『第六次環境基本計画』について ー第4回:第6次環境基本計画をテーマにした必須問題ー

元データは以下『環境省:第6次環境基本計画の概要』

https://www.env.go.jp/council/content/i_01/000225216.pdf

令和7年も残り3日で終わります。

令和8年度の技術士二次試験を目指す皆さん、年が明けたら本格的に試験勉強を開始してください。

今回は第6次環境基本計画をテーマにした問題文を2問作ってみました。

少しアレンジすれば、環境部門以外の方も試験対策に使えると思います。

ぜひ活用してください。


I-1 問題

環境基本法第15条の規定に基づく第六次環境基本計画が,令和6 (2024) 年5月に閣議決定された。人類の活動は環境収容力(プラネタリー・バウンダリー)を超過しつつあり,その結果,自らの存続基盤への脅威となるような,気候変動,生物多様性の損失,汚染という地球の「3つの危機」に直面するに至っている。

同時に,我が国は人口減少や長期的な経済停滞という深刻な社会経済課題にも直面している。30年前の第一次環境基本計画の時点で「大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動は問い直されるべき」と指摘されていたが,その構造的な転換は十分に進まなかった。

このため第六次環境基本計画では,従来のGDP(国内総生産)中心の考え方から脱却し,計画の究極的な目的を,現在及び将来の国民一人ひとりの「ウェルビーイング(Well-being)/ 高い生活の質」の実現にあると明記した。目指すべきビジョンとして,地下資源への過度な依存から脱却し,地上資源を基調とする「循環共生型社会(環境・生命文明社会)」への転換を掲げている。

そして,その実現の原動力として,従来の自然資本(森林,水,土壌等)のみならず,それを維持・回復・充実させる資本・システム(再エネ設備,循環インフラ,環境教育を担う人的資本,ESG金融システム等)までを一体として捉えた「シン・自然資本」という概念を提示し,ここへの投資を通じて質的な「新たな成長」を創出する方針を示した。また,これらの変革を実践・実装する具体的な場として「地域循環共生圏」の構築を推進することとしている。

こうした文明史的な転換を「環境部門」(環境保全計画,環境測定,廃棄物管理,自然環境保全 等)の技術者として主導する立場として,以下の問いに答えよ。

(1) 環境部門における技術者としての立場で多面的な観点から3つの技術課題を抽出し,観点を明記したうえで,その技術課題の内容を示せ。

(2) 前問(1)で抽出した技術課題のうち最も重要と考える技術課題を1つ挙げ,その技術課題に対する複数の解決策を,環境部門の専門技術用語を交えて示せ。

(3) 前問(2)で示したすべての解決策を実行して生ずる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

(4) 前問(1)~(3)の業務遂行に当たり,技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を題意に即して述べよ。


I-1 解答例(環境部門の技術士による解答)

1. 多面的な観点からの技術課題の抽出

(1)資源循環の観点

課題: 従来の3R中心の廃棄物管理では、資源消費型の社会構造の変革には至らない。プラスチック汚染や地下資源枯渇といった「汚染の危機」の根本的解決が遅れていることが課題。

(2)生物多様性確保の観点

課題: 開発事業における環境影響評価が、生態系へのマイナス影響の回避・低減に留まっている。自然資本の価値を積極的に回復・向上させ生態系サービスを最大化する「ネイチャーポジティブ」の技術的アプローチ不足が課題。

(3)脱炭素化の観点

課題: 再生可能エネルギー導入が大規模集中型に偏重している。地域の自然資本を活かし「地域循環共生圏」と連動した自立・分散型エネルギーシステムへの「シン・自然資本」投資が停滞していることが課題。

2. 最も重要な課題と解決策

最も重要な課題は「シン・自然資本」投資が停滞していることである。なぜなら、気候変動は「3つの危機」で最も喫緊性が高く、その解決策は「シン・自然資本」投資の中核となるからである。

(1)解決策:ゾーニングによる再エネ導入と自然共生の最適化

地域の「シン・自然資本」をGIS(地理情報システム)上で統合的に分析する。戦略的環境アセスメント(SEA)の手法を導入し、自然資本の毀損リスクが高いエリアと、導入を促進すべきエリアを明確化するゾーニングマップを作成し、自然共生と脱炭素化を両立させる適地選定を技術支援する。

