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――国交省レポートに学ぶ「デジタルツイン型・冬期道路マネジメント」とは
今年の冬は平年より降雪量が多くなるという予測が出ています。雪害は、これまで「豪雪地域特有の問題」として扱われてきました。しかし近年では、物流の停滞、通勤・通学の混乱、観光産業への打撃、さらには緊急搬送遅延や孤立集落発生といった社会リスクへと拡大し、全国レベルのインフラ課題となっています。
特に道路管理においては、除雪作業の遅れが交通機能の停止を引き起こし、深刻な経済損失をもたらします。それにもかかわらず、現行の冬期道路管理システムは「ベテランの経験」と「巡回による判断」に大きく依存しており、人的・財政的な限界が明確になっています。高齢化と人手不足が進み、同じ手法を続けるだけでは維持できない領域に入っているのです。
こうした背景から、国土交通省が令和6年3月に公開した資料「冬期道路マネジメントのためのデジタルツイン環境の検討」は、まさに“冬の社会インフラDX”を象徴する取り組みです。本記事では、この国交省レポートを踏まえながら、デジタルツインによる冬期道路管理の意義と技術士試験での活用視点を整理していきます。
■ 冬期道路マネジメントは「除雪作業の効率化」だけではない
従来の冬期道路管理は、主に「降雪に合わせて除雪車を出動させ、交通を確保する」というシンプルな発想で成り立っていました。しかし近年は状況が一変しています。
- 物流は Just In Time 化し、道路停止が即「経済停止」へ直結
- 道路交通に依存する医療・介護・消防システムが拡大
- 降雪時の事故・渋滞損失は全国で数千億円規模
- 路面凍結・ブラックアイスバーンによる死亡事故リスク
- 人口減少により除雪作業員確保も限界に近づく
つまり、冬期道路管理とは「社会の生命線を守るリスクマネジメント」であり、単なる現場オペレーションではありません。
この発想こそが、技術士試験におけるポイントになります。

■ 国交省が提示した「デジタルツイン型・道路管理」の全体像
今回の資料は、北海道を実証フィールドとし、冬期道路管理を 「リアルタイム観測 → 状況予測 → 行動最適化」 のプロセスとして再設計するものです。
従来型の管理は「雪が降った → 目視確認 → 出動判断 → 除雪実施」という反応型でしたが、デジタルツインを導入することで、
予測 → 事前判断 → 最適タイミングで出動 → コスト最小化・安全最大化
という プロアクティブ型(先手型)のマネジメントへ転換 します。
そのための中核技術として、次の仕組みが導入されています。
| 技術領域 | 内容 |
| 車載センサー | 路面・路肩・吹雪・堆雪量を走行しながら自動取得 |
| AI 画像解析 | 路面状態・視程障害をリアルタイム自動認識 |
| 路面予測モデル | LSTM等を用いて未来時間の状態推定 |
| デジタルツイン | 現実道路と仮想空間を同期し、地図上で可視化 |
| 意思決定支援 | 除雪出動判断、優先ルート決定、交通情報提供に活用 |
これにより、これまで「勘と経験」で判断されてきた除雪判断が、データ根拠に基づく科学的マネジメント に移行することになります。
■ 従来型マネジメントの限界 ― なぜ今 DX が必要なのか
技術士試験で問われる「課題の構造化」という観点から、従来型運用の問題点を整理すると次の通りです。
- 人手依存型で持続可能性がない
・除雪オペレーターの高齢化/人材確保困難
・「ベテラン退職=ノウハウ消失」問題 - 情報取得が遅く不正確
・道路巡回・通報頼りでリアルタイム性がない
・吹雪や夜間は情報精度が急低下 - コスト最適化ができない
・「念のため出動」「遅れて出動」のどちらも浪費
・燃料費、機材保守費、自治体予算圧迫 - 広域最適化ができない
・自治体ごとに判断基準がバラバラ
・道路ネットワーク全体でのリスク管理が不可能
このように、技術ではなく“運用構造そのもの”が限界に達している という視点が重要です。
だからこそ、冬期道路管理 DX は「単なる効率化」ではなく 社会インフラの再設計 なのです。
■ 冬期道路管理DXを支える中核技術
国交省資料では、デジタルツインの構築に必要な技術要素が整理されています。ここでは受験者視点で重要なものを抜粋します。
(1) 走行車両による路面・気象データ取得
従来は定点カメラや気象観測が中心でしたが、これでは広域の道路状況を把握できません。
本プロジェクトでは、バスや除雪車など「常に道路上を走行している車両」をセンサー化し、
- 路面凍結
- 吹雪による視程障害
- 路肩堆雪量
- スリップ判定
などを自動取得する仕組みが実証されています。
人が現地に行かなくても道路の状態が“走るだけで収集される”という発想の転換がポイントです。
(2) AI による路面状態推定と未来予測
AIの活用は単なる画像識別ではなく「時間変化予測」へ踏み込んでいます。
LSTMなどを用いた予測モデルにより、数時間後の凍結リスクや吹雪到来を推定し、
「どのタイミングで除雪・凍結防止剤散布を行うべきか」を最適化します。
これは、DX=自動化ではなく意思決定支援 であることを示す好例です。
(3) デジタルツインによる状況可視化
収集データは GIS 上に統合され、
- 観測データ
- 予測データ
- 交通量データ
- 除雪車位置情報
をまとめて閲覧可能になります。
これにより、「現場感覚」ではなく「数値に基づく判断」へ移行します。
技術士が求められる「合理的判断の根拠」が、データで裏付けられるという構造です。

