【技術士試験】ホームズの論文指南:「伝わる」を「納得」へ変える表現技術(後編)

~4大バイブルが教える推敲の極意と自己添削~

プロローグ:設計図に命を吹き込む「表現の刃」
~坂戸市ベイカー街221B。ワトソンが書き上げた原稿を手にしている~

ワトソン博士
「ホームズ、前編で教わった通り、問いを定義し、ポイント・ファーストで、データを使った根拠を並べて書いてみたぞ!
ただ、どうしても文字数が足りなくてね。接続詞をたくさん入れたり、『私はこう思うのである』といった表現で文字数を稼いで、なんとか原稿用紙の最後まで埋めたんだ。どうだ、完璧だろう?」

シャーロック・ホームズ
(原稿を一瞥し、深い溜息をつく)
「ワトソン君、君は最高級の牛肉を、泥水で煮込んでしまったようだね。
前編で学んだのは論文の『設計図(論理構成)』だ。後編では、その設計図を具体的な文章に落とし込む際の『表現の精度』について学ぶ。
技術士試験の採点官は、君が文字数を稼ぐために使った『無駄な贅肉(言葉)』を一瞬で見抜く。
君の文章をスリムで筋肉質な『プロの論文』に鍛え上げるための、実践的なテクニックを伝授しよう」

無駄を削ぎ落とし、情報を凝縮する

ホームズ
「技術士試験には、600字詰めの原稿用紙3枚(1800字)といった厳しい文字数制限がある。限られたスペースに高度な技術的情報を詰め込むためには、無駄な表現を一文字でも削らなければならない。
吉岡氏は、初心者が陥りがちな『くどい表現』を厳しく戒めている。君の原稿にある以下の3つの表現は、今すぐ消しゴムで消したまえ」

①「私は~と思う」を捨てる

ワトソンの言い分: 「自分の意見なんだから、『思う』と書くのが謙虚でいいじゃないか」

ホームズの解説: 「論文全体が筆者(君)の意見であることは自明の理だ。いちいち『思う』と書くのは文字数の無駄であり、自信のなさを露呈するだけだ。『~である』『~を提案する』と断定することで、プロのエンジニアとして責任を持って言い切る姿勢を示したまえ」

②「~ではないだろうか」という修辞疑問を避ける

ワトソンの言い分: 「読者に問いかけることで、文章にリズムが出るんだよ」

ホームズの解説: 「採点官は君とリズムを楽しみたいわけではない。吉岡氏が指摘するように、読者に問いかける手法は『論理をうやむやにする効果』があり、自らの証明責任を読者に丸投げする卑怯な行為だ。正しいと思うなら、疑問形で逃げずに『断定して証明』すべきだ」

③「とても」「非常に」などの強調語(副詞)を削る

ワトソンの言い分: 「でも、すごく重要な課題なんだ! 強調したいんだよ!」

ホームズの解説: 「『非常に深刻な問題である』と書かれても、どれくらい深刻かは伝わらない。これらの言葉は筆者の『力み』を伝えるだけで、客観的な説得力はゼロだ。木下是雄氏も『理科系の作文技術』で指摘している通り、重要性は『修飾語』ではなく、『具体的な数値や不利益の描写(例:年間100億円の経済損失をもたらす等)』によって論理的に伝えるべきなのだ」

文体と接続詞で「論理の道筋」を可視化する

ワトソン
「ううむ、厳しいな。では、文章の繋ぎ方はどうだ? 私は『そして』と『また』を駆使して、流れるような文章にしたつもりだが」

ホームズ
「それが論理崩壊の元凶だ。
石黒圭氏は、論文執筆の本質をこう表現している」

【引用】
「論文とは、1文1文をどうすればウソの少ない表現にできるかを考える作業である。」(石黒圭『論文・レポートの基本』より要約)

ホームズ
「ウソの少ない表現にするための第一の鉄則は、『一文一内容(ワンセンテンス・ワンメッセージ)』だ。
君の文章は、『~であり、~であるが、~なので、~となる』と、一つの文に情報が詰め込まれすぎている。主語と述語の関係がねじれ、読み手を迷宮に引きずり込んでいる。
修飾語が長くなる場合は、勇気を持って『。(マル)』を打ち、二つの文に分割する。それが技術士の明快な文章だ」

ワトソン
「分割したら、文と文を繋ぐ接続詞が必要になるだろう? だから『そして』を使っているんじゃないか」

ホームズ
「そこだ! 吉岡氏は著書の中で、『そして』という接続詞が因果関係を曖昧にし、論理的欠陥を招くと強く警告している。
『Aである。そしてBである。』……これでは、AとBが並列なのか、AだからBになったのか、関係性が全く分からない。
技術士論文では、曖昧なマジックワードである『そして』『また』の多用を禁じる。
代わりに、論理関係が極めて明確な接続詞を選ぶのだ。

理由を示すなら:『だから』『したがって』(順接)

言い換えるなら:『つまり』『すなわち』(換言)