(2)解決策:地域未利用資源を活用したエネルギー循環システムの構築

地域の未利用バイオマス(食品残渣、家畜排泄物、下水汚泥、林地残材等)の賦存状況を定量化する。これらをメタン発酵等でエネルギー源(バイオガス発電)およびマテリアル(液肥)として利用する地域資源循環システムを設計する。その際、LCA(ライフサイクルアセスメント)を実施し、CO2削減効果と経済性を定量評価する。

3. 波及効果と懸念事項への対応

(3)波及効果:第一に、地域の自然資本を活用したエネルギーの地産地消が実現し、化石燃料依存から脱却することで、脱炭素化が加速する。

第二に、エネルギーコストの外部流出が抑制され、バイオマス収集運搬や施設管理等で新たな雇用が創出され、地域内経済循環が活性化する。

(2)対応策: 計画段階での環境アセスメント(生活環境影響調査)を徹底し、最新の脱臭技術や排水処理技術を導入する。さらに解決策3の環境情報プラットフォームを活用し、施設の稼働状況や環境測定データをリアルタイムで公開する。継続的なリスクコミュニケーションの場を設け、透明性を確保し住民の不安を払拭する。

4.業務遂行上の要件・留意点

(1)技術者倫理の観点:

要件:業務の目的が、第六次環境基本計画が示す「現在及び将来の国民のウェルビーイングの実現」にあることを自覚し、目先の経済性にとらわれず、将来世代に負の遺産を残さない公正な判断を行う。

留意点(真実性の確保): ゾーニングやLCAの実施において、不都合なデータ(例:想定よりCO2削減効果が低い)も隠蔽・改竄することなく真実を報告する。専門的知見を市民に分かりやすく説明する責務(アカウンタビリティ)を果たす。

(2)社会の持続可能性の観点:

要件(地球環境の保全): 我々の活動がプラネタリー・バウンダDリーの範囲内でのみ許容されることを認識し、「3つの危機」を回避するという大局的な視点で業務を遂行する。

留意点(共進化の促進): 「共進化」の理念に基づき、多様なステークホルダー(住民、NPO、事業者、行政)の意見や地域の伝統知に謙虚に耳を傾け、対話を通じて社会的合意を形成するファシリテーターとしての役割を積極的に担う。


I-2 問題

令和6 (2024) 年5月に閣議決定された第六次環境基本計画は,気候変動,生物多様性の損失,汚染という「3つの危機」が,我が国の人口減少や経済停滞といった社会経済課題と本質的に関連していると指摘する。

この複合的な危機を打開し,国民の「ウェルビーイング(Well-being)/ 高い生活の質」を実現するため,計画は「循環共生型社会」への転換を掲げている。特に,この転換は政府のトップダウンな施策のみでは達成不可能であり,「政府,市場(企業),国民(市民社会・地域コミュニティ)」が互いに影響を与えながら変革を進める「共進化」が不可欠であると強調している。

そして,この「共進化」を実践・実装する具体的な場として,第五次計画に引き続き「地域循環共生圏」の構築が重要視されている。「地域循環共生圏」とは,各地域がその特性(自然資本,人的資本,文化など)を最大限活用し,地域の資源を循環させ,自立・分散型の社会を形成しつつ,近隣地域と連携して課題解決を図る構想である。

社会資本の整備・管理を担う建設部門の技術者には,従来のインフラ整備に留まらず,こうした地域の自然資本やコミュニティの価値を高め,「地域循環共生圏」の構築を主導的に支援する役割が強く求められている。

上記の状況を踏まえ,以下の問いに答えよ。

(1) 建設部門の技術者として,地域の自然資本を活かし,地域の多様な主体(住民,NPO,企業,行政等)との「共進化」を通じて「地域循環共生圏」の構築を推進するうえで,多面的な観点から3つの技術課題を抽出し,観点を明記したうえで,その技術課題の内容を示せ。

(2) 前問(1)で抽出した技術課題のうち最も重要と考える技術課題を1つ挙げ,その技術課題に対する複数の解決策を,建設部門の専門技術用語を交えて示せ。

(3) 前問(2)で示したすべての解決策を実行して生ずる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

