技術士を取得するということ
現在、エンジニアとして働いている方々の中には、自分自身のキャリアに不安を持たれている方も多いのではないでしょうか。
ある調査会社が行った調査によると、社会人の約75%が、自分のキャリアに不安を感じているそうです。
しかし、同じ調査では、「キャリアに不安がない人」は、「何かへの自信」があり、その自信が不安を軽減させているという結果も得られています。
そして、エンジニアにとっての「ゆるぎない自信」につながるものとして、「技術士資格」があるのです。
この記事では、エンジニアのキャリア形成と技術士資格について、詳しくご説明させていただきたいと思います。
技術者のキャリアプランとは
キャリアプランとは、将来のビジョンや目標について、事前に計画を立てておくことです。
事前にキャリアプランを考えておくことで、具体的な達成内容や実施内容を把握することが可能になります。すると、目的意識を持ちながら積極的に業務に取り組むことが可能となるのです。
・建設業界のキャリアプランとは
ここでは、技術士の部門にある建設業界を例にとってみましょう。
働いている企業の職種や規模によっても大きく変わってきますが、建設業界のキャリアプランとしては、次のようなケースが考えられます。
勤続年数 | 役職 | 年収目安 | 主な仕事内容 |
1~5年 | 社員 | 330〜430万円 | 業務の遂行 |
5~10年 | 係長 | 490~530万円 | 部下の指導・教育 |
10~15年 | 課長 | 600~650万円 | 部署の責任者 |
15~20年 | 部長 | 620万円~ | 全体のマネジメント |
※年収目安は国土交通省HPを参照
未経験から経験を積んでいき、昇進や昇給を重ねていくというキャリアプランになっています。
これは、建築業平均の金額になります。ただし、ゼネコンの場合は、年収がこれよりも高い傾向にあります。
業界大手の企業では年収1000万円以上、準大手・中堅企業でも800〜900万円台を目指すことが可能です。
・製造業のキャリアプランとは
こちらは、製造業での生産管理におけるキャリアの例です。
このパターンでも働いている企業の規模や製造している内容によって、キャリアプランは大きく変わってきます。
勤続年数 | 役職 | 年収目安 | 主な仕事内容 |
半年~1年 | 社員 | 350万円~ | 工場での実習 |
1~5年 | 社員・班長 | 400万円~ | 工場の担当として業務開始 |
~10年 | 主任・係長 | 460万円~ | 海外赴任・他部署への異動など |
10年~ | 課長 | 600万円~ | マネジメント |
20~30年 | 製造部長・工場長 | 800万円~ | 工場長・生産工程の責任者 |
30年~ | 事業部長・社長 | 1,100万円~ | 事業部長・海外拠点の社長 |
※年収目安は転職サイト各社を参照
これは、製造業全体の金額ですが、上場企業の場合は、年収がこれよりもかなり高い傾向にあります。
最初は現場での実習からスタートして、キャリアアップを重ねていきます。
工場でのキャリアアップの際には、資格が有利に働くことが多くなります。資格保持者にしかできない仕事を任されるようになるので、ほかの社員との間に差をつけることができ、給与アップも期待できます。
・転職や独立開業というキャリアも
また、働いている会社から転職するというキャリアプランもあります。
転職する際には、より好条件でのキャリアチェンジをしたいものですよね。その際にも、アピールしやすい実績として、資格を活用することが可能になります。
さらに、独立・起業するというキャリアプランも可能です。独立・起業することには、「自由がきく」「やりたい仕事をできる」などのメリットがあります。一方、会社という後ろ盾がなくなるため、「社会的な信用が低くなる」というデメリットもあります。
そのような際でも、技術士という最難関の国家資格を持っていることは、確かな信頼の裏付けになります。
技術士資格について
技術士は、科学技術に関する技術的な専門知識と高等の専門的な応用能力および、豊富な実務経験を有していることを認定する国家資格です。