対立を示すなら:『しかし』『だが』(逆接)
接続詞は、採点官を迷わせないための『道路標識』だ。標識が正確であれば、論文は劇的に読みやすくなる」

専門用語の「定義」が技術的評価を分ける

ワトソン
「よし、短く簡潔に、正しい接続詞で繋ぐ。
それから、技術士試験だから、難しい専門用語をたくさん散りばめておいたぞ。『BIM/CIM』とか『i-Construction』とかね。これで専門的学識の高さがアピールできるはずだ!」

ホームズ
「ワトソン君、君はまたしても地雷を踏んだようだ。
石黒氏は『論文・レポートの基本』の中で、『専門用語の選択の失敗』に強い注意を促している。
専門用語(バズワード)を単に羅列して『知っている感』を出すのは、素人のやることだ。採点官は『この言葉の本当の意味と、実務での限界を分かって使っているのか?』と疑いの目で見る」

ワトソン
「じゃあ、どう使えばいいんだ?」

ホームズ
「前編の『問いの定義』と同じだ。その文脈において、自分がその専門用語を『どのような意味・範囲』で使用しているのかを明記するのだ。
『BIM/CIMを活用する』とだけ書くのではなく、『本計画では、設計段階の干渉チェックだけでなく、維持管理フェーズでの属性データ連携までを含めたBIM/CIMを活用する』と書く。
定義を曖昧にしたままバズワードを振り回すのは、エンジニアとして最も避けるべき『不誠実な態度』と見なされる。専門用語は、自分のコントロール下において正確に駆動させたまえ」

提出直前の「自己添削」:合格への最終防衛線

ワトソン
「ふう……。削ぎ落とし、接続詞を整え、用語を定義する。これでようやく完成だな! さあ、提出だ!」

ホームズ
「待て! まだ終わっていない。書き終えた後の見直し(推敲)こそが、合否を分ける最後の関門だ。
単なる誤字脱字のチェックではない。戸田山氏は、論文の命についてこう語っている」

【引用】
「論文が第三者にチェック可能なものであること」
「記述の客観性は、どれだけきちんとした論拠を伴っているかによって決まる。」(戸田山和久『新版 論文の教室』より要約)

ホームズ
「見直しの際は、自分自身が『最も意地悪な採点官』になりきって、自らの論文を冷徹に批判(クリティーク)しなければならない。以下の3つのチェックポイントを心に刻め」

問いへの直接回答になっているか:
設問で「課題を3つ挙げよ」と問われているのに、背景事情ばかり書いてごまかしていないか。正面から答えているか。

論理的な飛躍はないか:
「AならばB」の間に説明不足(ブラックボックス)はないか。理由と例示は正確に噛み合っているか。

客観性は担保されているか:
自分の狭い経験や思い込みだけで語っていないか。第三者(他の技術者)が読んでも検証・納得可能な根拠(白書のデータなど)に基づいているか。

ホームズ
「石黒氏が説くように、論文とは『深く考える』ことと『詳しく調べる(確認する)』という手間のかかるプロセスを経て、初めて完成するものだ。
試験会場という極度の緊張状態、残り時間わずかという極限状態であっても、この『自己検証のプロセス』を決して放棄してはならない。それが合格答案への最後の一歩となる」

結びに代えて:技術士論文という「対話」

ワトソン
「ホームズ……。君の教えと、この4冊のバイブルのおかげで、論文というものの本当の姿が見えた気がするよ。
論文を書くというのは、単なる試験の点取りゲームではなく、自分の技術者としての生き様を、論理という言葉に乗せて証明する作業なんだな」

ホームズ
「その通りだ、ワトソン君。
技術士試験の論文は、単なる知識の吐き出し袋ではない。それは、採点官という『未来の同僚(エンジニアの先輩)』に対し、論理的かつ誠実に自分の考えを伝える『極めて高度なコミュニケーション(対話)』なのだよ。

最後に、戸田山氏のこの熱い言葉を贈ろう」

【引用】
「相手の理性に訴えて説得するという回路をさ。そして、オレはこのやり方が好きだよ。なぜって、これだけが自分と相手が対等になれるやり方だからさ。」(戸田山和久『新版 論文の教室』より)

ホームズ
「権威に媚びる必要はない。感情で同情を引く必要もない。
君たちはただ、本記事で紹介した名著のエッセンスを武器にし、『論理の鎧』を纏い、『客観的事実』という強固な盾を持って、自信を持って試験に臨めばいいのだ。
君たちの論理的で誠実な『語り』が、採点官の理性を揺さぶり、見事『技術士合格』という最高の実を結ぶことを、ベイカー街から心より祈っているよ」

参考文献

  • 吉岡友治著『吉岡のなるほど小論文講義10』
  • 石黒圭著『論文・レポートの基本』
  • 戸田山和久著『新版 論文の教室』
  • 木下是雄著『理科系の作文技術』

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

皆さん、こんにちは!「ロックオン講座」主宰の匠習作です。
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