【技術士試験】ホームズの推理:「問題解決能力」は答案のどこに現れるのか(前編)

プロローグ:ワトソン、また「課題」を並べすぎる

坂戸市ベイカー街221B

暖炉の火が静かに揺れている。ワトソン博士は、技術士第二次試験の問題文を机いっぱいに広げ、眉間にしわを寄せていた。

「ホームズ、また分からなくなってきたよ」

ワトソンは、手元の答案用紙を指で叩いた。

「技術士試験で『問題解決能力』が大事だということは分かっている。だが、実際の答案のどこでそれを示せばよいのかが分からない。課題を三つ書けばいいのか。解決策をたくさん書けばいいのか。それとも最後にリスクを書けばいいのか」

ホームズは椅子にもたれ、細長い指を組んだ。

「ワトソン君、君はまた事件現場に落ちている証拠品を全部ポケットに詰め込もうとしている。問題解決能力とは、知っていることを全部書く能力ではない。複雑な状況から、何が本当の問題かを見抜き、解決の筋道を作る能力だ」

「では、答案のどこに現れるんだ?」

「ほぼ全体だ。だが、特に現れるのは、必須科目と選択科目Ⅲである。令和7年度建設部門の必須問題でも、設問はまさにその構造になっている。I-1では、持続可能な建設業を実現するために三つの技術課題を抽出し、最重要課題を選び、解決策、将来的な懸念事項、倫理と社会の持続性まで問うている。I-2でも、経済成長を目的とした社会資本整備を題材に、同じく課題抽出、最重要課題、解決策、波及効果と懸念事項、倫理を問う構成になっている。これは単なる知識問題ではない。問題解決の思考過程そのものを答案用紙に再現させる問題だ」

ワトソンは深くうなずいた。

「つまり、問題解決能力は、設問(1)からすでに問われているのか」

「その通りだ。むしろ設問(1)で失敗した答案は、設問(2)以降で取り返すのが難しい」

第1章:問題解決能力は「解決策を書く力」ではない
ワトソンは首をかしげた。

「しかし、問題解決能力というくらいだから、解決策をうまく書けばよいのではないのか?」

ホームズは即座に首を振った。

「違う。そこが最初の誤解だ。問題解決能力は、解決策の量では測れない。令和8年度から適用される改訂版コンピテンシーでは、問題解決について、複合的な問題の内容を明確にし、調査し、背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析することが求められている。また、相反する要求事項を踏まえて合理的な解決策を提案することも求められている。つまり、入口は『解決策』ではなく、『問題の構造化』なのだ」

「複合的な問題の内容を明確にする……。それは、問題文の背景を読むということか?」

「そうだ。たとえば、令和7年度建設部門I-1を見てみよう。問題文には、社会資本整備・管理の主体、災害時の地域の守り手、労働条件の厳しさ、担い手不足、資材価格高騰、時間外労働規制、担い手3法の改正が並んでいる。ここで受験者がやりがちな失敗は、『人材不足が課題』『生産性向上が課題』『働き方改革が課題』と、問題文の単語を拾って並べるだけの答案だ」

「それでは駄目なのか?」

「駄目だ。単語の抜き書きは推理ではない。単なる目撃証言だ。技術士に求められるのは、なぜそれが問題なのか、何が制約になっているのか、どういう二律背反があるのかを整理することだ」

ワトソンは答案用紙を見つめた。

「なるほど。では、『担い手不足』と書くだけでは足りないのだな」

「そうだ。技術課題として書くなら、たとえばこうなる。『生産年齢人口の減少と時間外労働規制の下で、施工能力を維持しながら休日確保と工期遵守を両立させる施工マネジメントの高度化が課題である』。この一文なら、背景、制約、二律背反、解決すべき対象が入っている」

「同じ人材不足でも、急に技術士らしく見えるな」

「それが問題解決能力の入口だ。課題とは、困っていることの名前ではない。目的達成を阻む具体的な障害である」

第2章:「観点」と「課題」を分けられない答案は弱い

ワトソンは、令和7年度の設問を読み上げた。

「設問(1)には、『多面的な観点から3つの技術課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その技術課題の内容を示せ』とある。なぜ、わざわざ観点を明記させるのだろう?」

