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はじめに:択一試験は「足切り」ではなく「合格の土台」
総合技術監理部門(以下、総監)の試験は、択一式試験(午前)と記述式試験(午後)で構成されています。多くの受験生が記述式(論文)に不安を感じて注力する一方で、択一式を「過去問を回せばなんとかなる」と軽視しがちです。
しかし、総監の合否判定において択一試験は極めて重要な役割を果たします。 第一に、合格基準は「択一と記述の合計点」で判定されるため、択一で高得点を取れれば、記述のミスをカバーできる可能性があります。 第二に、択一試験で問われる知識は、午後の記述式試験で課題解決を行うための「道具(ツール)」そのものだからです。
本記事では、単なる暗記競争ではない、総監技術士としての「知恵」を養うための択一試験対策について、最新の『キーワード集2026』や過去問分析の視点を交えて詳しく解説します。
1. 択一試験の構造と学習の羅針盤
「青本」から「キーワード集」へ
かつて、総監受験生には『技術士制度における総合技術監理部門の技術体系』(通称:青本)という絶対的な教科書が存在しました。しかし、技術革新のスピードに伴い青本は2017年に絶版となり、現在は技術士会が配布する『総合技術監理 キーワード集』がその役割を担っています。
この変化は、学習スタイルにも変化を求めています。かつては青本の文章を読み込むことが対策でしたが、現在は「キーワード集」に羅列された単語の意味、背景、関連技術を「自ら調べ、理解する」という能動的な学習が必要になりました。キーワード集は、言わば「試験範囲を示した地図」であり、その詳細な地形(内容)は自分で埋めていく必要があります。
脳の「切り替え」と「統合」
効率的な学習のためには、択一試験と記述試験を別物と考えず、リンクさせることが重要です。
- 択一の脳(ミクロ視点): 「BCPの定義は正しいか?」「労働安全衛生法の条文は?」という正確な知識を問うフェーズ。
- 記述の脳(マクロ視点): 「BCPを策定したいが予算がない、どうするか?」という判断を問うフェーズ。
択一対策をする際は、単語を覚えながら「この知識は、記述試験でこう使えるのではないか?」とシミュレーションを行う「知識の統合」を意識してください。例えば、「フェールセーフ」という言葉を覚えるとき、単に意味を暗記するのではなく、「論文で安全対策を提案する際に、この言葉を使って設計思想を説明しよう」と考えるのです。
2. 「5つの管理分野」別・完全攻略ガイド
択一試験は、経済性、人的資源、情報、安全、社会環境の5つの管理分野から出題されます。それぞれの分野について、『キーワード集2026』に基づいた最新の頻出トレンドと学習ポイントを解説します。
① 経済性管理:事業の「質」と「利益」の両立
経済性管理は、QCD(品質・コスト・納期)を最適化し、事業を継続させるための管理技術です。
- 品質管理(Quality): 伝統的なQC七つ道具に加え、「ISO 9000シリーズ」や「品質機能展開(QFD)」、「HACCP」などの手法を押さえる必要があります。
- 工程管理(Delivery): 「PERT/CPM」のクリティカルパス計算は頻出です。また、「TOC(制約条件の理論)」や「JIT(ジャストインタイム)」などの生産管理手法も重要です。
- 原価・財務(Cost): ここが苦手な技術者は多いですが、避けて通れません。「損益分岐点分析」、「原価計算(ABC等)」、「NPV(正味現在価値)」や「IRR(内部収益率)」といった投資評価手法は、計算問題としても出題されるため、公式を含めて理解しておく必要があります。
- 最新トレンド: 近年は「サプライチェーンマネジメント(SCM)」や「BCP(事業継続計画)」といった、リスク対応を含めた経済活動が重視されています。
② 人的資源管理:法規制と「人」の心理
技術士としての倫理観や、組織運営の要となる人の管理です。
- 労働関係法規: 「労働基準法」「労働安全衛生法」「労働組合法」の労働三法は必須です。特に、36協定(時間外労働)や有給休暇、裁量労働制などの規定は細かく問われます。
- 組織行動と心理: 「マズローの欲求5段階説」「ハーズバーグの二要因理論」「マクレガーのX・Y理論」などのモチベーション理論は、古典的ですが頻出です。
- 最新トレンド: 働き方改革に関連して「ハラスメント防止(パワハラ・セクハラ)」「ワーク・ライフ・バランス」「ダイバーシティ・マネジメント」が出題されやすくなっています。さらに、キーワード集2026では「人的資本経営」や「心理的安全性」といった新しい概念が明記されており、これらは最重要マーク事項です。
③ 情報管理:セキュリティとDXの最前線
技術革新が最も速い分野であり、常に最新知識のアップデートが求められます。
- 知的財産権: 特許法、著作権法、不正競争防止法などの権利範囲と保護期間の違いを整理しましょう。
- 情報セキュリティ: 情報セキュリティの3要素(機密性・完全性・可用性)に加え、真正性や責任追跡性などの7要素まで理解を広げてください。攻撃手法(ランサムウェア、標的型攻撃、ソーシャルエンジニアリング)と防御技術(暗号化、多要素認証、ゼロトラスト)のセット学習が有効です。
