建設部門や電気電子部門でも出題されるインフラメンテナンス
しっかり理解して、課題や解決策でのミスを減らそう。
はじめに
インフラの維持管理は、日本として大きな問題となっている。
技術士二次試験でも、建設部門を始め、農業、電気電子、などの部門で出題のテーマに取り上げられている。そのため、今回は試験問題に対する考え方を纏めてみた。
課題の抽出や、解決策の考え方のヒントになれば良いと考えている。
とりわけ、インフラメンテナンスの「選択と集中」は、考え方が難しく、下手に課題として抽出すると、解決策が迷子になってしまう恐れがある、しっかりとポイントを理解して欲しい。
インフラの寿命は長く、したがってインフラ関連の政策は必然的に中長期的な視点に立ったものとなる。政府はそうした「国家100年の計」としてのインフラ整備計画の柱の1つとして「選択と集中によるインフラ整備」を掲げている。
1.基本戦略
国土交通省が取りまとめた資料によれば、政府のインフラ・マネジメント戦略の要点は、次の2点である。
① 全インフラ共通の戦略的メンテナンス+既存ストックの有効活用
② 目的に応じた選択と集中の徹底により、限られた財政資源で必要な新規・高度化投資を両立
以上の2点を重視することにより、将来にわたって新設・高度化からストック管理・活用に至るまで、インフラ整備全体を持続可能なものとすることが目標とされる。①は、要するにインフラを「賢く使う」ということである。今回は②に関してみていく。
2.「選択と集中」―どこに・何に
インフラ整備の「選択と集中」と言っても、具体的に何を選択し、それに向けて投資を集中するのだろうか。実は政府は、インフラ整備の目的(安心安全・生活維持・成長)に応じて3つの投資先(ターゲット)を示している。これらを網羅することで総合的なインフラ整備計画となる予定だ。
安心安全の確保―「安心安全インフラ」
インフラ整備の「選択と集中」の1つ目のターゲットは、災害リスクを低減し国民の安心と安全を確保するためのインフラ「安心安全インフラ」の整備だ。その背景には、頻発する自然災害がある。すなわち政府はインフラ整備を、将来発生することが予測される大規模地震や異常気象などの自然災害を見越して、人命と財産を守るための減災政策の一環に位置づけている。例えば大規模地震としては、「首都直下地震」「東海地震」「東南海・南海地震」が、いずれも今後30年間で60~70%の確率で発生すると予測されている。
勿論、将来予測を待たずとも、地震や洪水などの自然災害による被害が毎年のように発生する中、インフラ整備は事前の減災対策として重要な取組であるとの意識もある。例えば洪水に関して政府は、「雨の降り方が局地化・集中化・激甚化し新たなステージに入った」との認識のもと、広島県で発生した土砂災害(2018年7月)等も踏まえ、ハード・ソフト両面の取組を強化していく予定である。さらに、事前の減災対策により被害が限定されれば、災害からの早期復旧も可能となるという見方が示されている。
こうした災害リスク低減のための「安心安全インフラ」整備として具体的には、「住宅・建築物等の耐震化」「液状化対策」「災害に強い都市構造の構築」「洪水対策施設の整備」の4点が挙げられている。
生活維持に向けて―「生活維持インフラ」
インフラ整備の「選択と集中」の2つ目のターゲットは、人口減少下における地域生活サービスの持続的・効率的な提供による地域住民の生活の質の維持・向上を図るための「生活維持インフラ」の整備だ。その背景には「(高度経済成長期に集中的に整備された)社会資本の老朽化」および「少子高齢化と人口減少などに伴う地域ニーズの変化」という社会構造の変化に対する認識がある。つまり政府は、インフラ整備を通してもこうした変化やリスクに対処していく姿勢である。
まず、「社会資本の老朽化」に関しては、(インフラ老朽化により荒廃するアメリカの教訓を受けて)「荒廃する日本」とならないよう、「全事業分野・全管理主体で予防・保全を基軸とする計画的なマネジメントサイクルを構築・実行し、インフラの安全性を守るとともに、トータルコストの縮減・平準化」を図ることが計画されている。
具体的には、「予防保全型管理」への転換(メンテナンスのあり方の見直し)、および維持管理対象を減らす「除却」(メンテナンス対象の削減)などが挙げられている。なお、「予防保全型管理」とは、「事前に点検し、異常が確認または予測された場合、致命的欠陥が発現する前に速やかに措置する」というマネジメント方式のことで、「損傷等が発生した後に対処する」という従来のマネジメント方式(「対症療法型管理」)に代わるものとして実行が企図されている。また「除却」は、必要のなくなったインフラを撤去することである。なお、除却に関連して、必要なインフラも、更新等の機会を捉えて集約化・転用等を図るなど、社会・経済状況の変化に応じて規模を適正化するとの方向性が示されている。
少子高齢化と人口減少
次に、「少子高齢化と人口減少」に関しては、生活維持インフラによる「コンパクト+ネットワーク」の実現が企図されている。「コンパクト+ネットワーク」とは、(地域生活サービスの集約・統合を通した)都市経営コストの低減、および公共交通を軸とした秩序ある拠点形成から成るインフラ・マネジメント計画である。本地域構造転換構想における最終目標は、(住宅・商業・公共機能の拡散抑制によって実現が見込まれる)投資エリアの縮小による都市経営コストの低減である。そもそも、住宅・商業・公共機能等の都市機能の拡散は、管理エリアの拡大につながり都市経営コストを増大させることに繋がる。したがって、「コンパクト+ネットワーク」は、管理エリアを縮小することにより都市経営を持続可能なコストに抑えるための生活維持インフラの整備計画であると言ってもよいだろう。背景にあるのは財政の逼迫である。すなわち、今後、人口減少や高齢化等によって多くの都市で歳入減が予想されるという厳しい現状を見据えた上での計画である。
