一次試験との違いから、筆記・口頭試験の本質まで
プロローグ:試験問題を解く前に、試験そのものを推理せよ
~坂戸市、ベイカー街221B。ワトソンは机の上に、技術士第二次試験の過去問題を何冊も積み上げていた~
ワトソン博士
「ホームズ、技術士二次試験の勉強を始めようと思うんだが、何から手を付ければいいと思う?」
シャーロック・ホームズ
「興味深い質問だね。ところで君は、技術士二次試験が何を試しているのか知っているのかい?」
ワトソン
「専門知識だろう?」
ホームズは首を横に振った。
ホームズ
「それだけなら、もっと簡単な試験にできる」
「専門用語を100問並べて、正しい答えを選ばせればいい。ところが実際の技術士二次試験はそうなっていない」
ワトソンは過去問題を開いた。
そこには、
「課題を抽出せよ」
「解決策を示せ」
「新たに生じるリスクを述べよ」
「関係者との調整方策を述べよ」
といった言葉が並んでいる。
ホームズ
「試験問題を解く前に、試験そのものを推理する必要があるようだね」
技術士二次試験とは、何を知っているかだけを確認する試験ではない。
専門知識を使って、技術者としてどう考え、どう判断するかを評価する試験である。
これを理解することが、技術士二次試験対策の第一歩になる。
1.そもそも技術士二次試験とは何か
技術士になるためには、原則として技術士第一次試験に合格するなどして「技術士補となる資格」を得たうえで、一定の実務経験を積み、第二次試験に合格する必要がある。
令和8年度の技術士第二次試験は、機械、建設、電気電子、情報工学、農業、環境など、総合技術監理部門を含む21の技術部門で実施されている。
しかし、第一次試験と第二次試験では、その性格が大きく異なる。
第一次試験は、基礎科目、適性科目、専門科目について五肢択一式で実施される。
一方、第二次試験では、総合技術監理部門を除く一般部門について、筆記試験の中心が記述式となる。
この違いは大きい。
択一式試験なら、
「知っているか」
「正しいものを選べるか」
が重要になる。
しかし記述式では、
「なぜそう考えるのか」
「どのような課題があるのか」
「何をすべきなのか」
「実施した結果、どのような問題が起こり得るのか」
まで、自分で考えて文章にしなければならない。
ワトソン
「つまり、知識を持っているだけでは答案にならない?」
ホームズ
「その通り。知識は証拠だ。しかし証拠を机の上に並べただけでは推理にはならない」
2.技術士二次試験は「専門知識試験」だけではない
技術士二次試験という名前から、
「自分の専門分野について詳しければ合格できる」
と思ってしまう受験者は少なくない。
もちろん、専門知識は必要である。
建設部門なら建設技術。
機械部門なら機械技術。
電気電子部門なら電気電子技術。
専門的な裏付けのない答案では、技術士として評価されない。
しかし、専門知識が豊富だからといって、そのまま合格答案になるわけではない。
なぜなら技術士試験では、
専門知識を現実の問題解決へどう使うか
が問われるからである。
例えば、
「インフラの老朽化」
というテーマについて詳しく知っているとする。
老朽化率。
点検方法。
補修技術。
予防保全。
センシング。
AI。
デジタルツイン。
これらのキーワードをたくさん知っている。
しかし、問題文が求めているのが、
「複数の観点から課題を抽出し、そのうち最も重要な課題を選び、複数の解決策を示せ」
であるなら、
知識を並べるだけでは答えにならない。
何を課題とするのか。
なぜそれが重要なのか。
どの解決策が有効なのか。
解決策同士はどう関係するのか。
そこまで組み立てなければならない。
ホームズ
「技術士二次試験では、知識の量よりも、知識を配置する能力が問われる場面がある」
3.試験委員が見ているのは「技術者としての思考」である
技術士には、専門知識だけでなく、業務を遂行するためのさまざまな能力が求められる。
これを整理したものが、
技術士に求められる資質能力、いわゆるコンピテンシー
である。
令和8年度からは、令和5年に改訂されたコンピテンシーが試験に適用されている。ただし、日本技術士会は、現行の筆記試験や口頭試験ですでに改訂内容へ対応できているとして、試験内容自体には変更がないとしている。
ここは重要である。