- 最新トレンド: 「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に関連する技術(AI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーン)は必ず出題されます。特に「生成AI」や「大規模言語モデル(LLM)」などの新語もキーワード集に含まれているため、技術的概要だけでなく、それがもたらす倫理的課題(ELSI)にも注目が必要です。
④ 安全管理:リスクアセスメントの徹底
労働災害防止から、システム全体の安全へと視点が広がっています。
- リスクマネジメント: ISO 31000に基づくリスクマネジメントプロセス(特定→分析→評価→対応)は、安全管理の根幹です。
- 安全設計思想: 「フェールセーフ(故障しても安全側へ)」、「フールプルーフ(誤操作させない)」、「フォールトトレランス(故障しても稼働継続)」の違いを明確に理解してください。
- 労働安全衛生: 労働災害の指標(度数率、強度率)の計算や、リスクアセスメントの手法(KYT、ヒヤリハット)も基本です。
- 最新トレンド: 従来型の労災防止に加え、「サイバーセキュリティ」を含めたシステム安全や、「レジリエンス(回復力)」、「Safety 2.0(協調安全)」といった概念が登場しています。
⑤ 社会環境管理:地球規模課題への対応
企業の社会的責任(CSR)としての環境対応が問われます。
- 環境法規制: 環境基本法をはじめ、廃棄物処理法、土壌汚染対策法などの主要な規制値を把握しましょう。特に「マニフェスト制度」や「EPR(拡大生産者責任)」は頻出です。
- 環境マネジメント: ISO 14001やライフサイクルアセスメント(LCA)の手法。
- 最新トレンド: 最もホットな分野です。「カーボンニュートラル(脱炭素)」、「SDGs」、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」、「生物多様性(ネイチャーポジティブ)」に関する出題が増加しています。Scope1, 2, 3の定義や、カーボンプライシングなどの経済的手法についても理解を深める必要があります。

3. 「帰納法」と「演繹法」を活用した学習テクニック
範囲が膨大な総監の択一試験を攻略するには、漫然と暗記するのではなく、戦略的なアプローチが必要です。
過去問分析による「法則の発見」(帰納法)
過去問を解く際は、正解を選ぶだけでなく、「なぜその選択肢が正解(または不正解)なのか」を分析します。複数の過去問(個々の事象)から、出題者が何を重要視しているかという「法則(ルール)」を見つけ出す、いわゆる「帰納法」のアプローチが有効です。 例えば、労働基準法に関する問題が毎年出ているなら、「数字(時間や日数)の引っかけが多い」や「例外規定が問われやすい」といった法則を見つけ出します。これにより、学習の効率が飛躍的に向上します。
キーワードからの「応用力養成」(演繹法)
逆に、キーワード集で覚えた定義や法則(ルール)から、具体的な事例を想定する「演繹法」のアプローチも行います。 例えば、「トレードオフ」という概念を学んだら、「自分の業務におけるトレードオフは何か?」「昨年の建設プロジェクトでのトラブルはこの概念で説明できるか?」と具体例を導き出します。これは、択一試験の応用問題だけでなく、記述式試験や口頭試験のネタ作りにも直結します。
「耳からの学習」で潜在意識に刷り込む
忙しい技術者にとって、勉強時間の確保は最大の課題です。そこでおすすめなのが、音声学習です。キーワード集の内容や自作のまとめノートを読み上げた音声を、通勤中や隙間時間に繰り返し聴くことで、潜在意識に用語を刷り込むことができます。 「意味がわからなくても、何度も聞くことで拒絶反応をなくす」ことは、難解な総監用語に慣れるための有効な手段です。
4. 目標点数と時間配分
択一試験は全40問が出題され、全問解答します。合格ラインについて公式には「記述式との合計」とされていますが、実質的な安全圏として「6割(24問正解)」を目指すべきです。これは、記述式試験で多少の減点があってもカバーできるラインであり、また択一で6割取れない知識レベルでは、記述式で深い論述ができないためです。
- 経済性管理: 計算問題が含まれるため時間がかかります。公式を確実に覚え、計算ミスを防ぐ練習が必要です。
- その他の管理: 知っていれば即答できる問題が多いです。ここで時間を稼ぎ、経済性管理の計算や、迷う問題に時間を使いましょう。
5. まとめ:択一試験は「総監リテラシー」の証明
総合技術監理部門の択一試験対策は、単なる試験勉強ではありません。現代の技術リーダーとして不可欠な「総監リテラシー(読み書き能力)」を身につけるプロセスです。
- キーワード集を地図にする: 常に最新の『キーワード集』を手元に置き、学習の現在地を確認する。
- 5つの管理を網羅する: 苦手分野を作らず、各分野の基本概念と最新トレンド(人的資本、DX、CNなど)を押さえる。
- 記述式を見据える: 覚えた知識を「どう使うか」を常に意識し、思考の引き出しを増やす。
「択一を制する者は総監を制す」。この言葉を胸に、地道なインプットを続けてください。その知識の蓄積は、必ずや記述式試験での鋭い論述、そして合格後の実務における的確な判断力となって、あなたを助けてくれるはずです。
次回の第3記事では、この択一知識を総動員して挑む最難関、「記述式(筆記)試験」の具体的な攻略法について、合格答案の「型」を中心に4000文字で詳しく解説します。








