目次
~「生産性」から「持続性」へ。6年間の沈黙が語るもの~
プロローグ:双子のようで他人な過去問~坂戸市、ベイカー街221B。二枚の答案用紙を並べた机~
シャーロック・ホームズ (拡大鏡を手に取り、テキストの細部をなぞりながら) 「ワトソン君、君の目は節穴か? 確かに『背景(人手不足)』は似ている。だが、『比較(Comparison)』の解像度を上げたまえ。 この2つは、似て非なるもの……いや、『攻め』から『守り』へと、パラダイムシフトが起きていることを見逃している。 前回の講義で教えた『変化(Change)』の軸を使って、この2つを徹底的に比較分析してみよう」
第1の分析:「前提条件(Context)」の比較~マクロな理想論から、ミクロな法規制へ~
ホームズ 「まず、問題文の前段(リード文)を比べてみよう。ここに出題者の『焦り』の違いが表れている」
| 項目 | 令和元年(R1) | 令和7年(R7) |
| モード | 攻め(Growth) | 守り(Survival) |
| キーワード | i-Construction、生産性向上 | 担い手3法、処遇改善、適正工期 |
| 技術の定義 | 工学的技術(ハード中心) | 制度・管理・契約を含む総合技術 |
| 合格の鍵 | 「いかに早く、安く作るか」 | 「いかに人を守り、産業を続けるか」 |
| 参照資料 | 技術的な事例集、カタログ | 法改正の概要資料、国交省の通達 |
ホームズ 「分かるかい? 令和元年の頃は、まだ『生産性を上げれば経済成長できる』という夢(理想)を見ていた。だから抽象的な議論でよかった。 だが令和7年は違う。『罰則付き残業規制』や『担い手3法改正』といった具体的な法律・制度が突きつけられている。 これは、『生産性を上げたい』という願望ではなく、『法律を守れない会社は市場から退場させられる』という生存競争の話に変わっているのだよ」
ワトソン 「なるほど……。R1は『頑張ろう』だが、R7は『生き残れ』と言っているわけか」
第2の分析:「解決すべき課題(Issue)」の変化~「速さ(生産性)」から「存続(持続性)」へ~
ホームズ 「次に、設問で問われているテーマ(イシュー)の決定的な変化を見てみよう。ここが合否を分ける最大の分水嶺だ」
令和元年(R1): 「建設分野における生産性の向上」
令和7年(R7): 「持続可能な建設業を実現するため」
ワトソン 「うーん、言葉遊びにしか見えないな。『生産性が向上すれば、利益が出て持続可能になる』。結局は同じことじゃないか?」
ホームズ 「その短絡的な思考が命取りだと言っているんだ、ワトソン君。 いいかい、R1の時代の正解は確かに『スピード』だった。『ICT土工で工期短縮』『プレキャスト化で省人化』。これらを並べればA評価だった。 なぜなら当時は、『成長戦略』として、『いかに早く、安く、大量に作るか』が求められていたからだ。
だが、R7でそのノリのまま『生産性向上(効率化)』だけを答えると、君は間違いなくB評価(不合格)の奈落に落ちる」
ワトソン 「なぜだ!? 生産性は今でも重要だろう? AIやDXは必須のはずだ」
ホームズ 「重要だが、それは『手段』であって『目的』ではないからだ。 今の建設業が直面している真の恐怖は、『工事が遅れること』ではない。『作り手が消滅すること』だ。
想像したまえ、ワトソン君。 最新のDX技術をフル導入して、工期を半分にした現場があるとする。素晴らしい生産性だ。 しかし、その影で下請け企業がコストカットを強要され、現場監督が過労で倒れ、若手が『こんな業界には未来がない』と辞めていったとしたら……。 その現場は、『持続可能(サステナブル)』と言えるかい?」
ワトソン 「……いや、言えないな。その会社は数年後に潰れているだろう」
ホームズ 「その通りだ。 R7の問題文にある『地域の守り手』『担い手3法』という言葉は、悲鳴にも似たSOSなのだよ。 『技術的に凄いことをしろ』と言っているのではない。『人間が働ける環境を守れ』と言っているのだ。
だからR7の答案では、単なる『効率化(i-Construction)』だけでなく、 『処遇改善(給料を上げる)』 『週休2日の確保(休みを作る)』 『適正な工期設定(無理をさせない)』 『サプライチェーン全体の共存(下請けいじめをしない)』 といった『人への投資』まで視野に入れないと、合格点には届かない。