コンピテンシーが変わったから突然まったく別の試験になったわけではない。
むしろ、
これまで技術士試験が評価してきた能力が、より明確に整理された
と考えた方が分かりやすい。
例えば、
専門的学識。
問題解決。
評価。
マネジメント。
リーダーシップ。
コミュニケーション。
技術者倫理。
こうした能力である。
つまり技術士二次試験では、
「この技術を知っています」
だけではなく、
「この条件なら、私はこう判断します」
まで示す必要がある。
4.「課題を抽出する」とはどういうことか
ワトソンが問題文を眺めながら首をかしげた。
ワトソン
「ホームズ、この試験はずいぶん『課題』という言葉を使うな」
ホームズ
「そこにも理由がある」
技術者の仕事は、与えられた計算問題を解くだけではない。
現実の業務では、
何が問題なのか。
どこを改善すべきなのか。
何を優先すべきなのか。
そこから考えなければならない。
技術士二次試験でも同じである。
例えば、
「人口減少」
は社会的な背景である。
「人手不足の観点」
は見る方向である。
そこから、
「少人数でも安定して維持管理できる体制を構築する」
と具体化すれば、解決可能な課題になる。
つまり、
背景と課題は違う。
観点と課題も違う。
ここを混同すると、答案全体の論理が崩れやすい。
技術士二次試験が難しい理由の一つは、
問題を与えられて解く前に、何を解くべきかを自分で設定しなければならない
ところにある。
5.解決策には「技術者としての理由」が必要になる
課題を設定したら、次は解決策である。
ここでも、
「DXを導入する」
「AIを活用する」
「教育を行う」
だけでは十分ではない。
なぜその解決策なのか。
どのように実施するのか。
何を改善できるのか。
技術的な根拠を持って説明する必要がある。
さらに現在の技術士試験では、解決策を書いて終わりではない。
その施策によって、
新たなリスクが生じないか。
別の問題が悪化しないか。
関係者間で利害対立が起きないか。
そこまで考える問題も多い。
これは現実の技術業務と同じである。
どんな技術にも長所と短所がある。
DXを進めれば効率化できる。
しかしサイバーセキュリティリスクは増える。
自動化を進めれば省人化できる。
しかし技能継承が難しくなる場合がある。
環境対策を強化すれば負荷を減らせる。
しかしコストが増える可能性もある。
ホームズ
「優れた技術者は、解決策の効果だけを見ない。その解決策が生み出す次の問題まで見る」
この視点が、技術士二次試験では重要になる。
6.必須科目と選択科目は何が違うのか
技術士二次試験では、総合技術監理部門を除く一般部門について、
必須科目Ⅰ
と、
選択科目Ⅱ・Ⅲ
がある。
ここで受験者が注意したいのは、
「全部、自分の専門知識を書けばいい」
という理解である。
必須科目では、技術部門全体に関わるテーマが扱われる。
一方、選択科目では、より選択科目に即した専門的な内容が問われる。
つまり、同じ建設部門の受験者でも、
必須科目では「建設部門全体としてどう考えるか」
選択科目では「道路技術者としてどう考えるか」
と、視野を切り替える必要がある。
この切り替えができないと、
専門的には正しいが、問題が求める範囲から外れた答案になることがある。
ワトソン
「知識の深さだけでなく、見る範囲も変える必要があるんだな」
ホームズ
「そうだ。顕微鏡と望遠鏡を同じ使い方はしないだろう?」
7.総合技術監理部門だけは試験の性格が違う
21技術部門の中でも、総合技術監理部門は少し特殊である。
令和8年度では、総合技術監理部門の必須科目は、他の一般部門とは別日に実施される。令和8年度は総監必須が7月19日、一般部門および総監選択科目が7月20日に実施された。
総監では、
経済性管理。
人的資源管理。
情報管理。
安全管理。
社会環境管理。
という5つの管理を中心として、業務全体を俯瞰し、トレードオフを調整する能力が問われる。
したがって、
一般部門の延長として総監を考えると、対策を誤りやすい。
一般部門では専門技術を軸に問題解決する。
総監では業務全体を複数管理から見る。
この違いを理解しておく必要がある。
8.筆記試験だけが技術士二次試験ではない
技術士第二次試験には、
筆記試験と口頭試験
がある。