■ DX がもたらす効果 ― 具体的メリット
技術士試験では「導入効果」を定量・定性で整理できるかが重要です。
以下は答案にそのまま使える表現例です。
| 分類 | 期待効果 |
| 経済性 | 除雪出動回数の適正化、燃料・人件費削減 |
| 安全性 | 凍結事故・渋滞・緊急車両遅延の低減 |
| 環境性 | 不要散布削減による薬剤量・CO₂削減 |
| 継続性 | ベテラン依存の脱却、技術継承なしで運用維持 |
| 社会性 | 物流停滞回避・住民生活確保・医療搬送確保 |
このように、導入効果を多面的に整理できるかが合否を分けます。
■ 技術士答案で使える「課題整理フレーム」
DX系テーマでよくある失敗は「メリットばかりを並べて終わる」書き方です。
本テーマを答案化する場合、次の観点で課題を整理できます。
① 技術的課題
・AI判定精度向上にはデータ蓄積が不可欠
・降雪地域ごとの気象特性差(転用の壁)
・通信・クラウド依存による障害リスク
② マネジメント課題
・自治体間での導入基準統一
・運用主体の明確化(国/自治体/民間)
・費用分担モデルの設計
③ 社会実装課題
・「デジタル判断」への住民理解
・現場作業員の職域変化への合意形成
・データ連携における個人情報・運用責任
技術士試験では「課題→対策」という構造を徹底することで評価が上がります。
■ 試験答案で書ける「結論フレーズ例」
最後に、答案で使いやすい“結論文”のひな形を共有します。
冬期道路管理におけるデジタルツイン活用は、単なる除雪効率化ではなく、
「人手不足」「経験知の継承」「安全確保」「コスト縮減」の同時解決を図る社会インフラDXである。
今後は技術導入よりも、自治体間連携と運用体制設計、データ活用ルールの整備が鍵となる。
技術士としては、技術評価だけでなく、制度設計・合意形成・費用対効果検証を担う役割が求められる。
こうした“視点の総括”まで書けて初めて、合格レベルの答案になります。
■技術士試験でのポイント:「DX=デジタル化」ではない
技術士試験において、DXやデジタルツインをテーマに論じる際に最も重要なのは、
「デジタル技術の導入が目的ではなく、“意思決定の質を向上させること”が目的である」
という視点です。
データを集めるだけでは DX にはなりません。それを活かして、
・判断のスピードを上げる
・人間では見抜けないパターンを予測する
・コストと安全を両立させる
という 「価値創出に結びつけるプロセス設計」こそ技術士の役割 です。
その意味で、本資料は 「技術士が論文で取り扱うべきDXテーマの模範例」 と言えます。
後編では、国交省実証で使われた技術の詳細と、試験答案に落とし込める視点、さらに課題整理の書き方まで解説します。
■ 技術士受験者へのメッセージ
今回の国交省レポートは、「技術課題 × 社会課題 × DX」 という、技術士試験の最重要テーマをそのまま内包した教材です。
受験対策としては以下のような活用ができます。
✅ 総監:テーマ設定型論文(課題抽出・リスクマネジメント)
✅ 建設部門:維持管理/道路行政/防災DX
✅ 施工計画:除雪計画・機械運用最適化
✅ 上下水道・機械・情報工学などにも応用可
つまり、「冬期道路×DX」は単なる季節話題ではなく、試験対策として極めて有効な学習素材なのです。

● まとめ
冬期道路マネジメントは、単なる除雪業務ではありません。
それは “人と社会の安全を守るインフラマネジメント”であり、DXによって初めて持続可能な形に再設計できる分野 です。
本テーマを深掘りしておくことで、
・社会性のある論点
・データ活用型の課題解決視点
・持続可能性と採算性の両立視点
――これらを答案・口頭試験の両方で語れるようになります。
受験者の皆さんには、この機会に「DX=技術導入ではなく意思決定改革である」という理解を深め、
自分の部門で応用できる形に落とし込んでいただければと思います。