ですから、技術士という資格を持っていることによって、高い技術者倫理を備えた優れた技術者であることが認められます。
残念なことに、一般の方々には知名度の低い資格です。しかし、部門に該当する業界内では、保有していることがステイタスにもなる貴重な資格になっています。
技術士の活躍場所について
技術士は、など20の分野にカテゴライズされています。それぞれの分野に活躍できるフィールドが存在していて、研究・分析や監理、調査・評価、コンサルティングといった業務で力を発揮できます。
国内外の先端技術を開発するチームの一員として活躍したり、国際社会で社会貢献を行えるような業務に携わったりすることも可能です。
活躍の場は民間企業だけではなく、官公庁の研究職・技術職として活躍する人もいます。
また、技術士になると年齢を気にせずに活躍できることが特徴になります。
ネット上には技術士を専門にした転職サイトがありますが、コンサルタントとしての求人が多数掲載されています。その内容でも注目すべき点は年齢となり、ほとんどの求人が70歳まで応募が可能になっています。
起業にお勤めの場合でも、定年後に活躍できる舞台が多数用意されていて、自分を輝かせることが可能になっています。
技術士資格のメリットは
技術士の資格を取得しようとした際には、その難易度の高さに抵抗を感じる方も多いかもしれません。
実際に、受験している方の多くが、国立大学や難関私立大学を卒業、大学院を修了した方々です。それにも関わらず、二次試験の合格率は10%にも満たない年度もあります。
それでも、技術士試験は未踏峰の山を登るような試験ではありません。正しいやり方で対策を行えば、合格は手に入れられます。しかし、試験の対策として多くの時間を必要とすることも事実です。
勉強時間を好きなだけ確保できる学生とは違って、技術士の二次試験を受験する人の多くが社会人になります。試験勉強をする時間を確保するためには、多くのものを犠牲にすることも考えられます。
それでも、技術士の資格をとることには多くのメリットがあります。次に挙げたメリットは、文部科学省が実際に技術士の資格を取得して活躍している人たちに行ったアンケート結果になります。
- 管理者に登用されやすくなり、責任の大きい業務を任されやすくなる。
- ある程度の能力を持っている技術者であると評価される。
- 技術士資格取得は人事評価の基準の一つに含まれている。
- 業界動向や今後の技術展望等も理解した上で顧客と会話できることが期待されている。
- 高い技術力、問題解決能力を持ち、困難な仕事を遂行していくことを期待されている。
- 社長表彰と報奨金、取得の経費(受験料・登録料)が支給された。
- 入札に関する部門ではリーダーとして期待されている。
これらはほんの一例です。しかし、これだけの意見からみても、技術士という資格を取得することで、企業から期待される人材となることは疑いようがありません。
また、取得に関する補助を行っている企業もあります。通信教育や模擬試験、セミナーを受ける費用を補助してくれるなど、資格取得を後押ししてくれる場合もあるので、上手に利用してみましょう。
技術士資格は公務員の方でも
一般企業にお勤めの方にとっては意外かもしれませんが、公務員でも技術士の資格を取得する方がいます。
公務員になるのに必要な資格は、「公務員資格」で、公務員試験自体が一種の資格試験のようなものです。ですから、公務員として仕事をする上では、他の資格は必要ありません。
公務員の方は「自信を持って専門職に従事したい」といった理由で資格を取得しているようです。また、「定年後に活躍できる機会が増える」といった理由も大きいようです。
人生100年時代です。老後資金についての問題も深刻ですが、定年後の生きがいややりがいも必要です。
安定しているように見える公務員の方であっても、自己防衛や自己研鑽のために、技術士の資格を取得しているのです。
技術士資格は女性の強い味方
技術士資格は、男性の方にとっても業界で活躍するためには有利な資格です。
しかし、それ以上に女性のエンジニアの方にとっては、キャリア形成に有利な資格になっています。
男女平等が叫ばれている現代ですが、まだまだ働く女性への負担は大きい傾向にあるでしょう。