ホームズは満足げに笑った。

「そこに試験委員の意図がある。観点を書かせるのは、受験者が問題を多面的に整理できるかを見るためだ。課題だけを三つ並べると、同じ話を言い換えただけになることが多い。たとえば、『担い手不足』『技能者不足』『若手不足』と三つ書いたら、これは三つの課題ではない。同じ事件の別名を三つ並べただけだ」

「それはよくある答案だな」

「非常によくある。だから観点を分ける必要がある。たとえば、建設業の持続可能性なら、人的資源の観点、施工生産性の観点、制度・契約の観点、安全・品質の観点、地域維持の観点、環境・社会持続性の観点などが考えられる。ただし、観点は抽象的でよい。課題は具体的でなければならない」

ワトソンはメモを取った。

「観点は抽象、課題は具体。これは重要だな」

「その通りだ。悪い答案は、観点も課題も同じ粒度で書いてしまう。たとえば、『観点:人材不足の観点、課題:人材不足の解消』。これでは何も分析していない」

「では、どう直す?」

「たとえば、『観点:人的資源確保の観点、課題:若年技能者の入職・定着を促す処遇改善と技能継承体制の構築が課題』とする。これなら、観点は抽象的で、課題は解決対象として具体化されている」

「なるほど。観点を示すことで、採点者に『私は多面的に整理しています』と伝えられるのか」

「いや、それだけではない。観点は、後の解決策を選ぶための棚でもある。人的資源の観点から出した課題なら、解決策は処遇改善、教育訓練、技能伝承、ICT活用による負担軽減などに向かう。制度・契約の観点から出した課題なら、適正工期、設計変更協議、発注者・受注者間のリスク分担に向かう。観点が乱れると、解決策も乱れる」

第3章:令和7年度建設必須I-1をホームズが読む

ホームズは、令和7年度建設部門I-1の問題文を静かに読み直した。

「この問題の主題は、持続可能な建設業である。背景には、建設業が社会資本整備・管理の主体であり、災害時の地域の守り手であるという公共性がある。一方で、労働条件の厳しさ、担い手不足、資材価格高騰、時間外労働規制への対応という制約がある。さらに、担い手3法の改正という制度的背景も与えられている」

ワトソンが言った。

「ずいぶん多くの要素が入っているな。受験者はどこから手をつければよいのだ?」

「まず目的を押さえる。目的は『持続可能な建設業を実現すること』だ。次に、その目的を阻む要因を整理する。すると、単なる労務問題ではなく、社会資本の整備・維持管理を継続できる施工体制をどう確保するかという問題になる」

「つまり、建設会社の都合だけで書いてはいけないのか」

「当然だ。技術士試験の必須問題は、個別企業の社内改善提案ではない。社会全体に関わるエンジニアリング問題として答える必要がある。だから、課題も『会社の利益を増やす』ではなく、『地域の守り手としての施工能力を維持する』『災害対応力を確保する』『適正な労働環境と品質・安全を両立する』という方向に置くべきだ」

「では、課題の例を作るならどうなる?」

ホームズは、手元の紙にさらさらと書いた。

「人的資源の観点では、若年技能者の入職・定着と熟練技能の継承体制の構築が課題となる。施工生産性の観点では、ICT施工やBIM/CIM、施工データ連携を活用し、限られた人員で品質・安全を確保する施工プロセスの高度化が課題となる。制度・契約の観点では、資材価格高騰や週休二日制に対応し、適正工期と適正利潤を確保できる契約・変更協議の運用が課題となる」

