総合技術監理部門の「筆記試験」対策 ~合格答案を生み出す「骨子」と「トレードオフ」の記述法~

はじめに:論文試験は「エッセイ」ではなく「論文」である

総合技術監理部門(以下、総監)の記述式試験は、原稿用紙(概ね3枚〜5枚程度)に長文を記述する形式です。多くの受験生は、ここで「自分の技術力をアピールしなければ」と意気込み、専門技術の詳細や熱い想いを書き連ねてしまいます。しかし、これは大きな間違いです。

総監の記述式試験は、あなたの専門技術の深さを問うものではありません。問われているのは、「組織全体の責任者として、相反する課題(トレードオフ)をいかに合理的に解決し、全体最適を導き出すか」という「管理能力」です。 つまり、求められているのは自由な「エッセイ」ではなく、課題に対する解決策を論理的に提示する「論文」なのです。

本記事では、過去の「青本」から続く不変の採点基準と、最新の出題トレンド(R07までの分析)に基づき、合格答案を作成するための「型」と「プロセス」を詳解します。


1. 合格へのマインドセット:「CTO(最高技術責任者)」になりきる

「スペシャリスト」の視点からの脱却

まず最初に行うべきは、思考の「視座」を切り替えることです。 一般部門の技術士試験では、特定の技術課題を解決する「スペシャリスト」としての能力が評価されました。しかし、総監部門でその視点のまま解答すると、不合格になる可能性が高くなります。

  • × スペシャリストの解答: 「生産性向上のため、最新の高性能ロボットを導入し、サイクルタイムを20%短縮する。」(技術仕様と性能の話に終始している)
  • ○ 総監技術者の解答: 「ロボット導入による省人化で経済性を高めつつ(経済性)、人とロボットの接触事故を防ぐ安全柵やセンサーを設置し安全管理を徹底する(安全)。また、操作教育を行い(人的資源)、余剰人員を高付加価値業務へ再配置する。」

ペルソナの設定

答案を書く際、自分自身に「私は今、この組織の技術担当役員(CTO)である」または「プロジェクト全体の総責任者(PM)である」と言い聞かせてください。 自分の担当部署の利益だけでなく、経営層、株主、従業員、地域住民、規制当局など、多様なステークホルダー(利害関係者)を意識し、組織全体を俯瞰(ふかん)する視点こそが、総監合格の絶対条件です。


2. 論文構成の「黄金の型」と出題トレンド

3段構成の共通ルール

近年の過去問(R01~R07)を分析すると、出題テーマは「自然災害(BCP)」から「DX」、「組織戦略」、そして「少子高齢化・カーボンニュートラル」へと変化していますが、設問の構造には驚くべき共通点があります。 多くの年で、以下の3段構成が採用されています。

  1. 現状分析(設問1): 自分の組織やプロジェクトの概要、過去から現在にかけての課題と取り組みを記述させる。
  2. 近未来の対策(設問2): 今後5年程度を見据えた具体的な対策と、そこで発生する課題(トレードオフ)を記述させる。
  3. 長期的・マクロ視点(設問3): 10年以上先の未来や、国・業界レベルの課題に視座を上げ、最大の障害とその克服策を問う。

この「過去→現在→近未来→長期未来」という時間軸の移動と、「現場→組織→社会・国」という空間軸の広がりを意識して構成を練ることが重要です。

総監の背景:科学技術・恩恵・負の影響

すべての記述の根底には、「総監の背景」という概念が必要です。これはかつての「青本」で定義され、現在も試験の前提条件となっている考え方です。

  • 科学技術: 何らかの技術を用いる。
  • 恩恵: それによって社会や組織に利益をもたらす。
  • 多大な負の影響: しかし、失敗すれば事故や環境汚染などの甚大な被害が出る。

記述式試験では、この3要素を必ず盛り込む必要があります。「素晴らしい技術を導入しました(恩恵)」で終わらせず、「しかし、そこには新たなリスク(負の影響)が潜んでいる」と展開するのが総監の論文です。


3. 合否を分ける核心:「トレードオフ」の記述法

総監の筆記試験で最も加点されるポイント、それは「トレードオフ(二律背反)の解決」です。 青本やキーワード集でも強調されている通り、総監技術士の仕事は、相反する要求事項(コスト vs 安全、利便性 vs セキュリティなど)のバランスを取り、最適解を見つけることにあります。

トレードオフ記述の「黄金パターン」

単に「対策を行いました」と書くのではなく、「葛藤(悩み)」→「判断基準(なぜ選んだか)」→「決断(解決策)」というプロセスを明記することで、評価は跳ね上がります。 以下に、代表的な3つのパターンと記述例を示します。

パターンA:経済性 vs 安全(最も頻出)

  • 対立構造: 利益(経済性)を追求したいが、事故(安全)は防がねばならない。
  • 記述例: 「老朽設備の更新には多額の費用を要し、経済性を圧迫する。しかし、設備破損による労働災害は断じて防がねばならない(安全管理の優先)。そこで、全面更新ではなく、最新の非破壊検査技術を用いて危険箇所を特定し、優先的に部分補修を行うことで、コストを抑制しつつ必要な安全レベルを確保した。」

パターンB:情報利活用 vs セキュリティ(DX時代の頻出)

  • 対立構造: データを共有して効率化したい(経済性・情報)が、漏洩リスクがある(セキュリティ)。
  • 記述例: 「現場データをクラウド共有し業務効率化を図りたいが、サイバー攻撃による情報漏洩リスクがある。このトレードオフに対し、共有データは匿名加工して個人情報を排除し、かつアクセス権限を役職ごとに厳格化するシステムを構築し、リスクを許容範囲内に抑えて利活用を推進する。」

