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プロローグ:答案用紙の向こう側
~坂戸市:ベイカー街221B 試験対策の資料が散乱するデスクにて~が窓を叩く深夜~
ワトソン博士 「前回の話で、実務においてAIが不可欠なのは痛いほど分かったよ、ホームズ。 ならば、技術士試験の対策もAIに任せれば完璧じゃないか? 私は試しにAIに『建設部門の必須問題』を解かせてみたんだ。すごいぞ、論文の構成案も、キーワードの解説も、ものの数秒で出力してくる。 これを使わない手はないだろう? これを暗記すれば合格間違いなしだ!」
シャーロック・ホームズ (冷めた紅茶を一口すすり、どこか哀れむような目でワトソンを見つめる。その視線は、初歩的なミスを犯した新人刑事に向けるものと同じだった) 「ワトソン君、君はまた『楽な道』という名の落とし穴に落ちようとしているね。 結論から言おう。君のようにAIをそのまま使っている受験生は、はっきり言って落ちる。 今、技術士試験の裏側で起きている現象は『受験生のレベルアップ』ではない。『答案の均質化(コモディティ化)』という静かなる病だ」
第3章:AIという名の「麻薬」と均質化の罠
ワトソン 「均質化? どういうことだ? 正解に近い答案が書けるなら良いことじゃないか」
ホームズ 「AIが生成する文章をよく読んでみたまえ。文法的に正しく、論理も通っている。優等生的だ。 だが、そこには『血肉』がない。『現場の匂い』がしない。『誰の顔も見えない』のだよ。 『課題はDX人材の不足です』『解決策は教育の充実です』……。 AIに依存する受験生が増えれば増えるほど、採点官の机には、判で押したような『それっぽい優等生答案』が山積みになる。 採点官は、百戦錬磨のプロフェッショナルだ。彼らは直感的に見抜くよ。『ああ、またAIか。思考の形跡がないな』とね。 一度そう思われたら、その答案はB評価(不合格)の箱に放り込まれる運命だ」
ワトソン 「し、しかし、内容は間違っていないはずだ!」
ホームズ 「試験会場にAIは持ち込めない。それが全てだ。 本番で試されるのは、知識の量ではない。君の頭の中にある『混沌とした情報を構造化する力』『数ある論点から最適解を選ぶ力』、そして『制限時間内に自分の言葉で書き切る力』だ。 AIに『考えてもらった答え』を暗記しても、それは君の筋肉にはなっていない。 AIを『代筆者』にしている受験生は、本番という荒海で、自分の羅針盤を持たずに漂流し、必ず沈む」
第4章:賢者のAI活用術「思考の敵対的生成」
ワトソン 「では、受験生はAIを封印すべきなのか? 鉛筆と紙だけで戦えと?」
ホームズ 「極端だな、ワトソン君。毒も使いようで薬になる。 合格する技術士は、AIを『代筆者』ではなく、『思考トレーナー』あるいは『仮想敵(スパーリングパートナー)』として使っている。 私が推奨するトレーニング方法はこうだ」
【ホームズ式:対AIスパーリング法】
まず「自分で」骨子を作る: 何も見ずに、自分の脳だけで構成案を書き出す。脳に汗をかかせろ。
AIにも同じテーマで骨子を作らせる: ここで初めてAIを使う。
「差異」を分析する: 「自分の案とAIの案、どこが違う? なぜAIはこの視点を入れた? なぜ自分は抜け落ちた?」と比較する。
AIに「批判」させる: 自分の書いた論文をAIに読ませ、こう命令するのだ。『もっと厳しく批判してくれ。技術士の視点で、論理の飛躍や具体性の欠如を指摘せよ』と。
ワトソン 「なるほど……。AIに答えを求めるのではなく、『自分の思考を鍛えるための壁』にするわけか」
