『インフラ分野のDX アクションプラン』について ー第1回:国交省資料の全体像と「インフラDX」の狙いー

元データは以下『インフラ分野のDX アクションプラン』:2022年3月

https://www.mlit.go.jp/tec/content/001474432.pdf

まず、このPDFは「インフラ分野のDXアクションプラン」の本体部分で、2022年3月時点で国土交通省が「インフラDXをどう進めるか」を整理した公式な考え方と工程表です。

最初に押さえるべきポイントは三つあります。
一つ目は、DXの背景として「社会側の変化」と「インフラ側の制約」が同時に効いていることです。
二つ目は、インフラDXの目的が「現場の生産性向上」だけではなく、「行政サービスの質と国民の利便性の向上」にまで踏み込んでいることです。
三つ目は、その実現のために三本柱を明確にして、2025年度までの工程と50を超える個別施策を束ねていることです。


背景から整理します。
2020年以降のコロナ禍で、リモートワークやオンライン会議、宅配需要、ドローン配送など、社会のデジタル化が一気に進みました。一方で、首都圏を支える物流は止まらず、国民生活や経済活動を支える物流ネットワーク・インフラの重要性が再確認されています。さらに、日本全国で豪雨・豪雪・地震・津波などの災害が頻発・甚大化しており、インフラには「平時の利便性」と「有事の強さ」の両方が強く求められています。

しかし、インフラを支える建設業界の側を見ると、就業者はピークから約3割減、55歳以上が3割超、29歳以下は1割程度という高齢化と担い手不足が進行中です。同時に、橋梁などインフラの老朽化も進行し、頻発する災害対応と維持管理・更新を同時にこなさないといけない状況になっています。建設業は屋外作業・一品生産で、生産性向上が難しい産業構造であるにもかかわらず、災害対応や維持管理を担う不可欠な産業であり、生産性を上げながらサービスを止めないことが必須条件になっています。

ここにデジタル技術の急速な進展が重なります。スマートフォンやIoTデバイスの普及、ビッグデータの集積、計算能力の向上、AI・機械学習の実用化、5Gなどの通信インフラ整備により、現実空間を前提とした従来の業務プロセスそのものを変えてしまう「DX」が他業界で進行中です。日本政府としてもデジタル庁設置、「デジタル田園都市国家構想」など、国全体でデジタル実装を進めています。


国交省は、これまで「i-Construction」でICT施工の普及、規格標準化、施工時期の平準化など、主に建設現場の生産性向上を狙った取り組みを進めてきました。2017年にはi-Construction推進コンソーシアムも立ち上げています。ただ、これは主に「工事現場の仕事のやり方」をICTで効率化するものが中心でした。

ここから一段ギアを上げたのが「インフラ分野のDX」です。このアクションプランで語られているDXは、単にICT機器を入れる話ではなく、次のように定義されています。

設計・施工のデジタル化だけでなく、インフラ関連の情報提供や各種許認可などのサービス提供まで含めてデジタル化し、
国民へのサービス、行政手続き、業務プロセス、組織、文化・風土、働き方をまとめて変えていく、
その結果として、建設現場の生産性向上だけでなく、インフラを通じたサービス全体を賢く、安全で、持続可能なものにする。

図6では、「i-Construction」を中核にしつつ、そこに「インフラの利用・サービスの向上」と「インフラを核にした関連産業の拡大」という二つの軸を足していると説明されています。つまり、工事のやり方を変えるだけでなく、周辺産業や行政サービス、国民との関わり方までDXの対象にしている、ということです。

このアクションプランは、2025年度までを一つのマイルストーンにして、「何を」「いつまでに」「どのように」進めるかを示していますが、同時に「ここに書いてある53施策が全てではなく、技術や社会情勢に合わせて見直していく」と明言しています。DXを「完成させるプロジェクト」ではなく、「社会変化に合わせて常にアップデートしていく仕組み」として捉えているのがポイントです。

そして、インフラDXの全体像として示されているのが、三本柱と「目指す姿」です。


三本柱は、
◯行政手続のデジタル化
◯情報の高度化とその活用
◯現場作業の遠隔化・自動化・自律化
の三つです。これが具体の施策を整理するフレームです。

この三本柱に対応する「目指す姿」が三つに整理されています。
手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセスできること。
三次元データやデジタルツールを使って、コミュニケーションをよりリアルにすること。
現場にいなくても現場管理が可能になること。

簡単に言えば、
行政手続きはフルオンラインで24時間・365日・ワンストップ化、
設計・施工・防災・まちづくりは3Dデータやデジタルツインで見える化と合意形成の高速化、
現場作業は自動化・遠隔化して、省人化と安全性向上を図る、
という方向性です。

第1回としてはここまでを整理すると、「インフラDXは、建設現場のICT化から一歩進んで、インフラに関わる行政手続き、データ、現場作業、そして業界の文化・働き方までをセットで変えるもの」という位置付けだと理解しておけば十分です。ここから先は、これが具体的にどう進められていくのか、三本柱ごとに見ていきます。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
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