技術士試験に役立つ本をガッツリ紹介:第2弾-「うまい!」と言わせる文章の裏ワザ

「うまい!」と言わせる文章の裏ワザ

あなたの文章力を上げる1冊、「うまい!」と言わせる文章の裏ワザ  当たり前の一歩先にすすめる違和感の使い方

今回、紹介する本の中では一番、目立たない本です。
『「うまい!」と言わせる文章の裏ワザ』-河出書房・2014年初版
著者は、一橋大学の石黒圭先生。
アマゾンの著者紹介には
1969年大阪府生まれ。神奈川県出身(言語形成期)。
一橋大学国際教育センター教授を経て、現在、国立国語研究所教授(日本語教育研究領域代表)。
一橋大学大学院連携教授。専門は日本語学(文章論・談話分析)、日本語教育学(読解研究・作文研究)。

とあります。
まあ、日本語の文章に関する専門家と言って良いでしょう。

石黒先生は、論文作法そのものに関する本も多数あるのですが、私はまず、今回の本をお勧めします。
他にも、読んだ方が良い本は多数ありますが、それは皆さんの選択にお任せします。
念のため、私のお勧めは

  • 文章は接続詞で決まる (光文社新書) -2008年
  • 「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける (光文社新書) 新書 – 2010/3/18
  • 論文・レポートの基本 単行本 – 2012/2/23
  • 段落論~日本語の「わかりやすさ」の決め手~-2020年

上記4冊は、技術士試験にも役立つはずです。

まずは、基本をしっかりマスターする

文章を書くときに最も重要なもの、それは文法上のルール。
誰しも、文章を書くときにはこの文法上のルールを意識しますし、文章がうまくない人間というのは、一般にこの文法上のルールを守れない人のことを言います。
つまり、文法上のルールを守るというのは、文法作成上の「イロハのイ」なわけです。
しかし、あくまでそれは「文章が下手な人間」を脱する手立て。
本著ではその先にある、さらなる上達をもって文章の上級者の入口辺りまでに導いてくれる本となっています。

基本に忠実でなくてはならない

別に文章だけではなく、基本に忠実というのはどの分野でも言われることです。
この本は、日本語の基礎の部分から、丁寧に説明されています。
基本に忠実なバッティング、基本に忠実なゴルフスィングなどもそうですし、
抽象画を書きたいなら正確なクロッキーができないといけないなどというのもその一例ですね。
そう、メジャーリーグなどでたまに見かける個性的なバッティングフォームの人がいますよね。
あるいは、変わったパッティングをするゴルファーもいます。
さらに、前衛芸術で一般人にはよくわからない創作をする人もいます。
しかし、そんな人たちも、全員基本的なことはしっかりとできて、その上で個性を発揮しているわけです。

基本が身についたとはいえ目指せない高み

基本を忠実にこなし、その上で個性を発揮して自分の世界を構築する。
これは、あらゆる世界の上級者が当然のように行っていることではあるのですが、もちろん文章の世界でもそれは例外ではありません。
谷崎も太宰も、それこそ、昨今流行のライトノベルを書くような人もみな、文章の基礎はしっかりしています。
一見、文章力が欠片も見当たらないような文章を書いているようなライトノベルの作者ですら、しっかりした文章をターゲットに合わせて崩しているというのが大半です。
では、基本がしっかり身に付けば、皆、文豪のような名文がかけるのか?
それは、お察しのとおりNOです。
基本をしっかりと身に付けたからとはいえ、誰もが皆、一足飛びに個性を発揮して文豪の名文がかけるようになるわけはありません。
文章を書くことも読むことも好きでたまらず、さらに努力を積み重ねて開く才能を持っている……なんて特殊な人ならまだしも、普通の人には無理な相談です。
では、それはなぜなのか。
その答えが本著の中にあるのです。