最近では男性の方が育児休暇をとることも珍しくなくなり、育児は女性だけのものではなくなってきています、しかし、男性が育児の主導権を握っているケースは、まだまだレアなようです。
残念ながら、女性の負担が大きい場合がほとんどです。
さらに、男性に「育児」は行えても、「出産」は行えません。
出産によるキャリアの中断や喪失に備えて、揺るぎない資格を取っておくことが必要になるのです。
現在、技術士の最年少記録は26歳ですが、その記録保持者の方は女性です。
女性の方は、ライフイベントによって、年を重ねるごとに試験勉強時間を確保しにくくなる傾向にあります。
集中して学習を進められれば、資格を取得するまでに、さほど長い時間はかかりません。
とくに女性の方にとっては、受験準備を一刻も早くスタートすることが、キャリア形成を成功させる秘訣になります。
男女差なく活躍できる技術士という資格
最近では、理系の難関国立大学である東京工業大学で、2024年度から「女子枠」が新たに設置されるというニュースが話題になっています。
これは、理系分野にもっと女性の力を活用しようという狙いがあるようです。しかし、このような取り組みをしなければならない程、理系で活躍できている女性の数が少ないということでもあります。
実際の職場においても、建築業や製造業など、多くの分野では男性の比率が高くなっています。そのため、従来のステレオタイプな考え方から、女性に対する偏見がいまだに残っている場合があります。
そのような問題を根本的に解消するためには、社会構造の変革が必要です。しかし、自分で行える対応策として、技術士資格の取得があります。
技術士の資格は、男女の性差に関係なく、その分野における確固たる能力の証明になります。「女性でも男性と対等に渡り合える」ということではなく、男性でも女性でも同じように最高のエンジニアとして輝けるのです。
技術士資格は早期取得が有利
技術士という資格は、エンジニアにとって最難関の資格となっています。さらに、4年以上の長い実務経験を積む必要があることから、合格者の年齢もそれなりに高い傾向にあります。
・20代30代での取得が有利
令和3年の合格者でみてみると、一次試験合格者の平均年齢は31.6歳、二次試験合格者の平均年齢は42.5歳となっています。
しかし、二次試験での年代別の合格率で見てみると、トップは30代の10.7%になります。しかし、40代の合格率は9.2%、20代の合格率は9.1%と、ほとんど変わらない結果になっているのです。
さらに、50代では7.0%、60代では6.4%、70代では3.4%と、年齢を重ねるごとに合格率が低下していることが読み取れます。
年齢を重ねるにつれて、「家庭を持ったこと」や「役職についたこと」などで、資格試験のための勉強時間を確保できないなどのデメリットも生じてきます。
・生涯年収に大きく差がつく
また、技術士の資格を取得すると、職場での資格手当がつく場合がほとんどです。資格手当の金額は勤務先によって大きく変わりますが、一般的に3万円以上と言われています。
毎月の金額にしても3万円は大きなものですが、それが1年なら36万円になります。さらに、20代から40代までの20年間なら、なんと720万円以上の収入増になるのです。
資格試験に向けた勉強時間の確保のしやすさや、資格を取った後のメリットを考慮すると、年齢が若いうちに技術士の資格を取得しておくことがおすすめになります。
まとめ
年功序列や終身雇用制が怪しくなり、大手企業に勤務していても、安泰ではない時代になっています。若い頃からキャリアを作って自己防衛していないと、安心して将来を迎えることができません。
技術士資格は将来のために役立つ、保険のような国家資格です。
取得していることで、企業内でのステップアップはもちろん、転職や独立・起業の際に役立てることが可能です。
試験の難易度や勉強時間の確保に、受験を躊躇している方も多いかもしれません。しかし、受験の時期が早ければ早いほど、障害となる事項が少なくなります。
迷っている暇はありません。
技術士という国家資格は、間違いなくあなたの大きな武器になるのです。すぐにでも準備を始めて、技術士の資格を取得しましょう。