『生産性を上げて儲かりました』で終わるのがR1。『生産性を上げた分を、働く人に還元して未来を繋ぎました』まで書くのがR7。 この『目的地の変更』に気づけるかどうかが、勝負の分かれ目なのだよ」
第3の分析:「設問構造(Structure)」の比較~「技術」の定義が書き換えられた~
ホームズ 「そして最も恐ろしい変化、いや、技術士会による『ルールの書き換え』が、設問(1)の指示文に隠されている。 ここを読み飛ばした受験生は、スタートラインに立つ前に即死だと思っていい」
令和7年 設問(1)の注釈: 「なお,本設問における『技術課題』には,建設業における構造上,制度上,管理上等の課題も含まれるものとする。」
ワトソン 「おや? おかしいな。『技術課題』を聞いているのに、『制度』や『構造』を含めていいのか? それは政治家や経営者の仕事じゃないか?」
ホームズ 「『含めていい』ではない、ワトソン君。これは『含めろ』という命令なのだよ。 ここに、技術士という資格の定義変更(パラダイムシフト)が表れている。
令和元年の頃は、『技術士=高度な工学的技術(ハード)を持つ人』だった。 だから、『高強度コンクリートの開発』や『シールドトンネルの自動掘進技術』を書けば絶賛された。 だが令和7年、技術士会は『技術』の定義を拡張したのだ」
ワトソン 「拡張? どういうことだ?」
ホームズ 「今の現場を見てみたまえ。素晴らしい『新工法』があれば、人手不足は解決するか? しないだろう。 多重下請け構造という『構造』、安値受注という『商習慣』、工期を無視した発注という『制度』。これらが変わらない限り、どんなハイテク機器を入れても現場は疲弊するだけだ。
だから技術士会はこう宣言したのだ。 『もはやハードウェア(工学)だけでは課題は解決できない。 これからの技術士は、法制度の活用、契約方式の見直し、組織マネジメントといったソフトウェア(仕組み)も、立派な「技術」として使いこなせ』とね」
ワトソン 「なんと……! つまり、『法律を守る』とか『契約を変える』ことも、技術士の『技術力』として書かなければならないのか」
ホームズ 「ご名答。 この変化に気づかず、R1の感覚で『AI活用による自動化』『新素材の導入』といった『工学ネタ』一本槍で勝負しようとすると、試験委員は冷酷にこう判断する。 『君の技術は素晴らしいが、今の建設業が抱える本質的な病(構造問題)が見えていないようだね』と。
R7の答案では、堂々と書いていいのだよ。 『複数年契約(制度)の導入による業務の平準化』や、 『スライド条項(ルール)の適用による物価高騰対策』をね。 これこそが、令和の技術士に求められている視点なのだから」
エピローグ:分析とは「出題者の意図」を読むこと
ワトソン 「恐れ入ったよ、ホームズ。 パッと見は同じ『人手不足対策』に見えたが、その中身は完全に別物だったんだな」
ホームズ 「そうだ。 R1は『エンジニア(技術屋)』を求めていた。 R7は『マネージャー(経営視点を持つ技術者)』を求めている。
これが『分析(Analysis)』だ、ワトソン君。 ただ漫然と読むのではなく、『過去と比較して、何が変わり、何が変わっていないか』を見つけ出すこと。 そうすれば、自ずと『今年書くべきキーワード(担い手3法、適正工期、処遇改善)』が見えてくるはずだよ」
ホームズからのアドバイス: 「過去問を分析する」とは、答えを書くことではありません。 「その年、なぜその問題が出たのか?」という背景を分析することです。 R7年の問題文にある「担い手3法」や「罰則付き規制」という言葉を無視して解答を作成することは、犯行現場の指紋を無視するのと同じくらい愚かな行為ですよ。
まとめ
| 項目 | 令和元年(R1) | 令和7年(R7) |
| モード | 攻め(Growth) | 守り(Survival) |
| キーワード | i-Construction、生産性向上 | 担い手3法、処遇改善、適正工期 |
| 技術の定義 | 工学的技術(ハード中心) | 制度・管理・契約を含む総合技術的 |
| 合格の鍵 | 「いかに早く、安く作るか」 | 「いかに人を守り、産業を続けるか」 |
| 参照資料 | 技術的な事例集、カタログ | 法改正の概要資料、国交省の通達 |