パターンC:効率化 vs 人的資源(AI・ロボット導入時)

  • 対立構造: 自動化で効率を上げたい(経済性)が、熟練工のモチベーション低下や技術継承の断絶が怖い(人的資源)。
  • 記述例: 「AI導入は検査工数を半減させるが、ベテラン検査員の意欲低下や異常検知能力の喪失が懸念される。そこで、AIはあくまで一次スクリーニング(補助)とし、最終判断は人間が行うプロセスを残した。また、浮いた工数でベテランが若手を指導する時間を確保し、技術継承と効率化を両立させた。」

このように、「Aを立てればBが立たず」という状況をあえて作り出し、それを「5つの管理」の視点で解決するストーリーを描くことが合格の鍵です。


4. 試験開始30分の勝負:「骨子(設計図)」の作成

試験時間は限られていますが、いきなり答案用紙に書き始めてはいけません。最初の20〜30分は、必ず「骨子(構成案)」の作成に充ててください。 骨子とは、論文の設計図です。ここで論理の整合性が取れていないと、書き進めるうちに矛盾が生じ、修正不可能になります。

骨子作成のステップ

  1. 問題文の解析: 「立場」「対象とする事業」「制約条件(枚数、時期)」にマーカーを引き、出題意図を把握する。
  2. ペルソナと事業の設定: 自分が「誰」で、「どんな事業」を扱っているかを決める。書きやすいのは、自分が実務で経験したプロジェクトをベースに、少し規模を大きく(CTO視点に)アレンジしたものです。
  3. 5つの管理の割り当て(ネタ出し): 設問ごとに、どの管理分野を使うかを決めます。例えば、設問2では「経済性と安全」、設問3では「人的資源と社会環境」といったように、5つの管理をバランスよく配置します。 

  ◯この際、事前に作成しておいた「マインドマップ」(自分の業務を5つの管理で分解したもの)が役立ちます。

事前準備:汎用的な「解決策の引き出し」を持つ

試験本番でゼロからアイデアを考えるのは困難です。事前に「使える解決策」のカードを用意しておきましょう。

  • 人手不足対策: AI・ロボット導入、外国人材活用、再雇用制度、多能工化。
  • コスト削減: 予防保全(CBM)、工程短縮(プレハブ化)、ICT活用。
  • 環境対策: 省エネ設備(LED等)、再生可能エネルギー、廃棄物のリサイクル。

たとえ専門外のテーマ(例:水素エネルギー)が出ても、「コストが高い(経済性)」「扱える人材がいない(人的資源)」「爆発リスクがある(安全)」といった汎用的な総監の課題に置き換えることで、論理的な答案を作ることができます。


5. 採点者を味方につける「記述作法」と「時間管理」

内容が良くても、読み手(採点者)に伝わらなければ意味がありません。採点者は短期間で大量の答案を読むため、「一目で構造がわかる」答案が高く評価されます。

記述の3大マナー

  1. 結論ファースト: 各段落の冒頭に、問いに対する答えをズバリ書く。「課題は○○である。これに対し、○○という対策を行う。」
  2. 見出しと番号付け: 文章の塊を作らず、階層構造を可視化する。 2. 今後の課題と解決策  2.1 課題A:熟練工不足による品質低下  (1) 課題の内容:~であるため。 (2) 解決策:~を導入する。 このように整理されていれば、採点者は「漏れなく答えているか」を一瞬で確認できます。
  3. 主語と文末の統一: 主語は「私は」「当社は」を明確にし、文末は「~である」「~と考える」と言い切る形(常体)で統一する。責任感のある表現を心がけてください。

時間管理(タイムマネジメント・今の問題構成を想定

標準的な時間配分(例:3時間半の場合)は以下の通りです。

  • 開始0~30分:骨子作成(最重要) 問題文の読み込み、構成メモの作成。ここで勝負の8割が決まります。
  • 30~60分:設問1(現状分析・1枚目 事実を書くだけなので迷わずスピーディーに。全体の20%程度の分量。
  • 60~130分:設問2(近未来の対策・2~3枚目 点数の稼ぎどころ。トレードオフを強調して記述。全体の40%程度。
  • 130~200分:設問3(長期的視点・4~5枚目 視座を上げて国や社会全体の課題に触れる。全体の30%程度。
  • ラスト10分:見直し 誤字脱字の修正、設問への解答漏れがないか確認。

6. まとめ:論文試験は「未来のリーダー」への招待状

総合技術監理部門の筆記試験は、決して意地悪な難問ではありません。「この複雑で困難な現代社会において、あなたならどう舵を取りますか?」という、技術士会からあなたへの「リーダーへの招待状」です。

合格するためのポイントを再確認します。

  1. 5つの管理を網羅する: 経済性、安全、人的資源、情報、社会環境の視点をバランスよく配置する。
  2. トレードオフを解決する: 「あちらを立てればこちらが立たず」の状況に対し、総合的な判断で最適解を示す。
  3. 骨子を固める: いきなり書き出さず、論理の設計図を作ってから記述する。
  4. 形式を守る: 見出し、番号、結論ファーストで見やすい報告書にする。

これらのテクニックは、試験だけでなく、技術士として実務を行う上でも非常に強力な武器となります。 「私はCTOである」という気概を持ち、5つの管理を武器に、堂々とした「管理者の答案」を書き上げてください。健闘を祈ります。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

皆さん、こんにちは!「ロックオン講座」主宰の匠習作です。
HPをご覧いただきありがとうございます。
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