『理科系の作文技術』:作文技術にとどまらない理系的あり方
今回から、全部で4回に分けて論文の書き方に関する良書を取り上げます。
論文の書き方に自信のない方には絶対にお勧めの4冊です。
速読で読まないで、しっかり精読してください。
ご紹介する4冊は以下の4冊です。
- 理科系の作文技術
- 吉岡のなるほど小論文講義10
- 新版『論文の教室』レポートから卒論まで-第2版
- うまいと思わせる文章の裏ワザ
しっかり読めば受験者さんの作文能力は、まちがいなく向上します。
上記の中で『新版『論文の教室』レポートから卒論まで-第2版』は、2022年1月25日に最新版が出るようです。
そこで、今回は『理科系の作文技術』中央公論社から、1981年に出版され40年間売れ続けている本です。
一部の技術士講座では、この本をテキストとして、受講者さんに配布しているようです。
(その考え方には賛成できませんが)
この本自体は、技術士試験の対策本ではないのですが、技術士試験はまさに、理系の作文で解答します。
この本が、役立つことは間違いありません。
おそらく、パラグラフライティングを最初に紹介したのはこの本ではないかと思います。
目次の一部をここに紹介します。
4. パラグラフ
4.1 パラグラフ序説
4.2 パラグラフのみたすべき条件
4.3 トビック・センテンス
4.4 展開部
4.5 文章の構成要素としてのパラグラフ
4.5.1 パラグラフの立て方
4.5.2 パラグラフの長さ
4.5.3 パラグラフの連結
ここを読めばパラグラフライティングは、マスターできます。
また、第7章の事実と意見では
7. 事実と意見
7.1 事実と意見
7.2 事実とは何か、意見とは何か
7.3 事実の記述、意見の記述
7.4 事実と意見の書きわけ
7.5 事実のもつ説得力
この章は、技術士試験の解答を記述するときに、とても役に立つと思います。
それでは、以下で紹介します。
作文技術にとどまらない理系的あり方
大学に通う、もしくは同等なものを経験するとわかるのですが、作業と言われるもののほとんどは文章を書くこと。
そして、一般的に文章を書くという作業は文系の専売特許と思われるかもしれませんが、
実際のところ理系の方も大量に文章を書かなければいけません。
むしろ、学部学科によっては文系の人間よりもより多くの文章を書く場合があります。
よって、理系だから文章は苦手で……、というのは少なくとも大学などの研究機関においては通用しない言い訳。
本著はそんな理系の人達が文章を書く際に必要な知識とあり方について書かれています。
そしてそれは、ある意味、理系としてのあり方にまで迫ってくるものです。
理科系の作文技術は理科系だけではなく、技術者にも役立つ
ここで、まず本著の内容が役に立つ、いわゆるターゲットについて書きます。
まずは、研究者や大学において研究をしている職員、そして言うまでもなく理系の学生にとっては、
かなり役に立つ本であることは間違いありません。
むしろ、本著はそういった人々をメインターゲットとして設定した上で書かれいますから、当然です。
しかし、実は本著に書かれている理科系の作文技術は、そういった研究に携わる人だけではなく、
他業種、とくに技術者系の仕事についている人にもかなり使える本だと言えます。
その中には、技術士を目指す人も入ります。
製品の仕様、経過の報告、もしくは認証や検査における文章の作成など、実際技術者が抱える文章は、多岐にわたります。
ここで言う理科系の作文技術を用いて書くことによってよりわかりやすいものになることは間違いありません。
そういった意味で幅広い人に進められる名著です。
内容は極めて専門的
まず、本著の内容は極めて専門的なものです。
いわゆる読み物感覚で気軽に読めるものではなく、きちんと理科系の作文について『学びたい』人向けのものであることは認識しておいたほうがいいでしょう。
真剣に理科系の人間として作文技術を学びたい人向け、それが本著です。
こういうハウトゥー物には、その業界の軽い面白話のようなものもあるのですが、
そのつもりで読んでしまうとたぶん2ページも読み進められないことでしょう。
ですので、本著が文章として、または著作として面白いかと言われれば、NOです。
役立つのかと言われれば、間違いなくYESです。
本著を最後まで読みすすめていけば、きっと、なぜ本著が面白くなく、であるにも関わらず有益であり、そして最後まで読めてしまうのかについての謎も解けます。
というのも、本著こそまさに、理系の作文作法によって書かれているからなんですね。
理系的心の持ちようについて学べる
理系的心の持ちよう、と言われてもピンとこないかもしれませんが、
言い換えれば理系的な考え方、矜持のようなものも、本著では学べるだろうと考えています。
というのも、理科系の作文の方法とは、まさに理科系の思考法そのものだからです。
たとえば、本著では繰り返し、理系の作文方法において曖昧さをいかに回避しなければいけないのかということについて、
作文の段階や用途、もしくは作法として詳しく繰り返し述べられています。
