令和2年度技術士試験必須問題合格解答解説:機械部門

A評価の解答

建設部門A評価解答を解説~~今回は令和02年Ⅰ-1

技術士試験では過去問題を分析することも重要

A評価の解答を詳細に見ながら何が良かったのか? しっかり確認して下さい。
令和02年(2020年)機械部門の必須問題Ⅰ-1です。
解答用紙の画像も載せますが、詳細は下のテキストを見て下さい。再現率はほぼ100%と言うことです。
選択科目は設計です。

令和02年(2020年)機械部門の必須問題Ⅰ-1合格解答

令和2年技術士二次試験必須問題Ⅰ-1合格解答

令和02年(2020年)機械部門必須Ⅰ-1

以下の画像は、各設問と全体の文章量を見るためだけのものです。
解答内容の詳細は、下のテキストを確認して下さい。

次の2問題(I-1,I-2)のうち1問題を選び解答せよ。(解答問題番号を明記し,答案用紙3枚以内にまとめよ。)

我が国において,短期的には労働力人口は著しく低下しないと考えられているものの,女性や高齢者の労働参加率の向上もいずれ頭打ちになり,長期的には少子高齢化によって労働力人口が大幅に減少すると考えられる。
一方で,「ものづくり」から「コトづくり」への変革に合わせた雇用の柔軟化・流動化の促進一億総活躍社会の実現といった働き方の見直しが進められている。このような社会状況の中で,実際の設計・開発,製造・生産,保守・メンテナンス現場におけるものづくりの技術伝承については,現場で実務を通して実施されている研修と座学研修・集合研修をし、かに組み合わせるか等の,単なる方法論の議論だけでなく,より広い視点に立った大きな変革が求められている。
このような社会状況を考慮して,機械技術者の立場から次の各問いに答えよ。

(1)今後のものづくりにおける技術伝承に関して,機械技術全般にわたる技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)上記すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と新たに生じる懸念事項への対応策を示せ。
(4)業務遂行において必要な要件・留意点を機械技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。

以下、解答は設問毎に解説します。(解答文章は黒文字、私の解説は赤文字です)

1.モノづくりの技術伝承における課題

1.1.課題①:伝承内容の明確化
モノづくりにおいて、熟練者の技術や知識は重要な要素である。しかし、それらは熟練者に属人化しており、共有化されていないことが多い。また、熟練者自身も技術伝承の内容を具体的に表現することは困難である。そのため、技術伝承の内容を明確にすることが課題である。

1.2.課題②:人材に適した伝承方法
今後の社会において、人材の流動化が進む。例えば、外国人労働者や、テレワーク就業が挙げられる。ただし、それらの人たちは技術的な専門知識を持っているとは限らない。また、就業形態も異なるため、伝承の方法も工夫する必要がある。そのため、人材に適した伝承方法の確立が課題である。

1.3.課題③:教育担当の負荷
技術伝承を行うには教材が必要であるが、その準備には時間がかかる。OJTを行う場合も、途中から業務優先になり、伝承不足になることが多い。また、教育係自身も多忙な業務の中で時間を作ることは困難であり、ワークライフバランスも達成できず、モチベーションが低下する。そのため、教育担当者の負荷軽減が課題である。

この問題は、問題文が、「機械技術全般にわたる技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。」となっています。つまり、観点を求めていません。従って、解答にも観点を書く必要はありません。課題は以下の3つです。

技術伝承の内容を明確にすることが課題である。
人材に適した伝承方法の確立が課題である。
教育担当者の負荷軽減が課題である。

技術伝承の問題は、どの部門でも出題されています。
どんな部門でも、人材を教育し、次世代のエンジニアを育てる必要があります。
ですから、どの部門でも技能や技術の伝承は重要です。また、技術士にとっても、次世代のエンジニアの育成は、重要な業務です。

では、その技能や技術を伝える際に何が最も重要な課題な課題になるか? です。
時間が必要。教える人間が必要。早くしないと、ベテラン職員の大量退職が始まる。
ベテランほど、業務が多忙で教える時間がない。
そもそも、若い人がいない。
課題候補は様々です。
最も重要な課題は、御自身が詳しく書ける解決策の方向に近づけてください。

