ワトソン博士 (ブランデーのグラスを傾けながら) 「ホームズ、これまでの推理には感服したよ。建設部門では『データによる証拠』と『包摂性』。機械部門では『経済性』と『トレードオフ』。 だが、まだ一つだけ、喉に刺さった小骨のように気になることがあるんだ」
シャーロック・ホームズ (バイオリンをケースにしまいながら、静かに振り返る) 「言ってみたまえ、ワトソン君。君のその『小骨』こそが、この事件(改訂)の全体像を解く最後の鍵になるかもしれない」
ワトソン 「『技術者倫理』の項目だ。さっきも触れたが、今回新しく追加された『文化的価値を尊重すること』という文言。そして『情報技術を活用し……包摂的な意思疎通』というコミュニケーションの定義。 これらは一見、矛盾していないか? デジタル化(IT)を進めれば進めるほど、伝統的な『文化』や、アナログな『人間味』は失われていくものではないのか? それを両立しろというのは、あまりに酷な要求ではないか?」
ホームズ 「素晴らしい! 君はついに核心に触れたね。 多くの受験生(探偵たち)がここで躓く。『DX化を進める』という提案と、『文化を守る』という倫理が衝突したとき、どう答えるべきか迷うのだ。 だが、試験官(依頼人)が求めているのは、その矛盾を超越する『統合された解決策』なのだよ」
ワトソン 「統合された解決策?」
ホームズ 「ああ。全ての部門に共通する、『令和8年以降の必須問題(Ⅰ)』の究極のテンプレートを見せてあげよう。これが、今回の改訂が目指すゴールだ」
【最後の推理:全部門共通・DXと倫理の融合問題】
(想定テーマ:技術継承と生産性向上)
『我が国では少子高齢化に伴い、熟練技術者の減少と技術継承の断絶が深刻な課題となっている。一方で、働き方改革や多様な人材の活用が求められている。
(1) 過去のトラブル事例や熟練者の暗黙知などのデータを情報技術を用いて形式知化・定義し、技術継承における課題を多面的な観点から抽出せよ。
(2) 抽出した課題に対し、AIやIoT等のデジタル技術を活用しつつ、多様な経験を持つ人材(若手、外国人、再雇用者等)が協働できる環境を構築するための解決策を提案せよ。その際、相反する要求事項(導入コスト、セキュリティ、従来の職人文化との調和等)をどう調整するか明記せよ。
(3) その解決策が、社会・経済の持続可能性および組織固有の文化的価値(技術の誇りや地域性)に与える影響とリスクを予見し、対策を述べよ。』
ワトソン 「なんと……! これは『機械』の問題でもあり、『建設』の問題でもある。そして『経営工学』でもあり『情報工学』でもある」
ホームズ 「その通りだ、ワトソン君。 これまでの解答なら、『AIで自動化して効率化しました、以上』で済んだ。 だが、改訂後の技術士はこう語らなければならない。 『AIによる自動化は行う。しかし、それは人間を排除するためではなく、多様な人々(包摂)が参画できるようにするための支援技術として導入する。それにより、経済的な生産性を高めつつ、熟練技術という文化的価値をデジタルアーカイブとして次世代に残す(持続可能な成果)』とね」
ワトソン 「デジタル技術は、人間や文化を切り捨てる刃物ではなく、それらを守るための『盾』として使うべきだということか」
ホームズ 「まさにその通りだ。 『情報技術(Digital)』と『包摂性・文化(Humanity)』と『経済(Business)』。この3つのリングを繋ぎ合わせることができる者だけが、『技術士』の称号を手にすることができる。 建設部門なら、『i-Constructionで現場を効率化しつつ、女性や高齢者も働きやすい環境を作り、地域の景観文化を守る』。 機械部門なら、『スマートファクトリーでコストを削減しつつ、匠の技をデータ化してグローバル拠点の外国人材に伝承し、世界的なブランド価値(文化)を高める』。 ……どうだい? 難しく見えるが、やるべきことは明確だろう?」
ワトソン 「ああ、霧が晴れたようだ。 要するに、技術者はただの『計算係』ではなく、『未来の社会をデザインする哲学者』であれ、ということだな」
ホームズ 「哲学者であり、かつ『冷徹な実務家』だ。 忘れてはいけないよ。どんなに高尚な理念も、『データ(根拠)』と『経済性(予算)』に裏打ちされていなければ、ただの妄想だ。 『右手にデータを、左手に愛(倫理)を』。これが、ベイカー街から全ての受験生に贈る最後のアドバイスだ」
エピローグ:冒険の終わりに
ホームズ 「さて、ワトソン君。これでエクセルファイルの分析は終了だ。この資料は受講生たちにとって、宝の地図になるだろう」
ワトソン 「ああ。しかしホームズ、君自身は技術士試験を受けないのか? 君なら間違いなく満点で合格だろうに」
ホームズ (ニヤリと笑って) 「まさか。私は『諮問委員会』の側だよ。難解な問題を作って、探偵たちの推理力を試す方が性に合っているからね。……冗談だ。さあ、ハドソン夫人がお茶を入れたようだ。行こうか」
【総まとめ:合格への3つの指針】
- データドリブン(証拠主義)
- 問題解決の入り口は必ず「データ・情報の活用」から入る。
- 主観的な「~だと思う」を排し、「データにより~と定義した」と書く。
- インクルージョン&エコノミー(包摂と経済)
- 解決策は「技術」だけでなく、「人(多様性)」と「金(持続性)」のバランスを取る。
- 「コストダウン」は「利益」のためでなく、「社会・環境への責任」として語る。
- カルチャー&サステナビリティ(文化と持続)
最新技術(DX)を使う目的は、効率化だけではない。「文化の継承」や「人間らしい働き方」を守るために技術を使うという視点を持つ。
この記事は、令和8年度適用予定の技術士コンピテンシー改訂内容に基づき、試験傾向の変化を予測したものです。必ず当たる訳ではないので各自考えてください。
ホームズからの「捜査メモ」(まとめ)
受講生の皆様、寸劇にお付き合いいただきありがとうございます。 ホームズが指摘したポイントは、以下の3点に集約されます。
- 【証拠主義】 「~と思われる」という主観を捨て、「~のデータに基づき定義する」という客観的・定量的な記述に変えてください。(DX・IT活用の明記)
- 【包摂(インクルージョン)】 現場の作業員や地域住民を「管理対象」としてだけでなく、「多様な背景を持つ協力者」として尊重し、IT等を使ってどう巻き込むかを記述してください。
- 【経済の倫理】 コスト削減を「利益のため」と書くのではなく、「事業を持続させ、社会的責任を果たし続けるための倫理的要件」として堂々と論じてください。
受講者の皆様が、この「改訂の謎」を見事に解き明かし、合格という栄冠を勝ち取られることを心より応援しております。