ホームズ 「その通り。AIを『採点者』や『訓練装置』にできる人間だけが受かる。 安心していいかどうかの判断基準はたった一つだ。 『AIなしで、過去問を60分で、毎回ほぼ同じ品質で書けるか』。 これがYesなら、君はAIを正しく使えている。Noなら、君はAIに使われているだけだ」
第5章:AI任せ厳禁!「一次情報」の鉄則
ホームズ 「最後に、技術者として最も重要な警告をしておこう。 『ファクト(事実)』に関しては、AIを信じるな。絶対にだ」
ワトソン 「なぜだ? AIは世界中の知識を学習しているはずだろう?」
ホームズ 「AIは『言葉を繋げる計算機』であって『データベース』ではない。だから『もっともらしい嘘(ハルシネーション)』をつく天才でもある。 特に以下の4つの領域に関しては、必ず『一次情報(省庁の白書や発表資料)』を自分の目で見なければならない。ここを間違えると、技術者としての信頼性は地に落ちる」
【AI使用禁止・要裏取りリスト】
・最新の統計データ・数値
AIは桁(ケタ)を平気で間違える。「建設投資額2兆円」を「2000億円」としたり、2020年のデータを最新と言い張る。
見るべき場所: 各省庁の「白書」冒頭の図表。
・具体的な法規制・基準の改定
AIの学習データには「鮮度の限界」がある。「改正前の古い条文」を自信満々に答えることが頻発する。
見るべき場所: 国土交通省などの「報道発表資料」。
・国の計画・ビジョンの正式名称
「第5次 社会資本整備重点計画」の「重点」を抜かしたり、目標数値を勝手に創作したりする。
見るべき場所: 閣議決定された「本文」や「概要版PDF」。
・直近の災害・事故の固有名詞
「能登半島地震」のような最新災害の被害詳細を、過去の地震と混同することがある。
見るべき場所: 気象庁や国交省の災害報告書。
ホームズ 「AIに『日本の高齢化率は?』と聞くのは素人のすることだ。 プロの技術者は、Googleの検索窓に『高齢化率 令和6年版高齢社会白書』と打ち込む。 この手間を惜しむ人間に、技術士のバッジをつける資格はないよ」
エピローグ:夜明けの刻
ワトソン 「ありがとう、ホームズ。目が覚めたよ。 AIは便利な道具だが、それに魂まで預けてはいけないということだな。 2026年問題という波も、自分の足で立ち、自分の頭で考える者にとっては、むしろ高く飛ぶためのチャンスになる」
ホームズ 「その意気だ、ワトソン君。 『右手にデータを、左手に愛(倫理)を』。そして、脳には心地よい疲労(汗)を。 それさえ忘れなければ、どんな時代が来ても、君は君自身の人生の技術士(エンジニア)でいられるはずさ」
(窓の外では激しい雨が上がり、ロンドンの街に薄日が差し始めていた。新しい時代の夜明けのように)
【まとめ】AI時代の技術士試験・生存戦略
今回の記事のポイントをまとめました。試験勉強の指針として活用してください。
2026年問題の本質
これは「AI導入」の話ではなく、「業務プロセスを再設計できたか」という経営・人材の問題である。
「人が考える仕事」は激減するが、「AIに指示し、責任を取る仕事」の価値は跳ね上がる。
試験対策でのAI活用法
NG: 「代筆者」にする(答えを作らせて覚える)。→ 本番で沈む。
OK: 「トレーナー」にする(骨子を比較する、批判させる)。→ 構成力が上がる。
基準: 「AIなしで60分で書けるか?」を常に自問する。
情報の裏取り(ファクトチェック)
統計、法改正、計画名、最新災害については、AIを信じず必ず「一次情報(白書・省庁HP)」を確認する。
検索ワード例:「キーワード + 出典元(白書・省庁名)」
AIという強力なエンジンを積んでも、ハンドルを握り、地図を読むのは人間(あなた)です。 正しく恐れ、正しく使いこなし、2026年の壁を越えていきましょう。