裏ワザと表現される「基本と上級の間」にあるもの

基本をしっかりと身に付けたからと言って、文章の上級者にはなれない。
その答えが、基本と上級の間にあるテクニックです。
本著では、そのテクニックを裏ワザと表しているのですが、簡単に言えば「基本を逸脱しているものの、きちんと文章として成り立つ日本語の活用術」です。
もっと言うなら「味わいを高める基本の外し方」というべきものです。
そうつまり、なぜ文豪の文章はあれほどまでに心を穿つような文章であるのか、最近のライトノベルの文章は読み飛ばすようにものすごいスピードで読めてしまうのか。
その答えの入口こそが、基本をあえて外すというここで言う裏ワザにあるんですね。

文章中級者に近づくための発想の転換

本著で提示されているのは、もちろんすべて参考になるテクニックです。
文章力をこれから上げていこうと考えている人であれば、そのテクニックを一つ一つしっかりと覚えて実践していくことは重要でしょう。
しかし、著作には当然全体を貫くテーマが存在します。
では、本著におけるそれはなんなのか、それは、発想の転換術なんですね。
きっと、基本的な文章は書けるもののどうにも味わいのある文章がかけない人、というのは本著で提示されているような発想の転換というのができていないと思うのです。
基本に忠実で、きれいな文章をかける人ほど、というべきでしょうか。
その転換すべき発想というのが、違和感です。

違和感は文章にフックを与える道具

本著で提示されているテクニックのほとんどは、この違和感が主題です。
つまり「本来はこういう使い方をしないので、むしろそういう使い方をしてやると印象に残りますよね」という提示がテクニックとして述べられている大半です。
本来の使い方と違う「テニヲハ」ですとか、漢字を使うべきでないところに使うテクニック、カタカナの基本的な用法とは違う活用法などの全てがそれです。
ではなぜ、本著はそうまでして違和感をもたせようとするのか、それが基本の上を行く裏ワザとなるのか。
その理由は、違和感は文章におけるフックになるからなんですね。
ここで言うフックとは、スルスルと文章を読んでいるときに感じる引っかかり、なんとなくの不快感に近い邪魔な存在と考えて問題ありません。
いわば、カステラのザラメのようなものです。
この邪魔な存在、その違和感こそが名文に至るひとつの道なのです。

日本人は当たり前に日本語が読める

世界的にはよくわかりませんが、少なくとも一般の日本人であれば当たり前に母国語たる日本語が読めます。
かなりサクサクと読めます。
何を突然当たり前のことを?!と、お思いかもしれませんが、この事実こそが、本著の裏ワザとして提示されている様々な違和感の効能に直結するのです。
なぜなら、違和感のないきれいな文章は、このおかげで、誰でも息をするようにスラッと読めてしまうからです。
そして、なんのひっかかりも与えずに頭の中で情報化されてしまうからなんですね。
もちろん公文書や報告書であればこれは最上級の文章です。
サラサラと読めて簡単に情報化できるわけですから用途として最適です、が、誰もが公文書を読んで「ホォ」と感嘆の溜息をつくことがないように、それは非常に味気ない。
そう、日本人は、こちらでわざと引っかかりを作ってあげないと文章を楽しめない国民。
印象に残らないほどのスピードで文章を読み理解してしまう人たちなんですね。

違和感を使って楽しく文章を装飾していこう

きっと本著の最終目標はこれ「違和感を使って楽しく文章を装飾していこう」です。
普通だったら使わない方法、一見間違っていると思われる用法。
そんな違和感の効果的な使い方とその加減、勘所、塩梅……。
そういったものを読者に提示していくことで、うまく違和感を用いて、良い文章を書いてもらおうというよりは楽しく文章をデコってもらおうという方向の本であると感じます。
その先にある、個性をの発露に向かうハシゴとして、有益な本であることは間違いありません。

もちろん基本も学べます。

もちろん基本もしっかり学べます。
基本的に美しくしっかりした文章を書けない人にも、おすすめの一冊ですよ。

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