目次
プロローグ:ベイカー街に届いた新しい手引書~坂戸市、ベイカー街221B。初夏の風が吹き込む午後~
シャーロック・ホームズ (ルーペを片手に、新旧2冊のガイドブックを並べて比較しながら) 「ワトソン君、君の目は節穴か? 『ほとんど変わっていない』? とんでもない。これは『予告状』だよ。 このVer3.1には、令和8年度(2026年)から始まる技術士試験の『完全リニューアル(コンピテンシー改訂)』に向けた伏線が張り巡らされている。 事務的な更新だと思って読み飛ばした受験生は、来年の試験で泣きを見ることになるだろうね。 さあ、試験に関係する『決定的な変更点』を抜き出してみよう」
第1の変更:技術士プロフェッションの定義~「日本独自の資格」から「世界標準のエンジニア(IEA PC)」への完全接続~
ワトソン博士 「ホームズ、さっきの『プロフェッションの定義』だが、もう少し詳しく頼むよ。 目次を見ても構成は変わっていないし、パラパラめくっただけでは、Ver3.0(旧版)とVer3.1(新版)の違いがさっぱり分からないんだ。 『国際基準』と言うが、具体的にどの言葉が変わったんだ?」
シャーロック・ホームズ 「やれやれ、ワトソン君。君は相変わらず『文字』しか見ていないな。 見るべきは『文脈(コンテキスト)』の劇的な変化だよ。 まず、ガイドブックの冒頭、技術士制度の根幹に関わる部分を比べてみたまえ」
【証拠品A:国際的通用性の記述】
Ver3.0(P.4):
「技術士制度は、……米国のPE制度、英国のCEng制度、APECエンジニア制度などと整合性のあるものとして運用されています。」 (ホームズの注釈:ここでは単に『整合性がある』と、制度間の相性を述べるに留まっている)
Ver3.1(P.4):
「技術士制度は、……IEA(国際エンジニアリング連合)にて加盟キャンベラ協定等で合意されたPC(プロフェッショナル・コンピテンシー)とも整合性のあるものとして運用されています。」 (ホームズの注釈:ここだ。『PC(プロフェッショナル・コンピテンシー)』という具体的な世界共通基準(物差し)が明記されたのだよ)
ワトソン 「『PC』……パソコンじゃないな?」
ホームズ 「ああ。『Professional Competencies』の略だ。 Ver3.0の時代は、まだ『日本の技術士』というローカルな資格を、後付けで世界基準に合わせていた感覚があった。 だがVer3.1では、『技術士の定義そのものを、IEAが定める世界標準(PC)と完全に一体化させる』という意思が明確になっている。 つまり、試験で問われる『資質能力(コンピテンシー)』は、もはや日本技術士会が勝手に決めたものではなく、『世界中のエンジニアが共通して持つべき能力』として再定義されたのだ」
ワトソン 「それが試験にどう影響するんだ?」
ホームズ 「『資質能力(コンピテンシー)』の解釈が厳格化されるということさ。 例えば『コミュニケーション』一つとっても、Ver3.1では、単なる『報連相ができる』レベルではなく、『多様な利害関係者に対し、技術的な内容を明確かつ効果的に伝達する能力(IEA基準)』として評価される。 口頭試験で『上司とうまくやってます』なんて答えたら、即座に『それは世界標準のコミュニケーションではない』と判断されるだろうね」
ホームズ 「さらに、技術士に求められる『義務と責任』の重心移動も見逃せない」
【証拠品B:技術士の目的と義務】
Ver3.0の空気感:
「科学技術の向上と国民経済の発展」 (高度成長期のような、産業振興・経済発展の側面が強い)
Ver3.1の空気感(P.5):
「将来の世代にわたる社会の持続可能性の確保」 「国境を越えて活躍する技術者」 (SDGs、地球規模の課題解決、そして公共の安全への責任がより強調されている)
ホームズ 「Ver3.1では、技術士の役割が『経済を発展させる人』から、『持続可能な社会を守る守護者』へとシフトしている。 だからこそ、令和8年のコンピテンシー改訂でも『安全』や『環境』の優先順位が上がるのだ。 必須科目(Ⅰ)の論文で、コストダウンや効率化ばかり書いて、『環境への配慮』や『次世代への影響』に触れていない答案は、Ver3.1の基準では『技術士の資格なし』とみなされる危険性が高いよ」
第2の変更:IPD(初期専門能力開発)の明確化~「受動的な経験」から「能動的な成果実証」へ~
ホームズ 「次に、4ページから5ページにかけて記述されている『IPD(Initial Professional Development)』の変化だ。 ここには、受験生に対する『もっとも過酷な要求』が隠されている」
ワトソン 「過酷な要求? ただの実務経験だろう?」
ホームズ 「Ver3.0まではそうだったかもしれない。 『先輩の後ろについて仕事を覚えました』『いろんな現場に行きました』……そんな『経験の羅列』でも許された。 だが、Ver3.1の記述を見てみたまえ。IPDの定義がより攻撃的になっている」
【証拠品C:IPDの目的】
Ver3.1(P.5):
「修習技術者が、技術士第二次試験を受験するにふさわしい資質能力(コンピテンシー)を修得・強化するために行う活動」 「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)を修得するために、……PDCAサイクルを回し、自律的に継続研鑽を行う」
ホームズ 「いいかい、『経験する』とは書いていない。『修得・強化する』と書いている。 そして重要なのは、そのプロセスだ。Ver3.1では、JABEE(大学教育)からIPD、そしてCPD(継続研鑽)へと続く『切れ目のない能力開発』が図示され、強調されている」
ワトソン 「つまり、ただ漫然と4年、7年と働くだけじゃダメなのか?」
ホームズ 「その通りだ。Ver3.1が求めているのは、『コンピテンシー・ベース』の記録だ。 業務経歴票や口頭試験で、試験官は君にこう問うだろう。
『君はこのプロジェクトで、具体的にどのコンピテンシー(リーダーシップ? 評価? 倫理?)を意識し、どう伸ばしましたか?』
これに対して、『一生懸命がんばりました』という精神論は通用しない。 『私はこの業務で、相反する要件(コストと安全)を調整することで、コンピテンシーの中の”マネジメント能力”を強化しました。その証拠がこの成果物です』 ……と、論理的に証明しなければならないのだ」
ワトソン 「うあぁ……。つまり、修習期間中(受験前)から、『自分の仕事とコンピテンシーを紐づける訓練』をしておかないと、願書すら書けなくなるということか」
ホームズ 「ご名答。 Ver3.1への改定は、『試験直前のテクニックで受かろうとする受験生』を排除するためのフィルターとも言える。 ガイドブックには、IPDの実施にあたって『指導技術士(メンター)』の支援を受けることの重要性も書かれている。 自分一人で勝手な解釈をせず、客観的な視点で『自分の能力(コンピテンシー)』を棚卸ししなさい、というメッセージだよ。
これから受験する君たちは、今日から業務日誌の書き方を変えるべきだ。 『今日やったこと』を書くのではない。 『今日発揮したコンピテンシー』を書くのだ。それが、Ver3.1時代を生き抜く唯一の生存戦略だよ」