また、冒頭部分おいて、理科系の作文方法とは、小説や随筆のような他の文章と違って感情を挟まないことが大事であるとも書かれています。
まさにこれこそ、理系的物の考え方であり、研究に携わる人間の矜持です。
しっかりとターゲティングをし、感情を挟まず、曖昧さを回避して、エビデンスやファクトを積み重ね、その上でわかりやすく相手に伝える努力を行う。
理科系の作文方法とは、まさに理科系の人間としては、しっかりと身に付けておかなければいけない態度そのものです。
理科系の道に進もうとしている人(悩んでいる人にも!)におすすめ
本著は当然理科系の道を今進んでいる人には、間違いなくすすめることができます。
もちろんそういった人にとっては、内容の大部分は当たり前のことに映るかもしれませんが、
少なからず新発見や新しい取り組みに対する切り口も発見できるはずです。
と、同時に、もっと勧めたい人はこれから理科系の道に進もうとしている人です。
しっかりと間違いなく理科系の道に進むという強い意志をもっている人であれば、この内容を事前に履修しておくことの意義は本当に大きく、
かなりのアドバンテージとなるでしょう。
そして、今、理科系に進もうか悩んでいる人にとっては、ある意味試金石です。
というのも、バリバリの文系で文章が得意でない人にとっては、本著は読みにくいと想像されるからです。
そして、本著の言うとおりの文章は退屈で書けないよな、という感想を抱くだろうことが予想されるからです。
そう、つまり、理科系の作文術とは理科系の思考法そのものであることで、本著を読むことによって、自分が理科系の思考法に向いている人間なのかどうかが推し量れる。
理科系にこのまま進んでよいのか、判別できる。
この本を読んで、共感をえたり、このすっきりした作文の仕様が性に合うなら、あなたは理科系の考え方が向いているのかもしれません。
逆であれば、一度考えてみるといいでしょう。
作文方法だけではなく発表の作法まで……理科系必携の書
本著の素晴らしいところは、作文方法を通して理科系としてのあり方も学べる点。
だけではなく、なんと、本著では作文によって完成したものをいかにして発表するのかという点につてまで丁寧に指導してくれるというおまけ付きです。
まあ、一応タイトルが作文についてなのでおまけと書きましたが、そのこさと長さはおまけとは言い難いもの。
本来であれば、こういったものは理科系の学部等できちんとレクチャーされるべきものだとは思うのですが、そうはなっていないからこういった本があるのだとすれば、まさにこれは理科系学生必携の一冊。
一般に、文章力が低下してきていると言われる昨今。
技術士を目指す方には、ぜひとも読んでほしい一冊です。
おまけ
木下先生には、この『理科系の作文技術』の他に『レポートの組み立て方』(ちくま学芸文庫)という本もあります。
これも名著です。
木下先生はは、この『レポートの組み立て方』の中でもパラグラフに関して説明されています。
180~181ページを紹介しましょう。
4.5 パラグラフーー説明・論述文の構成単位
段落という日本語があるのにあえてパラグラフということばを使うには理由がある。
その解説からはじめよう。4. 5. 1 パラグラフとは何か
段落という概念は,岩波国語辞典(第4版,1963)が長い文章をいくつかのまとまった部分に分けた,その一くぎり。
と言っているように,かなり漠然としたものだ。
新しい段落は,行を変え,アタマを1字さげて書きはじめるのが明治以降のしきたりである。
このしきたりを守って書かれた一くぎりの文の集合を形式段落と呼び,それがさらに意味の上でも一つのまとまりを示している場合には意味段落と名づけるのが国語教育界の慣習らしい。
ここでいうパラグラフ(paragraph)は,一言でいえば文章の一区切りで,内容的に連結されたいくつかの文から成り,全体として,ある一つの話題についてある一つのこと(考え)を言う(記述する,主張する)ものである。
上記の意味段落にやや近いが,パラグラフは,4.5.2節にくわしく述べるように, もっと限定的な性格をもっている。
欧文――ことに説明・論述文――はパラグラフを構成単位としてきちっと組み立てられるので,欧米のレトリックの授業(2.1節,p33)では,文章論のいちばん大切な要素としてパラグラフの意義,パラグラフの書き方を徹底的に教えこんでいる。
極端な言い方をすると,「まず一つ一つのパラグラフをきちっと書き,それらを積みあげ,ゆるぎなく連結して文章を組み立てよ」というのが欧米流の(説明・論述文の)文章作法であ
る。パラグラフを煉瓦,文章を煉瓦建ての家と思えばいい。
煉瓦がやわでは堅固な家はできない。
日本式の段落は,いわば一つづきの文章のほうが先にあってそれを便宜的に切ったもの――という趣があって,パラグラフとは大分ちがうようである。
私は,日本語でも,レポート,論文,取り扱い説明書などの文章は,パラグラフの概念をしっかり把握して,以下に述べるルールを守って書くべきものと信じる。
この本もとても良い本です。
『理科系の作文技術』を気に入ったなら、この『レポートの組み立て方』もぜひ、読んでください。