「コンパクト+ネットワーク」の施策として具体的には、公共交通ネットワークの再構築と一体となったコンパクトシティの形成、小さな拠点づくり(道の駅における地域の拠点機能の強化など)が挙げられている。
大都市の国際競争力強化―「成長インフラ」
インフラ整備の「選択と集中」の3つ目のターゲットは、日本の都市の、アジア拠点としての魅力向上と地域経済の活性化を図るための「成長インフラ」の整備だ。その背景にあるのは、日本の都市の国際競争力に対する危機意識である。アジア各都市は、競争力(生産性)の源泉となる交通・物流インフラ等の整備を着実に進めることで経済成長を遂げている。そのような中。日本も「世界に伍する」「世界を魅了する」ためのインフラを整備していき、アジアの成長の恩恵を享受したいというのが政府の狙いである。
事実、日本の都市の国際競争力は人流(国際旅客数等でみた場合)、物流(コンテナ取扱個数等でみた場合)両面でアジアの他の都市と比較して見劣りすることが指摘されている。
激化する国際競争に対応していくため、具体的には、「国際コンテナ戦略港湾における『集貨』『創貨』『競争力強化』」)、「首都圏空港の機能強化」、「三大都市圏環状道路の整備による道路ネットワークの強化」等が方針としてある。
また、DXを導入して、インフラメンテナンスの効率を上げるという考え方もさかんだ。
まとめ
以上、「目的に応じた選択と集中の徹底により、限られた財政資源で必要な新規・高度化投資を両立」するという政府のインフラ・マネジメント基本戦略の1つを概観した。それは「限られた」財源を、「安心安全インフラ」「生活維持インフラ」「成長インフラ」の3つの分野に集中して投下することで持続的な成長を図るというものである。なお、3つの視点(安心安全・生活維持・成長)がカバーする領域には重複する部分もあり、それらは互いに関連している。
政府は本戦略により、投資エリアの縮小というネガティブな要素と経済成長(生産性向上)というポジティブな要素を将来に渡って両立することを目指しているようだ。
3.「選択と集中」の徹底―そのデメリット
だが、政府が掲げる「選択と集中によるインフラ整備」には、以下に示すようなデメリットもある。
(A) 最大のデメリット
人間の認知力には限界がある。たとえ専門家であっても、技術やインフラ分野でどこに資金を集中すれば良いのかは、分からない。まして、一世代を超えるような長期に亘って使用するインフラ施設の場合、予見は不可能である。多くの不測の事態が起こり得るからである。このような視点でみた場合、「選択と集中」の実施はやや柔軟性に欠けるといえる。
その他のデメリット
(B) 均等性の損失:「選択と集中」を行うことで、特定の地域や分野に投資が集中するため、他の地域や分野に投資が行われないことが予見される。そのため、投資地域や投資分野の均等性が損なわれる可能性がある。このような視点でみた場合、「選択と集中」では大都市が恩恵を受ける中、過疎地域・農業地帯などは重点投資エリア・インフラ整備エリア(公共交通を含む)からは外され、今後ますます過疎化や農業就業人口の減少が進むことが懸念される。
(C) リスク分散の不足:特定の分野(減災、防災、観光、三大都市圏、国際空港・港湾関連分野等)に投資が集中することで、その分野に不況が訪れた場合、影響を受けるリスクが高くなる。リスク分散の考え方が不十分である「選択と集中」の徹底により、リスクに対する耐性が低くなることが予想される。
(D) 専門性に生じる偏り:特定の分野に集中することで、その分野以外の分野に関する知識や経験を得ることができなくなってしまい、専門性に偏りが生じることが懸念される。これにより、他の分野に関する投資や整備が遅れる可能性がある。
(E) 振興効果の不足:「選択と集中」を行うことで、特定の分野に人的・物的投資が集中するため、その分野以外の地域や産業に対する振興効果が不十分になるおそれがある。これにより、地域経済全体の発展が阻害される可能性がある。
(F) 判断基準の偏り:「選択と集中」を行う場合、プロジェクトを選択する基準に偏りが生じることが予想される。そのため、選択されたプロジェクトが必ずしも最適なものではなく、未来において不十分なものとなる可能性がある。
(G) 長期的な影響の見極めが困難:「選択と集中」を行うことで、その分野に対する長期的な影響が発生することがある。しかし、長期的な影響を正確に見極めることが困難であるため、不測の事態が発生する可能性が指摘される。
デメリットのまとめ
インフラ整備計画は数十年先の将来に関わる事案であるため、「国家100年の計」といえども、予期せぬ事態に備える柔軟性は保持していく必要があるのではないか。しかし、国土交通省が取りまとめた資料には「選択と集中」の「徹底」という強い文言があるのが事実である。なぜ「促進」や「強化」ではなくわざわざこの言葉が採用されたのかはわからないが、「選択と集中」を行うということは、逆に言えば、国民一人一人の豊かな生活・福祉の増進という基本的な視点からみた場合、取り残される地域や分野が出てくるということである。数年ごとの整備計画見直しなど、「選択と集中」の緩和も視野に入れていく必要があるのではないか。