目次
~机の前でフリーズしている君へ贈る、知的生産の技術~
プロローグ:深夜のベイカー街、止まったペンの音
~坂戸市、ベイカー街221B。冷たい雨が窓を叩く深夜2時~
ワトソン博士 「ああと、ダメだ! 全く進まない! もう限界だ……」
シャーロック・ホームズ (ソファで目を閉じていたが、片目だけ開けて) 「騒がしいね、ワトソン君。君がその論文――確か『建設部門の必須科目』だったかな――に取り掛かってから、既に2時間が経過している。だが、聞こえてくるのはペンの音ではなく、君の溜息ばかりだ」
ワトソン 「茶化さないでくれ、ホームズ。私は真剣なんだ。 今年の予想問題を見ているんだが、『もし見たこともないテーマが出たらどうしよう』とか、『自分の知識量じゃ合格答案なんて書けないんじゃないか』とか……考えれば考えるほど、頭が真っ白になっていくんだよ。 この苦しみは、合格するために必要な『生みの苦しみ』なんだろう?」
ホームズ (起き上がり、パイプを手に取る) 「いいや、違うね。断じて違う。 君は今、一秒たりとも『考えて』などいない。君はただ、『悩んで』いるだけだ。 君のその苦しみは、前に進むための筋肉痛ではなく、ただ同じ場所で足踏みをして地面を削っているだけの徒労だよ」
ワトソン 「なっ、悩んでいるだけだと? 私はこんなに必死に、合格するための方法を模索しているんだぞ!」
ホームズ 「言葉を慎みたまえ。君の手元にある資料を見てみるがいい。 そこには、知的生産における最も重要な定義が記されている。
『悩む(Worry)』とは、『答えが出ない』という前提のもとに、『考えるフリ』をすることだ。
『考える(Think)』とは、『答えが出る』という前提のもとに、建設的に考えを組み立てることだ。
似ているようで、この二つは天と地ほど違う。君は今、『合格できないかもしれない』という答えの出ない未来に怯え、時間をドブに捨てているに過ぎないのだよ」
第1章:「悩む」という甘美な罠
ワトソン 「『答えが出ない前提』だって? そんな馬鹿な。私は答えを出そうとしている!」
ホームズ 「そう思い込んでいるだけだ。人間の脳は、実は『悩む』ことが好きなのだよ。 『どうしよう』『難しい』と唸っている間は、何か高尚な問題に取り組んでいるような錯覚(イリュージョン)に浸れる。そして、『結果が出なくても、これだけ悩んだのだから仕方ない』という言い訳を用意できるからね。 だが、技術士試験は『どれだけ苦しんだか』を競うコンテストではない。 具体的な事例で、君の脳内を解剖してみよう」
第2章:ケーススタディ1「論文が書けない時」
~漠然とした不安 vs 具体的な作業~
ワトソン 「では聞くが、今の私の状況はどうなんだ? テーマは『インフラのDX推進』だ。書くべきことは分かっているはずなのに、書き出しの一行目が出てこない。これは『考える』プロセスじゃないのか?」
ホームズ 「それは典型的な『悩み』だ。君の頭の中はこうなっているはずだ。
× 悩む(君の状態): 『いい文章を書かなければ』『採点官に評価される高尚な書き出しはなんだろう?』『ああ、思いつかない。自分には文才がない』 (前提:正解が見つからない。自分には能力がない。)
これでは10時間経っても白紙のままだろうね」
ワトソン 「ぐぬぬ……図星だ。では、どうすれば『考える』ことになるんだ?」
ホームズ 「『考える』とは、問題を『処理可能なサイズ』に分解することだ。いきなり名文を書こうとするから手が止まる。 こう変換したまえ。
◎ 考える(ホームズの処方箋): 『今のボトルネックは書き出しだ。ならば、書き出しは後回しにしよう。 まず、現状・課題・解決策の3つの箱(枠)を埋めることだけに集中しよう。 課題を3つ、箇条書きにするだけなら3分でできるはずだ』 (前提:枠埋めなら答えが出る。作業として処理可能。)
ホームズ 「分かるかい? 『書けない』という巨大な岩を、『枠を埋める』という小石拾いに変える。 『悩む』は停滞だが、『考える』は作業なのだよ。手を動かして骨子を作れば、それは確実に前進だ」
第3章:ケーススタディ2「範囲が広すぎて絶望した時」
~無限の荒野 vs 地図の作成~
ワトソン 「論文の書き方は分かった。だが、知識のインプットはどうだ? 国土交通白書、エネルギー計画、ものづくり白書……。覚えるべき範囲が広大すぎて、どこから手をつければいいか分からない。 『全部覚えなきゃ落ちる』と思うと、夜も眠れないんだ」
ホームズ 「それもまた、立派な『悩み』だね。 『全部覚えなきゃ』というのは、『不可能』を前提にした思考だ。人間は不可能なことに対しては思考停止するか、パニックになるしかない」
× 悩む(君の状態): 「あれも読まなきゃ、これも読まなきゃ。でも時間がない。どうしよう、終わらない……」 (結果:テキストをパラパラめくるだけで、何も頭に残らない)
