技術士二次試験の口頭試験で必ず問われる「マネジメント」。
筆記試験に合格したのに、このマネジメントに上手く答えられないことで不合格になる受験者が少なくありません。「限られたリソースを配分するって、具体的に何を答えればいいの?」「いざ試験になるとうまく説明できずに、的外れな回答になってしまった」と悩んでいませんか?
本記事では、現役技術士が口頭試験で実際に聞かれる質問例と回答のポイントなど、「マネジメント」について解説します。「しっかり準備していたのに本番になるとうまく答えられなかった」という方も必見です。ポイントさえ押さえることができれば、自信を持って口頭試験に臨めるようになるでしょう。
技術士二次試験におけるマネジメントとは
まず、そもそも「マネジメントとはなにか」定義を見てみましょう。
マネジメントの公式定義
技術士会が公表している「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」では、マネジメントを次のように定義しています。
「業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。」
この定義、正直なところ分かりにくい・・・という方もいるでしょう。専門用語が多く、一読しただけでは何を求められているのか理解しづらいのが実情です。
一言で言うとマネジメントとは何か
技術士試験におけるマネジメントを一言で表すと、「限られたリソースを最適に割り当てる(配分する)能力」です。
「割り当てる」のですから、リソースを獲得することでも、節約することでもありません。与えられた制約条件の中で、重要なところには手厚く、そうでないところには必要最小限に、メリハリをつけてリソースを割り当てる能力が問われているのです。
マネジメントとリーダーシップの違い
口頭試験の準備をしていると、マネジメントとリーダーシップを混同してしまう受験者が多くいます。この2つのコンピテンシーは密接に関連していますが、評価の視点が異なります。
| 項目 | リーダーシップ | マネジメント |
| 焦点 | 相反する利害の調整 | 限られたリソースの配分 |
| 手段 | 技術的な中庸案の提案 | メリハリある資源配分 |
| 目的 | ステークホルダーの納得 | 要求事項の充足 |
| キーワード | 調整、合意形成 | 配分、最適化 |
リソースとは何を指すのか
技術士試験で問われるリソースには、主に以下の5つがあります。
1. 人員(Man)
- プロジェクトメンバーの配置
- 専門技術者と一般作業員の配分
- 経験者と未経験者のバランス
- 社内要員と外部委託の配分
具体例:複雑な解析業務には経験豊富なベテラン技術者を配置し、データ入力などの定型業務には若手技術者を配置する。
2. 設備・機械(Machine)
- 測定機器の配分
- 生産設備の稼働配分
- ITシステムの利用配分
- 試験装置の使用時間配分
具体例:高精度が求められる重要測定には最新の測定機器を使用し、概略調査には従来型の機器で対応する。
3. 金銭(Money)
- 予算の項目別配分
- 材料費と人件費のバランス
- 開発費用と検証費用の配分
- 初期投資と運用費用の配分
具体例:限られた予算の中で、安全性に直結する部分には予算の50%を投入し、外観などの付加的要素は予算の20%に抑える。
4. 情報(Information)
- 収集すべき情報の優先順位
- 詳細調査と概略調査の使い分け
- データの精度と量のバランス
- 既存データと新規調査の配分
具体例:設計の根幹に関わる地盤データは詳細に調査し、参考程度の周辺情報は既存資料で済ませる。
5. 時間(Time)
- 工程における各作業の時間配分
- 設計期間と検証期間のバランス
- 急ぐべき作業と余裕を持たせる作業
- 並行作業と直列作業の判断
具体例:限られた工期の中で、品質に影響する養生期間は十分に確保し、その分準備作業を効率化して時間を捻出する。
口頭試験でマネジメントについてどう聞かれる?
