目次
令和6年の合格解答を令和8年のコンピテンシー基準で評価するとどうなるのか? ホームズの名推理で解説
はじめに確認(しつこいですが、重要なので繰り返します)
令和7年度の試験までは以下のコンピテンシーでした。
改訂前
専門的学識⇛変更無し
問題解決
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して,これらの内容を明確にし,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
・複合的な問題に関して,相反する要求事項(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等),それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮したうえで,複数の選択肢を提起し,これらを踏まえた解決策を合理的に提案し,又は改善すること。”
マネジメント⇛変更無し
評価⇛変更無し
コミュニケーション
・業務履行上,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
・海外における業務に携わる際は,一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え,現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。”
リーダーシップ⇛変更無し
技術者倫理
・業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮したうえで,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続性の確保に努め,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
・業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
・業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。“
令和8年からは以下です。
“改訂後(下線部分:改訂個所)
(令和5年1月25日改訂:令和8年度より適用予定)”
専門的学識⇛変更無し
問題解決
変更(Ⅲと必須問題に影響)
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して,これらの内容を明確にし,必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
・複合的な問題に関して,多角的な視点を考慮し,ステークホルダーの意見を取り入れながら,相反する要求事項(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等),それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で,複数の選択肢を提起し,これらを踏まえた解決策を合理的に提案し,又は改善すること。
マネジメント⇛変更無し
評価⇛変更無し
コミュニケーション
変更(Ⅱ-1、Ⅱ-2、Ⅲ、必須の全ての問題に影響)
・業務履行上,情報技術を活用し,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ包摂的な意思疎通を図り,協働すること。
・海外における業務に携わる際は,一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え,現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
リーダーシップ⇛変更無し
技術者倫理
変更(必須問題)
・業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,経済及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続可能な成果の達成を目指し,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
・業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守し,文化的価値を尊重すること。
・業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。“
以下は、ホームズとワトソンが推理する問題文と解答
問題文 令和6年建設部門必須Ⅰ-2
我が国では,年始に発生した令和6年能登半島地震を始め,近年,全国各地で大規模な地震災害や風水害等が数多く発生しており,今後も,南海トラフ地震及び首都直下地震等の巨大地震災害や気候変動に伴い激甚化する風水害等の大規模災害の発生が懸念されているが,発災後の復旧・復興対応に対して投入できる人員や予算に限りがある。そのような中,災害対応におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)への期待は高まっており,既に様々な取組が実施されている。今後, DXを活用することで,インフラや建築物等について,事前の防災・減災対策を効率的かつ効果的に進めていくことに加え,災害発生後に国民の日常生活等が一日も早く取り戻せるようにするため,復旧・復興を効率的かつ効果的に進めていくことが必要不可欠である。
このような状況下において,将来発生しうる大規模災害の発生後の迅速かつ効率的な復
旧・復興を念頭において,以下の問いに答えよ
(1) 大規模災害の発生後にインフラや建築物等の復旧・復興までの取組を迅速かつ効率的
