【技術士試験】ホームズの推理:減点されない「課題設定」の思考法(後編)

~「不足」を嘆くな。「目的」に変換せよ~

プロローグ:「状態」は課題ではない

~坂戸市・ベイカー街221B。後編からの続き~

ワトソン博士
「さてホームズ。前編で、過去の合格論文にある『人材不足が課題』という記述は、実は『減点対象(アラ)』だったという衝撃の事実を学んだ。
ならば、どう書けば減点されない『本物の課題』になるんだ?
レストレード警部の提案した『〇〇といった最新技術を扱える人材が不足していることが課題』という書き方ではダメなのか? かなり具体的で良さそうに見えるが」

シャーロック・ホームズ
「レストレード警部の工夫は、凡庸な受験生から一歩抜け出している点では素晴らしい。
しかし、厳密な技術士の論文作法に照らし合わせると、まだ一つの罠にハマっている。それは『状態(事実)』を『課題』と混同しているという点だ」

ワトソン
「状態と課題は違うのか?」

ホームズ
「全く違う。『〇〇な人材が不足している』というのは、単なる『現状の観察(事実)』だ。
いくら具体的にしても、『お金がありません』『人がいません』と嘆いている状態(ステータス)に過ぎない。
講師の回答にある、最も重要なアドバイスを思い出してみたまえ」

【講師の回答より】
『不足』を『目的(~すること)』に変換してみてください。

ホームズ
「課題とは、『解決すべきハードル』であり、その文末は必ず『~すること(Action / Goal)』で終わらなければならないのだよ。
『不足している』で文を終えてしまうのは、技術者としての思考停止だ」

第1章:思考プロセスの黄金律(前提→問題→課題)

ワトソン
「『不足』を『~すること』に変換する……。具体的にはどうやるんだ?」

ホームズ
「講師が提示した『推奨される思考プロセス』を、さらに分かりやすく解剖(トレース)してみよう。
インフラの老朽化対策を例にとるぞ」

ステップ1:現状の制約(前提)

事実: 予算と人員が少ない。(問題文で与えられた変えられない条件)

ステップ2:生じる問題(Problem)

分析: その前提の中で、従来通りの人海戦術(目視点検など)を続けるとどうなるか?

結果: 点検が追いつかず、インフラの品質が低下し、事故の危険性が高まる。(これが真の問題だ)

ステップ3:解決すべき課題(Task)

導出: では、この最悪の事態を防ぐために、我々技術者が『成し遂げるべきこと(目的)』は何か?

解答: 「新技術(DX等)の導入やプロセスの刷新により、省人化・低コスト化を図りつつ、安全機能を維持すること」

ホームズ
「どうだい、ワトソン君。
ダメな答案は、ステップ1の『人が少ない(不足)』をいきなり課題にしてしまう。
だが満点を取る答案は、ステップ1と2を踏まえた上で、ステップ3の『限られたリソースの中で、いかに目的を達成するか(=生産性向上・最適化)』を課題として設定しているのだ」

第2章:「技術的アプローチ」への切り口

「おお……! 『人が足りない』という愚痴が、『新技術による省人化と機能維持の両立』という、極めて高度なエンジニアのテーマに生まれ変わった!」

ホームズ
「その通りだ。講師も結論でこう述べているね。
『不足している状況下で、いかにして高度な要求に応えるかという「リソースの最適化・高度化」を課題に据えるのが正解です』と。

もし、どうしても『人材(人)』という切り口で課題を展開したいなら、単に人数を増やす話(採用強化)にしてはいけない。
技術士の論文なのだから、『技術的なアプローチが可能な切り口』を選ぶのだ」

【「人」をテーマにした技術的課題の例】

× 減点される課題: 若手技術者が不足していること。

〇 満点の課題: 熟練技術者のノウハウを形式知化し、ICT等の活用による「技術継承の仕組みづくり」を構築すること。

× 減点される課題: 現場の作業員が足りないこと。

〇 満点の課題: ロボット施工やBIM/CIMの導入による「現場のDX化を通じた生産性の抜本的向上」を図ること。

ホームズ
「分かるかい? 『人を増やす』のではなく、『今いる人の生産性を技術で限界突破させる』。あるいは『技術で人を置き換える』。これが技術士の思考なのだよ」

第3章:新コンピテンシー「問題解決」との完全なリンク

ワトソン
「完璧に理解したよ。
レストレード警部の『ただの人材不足を課題にしていいのか?』という疑問は、まさに技術士試験の本質を突いた、素晴らしい問いだったんだな」

ホームズ
「全くだ。そしてこの『前提条件(制約)の捉え方』は、令和8年度(2026年度)から適用される改訂版コンピテンシーの「問題解決」の定義そのものでもある」

【新コンピテンシー「問題解決」の定義(抜粋)】
相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)……を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。

ホームズ
「『予算や人員の制限(経済性の制約)』と、『インフラの維持や脱炭素の実現(機能性・安全性の要求)』。
これらは常に『相反する要求事項(トレードオフ)』だ。
この絶望的なトレードオフの状況下で、言い訳をせず、第3の道(解決策)を合理的に提案することこそが、次世代の技術士に求められる能力なのだよ」

エピローグ:ホームズからの最終メッセージ

ホームズ
「ワトソン君。そして、この記事を読んでいる聡明な受験生諸君。
君たちは今後、さまざまな過去の合格論文を目にするだろう。中には、論理が破綻していたり、安易に『人材不足』を課題に挙げているものもあるかもしれない。

しかし、前編で語った『合格論文の中には、40%の間違い(減点)が含まれている』という事実を、決して忘れないでほしい。

他人の『アラ(減点箇所)』を真似て、24点スレスレの綱渡りをする必要はない。
君たちは常に、講師が示したような『正しい思考プロセス』を踏み、満点(減点ゼロ)の論理構造を目指したまえ。

『不足』を嘆くのではなく、『最適化』という目的を掲げる。
その圧倒的な論理の美しさこそが、君を確実な合格(A評価)へと導く、最強の武器となるはずだ。

レストレード警部のような『健全な違和感』を大切に。健闘を祈るよ!」

【総括】今回のホームズの捜査メモ
問題文の「前提条件」は言い訳の封殺である。(お金や人で解決する行政・経営的提案はNG)

過去の合格論文を妄信するな。(40点中24点で合格。合格論文の中にも40%の「減点要素」が混ざっていることを知れ)

「不足(状態)」を課題にしてはいけない。(「〇〇が足りない」は事実の羅列であり、課題ではない)

「目的(~すること)」へ変換せよ。(「制約下で、いかに技術を用いて目的を達成するか(最適化・生産性向上)」を課題に据えよ)

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
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