目次
~第1章:リスクと課題の境界線、そして全体最適への視座~
プロローグ:「リスク」と「課題」の迷宮~
坂戸市、ベイカー街221B。ワトソンが過去問を前に頭を抱えている~
シャーロック・ホームズ
(手元の資料『図解 ひとめでわかるリスクマネジメント』をパラパラと捲りながら)「ワトソン君、君はその二つの言葉をごちゃ混ぜにしているから、いつまでたっても論文の論理がぼやけるのだよ。
試験委員が明確に言葉を分けているのには、決定的な理由がある。いいかい、『課題』とはすでに顕在化している問題点だ。だからこそ『解決策』で直接的にそれを打ち破る必要がある。
一方で、『リスク』とはあくまで潜在的なものだ。これから起こるかもしれない『不確実性』だからこそ、事前に『対策(対応策)』を講じて発生を防ぐか、影響を抑え込むのだよ」
ワトソン
「顕在化しているのが課題で、潜在的なのがリスク……。なるほど、だから『課題の対策』や『リスクの解決策』という日本語は、技術士の論文としては不自然になるわけか!」
ホームズ
「その通りだ。この前提を理解した上で、この資料の第1章をベースに、技術士としてどのように『リスクマネジメント』を論文に組み込むべきか、その本質を解き明かそうじゃないか」

第1章:リスクマネジメントは「企業価値を高める活動」である
ホームズ
「まず、リスクマネジメントの定義を確認しよう。一般的には『企業不祥事で社長がマスコミの前で謝罪している場面』などを連想しがちだ 。しかし、それはあまりに狭い視点だ。
この資料では、リスクマネジメントを次のように定義している。
『リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理してリターンを最大化することで、企業価値を高める活動』だ 。」
ワトソン「企業価値を高める……? リスク管理といえば、ただ損失を防ぐだけの『守り』のイメージがあったが」
ホームズ
「そこが多くの受験生が陥る罠だ。リスクマネジメントは、すべてのステークホルダー(投資家、顧客、従業員、経営者)の期待にこたえ、信頼を獲得し、企業価値の向上につなげるチャンスなのだよ 。
技術士試験の論文でも、『ただ事故を防ぐため』という受動的な理由ではなく、『ステークホルダーの期待に応え、事業の継続性(ゴーイング・コンサーン)を確保するため 』という高い視座でリスク対応策を記述すると、コンピテンシーの評価が劇的に上がる」
第2章:部分最適の悲劇と「全体最適」へのパラダイムシフト
ワトソン
「なるほど。では、現場の各部署がそれぞれ一生懸命にリスク対策をすればいいんだな? 法務部はコンプライアンス、情報部門はセキュリティといった具合に 」
ホームズ
「やれやれ、君はまた三流の解答に逆戻りだね。
資料にもある通り、それは『部分最適型』のリスクマネジメントであり、多くの日本企業が抱える古い体質だ 。このやり方では、統括責任者が不明確になり、一元管理ができないという致命的な問題点が生じる 。」
ワトソン
「では、どうすればいい?」
ホームズ
「これからのリスクマネジメントは、『全体最適型(ERM)』でなければならない 。
技術士試験の論文、特に総監部門においては、この『全体最適』の視点が必須だ。
例えば、あるリスク対策を講じた結果、別の部門に新たなリスクを生じさせてしまっては意味がない。全社的な視点でリスクを一元管理し、統括責任者のリーダーシップのもとで対策を推進する 。論文の記述には、このスケール感が求められるのだよ」
第3章:損得勘定のリアリズム~リスクとコストの天秤
ホームズ
「そして、前編の最後に最も重要なことを教えよう。技術士たるもの、絶対に忘れてはならない『損得勘定』だ。リスクマネジメントの最大のデメリットは何だと思う?」
ワトソン
「うーん……手間がかかることかな?」
ホームズ
「ズバリ『コスト』だ。お金だけでなく、人や時間といった貴重な経営資源も含まれる 。
リスクに対して対策(コスト)が不十分だと経営は不安定になるが、逆に過大なコストをかければ、非効率な経営となり競争力の低下につながる 。
論文の『対策』の項目で、あれもこれもと無尽蔵にコストがかかる夢物語を書いてはいけない。常に『リスクとコストのバランスを考慮する』というリアリズムを漂わせるのだ 。それが、真の技術者の姿だよ」
ワトソン
「顕在化した課題を解決し、潜在的なリスクはコストとのバランスを見極めながら全体最適で抑え込む……。完璧な論理構造だ!」ホームズ「理解が早くて助かるよ。だが、後編で解説する第2章には、もっと恐ろしい罠が待ち受けている。『じゃあ、どんな潜在的リスクでも書いていいのか?』という問題だ。君が好きそうな『あのリスク』を例に挙げて、徹底的に解剖しようじゃないか」
(後編へ続く)