に進めていけるようにするため, DXを活用していくに当たり,投入できる人員や予算
に限りがあることを前提に,技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し,
それぞれの観点を明記したうえで,課題の内容を示せ。(※)
(※)解答の際には必ず観点を述べてから課題を示せ。
(2) 前問(1) で抽出した課題のうち,最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) 前問(2) で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4) 前問(1)~(3) を業務として遂行するに当たり,技術者としての倫理,社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
以下は合格者さんの解答



以下、ホームズとワトソンが登場
緋色の再審理(リトライ)
ワトソン博士 「ホームズ、この答案を見てくれ。令和6年頃の建設部門の合格者、評価は60%を超えているから、いわゆる『A判定』の答案だ。 内容は……ふむ、DXを活用して災害復旧を効率化する。ドローンやAI、3次元データを使う。実によく書けているじゃないか。非の打ち所がないように見えるが」
シャーロック・ホームズ (虫眼鏡を置き、哀れむような目で答案を見つめる) 「ワトソン君、君は善良な市民だね。確かにこの答案は、令和7年までなら『無罪(合格)』だ。だが、令和8年という新時代の法廷では、この答案は間違いなく『有罪(不合格・B判定以下)』の判決を受けるだろう」
ワトソン 「な、なんだって!? 有罪だと? 一体どこに瑕疵があると言うんだ」
ホームズ 「瑕疵ではない。『欠落』だ。新コンピテンシーという新しい法律に照らし合わせると、この答案には決定的な要素が3つ欠けている。順に解剖していこう」
第一の欠落:葛藤なき解決策(問題解決能力)
シャーロック・ホームズ 「まず、設問(2)の解決策を見てみたまえ。この受験生は、ドローン、AI、BIM/CIM、果ては衛星データと、まるで最新のおもちゃを買ってもらった子供のように、高価な『武器』を並べ立てている。 だがワトソン君、この答案には、技術者として最も重要な『苦悩の痕跡』がない。すなわち、『相反する要求事項(トレードオフ)』への言及がどこにもないのだ」
註:令和8年度からのコンピテンシー「問題解決」は以下、太字部分に注目
問題解決
変更(Ⅲと必須問題に影響)
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して,これらの内容を明確にし,必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
・複合的な問題に関して,多角的な視点を考慮し,ステークホルダーの意見を取り入れながら,相反する要求事項(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等),それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で,複数の選択肢を提起し,これらを踏まえた解決策を合理的に提案し,又は改善すること
ワトソン博士 「トレードオフ? しかしホームズ、最新技術を使えば効率が上がるのは明白じゃないか。そこにどんな苦悩があると言うんだ?」
ホームズ 「君は善良だが、経営者にはなれないな。 改訂後の『問題解決』の定義には、『相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)……それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で』と明確に書かれている。 いいかい? 被災地という極限状態でDXをフル活用すれば、確かに『復旧のスピード(機能性・納期)』は上がるだろう。しかし、その裏側には必ず犠牲が存在する。 例えば、高度なAI解析や3次元データ共有システムを導入するには、莫大な『初期投資とランニングコスト(経済性)』がかかる。被災自治体の限られた予算を圧迫しないか? あるいは、現場にいるのはデジタル機器に不慣れな高齢の熟練工かもしれない。彼らにタブレット操作を強要することは、かえって『現場の混乱や作業遅延(技術的実現性)』を招かないか? さらに言えば、通信インフラが断絶した被災地で、クラウドベースのシステムが動くのかという『可用性(安全性)』の問題もある」
ワトソン 「なるほど……。『便利だ』と言うのは簡単だが、それを『現場で実装する』には、金や人や環境の壁があるわけか」
ホームズ 「その通りだ。この答案は『DXを使えば全て解決する』というバラ色の未来(机上の空論)しか語っていない。 合格する技術士はこう書くのだ。 『DX導入は迅速性を高めるが、通信断絶リスクやコスト増大という相反する課題がある。したがって、平常時は安価な汎用クラウドを用いつつ、緊急時はオフラインでも稼働するエッジ処理を併用し、コストとリスクのバランス(最適解)を図る』とね。 この『ジレンマを乗り越える調整プロセス』こそが、改訂されたコンピテンシーが求めている『問題解決』なのだよ」
第二の欠落:冷たいコミュニケーション
ホームズ 「次に設問(4)、倫理と社会持続性の部分だ。ここが最も致命的であり、多くの受験生が『無自覚な悪意』を露呈してしまう落とし穴だ。 彼はこう書いている。『xROADやDiMAPSで通れるマップを公表し、関係機関や国民との共有を図る』。 一見、スマートで論理的に見えるだろう? だが、改訂後のキーワード『包摂的な(Inclusive)意思疎通』というレンズを通すと、これは0点に近い傲慢な解答だ」
