目次
元データは以下『環境省:第6次環境基本計画の概要』
環境基本計画の30年は、環境問題が単なる「公害対策」から、経済・社会の存続に関わる「文明的課題」へと深化していく歴史でもあります。
1. 第一次環境基本計画(1994年~2000年)
~環境基本法の制定と「問い直し」の始まり~
- 時代の背景:
- バブル崩壊後の負の遺産処理が進む中、新たな社会経済問題が顕在化し始めた時期です。
- 大量生産・大量消費・大量廃棄の生活様式が定着し、都市への人口集中による高濃度汚染や騒音、生活排水問題などが課題でした 。
- 環境問題の焦点:
- 地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨といった「地球規模の環境問題」がクローズアップされ始めました。
- 国内では、都市・生活型公害や廃棄物処分場のひっ迫が深刻でした 。
- 計画のコンセプト:
- 「循環」「共生」「参加」「国際的取組」という4つの長期目標が掲げられました。
- 特筆すべきは、この時点で既に「物質的豊かさの追求に重きを置くこれまでの考え方、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式は問い直されるべきである」 と明記されていた点です。しかし、現実の転換は容易ではありませんでした。

2. 第二次環境基本計画(2000年~2006年)
~「環境の世紀」と経済との統合への模索~
- 時代の背景:
- IT革命(情報通信技術革新)が進み、経済のグローバル化が進展しました。
- 一方で、循環利用が増加し、省資源型への移行が徐々に進み始めました 。
- 環境問題の焦点:
- 開発途上国での環境汚染や健康被害が深刻化。
- 国内では、不法投棄問題やダイオキシン類対策、自動車交通による大気汚染などが焦点となりました 。
- 計画のコンセプト:
- 「環境の世紀」に向けた取組として、「環境と経済の好循環(Virtuous Cycle)」を目指しました。
- 環境保全の取組が経済活性化につながる可能性が意識され始めましたが、まだ「経済成長」と「環境保全」はトレードオフ(二律背反)の関係に見られがちでした。
3. 第三次環境基本計画(2006年~2012年)
~人口減少社会への突入と「統合的向上」~
- 時代の背景:
- 日本は人口減少社会に突入し、少子高齢化が進行。地方の過疎化により、里地里山などの国土管理が不十分になる懸念が生じました。
- BRICs(新興国)の急速な経済成長に伴い、資源やエネルギーの需給が世界的に逼迫しました 。
- 環境問題の焦点:
- 地球温暖化に加え、「生物多様性の損失」が継続しており、人間の福利(ウェルビーイングの基礎)を低下させる懸念が強まりました。
- 資源循環(3R)の推進が強く求められました 。
- 計画のコンセプト:
- 「環境・経済・社会の統合的向上」という概念が登場しました。
- 環境問題を単独で扱うのではなく、経済や社会の課題と一体的に解決しようとする姿勢が強まりました。

4. 第四次環境基本計画(2012年~2018年)
~震災後のレジリエンスと持続可能な社会~
- 時代の背景:
- 2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故が最大の転換点となりました。
- 「持続可能性」や「安全・安心」に対する国民の価値観が大きく変化し、エネルギー需給構造の見直しが迫られました 。
- 環境問題の焦点:
- 放射性物質による環境汚染への対処(除染、中間貯蔵等)。
- 分散型エネルギーシステムの重要性の再認識。
- 災害廃棄物処理や、国土の強靱化(レジリエンス) 。
- 計画のコンセプト:
- 「低炭素」「循環」「自然共生」の3つの側面を統合した「持続可能な社会」の構築が目指されました。
- 日本を、環境・エネルギー・高齢化などの課題がいち早く現れる「課題先進国」と位置づけ、その解決モデルを世界に示すことが目標とされました。
5. 第五次環境基本計画(2018年~2024年)
~SDGsと地域循環共生圏~
- 時代の背景:
- 2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)とパリ協定が採択され、世界の潮流が決定的になりました。
- 国内では人口減少が加速し、地方創生が喫緊の課題となっていました 。
- 環境問題の焦点:
- 気候変動リスクの顕在化(気象災害の激甚化)。
- 海洋プラスチックごみ問題等のグローバルな汚染。
- 脱炭素に向けた世界的な投資競争の激化 。
- 計画のコンセプト:
- SDGsの考え方を全面的に取り入れ、「地域循環共生圏(Regional Circulating and Ecological Sphere)」を提唱しました。
- 環境政策を起点として、経済・社会的課題を「同時解決」することを目指しました。ここで確立された「同時解決」の思想が、第六次計画へと引き継がれています。
30年間の変遷から見える「第六次計画」の位置づけ
これら30年の歴史を踏まえると、今回の「第六次計画」の特徴がより鮮明になります。
- 「問い直し」から「文明の転換」へ
- 第一次計画で提起された「大量生産・大量消費の問い直し」は、30年経っても十分には達成されませんでした。第六次計画では、もはや猶予はないとして、「循環共生型社会(環境・生命文明社会)」への文明レベルでの転換を「勝負の2030年」までに断行すると宣言しました。
- 「環境と経済」の関係性の変化
- かつて環境対策は「経済の足かせ(コスト)」と見られがちでしたが、第五次計画あたりから「成長の源泉」へと認識が変わりました。
- 第六次計画ではさらに踏み込み、環境(自然資本)こそが経済・社会の「基盤(ストック)」であり、ここへの投資(シン・自然資本への投資)なくして経済成長もウェルビーイングもない、という構造を明確にしました(SDGsのウェディングケーキモデルの概念)。
- 目的の進化:GDPからウェルビーイングへ
- これまでの計画でも「豊かさ」には触れてきましたが、第六次計画で初めて、国の計画の最上位目的に「ウェルビーイング/高い生活の質」を明記しました。これは、GDP(フロー)の拡大のみを追求してきた戦後日本の成功モデルからの完全な決別を意味します。

技術士試験対策としてのポイント
この3回シリーズで解説した内容を、試験対策として以下のように活用してください。
- 必須科目(Ⅰ)対策:
- 「観点」の設定において、「ストック重視」「長期的視点」「自立・分散」といった第六次計画のキーワードを活用する。
- 課題抽出において、単なる人手不足や老朽化だけでなく、「自然資本の毀損」や「プラネタリー・バウンダリー」といった視点を盛り込む。
- 選択科目(Ⅱ・Ⅲ)対策:
- 解決策の提案において、「地域循環共生圏」の概念や、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」に資する技術(グリーンインフラ、省エネ技術、資源循環技術など)を具体的に提示する。
- 評価において、経済性だけでなく「ウェルビーイング」や「非市場的価値(環境価値)」の視点から多面的に論じる。
第六次環境基本計画は、これからの日本の社会資本整備や環境対策の「羅針盤」です。この計画の理念を深く理解し、ご自身の専門技術と結びつけて論述できるよう準備を進めてください。