最も典型的な質問は以下の形式です。
質問例1:「これまでの業務で、人員・設備・金銭・情報等の資源配分はどのようにされましたか?」
この質問は、技術士会のコンピテンシー定義をほぼそのまま質問文にしたものです。試験官が「資源配分」という言葉を明確に使っているため、確保や節約ではなく、配分について答える必要があることが明確です。
質問例2:「限られた資源を配分する際に工夫したことはありますか?」
この質問では「限られた」という言葉がポイントです。これは「リソースを確保することはできない」という前提条件を明示しているため、与えられた資源の中でどう配分したかを答える必要があります。
質問例3:「マネジメントについて何か工夫されたことは?」
最もシンプルな質問形式ですが、漠然としていて逆に答えにくい質問でもあります。このように、受験者が自分で解釈して答える必要がある聞き方であるケースも想定しておきましょう。
質問例4:「業務内容の詳細に記載された業務について、マネジメントの観点で説明してください」
受験申込時に提出した「業務内容の詳細」(小論文)を指定して質問されるパターンです。この場合、その業務の中でどのようにリソース配分を行ったかを説明します。
質問例5:「○○の業務で、人員や予算などのリソース配分はどのように工夫されましたか?」
業務経歴票に記載した特定の業務を指定されるパターンです。詳細例以外の業務についても、リソース配分の視点で説明できるよう準備が必要です。
変化球の質問パターン
質問例6:「制約条件の中でどのように業務を進めましたか?」
直接「マネジメント」という言葉を使わない質問です。しかし「制約条件」という言葉から、限られたリソースの配分について聞かれていると理解できます。
質問を受けた後で、「これは、マネジメント(限られたリソースをどう配分したか)についての質問なのかどうか?」と疑問に感じた場合は、回答する前にいったん確認しましょう。
「リソース配分の観点でお答えすればよろしいでしょうか?」
「マネジメントの視点でお答えすればよろしいでしょうか?」
「人員や予算の配分についてお答えすればよろしいでしょうか?」
等々、質問してから回答したほうが、質問の意図とズレた回答をして時間を余分に使ってしまうリスクを減らすことができます。
ポイントを押さえた回答のコツ
「メリハリ」を明確に示す
マネジメントの評価で最も重要なのは、リソース配分の「メリハリ」を明確に示すことです。試験官は、あなたが限られたリソースを効果的に配分できるかを確認しています。
良い回答の構造:
- 「A部分には○○のリソースを△△%配分しました」(重点配分)
- 「なぜならA部分は□□という理由で重要だからです」(判断根拠)
- 「一方、B部分は××%に抑えました」(省力化)
- 「なぜならB部分は◇◇で対応可能だからです」(判断根拠)
このように、重点配分と省力化を対比させることで、メリハリが明確になります。
「制約条件」を最初に示す
回答の冒頭で制約条件を明示することで、なぜリソース配分が必要だったのかが伝わりやすくなります。
制約条件の示し方:
- 「予算が通常の70%でした」
- 「工期が2ヶ月から1ヶ月に短縮されました」
- 「人員が5名から3名に削減されました」
- 「設備の稼働時間が1日8時間に制限されました」
制約条件を最初に示すことで、その後のリソース配分の説明が理解しやすくなります。
「判断基準」を説明する
なぜその配分にしたのか、技術的な判断基準を明確に説明することが重要です。
判断基準の例:
- 安全性への影響度
- 品質への影響度
- リスクの大きさ
- 法令遵守の必要性
- コスト対効果
- 技術的難易度
「定量的」に説明する
可能な限り数字を使って説明することで、具体性と説得力が増します。
定量表現の例:
- 「人員を多めに配置した」→ 「通常の1.5倍の人員を配置した」
- 「予算を重点配分した」→ 「予算の60%を配分した」
- 「十分な時間をかけた」→ 「工程の40%、2週間を確保した」
- 「頻度を増やした」→ 「週1回から週3回に増やした」
このように数字を使うことで、配分の程度が明確に伝わります。また、定量的に説明することで話が抽象的になってしまうことも防げます。
簡潔に答える
口頭試験は20分で6つのコンピテンシー(コミュニケーション、リーダーシップ、評価、マネジメント、技術者倫理、継続研さん)を確認します。これらは4つの評価項目として採点されます。