ワトソン 「傲慢だって? 情報を隠蔽しているわけでもないし、公開しているじゃないか」
ホームズ 「『情報を置くこと』と『情報が伝わること』は天と地ほど違う。 想像したまえ、ワトソン君。被災地には、スマホなど持っていない80代の独居老人がいる。日本語が読めずに不安に震える外国人の技能実習生がいる。視覚に障害を持つ人もいる。 彼らに向かって『Webサイトにマップを載せたから見ろ』と言うのは、『IT強者の論理』であり、弱者の切り捨てに他ならない。 改訂された『コミュニケーション』能力は、まさにこの『デジタルデバイド(情報格差)』をどう埋めるかを問うているのだ」
ワトソン 「そうか……。『包摂的』というのは、『誰一人取り残さない』という意味だったな」
ホームズ 「そうだ。令和8年の技術士は、ただデジタル化を叫ぶだけでなく、『技術の光が届かない場所』への眼差しを持たねばならない。 『デジタル情報は即時性があるが、高齢者等には届かないリスクがある。そのため、町内会長や民生委員へのプッシュ型通知や、多言語音声翻訳機を用いた避難所での巡回説明を組み合わせ、アナログとデジタルのハイブリッドで包摂的な意思疎通を図る』 ここまで書いて初めて、技術は『冷たいシステム』から『人を助ける力』に変わる。この答案には、その『人間への温かい眼差し』が完全に欠落しているのだよ」
第三の欠落:文化への敬意(技術者倫理)
ホームズ 「そしてトドメだ。設問(4)の技術者倫理の記述を見てみたまえ。 『公益確保を最優先』『法令遵守』『PDCA』……。まるで壊れたレコードのように、予備校で教わった定型文を繰り返しているだけだ。これでは『私は思考停止しています』と宣言しているようなものだよ」
ワトソン 「うっ、耳が痛い……。でも、これまでは『法令遵守』と書いておけば加点されたんだろう?」
ホームズ 「過去の栄光だ。改訂後の倫理規定には、歴史上初めて『文化的価値を尊重すること』と明記された。これが何を意味するか分かるかい? 災害復旧において、技術者はしばしば『効率』の名の下に『文化』を破壊する。 『曲がりくねった古い道は危険だから、真っ直ぐな広い道路に作り変えよう』――技術的には正解だ。だが、もしその曲がり角が、数百年続く『地域のお祭り』の巡行ルートだったら? もしその道沿いの石碑が、村のアイデンティティだったら? 効率だけで復旧された無機質な街からは、住民の愛着が消え、結果としてコミュニティそのものが崩壊する。それは『持続可能な成果』とは言えない」
ワトソン 「なるほど……。道路は直ったが、故郷は失われた、となってはいけないわけか」
ホームズ 「その通りだ。この答案は、効率(デジタル)一辺倒で、『その土地の文化や歴史、地域住民の誇り』に対する配慮が一切ない。これでは、心を持たないAIが生成した文章と変わらない。 これからの技術士は、こう宣言しなければならない。 『復旧にあたっては、経済合理性だけでなく、地域の象徴である歴史的景観や祭礼等の文化的価値を尊重する。住民との対話を重ね、”元の生活文化を取り戻す”ことを最終的な成果として定義し、そのための技術的支援を行う』とね」
ワトソン 「なんということだ……。つまり、計算が合っていて技術的に正しくても、『人間味』と『経済感覚』、そして『文化への敬意』が欠けていれば、技術士としては不適格とみなされるわけか」
ホームズ 「そうだ。 かつてのA判定は、知識豊富な『技術マニアの優等生』だった。 しかし、これからのA判定は、『技術と経済、そして人の心を繋ぐコーディネーター』でなければならない。 この答案の作者には、残念ながら再審理(再受験)の機会を与えよう。ただし次は、パソコンの画面とにらめっこする前に、現場の人々の顔を思い浮かべ、その土地の風の匂いを感じてからペンを執るように伝えてくれたまえ」
【まとめ】令和8年基準での評価と改善点
この対話で指摘された通り、提示された「令和7年までのA解答」は、令和8年以降の採点基準ではB判定に転落する可能性が高いです。
なぜ評価が下がるのか? で改善点を整理しました。
- 「問題解決」の改善点
現状: 「DXを使えば解決する」という技術偏重の記述。
R8評価: × トレードオフの検討不足。
修正案:
解決策を提示する前に、「迅速な復旧(納期)と、限られた財源(経済性)は相反する要求である」と認める記述を入れる。
その上で、「高価なフルスペックのDXではなく、スマホなど汎用機材を活用した簡易DXを採用し、コストを抑えつつ効率化した」といった「調整・判断のプロセス」を書く。
- 「コミュニケーション」の改善点
現状: 「マップを公表して共有する」という一方的な発信。
R8評価: × 包摂性の欠如。
修正案:
「デジタル情報を活用しつつも、高齢者や外国人被災者には、デジタルサイネージや音声翻訳機を用いて包摂的(インクルーシブ)な周知を行う」と追記する。
「一方的な配信ではなく、被災者からの要望を吸い上げる双方向の仕組み」に触れる。
- 「技術者倫理」の改善点
現状: 法令遵守とPDCAのみの定型文。
R8評価: × 文化的価値と経済性の欠如。
修正案:
経済: 「復旧コストの縮減に努め、次世代に財政負担を残さない(経済的持続性)」という視点を入れる。(匠の個人的意見としては反対ですが、社会の意見としては多数派でしょう。)
文化: 「復旧にあたっては、地域の歴史的景観やコミュニティ(文化的価値)を尊重し、元通りの生活文化を取り戻せるよう配慮する」という一文を加える。
結論
令和8年以降の試験では、どれだけ素晴らしい技術(DX等)を知っていても、それを「多様な人々(包摂)」や「限られた予算(経済)」、「地域の文化」とどう調和させたか書けなければ、合格できません。
「技術」を書くのではなく、「技術を使って、どう社会と人間を守ったか」を書いてください。