令和8年度では、筆記試験合格者を対象として、口頭試験が令和8年12月上旬から令和9年1月中旬に東京都で実施される予定となっている。
ここで重要なのは、
口頭試験を単なる「筆記試験の確認」と考えないことである。
口頭試験では、
受験申込書に記載した業務経験。
技術者としての判断。
マネジメント。
リーダーシップ。
コミュニケーション。
技術者倫理。
などについて確認される。
つまり、
筆記試験では答案として表現した技術者像を、口頭試験では自分の言葉で説明する
必要がある。
筆記試験と口頭試験は別々の試験に見える。
しかし、本質的にはつながっている。
9.技術士二次試験で最も難しいこと
ワトソンはしばらく考えてから尋ねた。
ワトソン
「ではホームズ、結局この試験で一番難しいのは何なんだ?」
ホームズは答えた。
ホームズ
「複数の能力を同時に使うことだろうね」
知識だけではない。
文章力だけでもない。
暗記だけでもない。
技術士二次試験では、
問題文を読む。
背景を理解する。
課題を設定する。
専門知識を使う。
解決策を考える。
効果を評価する。
リスクを見る。
倫理を考える。
そして、それらを限られた時間で文章にする。
これらを同時に行う。
だから難しい。
しかし逆に言えば、
何を鍛えればよいかを分解できれば、対策できる試験でもある。
10.「難関試験」だが、正体不明の試験ではない
技術士二次試験について、
「難しそうだから、とにかく勉強しなければ」
と考える必要はない。
最初に行うべきなのは、
試験が何を評価しているのかを理解すること
である。
専門知識を問う。
しかし専門知識だけではない。
問題解決を問う。
しかし解決策を書くだけでもない。
評価する。
リスクを見る。
関係者を考える。
倫理を考える。
そして、自分の考えを第三者へ伝える。
そこまで含めて、
技術士として業務を遂行できる人か
を見ている。
そう考えると、過去問の見え方も変わってくる。
単なる問題集ではない。
試験委員が、
「この受験者はどのように考える技術者なのか」
を確認するための質問なのである。
エピローグ:では、どう勉強する?
ワトソンは過去問題を閉じた。
ワトソン
「なるほど。今まで私は、技術士二次試験を『難しい専門知識の試験』だと思っていた」
ホームズ
「それでは半分しか見えていなかったことになる」
ワトソン
「しかしホームズ、試験の正体は分かったとしても、次の問題がある」
ホームズ
「聞こう」
ワトソン
「どうやって勉強すればいい?」
ホームズは微笑んだ。
ホームズ
「ようやく正しい順番になったね」
「過去問を何年分解くのか」
「何時間勉強するのか」
「模範解答はどう使うのか」
「いつから答案を書き始めるのか」
「独学でよいのか」
これらはすべて重要な問題である。
しかし答えは、
試験が求める能力から逆算して決めなければならない。
ホームズは新しい紙を机の上に置いた。
そこには、
11月 → 7月
と一本の線が引かれていた。
ホームズ
「次は、この試験をどう攻略するかを考えよう」
(後編へ続く)

【情報源】
公益社団法人日本技術士会「令和8年度技術士第二次試験 実施案内」
公益社団法人日本技術士会「令和8年度 技術士第二次試験の実施について」
公益社団法人日本技術士会「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)に関する質問」
公益社団法人日本技術士会「令和8年度技術士第一次試験 実施案内」
私(匠)は『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』の正式会員です。
「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)」は、1977年に設立された日本最大級のシャーロック・ホームズ愛好家(シャーロキアン)の親睦団体です。全国に約700名の会員を擁し、専門的な研究からファンの交流まで幅広い活動を行っています。
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・入会のしやすさ: 論文の提出義務などはなく、ホームズを愛する気持ちがあれば誰でも気軽に参加できるウェルカムな雰囲気のクラブです。






