ワトソン博士 (フラスコを揺らしながら) 「ホームズ、前回は建設部門の話だったが、今回は私の専門に近い機械部門だ。しかし、この過去問リストを見てくれ。『機械設計』や『加工・生産システム』の問題は、これまで純粋に『いかに高性能な機械を作るか』『いかに効率よく作るか』を問うていたように見える。 例えば、君のリストにある令和7年度(想定)や令和6年度の必須科目 I-2 だ。『日本の製造業の競争力低下』を憂い、『新たな付加価値』を提案させる問題だね」
シャーロック・ホームズ (拡大鏡でエクセルのセルを覗き込みながら) 「ああ、その問題は実によくできている。だがワトソン君、君は技術者として致命的な見落としをしているよ。 改訂後の『問題解決能力』の定義をもう一度読み上げてくれたまえ。特に2つ目の項目だ」
ワトソン 「ええと……『複合的な問題に関して、多角的な視点を考慮し、ステークホルダーの意見を取り入れながら、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で……』。おいおい、ずいぶんと長くなったな」
ホームズ 「長いだけではない。ここに『経済性』という言葉が、これ見よがしに挿入されていることに気づかないか? これまでの機械エンジニアは、『最高の品質(Quality)』を作れば許された。だがこれからは、『最高の品質だが、コストが高すぎて売れない』という提案は、技術的な解決策として認めないと宣言されたも同然なのだよ」
ワトソン 「品質至上主義の敗北、ということか?」
ホームズ 「敗北ではない。『調和』だ。さあ、令和6年度の機械部門 必須 I-2 を手術台に乗せてみよう。この問題が、改訂というメスを入れることでどう変貌するかを見届けるんだ」
【証拠品C:令和6年度 機械部門 必須 I-2(実在の過去問)】
『日本の製造業は……世界的な競争力を失いつつあり……他国製品に対して大きな競争力となる新たな付加価値をつける……ことが考えられる。 (1) 機械製品を1つ想定し、その製品に対して機械技術者の立場から考えたときに有効と考えられる付加価値を1つ提案せよ。さらに、その付加価値の実現のためにどのような課題が考えられるか、多面的な観点から3つ抽出し……』
ワトソン 「うむ。付加価値を提案し、技術的課題を挙げる。シンプルだ」
ホームズ 「だが、改訂後はこうなるはずだ。『相反する要求事項』という言葉が、問題文の核心を突いてくる」
【推理:改訂後の予想問題(令和8年度以降)】
『……新たな付加価値をつけることが求められている。 (1) 機械製品を1つ想定し、市場のニーズやコスト制約等のデータを踏まえて有効と考えられる付加価値を定義せよ。さらに、その実現にあたり直面する相反する要求事項(機能向上とコスト、安全性と効率など)を明確にした上で、技術的課題を3つ抽出せよ。』
ホームズ 「分かるかい、ワトソン君? 以前なら『AIによる自動最適化機能をつける』と書けば正解だった。 だがこれからは、『AI機能を搭載すれば機能は上がるが、処理コストが増大し、製品価格が市場許容範囲を超える』というトレードオフ(二律背反)を自ら提示し、それをどう乗り越えるかを語らねばならない。 『機能性』と『経済性』の天秤。このバランス感覚がない答案は、スクラップ置き場行きだ」
ワトソン 「なるほど……。しかしホームズ、『材料強度・信頼性』や『流体』のような純粋工学的な科目ではどうだ? 物理法則に経済も何もないだろう?」
ホームズ 「甘いな、ワトソン君。砂糖を入れた紅茶のように甘いよ。 例えば『材料強度』の分野を見てみよう。新しい素材を使えば強度は上がる。しかし、その素材はリサイクル可能か? 調達コストは? 加工時のエネルギー消費は? 改訂後の『技術者倫理』にはこうある。『社会、経済及び環境に対する影響を予見し』とね。 ここから導き出される設問(3)の変化は劇的だ」
【推理:設問(3)の変化(リスクマネジメント)】
(変更前) 『(3) 解決策を実行したことによって生じる新たなリスクを説明せよ。』 ↓ (改訂後の予想) 『(3) 解決策を実行する際、経済的な持続可能性やサプライチェーン全体への影響の観点から懸念される新たなリスクを示し、その対応策を論ぜよ。』
ホームズ 「技術的なリスク(故障、破損)だけを書く時代は終わったんだ。 『レアメタルを多用する解決策は、地政学的リスクによる価格高騰(経済的リスク)を招く』とか、『専用設備への過度な投資は、企業の経営体力を奪う(持続可能性の欠如)』といった、経営工学的な視点を持ったリスク分析が求められる」
ワトソン 「ううむ。機械技術者なのに、まるで経営コンサルタントのような視点が必要なんだな」
ホームズ 「その通り! それこそが『技術士』に求められる『総合的な判断能力』なのだよ。 単に歯車を回すだけなら職人でいい。だが技術士は、『歯車を回すことで、いかに経済を回し、社会を豊かにするか』を設計しなければならない。 今回の改訂で『経済性』や『多角的な視点』が明記されたのは、技術者たちに『象牙の塔から出て、市場という荒野を歩け』というメッセージなのだ」
ワトソン 「市場という荒野……。では、これから受験する彼らは、どんな装備(準備)をすればいいんだ?」
ホームズ 「装備は3つだ。 第一に、『Q(品質)・C(コスト)・D(納期)・S(安全)・E(環境)』の5つのレンズを持つこと。解答を作成するとき、必ずこの5つをチェックリストにするんだ。 第二に、『矛盾』を愛すること。『あちらを立てればこちらが立たず』という状況こそが、技術士の腕の見せ所だと心得るべきだ。 そして第三に、『数字』を武器にすること。『コストがかかる』ではなく『ROI(投資対効果)の観点から』と言い換えるだけで、君の答案は輝きを増すだろう」
ワトソン 「素晴らしい講義だ、ホームズ! これで機械部門の迷える子羊たちも、狼(試験官)の前で堂々と振る舞えるはずだ」
ホームズ 「ふん、子羊がライオンに変わる瞬間を見るのは悪くない気分だね。 さて、次回はいよいよ第3章。これまであまり触れられてこなかった『情報工学』や『総合技術監理』にも通じる、『DXと倫理の融合』という現代最大の難問に挑むとしようか」
(第2回 講義終了)
いかがでしたでしょうか。 機械部門においては、今回の改訂で「技術と経済のバランス(トレードオフ)」が最大の評価ポイントになると予測されます。
キーワード: 「相反する要求事項」「経済性」「サプライチェーン」「ROI(投資対効果)」
対策: 解決策を書く際、「高性能化」だけでなく「どうやってコストを抑えるか」「どうやって経済的価値を生むか」をセットで記述する癖をつける。
次回、第3章は「全部門共通:デジタル社会における『真の倫理』とは?」をテーマに、改訂の深層心理に迫ります。
この記事は、令和8年度適用予定の技術士コンピテンシー改訂内容に基づき、試験傾向の変化を予測したものです。必ず当たるわけではないので、各自考えてください。







