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コミュニケーションにおける「包摂性」の衝撃~坂戸市、ベイカー街221B。一方通行のメガホンを捨て、翻訳機を持て~
ホームズ 「さてワトソン君、ここからが捜査の核心だ。 『コミュニケーション』のコンピテンシー改訂を見てみたまえ。ここには、これまでの技術士試験の常識を覆す、ある単語が埋め込まれている」
【証拠品:コミュニケーション定義の比較】
旧(Ver3.0時代):
「業務履行上、口頭、文書、図表等によって明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。」 (ホームズの注釈:これは『私が言ったことは正しく伝わったか?』という、発信者主体の視点だ)
新(R8改訂):
「明確かつ包摂的(インクルーシブ)な意思疎通を図り、協働(Collaborate)すること。」 「文化的・言語的背景の異なる人々を含む多様な関係者に対し……」
ワトソン 「『包摂的(Inclusive)』……? 最近流行りのダイバーシティのことか? しかしホームズ、我々はエンジニアだぞ。図面と数式があれば、世界中どこでも話は通じるはずじゃないか」
ホームズ 「その驕りが命取りだと言っているんだ、ワトソン君。 現代のプロジェクトを見てみたまえ。現場には日本語が母国語ではない技能実習生がいる。説明会には専門知識を持たない住民がいる。あるいは、異なる商習慣を持つ海外のパートナー企業がいる。 彼らに対して、専門用語だらけの図面を突きつけて『読めない方が悪い』と言うのかい?」
ワトソン 「む……それは不親切だな」
ホームズ 「不親切ではない。『無能』と判断されるのだよ、これからの基準ではね。 『包摂的』とは、相手の立場、文化、理解度という『壁』を認識し、自分の方からその壁を乗り越えて情報を加工することだ。
試験対策として、これからは以下の要素が必須になる。
相手の特定: 『誰と』話したかを具体的に書く(例:外国人労働者、高齢の地権者)。
壁の認識: 『何が障壁だったか』を書く(例:言語の壁、専門知識の欠如、文化的背景の違い)。
工夫と協働: 『どうやって壁を越え、味方につけたか』を書く(例:ピクトグラムの活用、相手の文化に配慮したスケジュール調整)。
単に『上司に報告して承認を得た』というエピソードは、もはやコミュニケーション能力の証明にはならない。『上司』は君と同じ言語・文化を共有しているからね。 『言葉が通じない相手といかに合意形成したか』。その苦労話こそが、A評価の鍵になるのだ」
連動3:技術者倫理における「経済」と「文化」のパラドックス
~「安全神話」からの脱却と、高次元のバランス感覚~
ホームズ 「そして最後に、最も難解かつシビアな変更点、『技術者倫理』だ。 ここには、多くの受験生が誤解している『倫理』の再定義が含まれている」
【証拠品:技術者倫理定義の比較】
旧(Ver3.0時代):
「公衆の安全、健康及び福利を最優先……」 (ホームズの注釈:これまでは『安全第一』と叫んでいれば正解だった)
新(R8改訂):
「公衆の安全……を最優先に考慮した上で、社会、経済及び環境に対する影響を予見し、評価し、文化的価値を尊重すること。」
ワトソン 「おいおい、『経済(Economy)』が入ったのか! 倫理というのは、『金儲けよりも正義を優先する』ことだろう? 『予算がないから安全対策を削りました』なんて書いたら、一発アウトじゃないか!」
ホームズ 「早合点するな、ワトソン君。 『安全を削れ』とは言っていない。『金を無視した安全対策は、無責任な夢想だ』と言っているのだよ。
想像したまえ。君が老朽化した橋の補修を任されたとする。 『安全第一』だからといって、自治体の全予算を使い切るような超高スペックな補修を提案したらどうなる?」
ワトソン 「……他の橋が直せなくなって、そっちが落ちるかもしれないな。それに、財政破綻すれば元も子もない」
ホームズ 「その通り。 真の技術士倫理とは、『安全』という絶対条件と、『経済(コスト)』『環境(負荷)』『文化(景観や歴史)』という制約条件の間で、ギリギリの最適解(Trade-off Balance)を見つけ出すことなのだ。
試験ではこう問われるだろう。 『あなたは安全を確保しつつ、どのように経済性や環境・文化へ配慮しましたか?』
これに対し、『安全のためにコストは度外視しました』と答えるのは二流だ。 一流の技術士はこう答える。 『新技術の導入によりコストを〇%縮減し、浮いた予算で地域住民が大切にしている歴史的な石碑(文化的価値)を保全しました。これにより、安全性と経済性、そして地域文化の尊重を両立させました』とね」
ワトソン 「なるほど……! ただの『正義の味方』じゃダメなんだな。『やりくり上手な調整役』であり、『文化の守り人』でなければならないのか」
ホームズ 「そうだ。 『複雑なトレードオフの中で、誰も切り捨てない解を導く』。 これこそが、Ver3.1とコンピテンシー改訂が目指す、新しい技術士の姿(プロフェッション)なのだよ。
ワトソン君、これからの試験勉強では、過去問の模範解答を疑いたまえ。 そこに『経済』への言及はあるか? 『文化』への配慮はあるか? 『包摂的』な視点はあるか? もし無ければ、それはもう『過去の遺物』だ」
エピローグ:未来の技術士への提言
ホームズ 「どうだい、ワトソン君。 『ガイドブックVer3.1』と『コンピテンシー改訂』。この二つは、『データ駆動型』『包摂的』『持続可能』なエンジニアへの進化を促す、車の両輪なのだよ。 これから試験を受ける者は、古い過去問の模範解答を暗記してはいけない。 『データを使っているか?』 『包摂的な対話をしているか?』 『経済や文化への配慮はあるか?』 常にこの新しいモノサシ(定規)で、自分の論文を測る必要がある」
ワトソン 「なるほど。ガイドブックの改定は、単なる表紙の変更ではなく、『試験のルール変更通知』だったわけか」
ホームズ 「ご名答。 さあ、この新しいガイドブックを熟読したまえ。 そこには、君が技術士になるための『真の近道』が記されているのだから」
【まとめ】ガイドブックVer3.1&コンピテンシー改訂の重要ポイント
今回の改定(Ver3.1およびR8コンピテンシー改訂)で、技術士に求められる能力は以下のように進化します。試験対策の指針として活用してください。
問題解決(Problem Solving)
Old: 経験則による分析
New: 「データ・情報技術」を活用した客観的な問題定義と解決。
コミュニケーション(Communication)
Old: 一方的な伝達(分かりやすさ重視)
New: 「包摂的(インクルーシブ)」な対話(多様性への配慮と協働)。
技術者倫理(Ethics)
Old: 安全第一の原則
New: 安全を最優先しつつ、「経済性・環境・社会的影響・文化的価値」を総合的に予見しバランスを取る。
マネジメント(Management)
Old: 資源の配分
New: 「多様性」を認識した上での資源配分と工程管理。
受験生へのアクションプラン: 論文や口頭試験の準備をする際は、必ず「データのエビデンス」「多様な関係者への配慮」「トレードオフ(経済と安全など)の高度な調整」







