然保護団体「ザ・ネイチャー・コンサーバンシー」と連携し、世界中の森林や湿地、泥炭地の復元と保護のために1億ドルを投資

◯Apple
Appleは2018年以降、風力発電などの再生可能エネルギーを活用したり、Apple製品を100%リサイクルされた再生材料で製造したりすることで、カーボンニュートラルを達成しています。

それでもなお、Appleは、製品の脱炭素化に意欲的です。2022年10月には、製品を製造するグローバルサプライチェーンを含め、すべての工程でカーボンニュートラルを達成することを宣言しました。

同社によると、すでにAppleの直接製造費の支出先の7割以上に当たる200社以上のサプライヤーが、すべてのApple製品の製造に風力や太陽光などのクリーン電力を使うことを確約しているといいます。

技術士二次試験でのGXの出題情報

最後に技術士二次試験でのGXの出題情報について紹介します。

二次試験で出題される可能性大
結論から言うと、GXは、二次試験で出題される可能性が大きいです。

経済産業省が2023年2月に公表した「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」を確認して下さい。

この資料では、①エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組、②「成長志向型カーボンプライシング構想」等の実現・実行、の2段構えで、洋上風力発電の導入拡大に向けた「日本版セントラル方式」や、GX経済移行債の創設といった具体的施策が紹介されています。

ぜひ技術士を受験する方は、目を通しておいてください。

まとめ

GXは、温室効果ガスの排出量削減や脱炭素社会の実現に向けた取り組みを経済成長の機会と捉え、環境改善と同時に産業競争力の向上を図る経済社会システムの変革です。

近年、地球温暖化による環境の変動が顕著になったり、世界各国が脱炭素化に向けて取り組んだりしていることから、GXへの注目度が高まっています。

GXは決して概念だけが先行した絵空事ではありません。企業が経営にGXを取り入れることで、再生可能エネルギーの活用によるコストの削減や自社ブランディングの向上といった効果が期待できます。