ホームズ 「ここで『考える』技術士は、大胆に『捨てる』という決断をする。 試験の合格ラインは60点だ。満点は要らない。ならば、思考をこう切り替えるのだ」
◎ 考える(ホームズの処方箋): 「全範囲を網羅するのは物理的に不可能だ。 しかし、過去10年の傾向を分析すれば、『防災』『維持管理』『担い手確保』の3テーマで8割カバーできることが分かる。 ならば、残りの2割(レアな法改正など)は捨てよう。その代わり、この3テーマだけは誰にも負けない密度で仕上げよう」 (前提:範囲を絞れば可能になる。勝てる土俵を作る。)
ワトソン 「『捨てる』ことが『考える』ことなのか?」
ホームズ 「そうだ。『変えられない変数は無視し、変えられる変数に集中する』。 出題されるか分からない奇問に怯える(悩む)暇があったら、頻出テーマの精度を高める(考える)ことに時間を使うのだ」
第4章:ケーススタディ3「評価が怖い時」
~他人の心 vs 自分の基準~
ワトソン 「最後に一つ聞いてくれ。これが最大の悩みなんだ。 『自分の書いた論文が、採点官にどう思われるか怖い』。 この不安だけはどうしても消えない。相性だってあるだろうし……」
ホームズ 「やれやれ、君はまた『答えの出ない問い』に手を出している。 採点官の虫の居所や、個人の好みなんて、君にコントロールできるのかい?」
ワトソン 「できない……」
ホームズ 「ならば、それについて思考を巡らせるのは時間の無駄だ。それは『天気』を心配しているのと同じだよ。 ここでも思考を変換しよう」
× 悩む(君の状態): 「この表現で伝わるかな? 厳しい採点官だったら嫌だな……」 (対象:コントロール不能な他人の感情)
◎ 考える(ホームズの処方箋): 「採点官の感情は操作できない。しかし、『コンピテンシー(採点基準)』は公開されている。 『問題解決』の項目の定義通りに、複数の選択肢を提示しているか? 『倫理』の定義通りに、公衆の安全に触れているか? このチェックリストを全て満たすことだけ考えよう。そうすれば、誰が採点してもB評価以下にはならないはずだ」 (対象:コントロール可能な自分の成果物)
ホームズ 「見えない幽霊(採点官の気分)に怯えるのではなく、見えるルール(採点基準)に従って淡々とパズルを組む。それがプロフェッショナルというものだ」
エピローグ:10分悩んだら、それは「エラー」だ
ワトソン 「ホームズ……君の言っていることは、冷徹なようでいて、実は希望に満ちているな。 私は今まで、自分で勝手に『答えの出ない迷路』を作り、その中で出口がないと泣き叫んでいただけだったのか」
ホームズ 「気付けてよかったよ、ワトソン君。 ビジネスの世界でも、試験の世界でも、『悩むことには一切意味がない』と言い切っていい。 もし君が机の前で10分間、手が止まっていたら、それは脳が『悩みモード(エラー)』に入っている証拠だ。すぐにリセットボタンを押したまえ」
ワトソン 「リセットボタン?」
ホームズ 「自分への問いかけを変えるんだ。 『どうしよう』ではなく、『今、この瞬間に手を動かして解決できる最小単位は何か?』とね。 箇条書きにする、調べる、線を引く。何でもいい。 『考える』とは、具体的なアクションの連続だ。」
ワトソン 「よし、分かった! まずはこの過去問の設問(1)に対して、思いつくキーワードを3つ書き出すことから始めてみるよ。これなら今の私にもできる!」
ホームズ 「よろしい。それでこそ、君は初めて『考え』始めたと言える。 さあ、鉛筆を動かしたまえ。悩んでいる暇など、我々にはないのだからね。 夜明けは近いぞ、ワトソン君」
【まとめ】技術士試験対策:「悩む」vs「考える」変換リスト
| シチュエーション | 悩む(Worry)=停滞 | 考える(Think)=前進 |
| 前提スタンス | 「答えが見つからない」前提 | 「答えが出る(仮説を立てる)」前提 |
| 論文作成時 | 「名文を書こう」「最初から完璧に」 | 「まず骨子(枠)を埋めよう」「60点でいい」 |
| 学習計画 | 「範囲が広すぎて無理」「終わらない」 | 「頻出テーマ3つに絞ろう」「捨て問を作る」 |
| メンタル | 「採点官にどう思われるか不安」 | 「採点基準(コンピテンシー)を満たしているかチェック」 |
| 合言葉 | 「どうしよう(How to Worry)」 | 「具体的に何をすればいい?(What to Do)」 |
ホームズからのラストメッセージ: 「悩む」は心の贅沢だが、時間の浪費だ。 「考える」は脳の労働だが、未来を切り拓く唯一の手段だ。 君のペンが止まった時、それは「悩み」の入り口だ。すぐに「作業」に分解して、思考の迷路から脱出したまえ。