- コミュニケーション・リーダーシップ:30点(約6分)
- 評価・マネジメント:30点(約6分)
- 技術者倫理:20点(約4分)
- 継続研さん:20点(約4分)
各項目で質疑応答が行われるため、1つの質問に対する最初の回答は1〜2分以内に収めることが推奨されます。2〜3分も喋り続けると、その項目で1回の質疑しかできなくなり、もし回答が不適切だった場合、挽回の機会を失います。
ポイントを絞って簡潔に答え、試験官との対話の機会を確保しましょう。
口頭試験当日の心構え
聞かれたことに素直に答える
口頭試験では、試験官の質問意図を正確に理解することが最も重要です。
質問の意図を確認する
先述しましたが、試験官の質問が抽象的で意図が分からない場合は、遠慮なく確認しましょう。
このような確認は的外れな回答を避けるために有効であり、試験官も好意的に受け止めてくれます。間違っても、質問内容が分かりづらいことに対してあからさまに不快感を示したり、好戦的な態度で聞き返したりしないようにすることが大事です。
聞かれていないことまで答えない
マネジメントについて聞かれているのに、リーダーシップや技術的内容まで長々と説明してしまうケースがあります。聞かれたことに絞って簡潔に答えましょう。
マネジメントの質問には「シンプルに」答えられるようにする
マネジメントは「自分の業務経験」について聞かれます。 他のコンピテンシーのように「知識があるか」ではなく、 「実際に何をしたか」を問われているということです。
技術者倫理や継続研鑽の場合
- 「最新の○○技術について知っていますか?」→ 知らない可能性もある
- 「倫理的にどう判断しますか?」→ その視点がなかった、もあり得る
マネジメントの場合
- 自分が実際に行った業務について聞かれる
- 業務経歴票や業務内容の詳細に基づく質問
- 「あなたの業務でリソース配分はどうしましたか?」
つまり、マネジメントについて答えられないというのは、自分のやった業務について答えられない(具体的に振り返ることが出来ていない、あるいは言語化出来ていない)ということになります。
質問の内容でもどう答えていいか分からなくなるケースもあるようです。「マネジメントの視点で説明して」と言われたことについては答えられるよう練習していても、「マネジメントで苦労した部分は?」と聞かれると途端に答えに詰まってしまうということもあるでしょう。
「特にそれらの業務のリソース配分は意識していませんでした」 という場合でも実際は、
→ 重要な図面は自分で描いた(人員配分)
→ 大事な測定は精度の高い機器を使った(設備配分)
→ 基礎部分は時間をかけた(時間配分)
→ 安全性データは詳しく集めた(情報配分)
ということもあります。「特に苦労はしていません」という業務でも、必ず何らかの配分判断をしているはずです。それを単純に言語化するということが大事です。
「苦労というほどではありませんでしたが、 ○○の配分については特に配慮しました」
「苦労という表現が適切かわかりませんが、 ○○と△△のどちらにリソースを多く配分するか判断に迷いました」
という回答も出来ます。
マネジメントをどう理解しているか?という点を口頭試験で見られているのですから、自分のリソース配分についてしっかり言語化できるようにしましょう。
シンプルに、
1. 制約条件は何だったか
2. リソース(人・設備・金・情報・時間等)をどう配分したか
3. なぜその配分にしたのか(判断基準)
4. 結果はどうだったか
という事を伝えるだけで良いことを覚えておきましょう。
実践的なやりとりに慣れるためには、模擬口頭試験の活用も検討したほうがよいでしょう。
まとめ
技術士二次試験の口頭試験におけるマネジメントとは、限られたリソース(人員・設備・金銭・情報・時間)を最適に配分する能力です。重要なのは「メリハリ」を明確に示すこと。重要な箇所には手厚くリソースを配分し、そうでない箇所は必要最小限に抑えるという対比を、具体的な数字と判断理由とともに説明しましょう。
リソースの「確保」や「節約」だけを答えるのは不合格のリスクがあります。与えられた制約条件の中で、技術的判断によりどう配分したかが問われています。回答は1~2分以内に簡潔にまとめ、自分の業務経験から具体的な事例を準備しておくことが合格への鍵となります。
筆記試験を突破した人なら、マネジメントの本質を理解し、実務経験を整理すれば必ず合格できます。この記事で学んだポイントを活かして、自信を持って口頭試験に臨んでください。