ワトソンは目を輝かせた。

「おお、三つの観点が分かれている。しかも、すべて問題文の背景に対応している」

「それが大事だ。問題文から離れた一般論を書いてはいけない。試験委員は、知識の量ではなく、題意に沿って問題を構造化できるかを見ている」

第4章:令和7年度建設必須I-2をホームズが読む

ワトソンは次に、I-2の問題文を見た。

「こちらは第5次社会資本整備重点計画が題材だな。経済成長の実現、国際競争力、地域産業、観光、国内回帰、DX・GX分野への構造転換……ずいぶん政策色が強い」

「その通りだ。I-2は、建設業そのものではなく、社会資本整備を通じて経済成長をどう支えるかを問うている。つまり、同じ建設部門でも、I-1とは問題の焦点が違う」

「I-1は建設業の持続可能性。I-2は経済成長を支える社会資本整備か」

「よく気づいた。ここでI-1と同じように担い手不足ばかり書くと、題意からずれる。I-2では、国際競争力強化、地域産業振興、観光活性化、製造業の国内回帰、DX・GX産業への対応などが中心になる。したがって、技術課題もそれに合わせる必要がある」

「たとえば?」

「広域物流の観点では、港湾、空港、高規格道路、鉄道貨物などを結節させ、サプライチェーンを強靭化する交通・物流ネットワークの整備が課題となる。地域産業の観点では、産業団地、エネルギー供給、上下水道、通信基盤を一体で整備し、企業立地を支える基盤形成が課題となる。観光・地域活性化の観点では、二次交通、バリアフリー、災害時の代替輸送を含め、観光地へのアクセスと回遊性を高める社会資本整備が課題となる」

「なるほど。I-2で『建設業の働き方改革』ばかり書くと、問題の中心から外れるわけだ」

「そうだ。設問文は必ず目的を持っている。I-2の目的は『経済成長の実現』である。だから課題も、その目的に向けて抽出しなければならない」

第5章:問題解決能力は、設問(1)の「課題抽出」で最初に見える

ワトソンは、腕を組んで考え込んだ。

「つまり、問題解決能力は設問(2)の解決策から始まるのではない。設問(1)の課題抽出で、すでに採点されているということだな」

「その通りだ。むしろ設問(1)が最も重要だ。ここで問題設定を誤れば、後の解決策はすべて的外れになる」

「医学で言えば、診断を間違えたまま薬を出すようなものか」

「まさにそれだ。ホームズ流に言えば、犯人を取り違えたまま追跡を始めるようなものだ。どれほど走っても真相には近づかない」

「では、設問(1)でA評価に近づくには、何が必要なんだ?」

ホームズは静かに答えた。

「まず、問題文の目的を外さないこと。次に、背景にある制約要因を読むこと。そして、観点を分け、課題を具体化することだ。さらに、課題の表現には『何を、どのような制約の下で、何のために解決するのか』を含める。これができている答案は、設問(2)以降も自然に強くなる」

ワトソンは言った。

「逆に、設問(1)で弱い答案は?」

「問題文の語句を拾っただけの答案だ。『人材不足が課題』『老朽化が課題』『DXが課題』という答案は弱い。人材不足の何が問題なのか。老朽化によって何が阻害されるのか。DXを何のために使うのか。そこまで書かなければ、問題解決能力は見えない」

エピローグ:答案用紙は、推理の過程を見せる場所である
ワトソンは、赤ペンで書き直した答案を眺めた。

「分かってきたよ、ホームズ。技術士試験の答案は、知識の展示会ではないのだな」

「その通りだ」

「問題文を読み、目的を押さえ、制約を見つけ、観点を分け、課題を具体化する。その時点で、すでに問題解決能力が現れている」

「ようやく君も、事件現場の見方が分かってきたようだ」

ホームズは、窓の外の霧を見つめながら言った。

「受験者の多くは、解決策を立派に書けば合格できると思っている。しかし、試験委員が最初に見ているのは、そこではない。『この受験者は、何を問題だと見抜いたのか』だ。課題設定を誤った答案は、どれほど美しい解決策を書いても合格答案にはならない」

ワトソンは笑った。

「では後編では、設問(2)と設問(3)だな。最重要課題をどう選ぶか。解決策をどう展開するか。そして、新たなリスクをどう書くか」

「その通りだ、ワトソン君。問題解決能力の本番はそこからだ。だが忘れてはならない。名探偵は、犯人を追う前に、まず事件の構造を読む。技術士も同じだ。解決策を書く前に、まず問題を解剖するのだ」

後編へ続く。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
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