2.最重要課題と解決策

熟練者が退職してしまうと技術伝承ができなくなる。そのため、伝承内容の明確化が最重要課題である。

2.1.解決策①:標準化
モノづくりにおける製品仕様や業務内容を標準化する。たとえば、製品仕様においては部品の規格を統一する。製造では、作業手順や工程をフロー化して可視化する。これにより、効率的な技術伝承が期待できる。
また、業務内容が統一化されるため、設計や製造における検討漏れやミスを防ぐことも期待できる。

2.2.解決策②:VR(Virtual reality)の活用
VRを活用し、熟練者の技術を体感することで技術伝承を行う。例えば、製造工程における部品の研磨工程をVR化する。部品に対してバフをどの角度でどの範囲に当てて研磨するのかを再現する。これにより、言葉では伝えきれない技術でも伝承することができる。また、設計においても、熟練者の設計検証の様子をVR化することで、熟練者と同じ手法で製品仕様を確認することができる。

2.3.解決策③:業務のフロー化  設計仕様検討の手順や考え方をフローにして可視化する。熟練者にヒアリングを行い、設計時に参考にする資料(過去トラブルや製品仕様書)とその着目項目を抽出する。また、それらの情報から判断基準も合わせてまとめる。これにより、熟練者と同じ思考で製品の仕様検討が可能になる。

最も重要な課題は、設問1の課題から、「伝承内容の明確化」を選択しています。
技能や技術の伝承に関する問題で、この「伝承内容の明確化」はあまり見ないです。
しかし、私個人も、これが最も重要な課題であると思っています。
技術は進歩します。不要になる技術もあります。なので、伝える技術の取捨選択は、重要だと思います。
これから、どんな技術が必要とされるのか?
これをよく考え、足りない時間を効率良く使って、技能や技術を伝える必要があります。

解決策も、標準化やVRの活用など今風の工夫が入っています。
これも評価されると思います。また、他の部門でも使える解決策です。

5つの管理を克服

3.解決策から生じる波及効果と懸念事項への対応策

3.1波及効果
策定した技術伝承を技術者が見ることで、業務改善に役立てることが期待できる。例として、業務フローの簡略化を検討できる。

3.2懸念事項
策定した技術伝承の仕組みを信用し、それに頼るあまり、情報のミスに気付かずに誤った技術が伝承されることが懸念点である。また、新しい技術の導入や製品の仕様変更といった情報が反映されないことがある。

3.3懸念点への対策
技術伝承の仕組みを策定した時点で、熟練者を含む技術者に回覧し、内容を確認する。また、定期的に回覧を行い、確認・改訂を行う。上記対応は個人ではなく、チーム単位で実施することで改訂忘れを防ぐことができる。

波及効果は、それほど波及していませんが、直接効果ではありません。
何とか、波及しています。業務改善への波及です。

懸念事項は、うっかりミスに近いですが、ありそうな話ではあります。
ほんらい、うっかりミスは、リスクや懸念事項にしない方が良いので、ここは減点されているかもしれません。

4.業務遂行において必要な要件・留意点

4.1技術者倫理
技術伝承の合間に事故が出ないよう、安全を第一にする。技術の表面を知識として蓄えるのではなく、意味を理解し、安全に活用できるように留意する。

4.2社会の持続可能性
先達が開発し、社会の発展を支えてきた技術を次世代に伝えることは、今の技術者に求められる要件である。重大な失敗例も含め、機械技術がどのように発展して来たのかを伝えられるように留意する。

以上

エンジニアの教育

倫理の観点は、定番の答えですが、社会の持続可能性観点は、ユニークです。
これは、評価されると思います。
皆さんはどう思いますか? こんな事を考えて、若い人に技術を教えていますか?
あまりないのでは? と思います。

技術士二次試験・解答解説のまとめ

  • 簡潔で分かり易い文章を書くように心がける
  • 題意と課題に齟齬がないように注意する
  • 課題と課題、課題と解決策など、解答内での論理的な破綻に注意する
  • 数値データを入れた方が良い(今回の解答はデータも少ないです)
  • 設問3で共通のリスクを求められているときは、解決策を3つにしない方が良い
  • 設問4の解答は紋切り型でもあまり気にしない
  • 社会の持続可能性とは、環境問題のことだけではない

上記に注意して、解答することを心がけて下さい。
ちなみに、上記の方は、2年目の合格者さんでした。
また、解答時間は100分~110分程度だったので、かなり書き写すことができたそうです。