目次
~第4章:発生頻度×影響度のマトリクスと、4つの対応戦略~
プロローグ:小惑星は解答用紙に降るか? ~坂戸市ベイカー街221B。
ワトソン博士
「さてホームズ、前編でリスクは『潜在的なもの』であり、それに対して『対策』を打つべきだということはよく分かった。ならば、論文の『新たに生じうるリスクと対策』という設問には、とにかく最悪の事態を想定して書けばいいんだな!例えば、建設現場の論文で『巨大隕石や小惑星が衝突して現場が壊滅するリスク』を挙げ、『対策として地下1000メートルのシェルターを構築する』と書けば、誰も反論できない完璧なリスク管理だろう!」
シャーロック・ホームズ
(深くため息をつき、顔を覆う)「ワトソン君、もし君が実際の試験でそれを書いたら、採点委員は君の答案を資源ゴミの箱へ直行させるだろうね。なぜならそれは、技術士のコンピテンシーを完全に欠如した、非合理の極みだからだ。資料の第2章にある『基本計画の策定手順』を見てみたまえ。リスクへの対応で最初にすべきことは何だと書いてある?」
ワトソン
「ええと……『優先順位をつける』ことだ 」
ホームズ
「その通りだ。企業は直面しているすべてのリスクに対して万全の対応をとることは不可能だ。そんなことをすれば経営資源を使い果たし倒産してしまう 。
優先順位をつけるための絶対的な基準が、『発生頻度』と『影響度』の2軸による評価なのだよ 。」
ホームズ
「小惑星の衝突は、確かに『影響度』は破壊的(MAX)だ。しかし、『発生頻度』は限りなくゼロに近い。限られた文字数(資源)の中で、そんな極端に確率が低いリスクを大真面目に論じるのは、『私は優先順位づけができない素人です』と宣言しているに等しい。だからこそ、現実離れしたリスク設定は大幅な減点対象となるのだよ」
第5章:リスク対応の「4つの戦略(パターン)」を使いこなせ
ワトソン
「なるほど……。起こりうる確率と影響の大きさを天秤にかけて、現実的なリスクを抽出するわけだな。では、現実的なリスクを見つけたら、どうやって『対策』を書けばいいんだ?」
ホームズ
「資料には、リスクへの対応(戦略)として、明確に4つのパターンが示されている 。これを論文の引き出しとして持っておくのだ。
1)低減:内部統制などの導入により、リスクの発生可能性や発生した場合の影響度を低くすること 。論文での使い方:「情報漏えいリスクに対し、アクセス権限のルール化と強制的なパスワード変更の仕組みを導入する 」といった、最もオーソドックスで書きやすい対策だ。
2)移転:リスクの全部または一部を組織の外部に転嫁すること 。論文での使い方:「損害発生時の影響を抑えるため、専用の保険に加入する 」や「デリバティブによって変動影響を減少(ヘッジ)させる 」といった手法だ。
3)回避:リスクの原因となる活動を見合わせたり、中止すること 。論文での使い方:極端なリスクに対し、「損失発生が懸念されるため、その工法(事業)自体を採用しない 」という大胆な決断を示す際に使う。
4)受容:特別な対応策を取らずにリスクを受け入れること 。論文での使い方:「発生確率も影響も低く、対策コストが上回るため、許容範囲としてモニタリングに留める 」という高度な経営判断(総監的視点)を示す際に有効だ。
ホームズ
「技術士の論文では、ただ漠然と『気をつけます』と書くのではなく、この4つの戦略のどれに当てはまる『対策』なのかを意識して記述するのだ」
第6章:リスクマネジメントと「危機管理」の境界線
ワトソン
「すごく整理されたよ! あとは、万が一そのリスクが発生してしまった後のことも書いておけば完璧だな。避難経路の確保とか、マスコミへの謝罪とか」
ホームズ
「待て、ワトソン君。そこにもう一つの罠がある。
『リスクマネジメント』と『危機管理』を混同してはいけない 。
資料によれば、リスクマネジメントは『リスクが発現しないように管理すること(転ばぬ先の杖)』だ 。
一方、危機管理は『重大なリスクが発現した場合の損失を最小限に抑えるように管理すること(転んだ後の対応)』だ 。」
ワトソン
「おお、明確に分けられているんだな」
ホームズ
「そうだ。もし試験問題で『リスクとその対策を述べよ』と聞かれているのに、『事故が起きた後の避難手順』ばかり書いていたらどうなる? 出題者は『この受験生は、事故を未然に防ぐ技術的対策(リスク低減)を放棄している』と判断し、減点するだろう。
もちろん、危機管理マニュアルなどの平常時における準備 に触れることは有効だが、論文の主軸はあくまで『リスクの発現をどう技術で食い止めるか(リスクマネジメント)』に置くべきなのだよ」
エピローグ:技術士は「未来」をコントロールする
ホームズ
「さあ、総括しよう、ワトソン君。顕在化した『課題』には『解決策』を打ち込む。潜在的な『リスク』は、発生頻度と影響度から優先順位をつけ、4つの戦略(低減・移転・回避・受容)を用いて『対策』を講じる。そして、そのすべての活動は、コストとのバランスを見極めた『全体最適』の視点で行われなければならない。小惑星の衝突を恐れて地下に潜る者は、技術者ではない。単なる夢想家だ。真の技術士とは、現実のデータ(発生頻度×影響度)に基づいて未来の不確実性をコントロールし、ステークホルダーのために企業価値を高め続けるプロフェッショナルなのだよ」
ワトソン
「ありがとう、ホームズ! これで、もう解答用紙で迷うことはない。よし、さっそく『発生頻度が高く、影響度も大きい』現実的なリスクを見つけ出して、完璧な対策を書き上げてみせるぞ!」
ホームズ
「期待しているよ、ワトソン君。君のその熱意が空回りして『不合格』というリスクが発現しないよう、私がしっかりとモニタリングと是正をしてあげようじゃないか 」