(4) 前問(1)~(3)の業務遂行に当たり,技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を題意に即して述べよ。


I-2 解答例(環境部門の技術士による解答)

1. 多面的な観点からの技術課題の抽出

観点1:地域自然資本の観点

課題: 社会資本整備において、防災性や効率性を重視する従来の画一的なグレーインフラ偏重の計画・設計手法が優先され、地域の自然資本(生態系ネットワーク、小水力、森林資源等)を活かしたグリーンインフラや再生可能エネルギー施設の導入が阻害されていることが課題。

観点2:合意形成プロセスの観点

課題: 事業計画の初期段階において、建設技術者と多様な主体(住民,NPO等)との間で自然資本の価値や便益に関する情報共有が不足しており、相互理解に基づく「共進化」の合意形成プロセスが機能していないことが課題。

観点3:非市場的価値の観点

課題: 自然資本がもたらす生態系サービスの価値が、従来の費用対効果分析(B/C)で適切に評価されておらず、「地域循環共生圏」に資する社会資本整備への投資判断が停滞していることが課題

2. 最も重要な課題と解決策

最も重要な課題は、「多様な主体との『共進化』を促す合意形成プロセスの観点」から抽出した課題である。なぜなら、「共進化」は計画が示す変革の核心的なメカニズムであり、建設技術者が専門知識を一方的に提供するだけでは「地域循環共生圏」は実現できない。

(1)BIM/CIMを活用し自然資本の可視化と情報共有

計画地域の3次元地形データに、生態系ネットワーク、浸水想定区域、景観資源、再エネポテンシャル等のデータを重畳した「地域循環共生圏BIM/CIMモデル」を構築する。これを市民参加型ワークショップ等の場で活用し、自然資本の価値と社会資本整備による影響を仮想現実等で可視化する。専門家と住民間の情報格差を解消し、データに基づく円滑な合意形成を促進する。

(2)初期段階の市民参加型ワークショップの導入

従来の専門家主導の計画プロセスを見直し、事業の構想段階から多様な主体が参画する場を設ける。建設技術者はファシリテーターとして、BIM/CIMモデルをツールに用い、地域の課題や将来像を共有する。地域の伝統知や住民ニーズを計画に反映させるとともに、対話を通じて「共進化」の素地を醸成し、実行力のある計画を策定する。

3. 波及効果と懸念事項への対応

(1)波及効果:計画の透明性が高まり、地域の多様な主体の意見が反映されることで、社会資本整備に対する社会的受容性が向上し、円滑な事業執行に寄与する。

(2)懸念事項と対応策と懸念事項: 多様な主体の参画を促しても、専門知識の格差や、時間的制約により、一部の意見の強い主体に議論が誘導されたり、合意形成が長期化・形骸化したりして、「参加疲れ」により「共進化」が停滞するリスクがある。

対応策: 建設技術者がファシリテーション技術を習得するとともに、地域の実情を理解するNPOや中間支援組織と連携し、中立的な議論の場を運営する。また、BIM/CIMモデルのインターフェースを簡易化し、誰もが理解・参加しやすい環境を整える。さらに、住民から出た意見が計画にどう反映されたかを明確にフィードバックし、参加の意義を実感できる仕組みを作る。

4.業務遂行上の要件・留意点

(1)技術者倫理の観点:

要件:合意形成プロセスにおいて、社会的弱者や少数意見が排除されないよう、公正性・包摂性を担保する。

留意点:技術的な限界やリスクについても正確に説明し、多様な主体との真摯な対話を通じて意思決定を支援する説明責任を果たす。

(2)社会の持続可能性の観点

要件: 現在の地域住民との合意を優先するあまり、「3つの危機」に対応できず、将来世代の「ウェルビーイング」を損なうことがないよう、長期的な視点と地球環境保全の視座を持って業務を遂行する。

留意点: 「共進化」の理念に基づき、建設技術者が主導するだけでなく、整備した社会資本を将来にわたり地域主体で維持管理・活用していける体制の構築までを見据えて計画を支援する。

年内最後のブログです、皆さん1年間ありがとうございました。
来年が皆さんにとって良い年になりますよう、お祈りいたします。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
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